クレーンゲーム上手くなりたいなぁ……。
side ユウト
アスファルトをなでるような冷たい風が、冬の匂いを運んでいた。
俺は翠屋の勝手口から静かに中へ入り、厨房の奥へと足を進めた。今日はクリスマスイヴ。店のほうは予約注文の受け渡しがメインで、厨房の稼働は最小限。桃子さんも士郎さんも表の対応で忙しくしていて、この時間だけは、この厨房が俺の“領域”になっている。
「さて……間に合うかどうかだな」
エプロンの紐を結びながら、ひとり言のように呟いた。
今日は、シグナムたちの保護観察が正式に解除された日。そのお祝いとして、はやての家でパーティが開かれる。俺も、何か少しでもできることをと思って、密かに準備しておいた材料を棚から取り出す。
卵と砂糖をボウルに割り入れ、手慣れた手つきで泡立て器を回す。何度も繰り返した作業だから、身体が自然に動いてくれる。
「よし、次は生地焼き。ディジター、タイマーよろしく」
『かしこまりました。オーブンの温度と時間を指定通りにセットします』
任せたディジターの音声が、厨房に小さく響いた。
――30分後。
ふわっと立ち上る香ばしい香りに、思わず小さく鼻を鳴らす。
「悪くない。……ってか、うまそうだな」
焼き上がったスポンジをそっと取り出し、粗熱を取っている間にフルーツをカット。ホイップクリームを泡立てながら、頭の中では段取りを最終確認。
気づけば自然と、口元に笑みが浮かんでいた。
「ここからは時間との勝負だな」
飾りつけに入ると、手は止まらない。見た目にもこだわって、色合いやバランスも意識しながら、最後の仕上げを施していく。
『完成です、マスター。パーティに持っていくには十分すぎる出来栄えです』
「上出来だ。……よし、じゃあ届けに行くか」
できあがったケーキを箱に詰めて、保冷用に軽く氷結魔法をかける。箱をしっかりと抱えて、俺は厨房を後にした。
――はやての家へと向かう道すがら。
空は晴れていて雪の気配はない。けれど、空気にはぴんと張り詰めた静けさがあって、冬らしい冷たさが頬に沁みる。
(……なんか、魔力の気配……?)
家が近づくにつれ、周囲に漂うわずかな違和感に気づく。空間のゆらぎ、木々に残る魔力の痕跡。
「……シャマルの結界か?」
足を止めて、そっと手を伸ばす。目には見えない、しかし確かにそこに存在する“壁”に触れた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「なんで結界が……? まさか、中で何かあったのか……?」
最悪の想像が頭をよぎる。
何者かに襲われた?
――それなら、ぐずぐずしてる場合じゃない。
「転移で入るぞ。ディジター、座標特定たのむ!」
『空間座標位置、指定完了。転移します。』
白い光が身体を包む。空間が裂けるようにして視界が切り替わった。
次の瞬間――
目の前に広がったのは、冬空の下で展開される、一瞬たりとも気を抜けない激しい戦いの光景。
「……っ」
空気を切り裂く斬撃音。高速で交錯する影。地をえぐるような光の軌跡。
見慣れた姿が、互いに武器を交わらせている。
「……フェイトと、シグナム?」
状況が理解できず、思わず名前を呼んでいた。
片や、光速のようなスピードで斬りかかるフェイト。ソニックフォームを展開している。
片や、カートリッジを回して自己強化しながら迎え撃つシグナム。
「おいおいおい……何やってんだよ、お前ら……」
張り詰めた空気。ぶつかりあう魔力。
ため息混じりにそう呟きながらも、ユウトはその戦いからいろいろな意味で目を離せなかった。
(こっちに攻撃飛んできたらサプライズのケーキ崩れるよなぁ…)
side フェイト
(――あ、ユウト……来てたんだ)
模擬戦の最中だったけど、彼の気配に気づいた瞬間、頬がふわっとゆるんでしまった。
本当は振り向く余裕もないのに――どうしてだろう、自然と手がユウトに向かって動いてた。
シャッ、シャッ、シャッ!
隙を見逃さなかったシグナムが、一気に斬撃を繰り出してくる。
でも、空間に走るのは、いくつもの私の残像。そのすべてが、正確に攻撃を避けていく。
「……なっ、何故よそ見してるのに、攻撃が…なぜ当たらん?」
シグナムの困惑が聞こえる。ごめんね……でも、今日だけは――絶対に負けないかな。
(今日だけは、ユウトに。私の“全力”を見せよう!!)
遠くから、はやての少し呆れた声が届いた。
「そりゃ、乙女やからなぁ。好きな人の前では頑張りたくなるよ」
「頑張るってレベルじゃねーぞ…! 残像が全部ユウトの方に顔向いてんだぞ!? 怖ぇよ!」
アリシアがぽつりと呟く。
「うちの妹……最近キャラ変すごいね」
「フェイトのやつ、ソニックの薄い装甲で余所見すんなよ…」
(うんっ!ちゃんと見ててね、ユウト――今の、私の全力!)
バルディッシュが光を放ち、ザンバーフォームへと変形する。
シグナムも構えた。鋭い気配が相対している体から発せられたのが感じ取れた。
「…舐められたものだな、テスタロッサ。行くぞ、レヴァンティン――紫電一閃!」
その瞬間――
「ねぇ、ユウトくん」
緊迫した空気を裂くようになのはの声が飛び込んでくる。
「なんだ?なのは」
「シグナムさんの紫電一閃ってなんで属性は炎なのに雷って名前に入ってるんだろ」
「……そんなこと言ってるからフェイトより国語の点数低いんだぞ?」
クスッと笑ってしまった。
その一瞬――
「あっ!?」
シグナムの斬撃を相殺しようと放ったザンバーの軌道が少しだけずれた。その先には――
「ユウト…避けてッ!」
私の声が空気を裂いた。
でも――
「はい、そこまでー!勝者、シグナム!」
はやての声が響き、同時に飛び出したクロノとユーノが展開した防壁魔法が、斬撃を綺麗に受け止めてくれた。
「えぇ……。」
心の中で、がっくりと肩が落ちた。
ユウトのために張り切ったのに。
(うう……カッコ良いところ、見せたかったのに……)
「……む。主、さすがに今のは……」
「いやいや、どう見てもフェイトちゃんの負けやったわ…なのはちゃんのボケによく耐えてフェイトちゃんに攻撃できたなぁシグナム。」
「……ありがとうございます。主」
なのは、ちょっとは国語がんばって……。
ユウトも、呆れた顔してこっち見てるし。うう、恥ずかしい……。
「まぁまぁ、フェイトちゃんそんなに落ち込まんといて…ユウトくんもきたしパーティ始まりや!」
「えっ、まだ始まってなかったのか?」
「せや…ユウトくんとリインが居ないと、寂しいもん。待ってる間暇やったから、わたしがこの中で誰が1番強いかって聞いたらなんか流れで盛り上がって、いつの間にか模擬戦してたんや…」
「リインに次いではやても頭ベルカか……主従で似たのか。」
「変なことメモせーへんといて!」
はやてと楽しそうに話しているユウトにすこし胸の痛みを感じながら眺めていると、ユウトが持っている袋に気づいた。
「あ、ユウトが持ってるその袋って……?」
「ああ、俺が作った手作りケーキ。はやて…良かったら守護騎士のみんなと分けて食べてくれよ。俺からのお祝いの品だ。」
「……あ、それなら私も! はい、翠屋特製シュークリームです!」
(ん? それって……)
「ユウトくんに、なのはちゃん…2人ともありがとうな!わたしめっちゃ嬉しい!」
「……ねぇ、ヴィータ」
隣にいたヴィータにこっそり耳打ちをする。
「…あ?なんだよフェイト」
「あのシュークリーム、ユウトが作ってたやつなんだけど。この場合ってなのはからのプレゼントになるの……?」
「うーん……微妙だけど、ユウトからのプレゼントで一括りにしていいんじゃねぇの?さっきの紫電一閃のこともだけどなんかあいつちょっと抜けてるところga――ぅおっ!?」
ヴィータが急に私の後ろを見て怯えたように声を上げた。
私も恐る恐る振り返ると――
「ねぇ、ヴィータちゃん、フェイトちゃん……な に か い っ た か な ?」
「「なんでもないです!」」
見たこともない表情をしたなのはが立っていた。
昨日のトラウマが蘇り体が硬直する。
「まあまあ、その辺にしとき?ユウト君もなのはちゃんも、2人ともありがとうなぁ。あとで、美味しくいただきます。さて、そろそろパーティーの始まりや!!」
「「おー!!」」
こうして――紆余曲折はあったけど。
クリスマスパーティが、ようやく始まった。