○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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珍しくフェイト視点のみの回
いろいろ回想や設定に触れてたら文字数多くなった…。
あとはやてちゃんお誕生日おめでとう!!(一日遅れ)


365日後のクリスマス その2

朝の光が、レースのカーテン越しに部屋を柔らかく照らす。

 

「……ん……」

 

布団の中で身じろぎした私は、ゆっくりと目を開けた。

 

(やっぱり……1人で起きるの、少し寂しいな)

 

天井を見つめたまま、ぼんやりとまばたきを繰り返す。

 

(今日って……あ、そうだ。クリスマスイヴ。はやての家でみんなと集まるんだった)

 

完全に目が覚めかけたそのとき、不意に昨日の記憶がよみがえる。

 

『アクセルシューター、ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター、ディバインバスター、アクセルシューター、でぃば…』

 

笑顔を浮かべながら、目だけがまったく笑っていないなのはが、ためらいなく砲撃魔法を連射する光景が何度も頭の中でフラッシュバックする…。

 

思い出すだけで、身体がぴくりと震える。

 

(……怖かった……なのはを怒らせると本当に…)

 

寒さとは別の震えが、腕に鳥肌を立たせる。

 

「……んぅ、起きよ……」

 

気を取り直して布団を抜け出すと、寝癖のついた髪を手ぐしで整え、そっと隣の部屋へ向かった。

 

「……アリシア、おはよう。朝だよ、起きて」

 

カーテンを開けて光を入れると、ベッドの上で丸くなっていたアリシアがもぞもぞと動き始めた。

 

「……んん……フェイト? ふあぁ……もう朝?」

 

「うん、もう7時だよ。今日は朝からお出かけするんでしょ? ちゃんと起きないと」

 

アリシアは眠たそうに目をこすりながら、笑顔で頷いた。

 

「うん、おはよぉ……」

 

二人で並んで階段を下り、リビングへ向かう。そこにはすでにプレシア、リニス、そしてソファで新聞を広げているアルフの姿があった。

 

「おはようございます。」

 

「お、起きたか!!おはよー!」

 

「おはよう、フェイト、アリシア。今日は冷えるわね」

 

プレシアがやわらかな微笑みを浮かべて迎えてくれる。

 

プレシア・テスタロッサ――母さんは闇の書事件のあと、魔力使用の制限と管理局への技術協力を条件に拘留を解かれ、今は私たちと共に地球で暮らしている。

 

その結果(ついでになのはの妨害もあって)こっそり進めていたユウトとの同棲計画は見事に水の泡となったけれど……母さんやリニスと一緒に暮らせる今の生活に、不満はない。

 

「今日の夕方から、はやての家でパーティがあるんだ。シグナムたちの保護観察が終わった記念に、みんなで集まるんだ。母さんも一緒にどうかな?」

 

「そう……それは楽しそうね。でも私は遠慮するわ。今日は友達だけで、楽しい時間を過ごしてらっしゃい」

 

「……うん。ありがとう、お母さん」

 

「話はその辺にして……プレシア、薬飲んで」

 

「なによ、アルフ……そんなものよりフェイトとの時間を――」

 

「はいはい、長生きしてほしいから言ってんの。ちゃんと飲む!」

 

そんな様子を眺めて微笑みながらリニスから朝食を受け取る。

 

(今日は、きっといい一日になる……そんな気がする)

 

私にとって、昨年の闇の書事件を除けば、これが地球で迎える初めてのクリスマスイヴ。

 

(さて、夜のパーティまではまだ時間があるし……)

 

朝食を終え、リビングで温かい紅茶を飲んでいた私は、カップを置いて立ち上がる。

 

「ちょっと出かけてくるね。お昼前には戻るつもり」

 

「どこへ行くの?」

 

アリシアがクッションを抱えながら首を傾げる。

 

「ユウトに、会いに。……多分この時間なら、公園で素振りしてると思うから」

 

「へぇ~……ふふ、いってらっしゃ~い」

 

アリシアがからかうように二やつきながら手を振るのを、気づかないふりをして受け流し、マフラーを巻いて家を出た。

 

外は澄んだ冬の空。吐く息は白く、頬に触れる空気が少しだけ冷たい。

 

歩き慣れた道を通り、近所の小さな公園へ向かう。

 

朝の静かな空気の中、公園の一角から木刀が風を切る音が響いていた。

 

(……やっぱり、いた)

 

そこには、ユウトと、その傍らに背筋の伸びた黒髪の男性――高町恭也さんの姿があった。

 

ユウトは無言で木刀を振り続けている。その動きには、日々積み重ねた鍛錬の重みが感じられた。

 

恭也さんはそんなユウトを見守りながら、ときおり言葉をかけているようだった。

 

私はゆっくりと公園の入口からユウトのもとに歩み寄る。

 

「おはようございます、ユウト、恭也さん。」

 

ユウトが振り返り、恭也も軽く口元を緩めて頷いた。

 

「ん、フェイトか。おはよう…なにか用か?」

 

「ううん…今日は夜まで暇だったから、ユウトに会いに来ちゃった。」

 

「君は……なのはのご友人か。せっかくだ、フェイトちゃんも一本、打ってみるか?」

 

「え?あ、はい……お願いします!」

 

上着を脱ぎ、軽く体をほぐす。手渡された木刀を握り、真剣な眼差しで構えた。

 

ユウトの背中を横目で見ながら、彼の姿勢を真似て刀を構える。

 

「構えが自然だな。フェイトちゃん、なかなか筋がいい。なにか武道を?」

 

「……いえ、私は……」

 

(魔法の事話すわけにはいかないけど、なのはの家族に嘘つくのも…)

 

問いかけに戸惑い、言葉を詰まらせる。

 

そんな私に少しだけ呆れながらユウトがフォローをしてくれた。

 

「フェイトはスポーツ得意ですから。こないだも、すずかとバスケ1on1でいい勝負してましたよ」

 

「……ほう。忍の妹さんと……なるほど。それなら納得だ」

 

(助かった……)

 

フォローを入れてくれたユウトに感謝しつつ、木刀を振る。

 

イメージするのは、シグナムの真っ直ぐな剣筋――

 

寒空の下、木刀が風を裂く音が澄んだ空気に吸い込まれていく。

 

(……こうして体を動かすのも、楽しいな。それにユウトの真剣な顔も、久しぶりに見た気がする……今日は、やっぱりいい日になりそう)

 

少しずつ、身体も心も、あたたかくなっていく――そんな、穏やかな朝だった。

 

 

 

 

 

 

公園での鍛錬もひと段落つき、私は汗をぬぐいながらユウトの隣に腰を下ろす。

 

「ふぅ……思ったより、いい運動になったね」

 

「途中から素振りじゃなくて当たり稽古になってたしな。恭也さん、全然手加減してくれないし」

 

「フッ…こうした鍛錬が、いざという時に生きるんだぞ。……それにしても」

 

恭也さんがちらりと私たちに目をやる。

 

「お前たち、距離……近くないか」

 

「へっ!? い、いや、べ、べつに! そんなことないですよっ!?」

 

突然の指摘に、私は思わず顔を真っ赤にして慌てて否定する。

 

その横で、ユウトは平然と木刀を片付けながらぼそっと呟いた。

 

「まあ、ベンチ結構スペース空いてるのに真横に座りますもんね、フェイトって…」

 

「なんだ、普段からなのか?」

 

「もう慣れました。最近、なのはと二人で話してたんですよ。“フェイトってパーソナルスペースが異常に近いっていうか、懐いた猫っぽいな”って」

 

「そ、それってどういう意味!? 猫って……私、ペット扱い!? そういうのって、むしろアルフとかアリシアのポジションじゃ……って違う,そういう話じゃなくて!!」

 

「まあ、アルフは犬寄りだよな。元狼だし。」

 

「ご、誤魔化さないでよ~!」

 

私の抗議を受け流しながら、恭也さんは肩をすくめ、口元ににやりと笑みを浮かべていた。

 

……ユウトって、普段はあまり話さないくせに、こういう時だけ妙に意地悪なんだから。

 

「まぁ……今日の動き見てても、フェイトの剣筋は綺麗だった。ちゃんと努力してるのが分かる」

 

「えっ、本当……?」

 

「うん、本当本当。」

 

 

思わず、嬉しさが顔にでるのを抑えようと顔を逸らす。

 

「ユウト……誤魔化すのも上手くなったな」

 

恭也さんが小さく呟いたが、聞き取れず、私はちょっと照れながらお礼を言った。ユウトは目をそらして、遠くの時計台に目をやっている。

 

「あ、そろそろお昼……だね」

 

「だな。……そういえば、あのファミレス覚えてるか? 初めて会った時に、一緒に食事したとこ」

 

「うん! 今でもちゃんと覚えてるよ。ユウトがボソッと“これってデートに入るのか…?”って言ってたの、今思い出すと笑っちゃうよね」

 

「聞こえてたのかよ。それ、ちゃんと黒歴史だからやめろ……」

 

「ふふっ。なら今日は、ちゃんとした“デート”として、もう一度行こう。なんだか、特別な気分になれそうな気がするんだ。」

 

少し困ったような顔をしたユウトを横目に見ながら、私たちは歩き出した。

 

 

 

 

そうして恭哉さんと別れ、ユウトと二人で歩いている途中。

 

私はふと思い出したことをユウトに話すことにした。

 

「…ねぇユウト、知ってる? デートの時は、女の人が車道側を歩くんだって。レディファーストって言うんだよ。」

 

「……フェイト、車道側歩くのは男の方だし、それに“レディファースト”は意味が全然違うぞ」

 

「そ、そうなの!? わ、忘れて!!今のナシ!……また、はやてに騙された」

 

想像の中のはやてに向かって文句をぶつけると、「騙される方が悪いんやで〜」と言いながら、手をワキワキと動かしてシグナムたちにセクハラしている姿が脳裏をよぎる。

 

(もう……はやてのばか……)

 

その後、私たちは無事にファミレスへ着いて食事を終え、ドリンクを片手にまったりとした時間を過ごしていた。

 

会話の中で、お互いの“日常の常識”にズレがないか、なんとなく確認してみたのだけれど――

 

さすがにトイレやお風呂のマナーは問題なかったけれど、それ以外の細かい場面では、やっぱりいくつか“変な嘘”が見つかった。

 

「なんかこの前、はやてが楽しそうに本読んでたからタイトル聞いたら、“カスの嘘”って本読んでたんだよな……」

 

「……絶対それの影響だね……はやてには本当に困っちゃうよ」

 

「それでいて、魔導師ランク総合S越えの次期管理局のエリート候補だからな……」

 

「まぁ……それを言うなら、私たちもエース候補だよ?」

 

「俺は通常時だとBランク相当で、対するはやては今は魔導書の修復待ち……でも、そう遠くないうちに“欠片”から作った新型デバイスが完成するって言ってたな」

 

「……リインフォースの後継、なんだよね? 新型って」

 

「そう。初代のリインフォースが、今も俺から分離できないからなぁ……」

 

思い返すのは、去年――事件が終わって間もない頃。はやての家で、ユウトが初めてリインフォースを呼び出したときの光景だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「それで、ユウトくん……」

 

はやてがぽつりと口を開く。テーブルの上には湯気を立てるマグカップ。静かな午後の陽射しが部屋の中に差し込んでいた。

 

「結局……どうしてリインフォースが、戻ってこれたん?」

 

その問いに、ユウトは視線を落とし、自分の腕輪から現れた小さなリインフォースの姿を見つめる。

 

「事件が終わってからはやてにはちゃんと説明しなきゃって思ってたんだけど言い出すタイミングがなくてさ。今ようやく、ちゃんと話せるな。……あのとき――アダムをぶっ飛ばした、最後の戦いのときのことなんだけど」

 

「……あの白い姿のときやね?」

 

「うん。細かい仕組みは省くけど、あの時は夜天の魔導書の本体と接続して、そこから魔力を引き出してたんだ。戦いが終わって、夜天の書も、リインフォースの自我も消えた。だから、俺もあの白い姿にはもう戻れないと思ってた。でも……」

 

リインフォースがそっと頷き、柔らかく口を開いた。

 

『その後、ユウトは夜天の書から流れ込んだ魔力の中に、私の人格の断片が混在していることに気づきました。魔力の波に消えてしまわないように、今は私の意志と記憶の一部は彼のアームドデバイスに組み込まれた拡張領域の中に宿っています』

 

「つまり……リインフォースは、ユウトくんの中にいるってことなんか……すごい偶然もあるんやなぁ。」

 

「うん。たぶん、偶然って面が強いとは思うよ。でも……“強い願い”も影響したんじゃないかな。俺自身、もう誰も失いたくないって、心から強く願ってたから。それにーー」

 

「リインフォースも、ずっと――どうにかしてはやてのそばに居られる方法を探してたんだと思う」

 

『私は、ユウトの中に溶け込んだ夜天の書の魔力によって存在を維持しています。ですので、主であるはやての元には戻れません。でも……こうして、お話しすることはできます。』

 

「……そんなん……ずるいやん……」

 

はやての目に、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。

 

「うち……ちゃんと笑って、送り出したはずなのに……こんなんされたら……心が追いつかへんよ……!」

 

それでも、リインフォースは静かに、穏やかな笑みを浮かべた。

 

『主はやて。私は、あの日、あなたに“最期”をいただきました。ですからこの“再会”は……新しい始まり。どうか、あの時のように笑ってください。』

 

「……リインフォース」

 

はやてはしばらく言葉を失い、肩を震わせたままだったが――やがてそっと目元をぬぐい、微笑みを浮かべた。

 

「うん……ちゃんと笑う。あの時と違って悲しいことじゃなくてうれしいことがあったんやし、泣き顔は似合わんな。ありがとう、ユウトくん。そして、リインフォース……おかえり」

 

『ただいま……です、主はやて』

 

リビングには、言葉にできないほど優しくてあたたかな空気が、静かに広がっていた。

 

◇◇◇

 

 

 

(あの時は驚いたなぁ……)

私はソファの背にもたれながら、少し懐かしそうにユウトを見た。

初めて会った時から、彼は大きく変わった。心も、力も。……でも、それでも変わらないところもちゃんとあって。

 

「それにしても、ユウトっていつの間にかすごい存在になっちゃったね?」

 

「俺も驚いてるよ。ただの人間だったはずなのにな……今じゃ中身はほとんど夜天の魔導書と同質。生きるロストロギア扱いだからな」

 

“生きるロストロギア”――それはちょっとだけ、怖い響きだった。でも同時に、(クローン)と同じ「普通じゃない」ことに、少しだけ喜んでいる自分に幻滅する。

 

「夜天の魔導書から受け継いだ力に……耐えられる身体に無意識で再構成してたって話?」

 

「そう。過剰に引き出した魔力に身体が適応しようとして、結果的に融合事故みたいになったって。おかげで、開発部のマッド連中から何度も解剖させてって言われたな……」

 

「あ、あはは…あの人たちは……命かけて浪漫を追ってるというか……方向性がすごいから……。アリシアもよく手伝いに行ってるけど、帰ってくるたびに変なテンションになってるし。」

 

「まぁ、そのおかげで今では通常状態と“白い姿”の切り替えができるようになったけどな」

 

「ずっと白い姿だと燃費悪いんだっけ。……そういえばユウト、白い姿に名前つけないの? 私とかシグナムの力使った時は“スマイト”とか“イグナイトフォーム”って呼んでたけど」

 

「んー、もともとあの姿って完全にイレギュラーだったからな。正式な名称とかなかったし、“オーバーブースト”は、どっちかっていうと白い姿に対応させたデバイス側の形態だし。しかも、今じゃ前ほどの出力も出せないしなぁ」

 

「夜天の書から取り込んだ白い魔力を使う姿だから……夜天の書が消えた今は、減る一方なんだよね?」

 

「一応、俺自身でも魔力は練れるから完全にゼロにはならないけど、任務のないときに余剰魔力を地道に変換して補充してるくらいだな。……燃費が悪すぎるんだよ、あの姿」

 

「なんか……NAR○TOの人柱力みたいな構造だったんだね。……でも、事件のときに取り込んだ魔力って、まだだいぶ残ってるんでしょ?」

 

「ああ。あと数年は、それで何とかなるくらいには溜まってる。けど、もしその魔力を使い切ったら……俺の中にいるリインフォースの意識も一緒に消える可能性があるから後先かんがえないとだな。」

 

ユウトは少しだけ表情を曇らせて、静かに言葉を続ける。

彼がその力を、無闇に使おうとしないのは知ってる。それはきっと、自分の力で得たものじゃないからって理由もあると思う。

でも私から見たら、ユウトがどれだけの覚悟でその力を使ってるか、ちゃんと分かってる。

 

「ねぇ……普段使おうとしないのは、その理由だけじゃない、よね…。」

 

「…正直な話をすると、誰かを守るためなら遠慮なく使うけど、模擬戦とかで使うのはなんかズルい気がするんだ。」

 

「でも……あの姿も、ユウトの力も、全部が“ズル”なんかじゃないよ。ユウトが夢の中で、ご両親からもらった大切なものでもあるんだから。リインフォースも、そう思ってるよね?」

 

そう口にしながら、私は自然とユウトの左手を見た。そこにある腕輪から、リインフォースがふわりと姿を現す。

 

『む、そうだな……あの姿は闇の書から奪い取りユウト自身で勝ち取ったものだから……等しくユウトのものであるというのが私の意見だな』

 

彼女の真っ直ぐな言葉に、私はこっそりとほっと息を吐いた。

 

「……はいはい、頭ベルカの意見は置いといて……フェイトも、そう思うのか」

 

「たしかに……ベルカ組は考え方がちょっと戦乱に生きてるよね。特にリインフォースとシグナムは」

 

『フェイト、お前までそんな……!?』

 

私はリインフォースのやや不満げな声に少しだけ肩をすくめたけれど、どこかくすぐったくて微笑ましい。

 

「ま、話を戻すと……お前らがそう言うなら、あの姿も今後もう少し使っていくことにするよ」

 

「うん……それが、きっと一番いいよ。ずっと使われないのも、リインフォースが暇しちゃうかも。」

 

『確かに…私もたまには戦いを思い出さねば、いつ主はやての元に戻れるかもわからないしな。』

 

私は嬉しさを押し隠すように微笑みながら、自然と話題を振り出しに戻した。

 

「それじゃ、白い姿の“名前”……考えようか」

 

『そうだな……夜天といえば黒を象徴するが、ユウトの姿は白。それを活かす名称にするのはどうだろう』

 

「白……か。黒の反対だから……夜じゃなくて朝? じゃあ、“モーニングフォーム”とか? 私の“ライトニング”と語感も似てるし!」

 

「フェイト、そのドヤ顔で言うのやめろ。全然かっこよくないし。ていうか、お前、今は“ブレイズフォーム”じゃなかったっけ?」

 

「むぅ……」

 

私は口をとがらせて目を逸らした。せっかく考えたのに……ちょっとくらい乗ってくれてもいいのに。

 

『夜天に浮かぶ白い輝き……“リヒト”……“リヒター”というのはどうだ?』

 

「モーニングよりはマシだな」

 

「……ユウトだって“アンブレイカブル”とか名前長いし。お互い様でしょ」

 

「いや、それは開発コードの流用だから……。」

 

私は腕を組みながら、すこし膨れっ面になって言い返した。そしたらすぐ、話題はバリアジャケットや武装の名前の話に。

 

(……でも、なんか話の流れが怪しい気がしてきた。)

 

しばらくお互いの事を話し合っていると案の定――。

 

「ていうか、お前の“ソニックフォーム”の話もさせてもらうぞ」

 

「……なにか文句あるの?」

 

「いや、今はまだ成長途中だからアレで済んでるけど……そのうちプレシアとかシグナムぐらいに身体が成長したら、あの布地の少なさ、いろいろと問題出るだろ?」

 

「なっ……なに言ってるのっ!?」

 

急に戦闘面とは関係なく突っ込まれた話題に、私は一気に耳まで真っ赤になった。視線が泳ぐ。口元が引きつる。

 

『ふむ……想像すると、ちょっと痛々しいかもしれんな』

 

「リインフォースまで!?」

 

もう恥ずかしさで胸がいっぱいだった。カバンを抱きしめて、顔を半分だけ隠す。

 

「ユウトの、えっち……」

 

「なんで俺が悪い流れになってるんだよ……」

 

『私は、てっきりフェイトが見せるために着ているのだと思っていたが?』

 

「そんなわけないってば!」

 

思わず声を張り上げた。私は必死だった。ユウトに負けたくなくて、私の強みだった速さをもっと追求した結果が“あの形”だっただけなのに……!

 

「……あれは、ユウトに追いつかれそうになって……負けたくなくて、どうしたら速く動けるかって……それで……」

 

『つまり、ユウトのためにその姿を――』

 

「ちがうってばーーー!」

 

拗ねたように、私はクッションに顔を埋めた。

 

『冗談だ。さっきの意趣返しだよ』

 

「もう……リインフォースまで意地悪だ……」

 

ぷいっとそっぽを向きながらも、耳まで赤く染まっているのは隠せなかった。

 

『でも、あの服装は……私なら、着ないかな』

 

「もう……ユウトもリインフォースも、ひどいよ……私だって、真剣に考えて頑張ってたのに……!」

 

(速さのために、何度も試行錯誤して……あんなデザインになったのも仕方なかったのに……!)

 

「お、おい、拗ねたのか?」

 

「別に……拗ねてないけど」

 

私はぷいっと横を向いて、視線を合わせようとしなかった。

 

「いや、完全に拗ねてる顔だろ……ほら、機嫌直せって」

 

ユウトが、さりげなく持っていたお菓子を私の前に差し出す。私の好きな味、覚えててくれたんだ。

でも私は、意地になって顔を背けたまま、受け取ろうとしなかった。

 

『フェイト、分かっていると思うが……からかったのは冗談で、悪意はなかった。むしろ、その努力は評価に値すると思っている』

 

「うぅ……分かってるけど……分かってるけど……!」

 

心のどこかでは冗談だってわかってる。でも、からかわれたことに納得がいかない。

 

私は膝を抱えてソファに座り直すと、頬を膨らませたまま床に視線を落とした。

 

「……もう、ユウトのために頑張っても、どうせからかわれるだけなんだ……」

 

「いやいや、ちょっと待て、それは違うぞ!? 感謝してるし、尊敬もしてるってば! そもそもソニックフォームのおかげで何度助けられたか分からないくらいだし!」

 

「じゃあ……なんで、布地のこととか……言うの……」

 

か細く、つぶやくように言うと、膝の間に顔を埋める。

本当は嬉しい言葉だった。でも、羞恥の感情がそれをすんなり受け入れさせてくれなかった。

 

「それは、その……色んな意味で、心配でさ。」

 

「ふーん……もう知らない……」

 

私はブランケットをぐいっと引き寄せて、足元にかけると、また背を向けて顔を隠した。

 

『やらかしたな、ユウト……』

 

「なんで俺だけ責められてるんだよ……お前も同罪だろ……」

 

ユウトがぼやくようにため息をつく気配を感じながら、私はこっそりと髪の隙間から彼の様子を覗いた。

俯き加減の顔に視線を送ると、偶然目が合って――慌てて視線を逸らした。

 

(……目、合っちゃった。……変な顔してなかったかな)

 

「……ん、俺の顔になんかついてる?」

 

「……ゆ、夕方まで……口きいてあげないんだから……!」

 

そう言い放つと、再び頬が熱を持って膨らんでいくのが分かった。

 

「き、急にか……!?」

 

『ユウト、古来よりこうなった女子は容易には機嫌をとれないぞ』

 

「うぅ……手強すぎる……」

 

『……だが、パーティに一緒に行くのだろう? それまでには、仲直りせねばな』

 

「分かってるけどさぁ……」

 

ユウトが本当に困ってるのがわかって、少しだけ罪悪感が芽生える。でも、意地もあるから簡単には折れたくなかった。

 

『私はお前の中に戻るからな。あとは二人で話し合うといい』

 

リインフォースがにやりと笑って、小さく手を振るような動作を見せたかと思うと、淡い光とともに腕輪の中へと消えていく。

 

「お、おい……って逃げ足早いな!?」

 

私は黙ったまま、ブランケットの端を指先でいじっていた。

 

「……」

 

「……あの、フェイト……?」

 

「……」

 

「……とにかく、いったん店出ようか。このままだと、ちょっと迷惑になりそうだし」

 

ユウトがそっと立ち上がる。その声が、少しだけ優しかった。

 

「……うん」

 

彼のことが嫌になったわけじゃない。ただちょっと、素直になるのに時間がかかりそうだ。

口では素っ気なく答えたけど、ほんの少し、体がユウトの方へ寄ってしまっていた。気づかれたくない。でも、ほんの少し――触れていたい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

外に出ると、冬の冷たい空気が頬に触れた。だけど、それが少し心地よくて、私はなんとなく黙ったままユウトの隣を歩いていた。

 

さっきまでの喧嘩――というほどでもないけど、からかわれたことがちょっとだけ引っかかって、顔はまだ少しそっぽを向いたまま。

 

(……べつに怒ってるわけじゃないし。恥ずかしかっただけで……)

 

無言の時間がしばらく続く。

 

そのとき、歩道に少しだけ浮き上がったタイルがあることに気づかず、私は足先をひっかけてしまった。

 

「――きゃっ!」

 

身体が前につんのめる。

 

一瞬、視界が傾いた――が、

 

「危ない!」

 

ユウトの声と同時に、腕を引かれて身体が止まった。

 

ぐらり、と揺れた勢いのまま、私はそのままユウトの胸に倒れ込んでいた。

 

(……え?)

 

心臓の鼓動が、耳の奥でどくんと響く。

 

ユウトの腕が、しっかりと私の背中を支えていて、彼の温もりが肩からじんわりと伝わってくる。

 

「……だ、大丈夫か?」

 

「っ……だ、大丈夫……!」

 

あわてて身体を離す。と同時に、顔が一気に熱くなるのがわかった。きっと、真っ赤だ。

 

「こ、転んじゃうかと思った……ありがとう……」

 

視線を合わせられずに、私はそっとお礼を口にした。

 

「いや、ケガがなくて良かったよ。……ほら、前向いて歩けって」

 

そう言ってユウトが微笑む。

その顔が、なんだかちょっと優しくて、ずるいなと思った。

 

「……うん」

 

私はこっそり唇の端を持ち上げながら、少しだけユウトに近づいて歩き出す。さっきまでの拗ねた気持ちは、彼の胸の温かさと一緒に、どこかへ溶けて消えていった。

 

(……私って、はやてに言われたようにちょろい…のかな。)

 

「あ、そうだシグナムたちはこの時間は管理局支部……クロノたちの所にいるんだよね?」

 

そう問いかけながら私は空を仰ぐ。冬の冷たい空気が肌を撫でるたび、少しだけ胸の奥がきゅっとなる。あの日々を思い出すたびに。

 

「そうだな。保護観察処分が正式に解除されたから、あとは必要な書類提出とか報告だけで終わりらしい」

 

ユウトの声は、さっきより少しだけ明るかった。安堵や達成感が、言葉の端々ににじんでいる気がする。

 

事件の……いや、あの日々のすべてにようやく“けじめ”がつく。

それは、私たちにとってもきっと、大切な節目。

 

「……ちょっと、緊張してる?」

 

歩きながら、私はそっと問いかける。ユウトの表情は穏やかだけど、どこか目元に影があるように見えた。

 

「……まぁな。あいつら、結果的にリインをはやてから切り離した俺のこと、嫌に思ってないかなって」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は立ち止まり、思わず彼の袖を指先でつまんで引いた。

 

「……フェイト?」

 

驚いたように振り返るユウト。その顔を、私はまっすぐに見上げる。

 

「リインフォースが生きてるのも、シグナムたちが今日この日を迎えられたのも……ユウトがいたからだよ。私は、ちゃんと見てたよ」

 

私は伝えたかった。あの日、どれだけ彼が苦しんで、迷って、でも最後まで前に進んでくれたか。私には、その全部が大切で、誇らしかった。

 

ユウトは少しだけ目を伏せて、肩をすくめる。

 

「……だといいけどな」

 

それでも、足は止まらない。彼は前を向いて歩いていく。その背中を見つめながら、私も並んで歩き出した。

 

施設の前まで来ると、玄関先に立っていたシャマルさんが手を振ってくれた。

 

「フェイトちゃん、ユウトくん!」

 

「こんにちは、シャマル!」

 

「よく来てくれたわね、ふふ。中に入って。ちょうどみんな準備してるから」

 

ドアを開けて中へ入ると、ヴィータが上着のファスナーを引き上げているところだった。

 

「お、ユウトにフェイト! 遅かったな、あたしらもうはやての家に向かうとこだぞ?」

 

「時間ぴったりだと思うけど……?」

 

「ほら! 今日はパーティなんだし、気持ちちょっと早めにってヤツ?」

 

ちょっと強引な理論だけど、そんなヴィータが私は好き。つい、微笑みがこぼれる。

 

奥の部屋では、シグナムがクロノと最後の報告を交わしていた。

やがて会話が終わると、シグナムはこちらに歩み寄ってきた。

 

「テスタロッサとユウトか……」

 

その落ち着いた呼び声に、私は軽く会釈を返した。シグナムの表情には、どこか凛とした緊張が残っている。でも、きっとそれも、彼女なりの“節目”への気持ちなのだと思う。

 

「わざわざ迎えに来てくれてすまない。我々はこれより主の家へと帰還するところだ」

 

「うん。せっかくだから一緒に帰ろう。今日は……お祝いの日だから」

 

私がそう答えると、シグナムは少しだけ目を細める。

 

「お祝い……か。そうだな」

 

「今日ぐらいは、なんか頼み事きいてやってもいいぜ?」

 

ユウトの軽口に、シグナムも肩の力を抜くように答えた。

 

「……そうだな。考えておこう」

 

一瞬だけ――シグナムの頬が、ほんのり柔らかくなったのを私は見逃さなかった。

 

そのまま皆で玄関を出て、歩き出そうとしたそのとき。

 

「……あ、そうだ。フェイト、シグナム……俺ちょっと用事思い出したから、先行っててくれ」

 

ユウトがふいに足を止めてそう言った。私は思わず首をかしげる。

 

「用事……?」

 

「まあ、気にするな。すぐ追いつくから!」

 

手をひらひら振るユウトに、シグナムは一拍だけ考えてから頷いた。

 

「そうか。では我らは行くとしよう。ヴィータ、シャマル、ザフィーラ……行くぞ」

 

「おい、遅れんなよユウト。 はやてのごちそうが無くなってあとで泣いて後悔しても知らねーぞ?」

 

「リインフォースじゃないんだから、そんなので泣かないよ。またあとでな、ヴィータ」

 

ユウトの冗談めいた返しに、ヴィータは「ちぇっ」と舌を鳴らして先に進んでいく。

 

そのやりとりを見ていたリインフォースが、再び現れて小さく首をかしげるようにして口を開いた。

 

『ユウト……最近、私のこと、少し雑に扱いすぎではないか?』

 

「そうか? いつも通りのつもりだけどな」

 

ユウトは肩をすくめて苦笑しながら、反対方向の小道へとゆっくり歩いていった。

 

私はしばらく、その背中を見送ってから、静かに歩き出す。

 

(……きっと、なにか“用事”なんて言い訳で、こっそり準備してるんだろうな)

 

(不器用で、ちょっとズルくて……でも、優しい)

 

 

 

私は唇をほころばせながら、はやてのお家に向かう道を歩き出した。

 

今日は、“再出発”のお祝いの日。

そして、また新しい日々が始まる、そんな気がしていた。

 

 

 

 




リインフォース復活理由やユウトの強化状態の名前、「リヒターフォーム」などの説明回てきな話でした!
なお一番書きたかったのはソニックフォームの布面積の低さのお話。

明日は学校さぼってラウンドワンコラボのアクスタだけ回収しよう…。
バイトの時間間に合わなかったら更新お休みです。
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