新章までの空白期はかなりざっくり進んでいきます!!
365日後のクリスマス その1
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冬の午後は短い。
夕焼けが窓の外に差し込む頃、ホームルームが終わって、教室がざわざわと浮き足立つ。もうすぐクリスマスイブ。私たちの通う学校でも、そんな空気が教室いっぱいに広がっていた。
「なのはちゃん、帰り一緒してくれる?」
後ろの席から聞こえたその声は、柔らかくて、でも少し弾んでいた。振り返れば、制服の上から白いカーディガンを羽織ったはやてちゃんが、にこっと笑って立っていた。
すっかり、足も元気になっていまは元気に走り回れるようになりました。
「うん、いいよ。今日、寒いけど平気?」
「へーきへーき。そやけど、ちょっと寄り道してもええかな?」
そう言って、はやてちゃんはカバンを肩にかけ、私の隣に並ぶ。いつもより歩幅が少し早くて、どこかうきうきしている感じがした。
「どうしたの? なんか良いことあった?」
私が尋ねると、はやてちゃんはふふっと笑って、歩道橋の上で足を止めた。
淡い橙色に染まった街を見下ろしながら、まるで宝物を見つけたみたいに、やさしい声で言った。
「なのはちゃん、明日24日って暇かな?」
「え? うん、予定は空けてるけど……どうして?」
「実はな――」
はやてちゃんは、手袋越しにぎゅっと私の手を握った。
「シグナムたちの保護観察処分が、やっと明日で終わるんよ!」
「……ほんとに!?…そっか、あの日からもうすぐ1年経つのかぁ…あっという間だったね。」
「今年は私たちの管理局仮入局とかでドタバタしてたしなぁ…。研修とか色々資格とか取らされたし。」
「フェイトちゃんとかは、ユウトくんの真似して執務官試験受けるんだって1人で勉強始めて私たちより忙しそうだしねぇ〜。」
「フェイトちゃんは乙女やなあ。」
私たちの小学生らしくない会話に通りすがりの人がちらっと振り返ったけれど、気にせずに歩く。
厳しくて、どこまでも律儀なシグナムさん。元気いっぱいのヴィータちゃん、いつも優しいシャマルさん、そして静かにみんなを支えてくれるザフィーラさん。
「騎士のみんなも明日でようやく本当の意味で自由になれたんだね。」
「うん。ほんまにやっとやねん!お祝いに明日は私の家で、みんなでパーティしようって思ってるんよ。ユウトくんやフェイトちゃんとか、みんなに声かけてるんやけどもちろん、なのはちゃんも来てくれるやろ?」
「うん、絶対に行くよ!」
嬉しくて、胸の奥がじんわり温かくなる。あの戦いの後、たくさんのことがあって、たくさんの涙を流して、それでも――こうしてまた、みんなで笑える日が来るなんて。
「…誘ってくれてありがとう。はやてちゃん!」
「私の方こそ、おおきにやで!ほな、また明日な〜!」
夕暮れの風が髪をなでていった。
いつもの街が、ほんの少し特別な景色に見えた。
うーん、パーティは明日だけど、せっかくなら、何か手土産を持って行きたいな。
そう考えた私は、放課後にその足で「喫茶 翠屋」へと向かっています。街中はすっかりクリスマス一色で、イルミネーションが軒先を飾り、甘いケーキやお菓子の匂いがあちこちから漂ってくる。
ドアベルがからん、と鳴った瞬間――
「ユウトくん、次のバッチ焼きあがったよー!」
「桃子さん、了解です!美由希さん!こっちは早く詰めるぞ!」
店の奥、厨房のガラス越し。
白い帽子を深くかぶったユウトくんが、手際よくシュークリームの生地にクリームを詰めていた。その隣には、クリームを冷やすのを手伝いながら、満面の笑顔で応援しているフェイトちゃんの姿。
「がんばって、ユウト!あと少しで200個目だよ!」
「注文にあった焼き菓子じゃなくてシュークリーム作ってるのは、お前が毎日食うからクリスマスの繁忙期の分の用意なくて頑張って作ってんだが…!?」
「えっ……!? あ、そうだったの……!?」
フェイトちゃんがちょっと焦った表情を浮かべるのを見て、私は思わず吹き出しそうになる。それと同時に、なんだか心があったかくなる。ここだけちょっと、時がゆっくり流れているような。
「こんにちはー。ユウトくん、フェイトちゃん!」
私が声をかけると、フェイトちゃんがぱっと顔を上げてにこっと笑った。
「なのは!」
「……おう。おつかれ、今日も習い事?」
ユウトくんはいつも通り少し不器用な挨拶で、でも顔はどこか嬉しそうだった。
「うん。はやてちゃんにパーティのお話聞いて、明日のパーティに持って行くお土産せっかくだし翠屋のお菓子にしようと思って…。ユウトくん……すごい量作ってるね」
厨房の奥には、山のように積み上げられた焼き菓子の山、山、山。
まさか翠屋の厨房が、戦場になっているとは思わなかった。
「すずかの屋敷のやつが、親戚と大規模な会食するらしいんだがで甘いもん沢山食べたいとか言い出してな。張り切って注文してきやがった」
「うん、ユウト…お店の売上のために、張り切って了承したんだけど…」
「……張り切ってないけど」
そう言いながら、ユウトくんの手は止まらない。まるで魔法みたいに、均等にクリームが詰められていく。
ユウトくんが翠屋でこんなにも働いているのは、1年前の事件…というか魔法と出会ってからしばらく家出して急に海外の親戚の家に留学していた(本当は保護観察処分でミッドチルダにいたからなのですけど)ユウトくんへのお仕置きとして、しばらくの間住み込みでお手伝いをさせられているそうです。
まぁ、記憶を取り戻したユウトくんを家に留めておくための言い訳みたいなものなんですが…ユウトくんってば嘱託魔導師として稼いだ収入で一人暮らしするって言い出したので、せめて一般の子供が義務教育を請け負える年齢を超えるまでは家に留めるってのがお父さんの方針です。
「ねぇ……もしかしてだけど、私がはやてちゃんに持っていく手土産の分、もうここにあったりする?」
「あるよ!」と即答したのはフェイトちゃん。
「あとで余ったら、詰めて渡すつもりだったの。なのはの分もちゃんとあるよ」
「フェイトがつまみ食いしてなければ明日のパーティ分くらいははいってるはずだぞ~」
「うーん、そしたらもう少しだけ作ってもらおうかな?」
「なんでっ!?…私、そんな腹ぺこキャラじゃないのに…」
「いやこの前、毎日3食シュークリーム食ってたの忘れてないからな」
「ふぇ、フェイトちゃん…?」
「ち、違うよ、なのは!あれは……苦手な国語のテスト勉強で、甘いもの食べたくなって……気づいたらそうなってただけで……!」
そんな言い訳をするフェイトちゃんの顔は、赤くなってて可愛かった。
毎食シュークリームなんて、私だったら絶対に体重増えちゃう。でも――この綺麗な金髪で、整った顔をしたフェイトちゃんは、太るどころか…最近、どんどんスタイルも良くなってきてて……。
(……うん、間違いない。この胸の成長…私のセンサーが反応してる)
「うーん、有罪」
「なにがなの、なのは!?」
「ユウトくーん、そろそろ上がっていいわよー! 今日はフェイトちゃんの家に行くんでしょ?」
しばらく三人で笑い合っていると、奥からお母さんの声が聞こえてきた。
翠屋の厨房で、後片付けをしていたユウトは手を止め、軽くエプロンを外す。
「あっ……も、桃子さんっ!」
フェイトは急に焦ったように顔を上げる。
「えっ……?私、そんなの聞いてないけど……フェイトちゃん?」
「え、えっと……あのね、なのは……今日は、その……」
目をそらしてもじもじするフェイトちゃん。
そんなフェイトちゃんを見て、ユウトくんが口を滑らした。
「桃子さん…フェイトがたまには二人で遊びたいから、なのはには内緒にしてって言ってて…言えなかったんですよ」
「あら、そうだったの?」
「……あの、ユウト」
「ん?どうしたフェイト。」
フェイトちゃんの顔が、ぷしゅうと音を立てて真っ赤になる。
「それを、内緒にしてって言ったでしょ……」
数秒の沈黙。
私は静かな声で――優しくフェイトちゃんに語り掛ける。
「……久しぶりに怒ったよ、フェイトちゃん」
「な、なのは……?」
フェイトちゃんがなぜかびくりと震えた。
「模擬戦……いこっか?」
「な、なんで!?」
ユウトくんはなにか怖いものを見たかのようにおびえた顔でをフェイトちゃんの肩をポンと叩き、語り掛ける。
「頑張れ、フェイト…。いまのなのはには何言っても通じないって俺知ってるから……」
「……ユウトの、ばか!」
こうして、静かだった翠屋の一日が、再びにぎやかな冬の日常へと戻っていくのだった。