後半フェイト回です。
めっちゃ長くなったから前後編で分ければよかったかな…
クリスマスの記念パーティから、あっという間に一週間が過ぎた。
今日は12月31日、大晦日。
時計を見ると、時刻はすでに23時30分を回っていた。
本当なら、今頃はみんなと一緒に神社で年越しを楽しんでいるはずだったんだけど――。
「……ったく、なんでこんな時に」
神社から少し離れた人の気配が少ない獣道の奥まで抜けて、俺は通信端末を耳に当てた。画面の向こうには、無駄にきっちりした表情のクロノの顔。
話をきいていくと……。
「俺を正式に武装隊所属に……? また急な話だな」
思わず口に出たのは、本音だった。
確かに話が全く出ていなかったわけじゃない。だけど年末年始の浮かれた空気の中、わざわざこんな時間に連絡してきたんだ。きっと何か裏がある。
『急とは言うが…管理局に入局した者は短くて三か月、長くて一年は研修生として勤務するよう義務付けられている。君はもうその期間を過ぎているだろ』
「まぁ、そりゃそうだけどさ…」
『それになのは達とは違って、君はそちらの世界の義務教育範囲をすでに終えているんだろう?』
「まぁ…記憶戻ってなのは達と年齢違ったって分かったし…なんか同じ学校行くの居心地悪くなってな…どうせ管理局に入る予定だし…魔導師関係の資格勉強した方がいいかなって思って、士郎さん説得するために通信制で早めに高卒認定はとったけどさ…」
『うむ…それになのはや君達は夏、第四陸士訓練校の短期プログラムを卒業してたんだし、いつでも嘱託魔導師から正式所属へ切り替えられる状態だろう。』
「訓練校って…フェイトが首席で卒業したあれか。正式な魔導師としての活動には必須ってそれこそクロノが言ったから無理やり通わされた奴ね…」
「まぁ、嘱託魔導師としての君たちの給料も上がった訳だし、正式な局員としていつでも働けるようになる資格を取得する訓練校だ、受けておいて損はなかったろ?」
「まぁそれはそうだけど…」
思い返すのは卒業時に渡される魔導師証明書に記載される魔導師ランク…なのはとフェイトは共にAAAランクだったけど…俺の魔導師ランクは空戦B+。
やっぱ悔しい思い出ではある。
戦闘評価はともかくそれ以外の評価があまり良くなかったなぁ…
思い返すのは卒業時に渡される魔導師証明書に記載される魔導師ランク…なのはとフェイトは共にAAAランクだったが…俺の魔導師ランクは空戦B+…やっぱ悔しい思い出ではある。戦闘評価はともかくそれ以外の評価があまりなぁ…
『まだ成績で落ち込んでるのか、そもそも君とはやては別枠で限定Sランクだっただろうに』
「それはリインフォース、ていうか夜天の書込みの評価だからな…書類だとわざわざ俺個人の分とは別に作られたしな」
手元にある魔導師ランクを証明する地球で言う社員証のようなものを2枚とりため息をつく。
『とにかく、フェイト達は学校に通ってるからまだ嘱託魔導師として活動させているが…正直管理局は年中人手不足だ…限定Sランクの君という人材を遊ばせておく訳にもいかない。』
「言うても俺、義務教育終わるまでは桃子さんに一人暮らし禁止されてるからな。そっちの世界での勤務は厳しいぞ? 任務に行く度に魔法のこと誤魔化すの大変なんだぞ」
『それは理解している。一先ずお試しだ。武装隊に新設される部隊に仮入隊してもらい、君の適正を調べたい。……実績を早めに積んでおいた方が後々楽だぞ』
「ほーん、で、本音は?」
『…守護騎士達が働く新設部隊のフォローだ』
「やっぱりなんか裏があったか……あいつらが局員になるって話もあったしな。今と昔の制度の違いとか、慣れるまでの支援ってことか。…分かった、俺で良ければやるよ」
『助かる。……そろそろ君の保護者にも魔法のことを話す頃合いかもしれないな』
「だよな。長期任務になると誤魔化しも効かなくなるし。なのはだって、学校帰りに任務入って帰りが遅くなって、桃子さんに怒られてたし」
『今度、君たちの保護者と会える時間を作ってくれ。僕から直接説明しに行くよ』
「了解、クロノ執務官」
『……君、切り替え早いな』
クロノが通信越しに苦笑いを漏らすのが分かった。どうやら「執務官」という呼び方が妙にツボに入ったらしい。
「まぁ正式に上官になる訳だし、形だけでも慣れておかないとな……にしても、俺もこれで正式に管理局に“就職”かぁ」
自分の口から出たその言葉に、少しだけ苦笑いが漏れた。まだ十代で、制服も似合っているか分からないような年齢だってのに、「就職」という響きがやけに現実味を持って耳に残った。
『なんだ? 管理局に所属したいからって、魔法のこと教えろって言ったのは君だろ?』
「いや、それ記憶なくす前の話だろ。……いつの話してんだよ」
昔の自分が言ったことを、今こうして上官としての立場から突っ込まれるとは思わなかった。けど、あの頃の俺が、どうしても“力”が欲しかったのは、きっと間違ってなかったとも思う。
『あの時の君は、誰にでも敬語だったしな。思えば、だいぶ変わったな。……なんだ、局員になるのが嫌になったのか?』
「そんなことはないよ」
すぐに否定した。反射的に出たその言葉に、迷いはなかった。
「今でも“誰かを守るためになにかをしたい”って気持ちは、ずっと一緒だよ。ただ……フェイトとか、なのはを置いて、先に就職するとは思ってなかっただけでさ」
ポツリとそうこぼす。みんなで肩を並べて進んでいけると思ってた。だからこそ、一歩先を行くことに、少しだけ寂しさを感じてしまう。
『……そうか』
クロノの声は短くて静かだったけれど、その向こうにある彼なりの理解と、少しの共感を感じ取れた気がした。
「あ、ところでクロノ……新設部隊の部隊長って誰になるんだ?」
ふと疑問が浮かんで、自然と口に出ていた。自分の所属先になるなら、上司が誰なのかは大事なことだ。
『シグナムだ』
「……え?」
思わず聞き返してしまった。いや、自分の耳を疑った。
『だから、シグナムだ』
二度目の宣告。通信越しでもクロノが微妙に面倒くさそうな顔をしてるのが目に浮かぶ。
「……いや、待てよ。騎士達って一応“新人”なんだよな?」
俺が知ってる限りじゃ、局での実働経験なんてごくわずかのはずだ。確かに実力は折り紙付きだし、戦歴もある。けど、あいつらが部隊長っていうのは……いや、シグナムが、か。
『彼女たちは既に歴戦の戦士だし……一応保護観察中に現場での仕事も体験している。……あとは、その……聖王協会の圧もあってな』
「聖王協会って……シャッハ師匠やカリムさんのとこだよな? なんでそんな所から圧がかかるんだよ」
俺の中で“聖王協会”と“政治圧力”はなかなか結びつかない。けど、クロノが渋い顔してるのはわかる。いや、してるだろうな。絶対。
『もともと聖王協会は管理局とは交流があってな。ほぼボランティアや公務員のような管理局のスポンサー的な立場でもあるんだ。聖王協会は近年、ベルカ式魔法の復興に特に力を入れていてな』
「……ああ、確かに。なのは達のデバイスもそうだけど、俺の“アンブレイカブル”も聖王協会と共同で作ったやつだもんな」
シャッハ師匠との修行のことを思い出す。癖のある魔法、カートリッジの圧倒的な負荷、それでも俺にとっては“勝つため”に必要な力だった。
『そうだ。カートリッジシステムを採用した新たな魔法体系――“近代ベルカ式魔法”。その宣伝と普及のために、実戦における有用性を世間に知らしめたい……という要望があってな。』
「なるほどな……」
思わず唸る。確かに、局と聖王協会の関係性や政治的な動き、そして魔法体系の今後の展開を考えたら、シグナムの抜擢も納得だ。納得は……できるけど、ちょっとだけ胃が痛いのも事実だった。
「なるほど……そこで“現代に甦った古代の騎士達”、それから近代のカートリッジシステムの使用者である俺が部隊に、ってわけか」
言いながら、自分の立ち位置の特殊さをあらためて実感する。片足を古代に、もう片足を現代に置いているような不思議な感覚。
『ああ。まぁ、上層部も大口のスポンサーの意見は無下にはできないし、もとよりシグナムたち守護騎士の扱いも難しい……ということでの新部隊だ』
クロノの言葉は、まるで重荷を背負う前の注意書きのように静かに響いた。
「新部隊だったら、なにかミスがあっても部隊ごと解散で切り捨てられる……か」
口にしてみて、少し苦笑いが漏れる。期待と不安、どちらもあるのが正直なところだ。
『まぁ、よっぽどのことがなければ問題は起きないだろう。部隊には君や騎士たちのほかに、それぞれカートリッジシステムを採用したデバイスを支給されたほかの部隊からの出向組や訓練校で上位成績を残した新規採用組が在籍する予定だ。……君は新規採用組として所属してもらう』
「了解。面白くなりそうだな……」
口ではそう言いつつ、内心では軽く息を吐いた。責任は重いが、やりがいもある――そう自分に言い聞かせる。
『ああ、それとひとつ伝え忘れていた。新部隊では、君の“白い姿”――リヒターの使用は禁止だ。あくまで君個人の力で活動すること』
「まぁ、だろうな」
俺は軽く肩をすくめた。あの姿――夜天の書の力は、確かに強い。でも、カートリッジの有用性を示す部隊で、あれを使って戦果を挙げたら、本末転倒ってやつだ。
『それでは、通達は以上だ。実働は年明け過ぎてから。それまでしっかり体を休ませておけ。……それじゃ、また連絡する。……もうこんな時間か。ユウト、良いお年を』
「まじかよ、あと10分で新年じゃねえか……働きすぎもほどほどにな、執務官殿」
通信が切れると同時に、ふっと夜の空気が戻ってきた。しんとした山道の冷気が頬を刺す。来年は、きっとまた違う一年になる――そんな確信だけが、胸の奥で小さく灯った。
通信を切ったあと、俺はふと空を見上げた。
冬の夜空はやけに澄んでいて、満天の星が静かに瞬いていた。年の瀬――あと数分で、新しい一年が始まる。
そんな節目に、俺はひとり、山道の途中で立ち尽くしてた。
『……どうした、ユウト。皆の元に戻らないのか?』
心の内に響いたのは、リインフォースの声。――いや、違うか。今は“アインス”。俺の中で確かに生きている、はやての家族。
「なんでもないよ。ただ……気づけば俺も、遠いところまで来たなって思っただけだ」
俺の言葉に、アインスはくすりと笑った気配を寄せてくる。
『まぁ、話を聞くだけでも、かなり波乱に満ちた人生だったからな』
「……まぁな」
口に出してみれば、改めて自分の歩んできた道が異常だとわかる。
0歳――赤子の時に闇の書に蒐集されて、
6歳で古代遺跡の調査に巻き込まれ、
8歳で事件に巻き込まれて単身地球へ流れ着き、記憶を失って、
11歳で再び魔法と出会って、プレシア事件を乗り越えて、闇の書事件を終わらせた。
今じゃ、半分は融合騎だ。
そして――もうすぐ俺は、正式に管理局に所属することになった。
「……いや、色々ありすぎたな」
苦笑いしか出てこなかった。
『普通に考えて異常だな……フェイトがクローンだという話が霞むくらいだ』
「……あんまりその辺、掘り返すなよ。フェイト、気にしてるから」
『わかっているさ。私もそこまで野暮ではない』
その時、背後から足音が聞こえてきた。
「ユウト、私がなんて?」
「……ふぇ、フェイト!?」
思わず振り返った俺は、目の前に立つ彼女の姿に驚きを隠せなかった。
「いつから居たんだよ……」
「もうすぐ年越しなのに、ユウトがいなくなっちゃったから……迎えに来たの」
月明かりの下、フェイトの金色の髪がさらりと揺れる。
その瞳はまっすぐに、俺を見つめていた。
「……なにか、あった? ユウト」
優しい声。だけど、鋭い勘の持ち主でもある彼女に、誤魔化すのは難しそうだった。
「いや…なんでもないよ」
そう返すと、フェイトは少しだけ首を傾げた。鋭い彼女のことだ、きっと完全には信じていない。それでも追及せず、優しく問いかけてくれる。
「… それで、さっき誰と話してたの?」
「ああ、クロノからさ。守護騎士たちが正式に局で働くから、ついでに俺もどうかって話で」
自分でも驚くくらいあっさりと口に出せた。そういう変化も、今年一年で慣れたのかもしれない。
フェイトの表情が少し曇った。
「ユウト…ミッドチルダに移っちゃうの?」
「いや、士郎さんの許しも得てないし。移住ってわけじゃないよ」
その言葉に、彼女はふっと息をついた。
「そっか……よかった」
ほんの少し、安堵の色が混じったその笑顔が、やけに印象に残った。
「まあ、半年ぐらいは向こうに行くことにはなりそうだけどな」
「……私も、嘱託やめて、正規採用してもらおうかな?」
唐突にそう言い出したフェイトに、俺は少し眉をひそめた。
「お前、まだ義務教育終えてないだろ。後で困るの、お前だぞ?」
「むぅ……ユウトだって、最終学歴は“小学校中退・陸上訓練校卒”でしょ」
「俺は高卒認定も取ったし、年齢的にもお前より上なんだから文句言うな」
「……ユウト、記憶取り戻してから、なんか冷たいな。……それっ」
唐突に、フェイトが俺に抱きついてきた。
「うおっ、と……フェイト! ちょ、あまりくっつくなって!」
慌てて距離を取ろうとするが、フェイトは少し膨れた顔でじっと見つめてくる。
「……なんで離れるの?」
「なんでって……恥ずかしいだろ」
「一緒のベッドで寝た仲でしょ」
「……それは、同部屋のときにお前が勝手に入ってきたからだろ」
「一緒に住むって話……私は忘れてないよ」
静かに、でも確かな思いを乗せた声で、フェイトがそう呟いた。
「……それは、また……いつか、な」
はぐらかすようにそう言った俺に、フェイトはじとっとした目を向けてきた。
「むぅ……ユウトは、嘘つきだね」
フェイトはふくれっ面をしてそう言った。だけどその声は、怒っているというより、どこか悲しげで。
「そうか……?」
どこか気まずくて目を逸らすと、フェイトの声が、少し震えを帯びて続いた。
「私が全部嫌になって、逃げ出しそうになった時に――ユウトは私を引き留めて、一緒に生きるって言った……ずっと隣にいてくれるって、言ったよね」
記憶の奥底がざわつく。あの夜、涙を流しながら縋るようにすがってきたフェイトに、俺は確かにそう言った。
「……そう、だったな」
その言葉を口にすると、胸の奥がじんと痛んだ。
「私は、ユウトに離れたり、置いてったりしてほしくないって……ちゃんと伝えたよ」
「うん……」
フェイトは、少し俯いて唇を噛んでいた。こうして目の前で不安を訴える彼女を見て、俺の心も締め付けられる。
「なのに……ユウトは私を、置いていくの?」
「そんなことない……」
言葉が自然に口から出た。それだけは、絶対に違うと断言できた。
「なら、ちゃんと側にいて……?」
その一言が、心の奥に深く響いた。
「……あん時は、そういう意味で言ったんじゃないけどな」
少し照れ隠し気味に返すと、フェイトはふっと微笑んだ。
「ふふっ……知ってる。でも、今の私は、それを“そういう意味”にしたいんだ。」
その笑顔は、どこか大人びていて、でもどこか少女のままのフェイトで――俺はその視線から目を逸らすことができなかった。
「ねぇ、ユウト…」
「な、なんだ?」
フェイトの声はいつもより少し低くて、どこか探るようだった。
「はやてに、告白された?」
突然の質問に、一瞬だけ返答に詰まったが、すぐに正直に頷いた。
「…ああ。断ったけどな」
するとフェイトは少し間を置いてから問いかけた。
「なんで、断ったの?」
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「なんで、だろうなぁ…」
思わず視線を逸らして空を見上げる。夜空には年末の星が淡く瞬いていた。頭では答えがあるのに、言葉にするのが難しい。
「…理由もなしに断ったの?」
フェイトの声に、どこか棘のようなものが混じっていた。寂しさか、怒りか、それとも不安か。
「違うよ……ただ、俺は今の関係が壊れたくなかった……からかな」
ぽつりと口にした言葉に、自分でも苦笑が漏れる。
「…」
フェイトは黙っていたが、視線だけはずっとこちらを見ていた。
「はやてのことは……なんていうか、あいつには本当に失礼な言い方かもしれないけど、一種の気の迷いみたいなもんだって、勝手に思ってる」
「……それは、告白してきた女の子に失礼だよ」
フェイトの言葉は鋭かった。でも、それは責めるような響きではなくて、正しいことを言っているだけだった。
「分かってるよ……でも、あいつも俺も、ちゃんとした家族がいないっていうか、似たような寂しさを抱えててさ……二人で慰めあってた時期もあったんだよ。闇の書事件の後なんか、特にさ」
「はやてのことを救ったのは、ユウトだよ?」
「いや……俺だけじゃない。あの時、なのはやフェイト……みんながいたからこそ、あいつは救われたんだと思ってる。だから……とりあえずは断ったんだ」
自分の言葉に言い訳が混じっていないか、自分でも疑わしくなる。
「なにそれ…」
フェイトが少し呆れたように言った。
「もし……これから生きてく中で、はやてもいろんな人と出会って、もっと素直な恋をするかもしれない。一時の感情で、そんな可能性を俺が潰したくなかったんだ」
それが正解かは分からない。でも、あの時の俺の答えは、それだった。
フェイトは何も言わずに、ただ静かに夜空を見上げていた。彼女の横顔にはどこか複雑な色が浮かんでいて、俺はその意味を聞くのが少し怖かった。
「じゃあ…今、私がユウトに告白しても…断られちゃうね」
フェイトの声は、まるで独り言みたいだった。笑っているようで、寂しさが滲んでいるのが分かる。
「……そう、かもな」
言葉にするだけで胸が締めつけられる。気づかないふりをしていた気持ちと、向き合わざるを得なかった。
「ふふ…ちょっと、残念かな」
彼女はそう言いながら微笑んだけど、その笑顔が俺の目には痛く映った。
「…フェイト」
「なに…ユウト」
夜風に乗るような優しい声。俺は、静かに口を開いた。
「俺はお前や、なのはの気持ちに気づいてないほど鈍感じゃないよ」
フェイトの目がわずかに見開かれる。その目に宿るのは驚き、そして――少しの怒りにも似たもの。
「……ユウト…気づいてないと思ってたよ。いっつも、なのはや私がアピールしても…平気な顔してるから」
「俺だって…年頃の男なわけだし、興味が無いわけじゃない。お前らのスキンシップに心乱されてばっかりだよ。ただ……」
一度、言葉を切る。喉が詰まる。けど、ちゃんと伝えなきゃいけない。
「ただ?」
フェイトが問いかける声は、静かで、優しくて――だからこそ、刺さる。
「俺は、お前となのは…どっちかを選ぶって選択が、できないんだ。だから……お前らの気持ちに今は、答えられない。それが、俺の答えかな」
フェイトはしばらく黙っていた。夜空を見上げるように顔を上げて、それからゆっくりと言った。
「…優しいんだね、ユウトは」
「…どこがだ? 俺は、お前の気持ちを踏みにじって…」
「ううん。言わなくても伝わってる。私となのはの仲が拗れるのが嫌なんでしょ?」
言い返せなかった。図星すぎて、ただ黙って頷くことしかできなかった。
「はやてだって同じ。本当は嬉しいくせに……いつも他人のことばっか考えて」
「違うよ。俺はそんな出来た人間じゃ――」
「私…なのはになら、ユウトのこと取られたって平気だよ?」
言葉が止まった。胸の奥を、ぎゅっと掴まれたような感覚。
「フェイト……」
「私が好きなのは…私をただの女の子として、フェイト・テスタロッサとして見てくれる人だから」
そう言った彼女は、どこか儚げで、でも確かな強さを宿していた。
「なのはは私に“始まり”をくれた。ユウトは私に“居場所”をくれた。私は二人のことが大好きだから…そんな二人が仲良くしてるの、恨むことなんてないよ」
「…ッ、俺は……」
言葉が喉で詰まる。何か言いたいのに、言葉にならなかった。
「ユウトのおかげで、母さんやアリシアと今も一緒にいられるんだから。もう、これ以上を望むのは我儘だもんね…」
そう呟いたフェイトは、そっと一歩、俺から離れていった。
「…まだ、何かある? ユウト」
その声は、まるで夢から醒める直前の声のように優しかった。
「……」
言葉が、出なかった。気づけば、フェイトの手を引いていた。
「用がないなら、私は戻るよ」
背を向けるその姿が、あまりにも遠く感じた。今にも夜の闇に溶けてしまいそうで、気づいた時には手が伸びていた。
「ッお前の居場所は、此処なんだろ……」
彼女の身体を優しく、自分の腕の中に抱き寄せる。驚いたように目を瞬かせたフェイトは、すぐに照れたように口を開いた。
「なに、それ……ずるいよ……」
「ああ、出来の悪い人間だからな……もっとフェイトに酷いこと言っていいか?」
「……なに、ユウト?」
彼女の目を見ながら、俺はゆっくりと呼吸を整えた。言葉を慎重に選びながらも、今の気持ちを偽らずにぶつける。
「お前は、俺がなのはとフェイトの仲が悪くなるのを心配して二人を断ろうとしてるって言ったけど……違うんだ。そんなんじゃないよ」
フェイトは少し目を伏せ、静かに問い返してきた。
「……じゃあ、なに?」
「俺は……お前たち二人のことが好きだ。でもそれが“恋愛的な好き”なのか、“大切な親友としての好き”なのか……自分でも分からないんだ」
正直に言葉を並べていく。自分の不甲斐なさが嫌になる。それでも、逃げるわけにはいかなかった。
「なのはは……一人ぼっちだった俺を見つけて、救ってくれた。フェイトは……俺が“誰かのために生きる意味”を教えてくれた。どっちも……大切なんだ。だから、どちらかを選んで……片方を傷つけるなんて、できない」
フェイトはしばらく黙っていたが、やがて――
「そっか……じゃあ、私からは告白しないであげる」
「……え?」
不意を突かれた俺が目を丸くすると、フェイトはいたずらっぽく微笑んだ。
「ユウトが、その気持ちに答えを見つけられる日まで……待っててあげるよ」
「……ありがとう」
胸の奥がほんの少し、救われた気がした。フェイトは続ける。
「でもね、答えを出すなら早くしないと……いつまで待ってあげられるか分かんないよ? 私、学校じゃ結構人気なんだから?」
「……ああ。知ってるよ」
「だからね、ちゃんと私のこと……構ってくれなきゃ、イヤだよ?」
「ああ、分かったよ……」
思わず苦笑しながら答えると、フェイトは少しだけ頬を染めて、
「ふふっ……じゃあ、今度はちゃんと、約束守ってよ」
「……ああ」
その言葉には、今度こそ嘘をつかないと誓う。
「じゃあ……許してあげます。ただ……」
「ただ?」
フェイトの笑顔に、不穏な含みが混じる。
「今度からはもうちょっと積極的に行こうかな」
「……勘弁してくれ」
照れ隠しに抱きしめていた手を解いて、頭を掻いたその時――フェイトの両手が俺の頭をがっしりと掴んだ。
「いだっ、なんだ!? フェイト!?」
「約束の証……かな。明けましておめでとう、ユウト」
突然、世界が静寂に包まれた気がした。神社の喧騒も、遠くの鐘の音も、今だけは聞こえない。
耳に届くのは、フェイトと俺、二人の息遣いだけ。
緊張が空気を支配し、生唾を飲み込む音すらやけに大きく響いた。その瞬間――
「じゃあ、戻ろっか」
フェイトは何事もなかったようにすっと一歩退き、くるりと背を向けた。
「ごめん……無理だ……」
「……? どうかした、もしかしてまだ照れてたりする?」
「腰が抜けた……あっ」
その瞬間、足腰から力が抜けていく。
「わ、わわっ……!?」
途端、足腰の力が抜けた状態の俺はフェイトという支えを失い、獣道を落下して転がり落ちる
…なんかそういえばここら辺で昔転んでたはやてを見つけたな…
そんな呑気な思考の合間に、地面が急接近してきて――
「ゆ、ユウト――っ!?」
フェイトの叫び声が、夜空に響いた。
──にぎやかの年明けになりそうだ。