○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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苦手なもの

 いろいろなことがあった特務行動隊の初日。訓練を一通り終え、俺たちはグラウンド中央に整列していた。

 

「よし、今日はこれで終わりだ。それぞれ宿舎に戻って、今日のレポートを書くこと……いいな!」

 

 ヴィータ教導官の号令に、隊員たちが一斉に声を揃えて敬礼する。

 

「「ありがとうございました、ヴィータ教導官!」」

 

 その声にヴィータはちょっとだけ照れくさそうに視線をそらし、口元を引き結ぶ。その表情に、ほんの少しだけ緊張が解けて見えた。

 

 ――数分後。

 

 訓練服のまま休憩室に移動した俺たちは、それぞれスポーツドリンクを手に取り、思い思いにくつろいでいた。

 

「まさかこの歳でレポートを書くことになるとはね……」

 

 隣のソファで、クイントさんが肩を落としてぼやいていた。

 

「まあまあ、クイントさん。今回の訓練データは、今後の導入判断にも関わりますし……報告書の下書きと思えば、きっと価値ありますよ」

 

 ティーダさんが苦笑しつつフォローを入れる。口では渋い顔をしていても、きっとちゃんと書いてくれるだろうな。

 

「そうだけど……慣れないことはやっぱり疲れるわね……」

 

「あ、あはは……」

 

 苦笑いしながらその会話を聞いていた俺は、移動して空いていたソファに腰を落ち着ける。ちょうど向かいにヴィータが座っていたので、軽くドリンクをあおってから声をかけた。

 

「いやー、かっこよかったぜ。案外教えるの、似合ってんじゃないか? ヴィータ教導官?」

 

 俺の言葉にヴィータの肩がぴくりと跳ねる。さっそく反応した。

 

「……やめろ、茶化すなっ! なんか、こそばゆいんだよ」

 

「いやいや、褒めてるって。模擬戦でのカートリッジの使い方も技のキレもさすがだったし、声の張りなんかもう完全に熱血教官だったぜ?」

 

「お、お前なぁ……そういうからかうタイプが一番タチ悪いってんだよ!」

 

 そう言いつつ、ヴィータはほんのり顔を赤らめて、グラーフアイゼンの柄に手を添えた。からかわれて照れてるくせに、悪い気はしてない。そんな表情だった。

 

「でも……まぁ、悪くなかったかもな。教えるってのも、自分にも活かせそうな気づきが、意外と多かったし」

 

 ぽつりと漏らすその言葉は、なんだか少し大人びて聞こえた。

 

「いいこと言うな、さすが教導官」

 

「教導官教導官うるさいっつーの! ったく!」

 

 軽く肩をばしんと叩かれる。

 

 俺たちのやり取りを、まわりの隊員たちも笑いながら眺めている。のんびりとした空気が、訓練後はなんとも心地いい。

 

 ……と、その時、休憩室のドアが開いて、元気な声が響いた。

 

「あ、いたいた。ヴィータちゃん、ユウト、ちょっと来てー。シグナムから集合命令だってさー」

 

 アリシアが顔を覗かせ、手をひらひらと振っている。

 

「マジか……俺、もうちょい休みたかったんだけどな……」

 

 思わずぼやくと、ヴィータが立ち上がって小さく笑う。

 

「さぼんなよ? ほら、さっさと行くぞ、ユウト」

 

「へいへい、俺は一応新規採用組のペーペーですよ、教導官?」

 

「ぶっとばすぞ!」

 

 肩をすくめながら、ヴィータと並んで立ち上がる。さっきより、ちょっとだけ歩幅を合わせるのが楽になった気がした。

 

 隊長室に入ると、まず目に飛び込んできたのは――書類の山。

 

 デスクの背後では、シグナムがその書類に埋もれるような姿勢でペンを走らせていた。室内では、シャマルさんが慌ただしく資料を仕分けており、ゲンヤさんも書類を抱えてせわしなく動き回っている。

 

「えーっと、呼ばれたから来たんだけど……どういう状況っすか?」

 

 思わず声をかけると、書類の山からシグナムの顔がぬっと現れる。

 

「ユウトとヴィータか。よく来てくれた、すまんが……見ての通り、非常に立て込んでいてな。手を貸してもらえないか?」

 

 状況を把握したヴィータが、やれやれと肩をすくめながら呆れ声をあげた。

 

「手伝うのはいいけどさ……なんでこんな溜まってんだよ? まだ初日だぞ?」

 

「ふははっ!」

 

 豪快に笑いながらゲンヤさんが応じる。

 

「我らが隊長殿、事務仕事はからっきしでな。部隊長クラスともなるとそう簡単に下に回せねぇって、一人で抱え込んでたらしい。で、ひとつ仕事終えりゃ新たな仕事が2つ、また終えたら今度は4つ……と雪だるま式に膨らんでこのザマってわけだ!」

 

 笑いながらも手はしっかり動いてるあたり、さすが現場の歴戦組である。

 

「ったく……シグナム、もう少し人を頼れっての。キャパオーバーしてからじゃ遅いんだよ?」

 

 ヴィータがやれやれとため息をつくと、シグナムは苦々しい顔で目をそらした。

 

「分かっている……分かってはいるのだが、私にも面子というものが……」

 

 その呟きに、今度はシャマルさんの声が鋭く飛ぶ。

 

「もう、面子よりも今こうして私たちやユウトくんに迷惑かけてるって現実を見て? 次からはちゃんと相談すること、いい?」

 

「……すまない」

 

 しょんぼりと項垂れるシグナム。

 

 普段はバリバリの前線指揮官って感じなのに、今は書類に囲まれて叱られてる姿がやけに小さく見える。……うん、ちょっと写真撮ってはやてに送ってやりたいかもしれない。

 

「それで……俺は何をすればいいんですか?」

 

 俺が問いかけると、シャマルさんがキビキビと指示を出してくる。

 

「ユウトくんは、このエリアの書類を、部隊長の署名が必要なものと不要なものに仕分けして。ヴィータちゃんは、こっちの束にあるやつ全部に印鑑お願いね!」

 

「お、おう……」

 

 シャマルさん、いつもはほんわか癒し系なのに、仕事モードだと容赦ないな……と、ヴィータと視線を交わして苦笑する。

 

 まあ、やること自体はそんなに難しくない。さっさと終わらせようと、指定された作業机に目を向けた瞬間――

 

「……な、なあ、ヴィータ」

 

「ああ……言わなくても分かってる」

 

「「多すぎないか……!?」」

 

 そこには、ヴィータの身長ほども積み上がった書類の山がそびえ立っていた。

 

「これ、今日中に終わるのか……?」

 

「明日の訓練は、ちょっと軽めにしとくか……」

 

 俺たちはため息を吐きつつ、それでも立ち向かう覚悟を決める。

シャマルの診療室に足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは想像以上に“戦場”だった。

 

 

 

 

翌日――

 

訓練は、昨日の流れを引き継ぐように特に大きな変更もなく進んでいた。

 

「よ、よし……私は仕事があるから、あとは各自自主練で頼んだ。なんかあったら呼んでくれ……」

 

訓練場に残る隊員たちにそう言い残して、ヴィータはふらりと背を向けて去っていった。明らかに足取りが重い。

 

「は、はい…。あの、あまり無理なさらないでくださいね?」

 

心配そうに声をかけるクイントさんに、ヴィータは片手を上げて応える。

 

「おう……サンキュ……」

 

その背中は、どう見ても“仕事”という名の仮眠を取りに行く人のそれだった。

 

「……あっ、ずりぃ。ヴィータのやつ、絶対寝に行ったな」

 

ぼそりと漏らした俺の横で、ヴァイスが俺の顔を見て目を細めた。

 

「あ? ユウト、お前……隈、ひどくねぇか?」

 

「……色々あってな。まぁ、寝てないんだよ……」

 

昨日の夜、結局俺たちはシグナム隊長の残した書類と格闘する羽目になり、ほぼ徹夜。気づけば朝だった。

 

「夜更かしはダメだよ、訓練中は特に。ケガするリスク高いんだからね?」

 

ティーダさんが、優しくも厳しく釘を刺す。

 

「うん、わかってます……」

 

朝起きてきたアリシアに無理やり寝かされて1時間位は休めたが、正直体力は回復した気がしない…。

頭と体を丸一日フル稼働させた結果、脳が霞がかったように重い。

 

(これ……もし執務官になったら毎日こんな感じなのか……?)

 

そう考えた瞬間、進路を再考したくなった

というか、全然仕事終わってないし今日もほぼ徹夜かな……。

その時、背後から聞き慣れた落ち着いた声が飛んできた。

 

「おい、ユウト」

 

「あ、ザフィーラ……師匠――じゃなかった、シャッハさんの方は大丈夫なんですか?」

 

「そのシャッハ殿からお前の不調について訴えられてな、シャマルのとこで身体を診てもらってこい。」

 

「えっ、俺別に……ただの寝不足で、身体の不調なんて――」

 

「察しろ。そもそもがシグナムの責任だ。少しくらいサボっても、誰も文句は言わん」

 

「……すまん、正直、助かる」

 

「うむ。存分に休め。他の2人のことは我に任せよ」

 

ザフィーラが静かに頷く。

 

「マジでありがとう、ザフィーラ……!」

 

重い身体と眠たい瞼を引きずりながらも、どこか心が軽くなった。

 

浮足立ってシャマルの診療室に向かうと…そこにはデスマーチを終えてベッドの上で無言のまま仰向けに沈むヴィータ。机にもたれて突っ伏すシャマル。そしてソファで頭を抱えるように座る、元凶――シグナムの姿があった。

 

「……随分、悲惨なことになってんな」

 

思わず口から漏れた感想に、ベッドの上からヴィータが顔だけこちらを向ける。

 

「お、ユウト……倒れる前に来たか……」

 

その隣ではシャマルが何とか立ち上がって、俺に微笑みを向ける。が、頬のこわばりと目の下のクマが全てを物語っていた。

 

「お疲れ様……ごめんね、変な姿見せちゃって……」

 

「その疲れ姿……もしかして、俺がアリシアに無理やり寝かされてからもずっと作業してた?」

 

「ええ、ついさっきようやく明日までの分は終わったところ。各部隊に送る報告書はまだ残ってるけど……ちょっと仮眠したらまた続きよ」

 

シャマルが肩を回しながら苦笑いを浮かべる後ろで、シグナムがひときわ沈んだ声を絞り出す。

 

「すまない……仕事のできない隊長で、すまない……」

 

「…本当に守護騎士の将の姿か?」

 

まじまじとその哀れな姿を見つめながら、俺が問いかけると、

 

「しゃーねーだろ、あたしたち戦ってばっかで、そういうの慣れてねーし……。まぁ、シグナムが無駄に生真面目すぎるのが原因でもあるけど」

 

ベッドの上からヴィータがそう呟くと、シャマルも手を腰に当てて力なくため息をついた。

 

「シグナム、関係ない部署の書類まで逐一読んでたらそりゃ終わらないわよ。自分の管轄部署の書類だけ目を通してって何度言っても書類の区別ができないの……」

 

「面目ない……」

 

「……あ、あはは……」

 

(シャマル、なんか今日めっちゃ辛辣だな……)

 

そんな空気の中、診療室のドアが勢いよく開いた。

 

「いたいたー!」

 

顔をのぞかせたのはアリシアだった。朝以来の明るい笑顔に、場が一瞬だけ和む。

 

「おう、アリシア。今朝ぶりだな」

 

「うん、おはよう!」

 

「で、何か用か?」

 

ヴィータが顔だけ向けて尋ねると、アリシアはふふっと笑いながら軽く手を挙げた。

 

「うん、さすがにシグナムたちに事務作業は無理あったかなーって思って、クロノに相談してみたの。そしたら“隊長補佐として事務官を追加派遣する”って返事もらったから、その報告に来たんだよ!」

 

「……もう徹夜しなくて済むのかっ!?」

 

思わず立ち上がりそうになって声を上げる俺に、アリシアがさらりと釘を刺す。

 

「それはシグナムが溜め込んでた書類の量次第だけどね〜。というわけで今日から秘書官を務める子を紹介するよ、ほら入って入って〜!」

 

「え、もうきてるのか…?」

 

くるりと後ろを向いて、診療室の外に手招きをするアリシア。

 

「ほらほら、入って入って〜!」

 

……さて、どんな人物が来るのか――

俺たちは自然と正面のドアに視線を向けていた。

 

扉の向こうから、元気でちょっと間延びしたような声が飛んできた。

 

「はい、こんにちは〜。技術部のマリエル・アテンザです〜」

 

軽快な口調とともに現れたのは、淡い緑色の髪をまとめ、白衣の裾をひらひらと揺らす小柄な女性だった。手にはパッド端末と何かの設計図らしき束を抱えている。見た目からしてすでに“できる人”オーラが漂ってる。

 

「マリエルさんは私のデバイスいじり仲間なんだよ~」と、アリシアが得意げに紹介を続ける。

 

「普段は技術部で研究職しててね。レポート作成とか資料作りも得意だから、今回の件では即戦力になると思って呼んだの!」

 

マリエルはふふっと笑って、パッドを小脇に抱えながら親指を立てた。

 

「クロノ執務官とエイミィ先輩の後輩ですー。それで、今回“先輩からの頼み”と、あと個人的なご褒美として“カートリッジデバイスをいじっていい”って言われたんで、二つ返事で来ましたっ。よろしくお願いします~。」

 

なにその動機…と思わなくもなかったが、自己紹介からすでに普通じゃない感じはバリバリに伝わってくる。

 

「てか、いくら書類慣れしてるからって一人事務員増えたくらいでなんとかなる量だったか?」

 

「ふふふ……私だって昨日何もせず過ごしてたわけじゃないよ……私

 

「クロノ執務官とエイミィ先輩の後輩ですー。それで、今回“先輩からの頼み”と、あと個人的なご褒美として“カートリッジデバイスをいじっていい”って言われたんで、二つ返事で来ましたっ。よろしくお願いします~」

 

なにその動機……と思いつつ、俺はマリエルの白衣の端から覗く工具ポーチと端末を見て、ああ、ガチだわこの人、と妙に納得してしまっていた。自己紹介の時点でもう“只者じゃない”雰囲気がバリバリに出てる。

 

「てか、いくら書類慣れしてるからって、一人事務員が増えたくらいでなんとかなる量だったか? あれ、山だったぞ? たぶん質量だけで人一人死ぬくらいの……」

 

俺が遠い目をしながらそう問いかけると、アリシアが自信満々に腕を組みながらふふんと笑った。

 

「ふふふ……私だってね、昨日の書類の山を見て、なにも対策せずにボーッとしてたわけじゃないのだよ……!」

 

謎の高笑いと共に、アリシアが背後の荷物から小さな銀色の球体を取り出した。それはまるでアクセサリのように可愛らしいが、中央に設けられた魔力コアが静かに脈動している。

 

「これが! マリエルさんと徹夜でこしらえた非戦闘用デバイスに、論理コアを埋め込んだ疑似インテリジェントデバイス! その名も──」

 

「フォーチュンドロップ!」

マリエルさんがぴょんっと横から飛び出して補足した。

 

「なんと、魔導師の演算支援をするデバイスを、事務処理に特化して最適化! 書類の仕分け・内部記録・電子承認、全部この子が代行してくれます!」

 

「入力補助も帳票処理もバッチリ! 簡単な業務ぐらいまでなら学習済みだから、次に似た案件来たら自動で記入してくれるんだよー!」

 

ヴィータがベッドから上体を起こしながらぽつりと呟いた。

 

「……おい、今の聞いたか? 神って、本当にいたんだな……」

 

「なむー」と隣のシャマルも小声で手を合わせてる。ついでにシグナムは小さく涙ぐみながら呟いていた。

 

マリエルはそんな三人の疲弊っぷりをまったく気にせず、端末を立ち上げながらさっそく作業モードに入っていた。

 

「細かい調整はしないとなんで、引き継ぎがてら今の書類フォーマット見せてもらってもいいですか? あと、部隊の資料作成はどのくらいすすんでますか?」

 

「あ、ああ……資料はこっち……」とシャマルが急いで資料棚を指さす。

 

「おーし、じゃ今日はみんなの分まで働きまくるぞ〜。おわったらヴィータさんのデバイス、後でちょっと見せてもらえません?」

 

「え、う、ああ……うん、いいぞ?」

 

完全にペースを握られたヴィータは、何かを悟ったような顔でうなずくしかなかった。

 

俺はその様子を眺めながら、心の中で静かにガッツポーズを決めた。

 

(……これで、なんとか徹夜だけは回避できそうだな。)

 

 

 

 

 

ーその日の夜。

 風が肌を撫でる。

 

 静まり返った特務隊の宿舎。消灯時間を少しだけ過ぎた頃、俺はそっと部屋を抜け出し、敷地の隅にあるベンチに腰を下ろしていた。頭上には満天の星空。眠気はあるが、昨日夜更かししたからか、いまいち寝付けなかった。

 そのとき──ポケットの携帯が震える。

 

「フェイト…?」

 

 着信画面には、よく見慣れた名前。驚きながらも、すぐに通話ボタンを押す。

 

「もしもし、フェイト?」

 

「ユウト、こんばんは。……起きてた?」

 

「ああ。ちょうど今、外に出て星見てたとこ。そっちは?」

 

「うん、地球は今夕方ぐらいだよ。今日ね、学校でなのはとアリサとすずかとお昼食べてたら、アリサが『新しい靴買ったのに合う服がないから一緒に選んで!』って話してたんだ。なのはも笑いながら付き合ってたけど、はやては苦笑いしてたし……たぶんいつもの事なんだろうね。」

 

「……あー、容易に想像できるな。そのやり取り」

 

「ふふっ、でしょ? すずかは相変わらずだけど、クラスの代表に選ばれて困ってたよ。発表苦手なのにって」

 

「すずかが、代表にか……? それはちょっと意外かも」

 

「私も。でも、なのはとアリサはノリノリで応援してたから、なんとかなるかなって。」

 

 フェイトの声は、どこかふんわりとあたたかくて、聞いているだけで体の緊張がゆるんでいく。俺の知らない日常の話。でも、彼女の声からその風景が鮮やかに浮かんでくる。

 

「……で、ユウトは? 大丈夫? 声がちょっと疲れてるよ。」

 

「まあ、慣れない書類作業と昨日は格闘してたんだよ」

 

「書類?」

 

「シグナムが事務作業からっきしでな。書類溜めすぎて俺とヴィータとシャマルさんでほぼ徹夜。」

 

「えぇ……大丈夫だったの? ヴィータ達と一緒に徹夜って……」

 

「大変だったんだね……でも、なんか笑える。いろいろ賑やかそうだね。」

 

「正直、あの書類の山を前にすると笑えなかったけどな……あ、今日分の仕事は新しい事務サポートの人が来てさ。アリシアとすげぇ便利な補助デバイス作ってて、もう半分くらいはそいつに任せることになったよ」

 

「そうなんだ……なら、今日はちゃんと休まないと、だね。」

 

「わかってる……でも、フェイトの声聞いたらだいぶ楽になった。ありがとな、こうやって電話くれて」

 

「ううん、こっちこそ。ユウトの声聞いたら、安心した。……今、少し会いたくなったけど。」

 

「でも、お互い違う世界にいるけど、声だけでも繋がってるのもなかなか粋で悪くないな」

 

「うん……そうだね」

 

 少しだけ、沈黙。

 

 でも、その静けさはどこか心地よくて、言葉がなくても通じ合っているような気がした。

 

「帰ったら、今度はゆっくりどっか行こうな」

 

「うん、楽しみにしてる。ちゃんと休むんだよ? 無理しないで」

 

「わかった。おやすみ、フェイト」

 

「おやすみ、ユウト」

 

 通話が切れて、夜の静けさが戻る。

 

 でも、さっきまでより風はやわらかく、星空は少し近く感じた。

 

電話を終えて、俺はそっと宿舎の部屋へ戻る。足音を立てないようにドアを開けて中に入ると、ベッドの上で毛布をかぶって寝ている……と思っていたヴァイスが、こちらに顔を向けていた。

 

「おっかえり〜、ユウトくん。ずいぶん楽しそうな顔して戻ってきたな〜?」

 

 薄暗がりのなか、ニヤリと笑うその顔は、明らかに何かを察した顔だった。

 

「起きてたのか?」

 

「そりゃあなー。こっちは寝る準備してたら、ルームメイトがそっと部屋抜けてってさ。窓から外にいる姿みえたから観察してたらなにやらニヤニヤと電話してたらしいし、寝れ訳ないじゃん?」

 

「ニヤニヤはしてねぇよ! ……たぶん」

 

「してたしてた、確実に。声まで漏れてなかっただけマシだけどな?で、誰と〜? ん〜、まさか〜彼女とか?」

 

 ぐいっと身を起こしてこちらに身を乗り出してくるヴァイス。からかい混じりの声に、俺は思わず目を逸らす。

 

「な、なんでお前に言わなきゃいけないんだよ」

 

「うわ、反応が完全にクロだわ〜。これは確定だな〜。いや〜若いっていいねぇ。青春してるじゃ〜ん、ルーキーくん」

 

 ベッドの上から身を乗り出して、ヴァイスはますます楽しそうに笑う。こいつ、完全に面白がってるだけだろ…。

 

「別にそういうんじゃねぇって。……電話かかってきたから少し話しただけだ。お互い今は別のところにいるしさ」

 

 ベッドの上から身を乗り出して、ヴァイスはますます楽しそうに笑う。こいつ、完全に面白がってるだけだろ…。

 

「別にそういうんじゃねぇって。……ちょっと話したかっただけだよ。お互い今は別のところにいるしさ」

 

「へぇ~、”今は別のところにいる”ねぇ~……って、あーなるほど!もしかして、シグナム隊長のご家族か?それともアリシアちゃんの妹さんか?」

 

「お前、どこまで知ってんだよ……!」

 

「いやいや、アリシアちゃんからお前についての情報は色々と耳に入ってたからな~? でもさ~、かわいい幼馴染からの電話か、そりゃニヤけもするわな〜」

 

「……っ、だからしてないってば!」

 

「はいはい。まぁでも、少しは肩の力抜けたみたいでよかったよ。昨日から、ずっと張りつめてた感じだったからな。ちょっと心配だったんだぜ?」

 

 ヴァイスはふっと声を落としながら、枕に頭を戻してごろんと横になる。

 

 ――こいつなりに、気にしてくれてたんだな。

「……ありがとな」

 

「んじゃあ明日の訓練、ニヤけ顔で居眠りしてヴィータさんにぶっ飛ばされるなよ〜?」

 

「してねぇって言ってるだろ!!」

 

 思わず毛布を掴んで、ヴァイスの顔めがけて放り投げた。奴は大笑いしながら、それをそのまま頭にかぶる。

 

 ……まったく、油断も隙もないな。けど――

 

 こうして気の合う同性と笑って話せる時間も、なんだか新鮮だな。

 

 そう思いながら、俺もようやく毛布をかぶり、静かに目を閉じた。

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