機体の振動とともに、機動輸送艇が高度を下げていく。周囲には、同じように空中で旋回する管理局の武装部隊の影。夜明けの空が、じわりと明るみ始めていた。
「作戦開始まで、あと三十秒。全員、最終確認をしっかりな!」
耳につけた通信機からゲンヤさんの声が響く。
遮断結界の展開準備も完了し、シャマルが静かに頷いてこちらを見た。
全員の視線が一点に集まる。
「行くぞ」
シグナムのその言葉を合図に、輸送艇が急降下。機体後部が展開し、冷たい風が一気に流れ込んでくる。
それと同時に――結界展開。
「遮断、完了。敵外部からの通信は遮断されたわ!」
シャマルの報告と同時に、俺たちは輸送艇から飛び出した。
足元に広がるのは彼方まで広がる砂漠と、開けた谷の奥にそびえ立つ要塞型の施設。
空中を強風にあおられながら飛びながら、俺は思わず息を呑む。ここが、戦場。
地面に着地すると、要塞正面にはほかの武装隊員たちの攻撃が開始された。
正面反対に降り立った俺たちが攻撃を察知できたのは、空に浮かぶ巨大なハンマーのおかげだ。
いくら陽動とはいえ、ヴィータのやつ派手にやってるな…。
「予想接敵ポイントまで、あと300m!」
ティーダさんの報告。降下してすぐにヴァイスが高所に陣取ると。デバイスのスコープで前方の地形を確認し、声を上げる。
「前方、迎撃用の固定砲と巡回している魔道兵、あと地雷原っぽい反応もある!」
「ふっ、予定通りだな。突貫するぞ、ユウトついてこい!」
「了解ッ!」
右手を構え、魔力を収束。デバイス、展開――
「いくぞ、バスター!!」
砲撃魔法で先行する敵機の大群に風穴を開け、続けてティーダさんの広域魔法で道を切り開く。訓練と同じように、俺たちは次々と敵を撃破していく。
「クイント、シャッハ、前線をあげろ!私は大物をたたく!」
「はい!」「ええっ!」
シグナムの声と共に二人が先行し、開けた道を一直線に突撃していく。跳ね上がる土煙とともに、次々と迫る敵機体を叩き潰しながら進行する。
俺とティーダは二人に続きながら敵機の破壊を続けていく。
いくら正面に敵を引き付けて守りが手薄とはいえ、こちらも少数部隊、数の力に押されかねないーー
「援護射撃、いきます!」
ヴァイスの高所からの精密射撃が、背後にいた敵やこちらを狙っていた固定砲を次々と破壊。一切の狂いのない、磨かれた技術による支援射撃。
俺たちは順調に、そして確実に拠点へと近づいていく。
空はもうすっかり明るい。
「このまま中枢まで突入できれば理想的だが……ヴァイスそろそろポイント変えておけ!狙われるぞ!!」
「はい!」
──初めての任務、初めての敵、初めての戦場。
ここまでは順調に進んでいた。
周辺の敵を片付けた後、シグナムは近くで孤立していた局員たちの救援へ向かい、一度俺たちの側を離れた。
その間、俺たちは少し息を整えながら、突入ルートを探していた。だが落ち着いている余裕なんて、実際のところほとんどなかった。
「要塞深部まで残り距離、およそ百メートル。拠点裏口を守ってた迎撃兵器は全部排除済み。地形的には……ここから内部に入れそうだな。」
ヴァイスがライフル越しに索敵を続けながら告げる。俺たちは緩やかに傾斜した斜面を登りきり、ようやく拠点全景を見渡せる位置に立っていた。
谷間に築かれたその拠点は、旧暦時代の軍用要塞を転用したものらしかった。コンクリの塊みたいな無骨な構造で、周囲に木々はほとんどなく、隠れる場所すらろくにない。
だが、その入口の前に――妙なものが視界に入った。
「ティーダさん、あれ……例の荷物じゃないですか?」
「あれか……見た目はただの貨物用コンテナだけどさ……あんな目立つとこに無造作に置いてあるって、おかしすぎるよな。」
「シャマル、何か分かりますか?」
「うーん……魔力反応は感じないけど、中で何か動いてるような音がする……」
嫌な、ぞわりとした予感がした。呼吸がひとつ詰まる。
同時に、左腕のアンブレイカブルの奥――アインスの気配が一瞬、鋭く脳裏を突き抜けた。
『ユ、う……!!』
「アインス……!?」
返事を待つ間もなかった。
「おい……開いたぞ!?」
ギギィィ――金属の軋む甲高い音が、響き渡った。
コンテナの扉が、ゆっくりと横にスライドしていく。
中から現れたのは、見たこともない兵器だった。
重々しく浮遊する筒状のボディ。装甲板に覆われた全身には無数のスリットが刻まれており、前部には四連の砲門が光を反射して鈍く輝いている。だが何よりも目を引いたのは――その中央に鎮座する、黄色の球体。
「……これは、俺たちの魔法が……妨害されてる……!?」
言葉が喉から漏れた。コンテナが開いた瞬間から、俺とアインスを繋ぐリンクが途切れたのを、はっきりと感じた。索敵用の魔力波も霧のように散らされてしまう。まるで見えない壁に阻まれたみたいに、魔法の制御が遠くまで届かなくなる。
「ユウト、来るぞっ!」
ティーダの叫びで我に返る。反射的に右腕のディジターを構えて撃ち放つ。
「――フォース・バレット!!」
魔力弾が一直線にドローンへ向かう――が。
バシュン!
乾いた音と共に火花が散り、ドローンの装甲表面を滑っただけで、傷一つ残らなかった。魔力が弾かれる感覚に背中が冷える。
「っ……くそっ!」
そのとき、ドローン前部の砲門がくるりと回転し、発射口が青白く光を帯びる。
「反撃が来る――避けろ!!」
俺が叫ぶのと同時に、ドローンから衝撃波のような轟音が弾けた。
凄まじい速さで放たれた物理弾が、空気を切り裂いて迫る。俺たちは慌てて散開したが、爆風が襲いかかり、地面を抉り取って砂塵を撒き散らす。
「ぐっ……!」
地面を転がりながら、咳き込む。頭がぐらつく。周囲には砕けたコンクリ片が雨のように降り注いだ。
(……やばい。装甲が硬すぎる。どうやって防御を抜く…!?)
焦る心を無理やり抑え込む。息が荒い。この敵は、俺たちの魔法を封じるだけじゃない。真正面から物理的な破壊力で潰しにかかってくる。
ティーダさんが歯を食いしばりながら叫ぶ。
「ユウトくん! 僕たちの魔法が、効いてない! どうする!?」
「魔法が効かない…というより威力がとんでもなく減衰されてる、のか?」
「もしそうだったら魔法を封じるフィールド系魔法…AAAクラスの高位防御だぞ!?」
次の一手を決めかねたその時。
「コンテナから追加の機影! 四、いや五体……!? 数増えてるぞっ!」
ヴァイスの声に心臓が凍り付く。
煙の向こうに、同じ型のドローンが次々と浮かび上がる。無数の赤いセンサーがこちらを見据えて光っていた。
――歯を食いしばりながら、ディジターのカートリッジに手をかけた。
(魔力結合の阻害効果…明確に、対魔導師に作られた兵器!!)
「まずい、こんな数……!」
ティーダさんの魔法が、またも霧散する。魔法を阻害するフィールドの濃度がさらに上がったのか、射出された弾が空中で消えるのが見えた。
俺たちを包囲するようにして、同型のドローンが、さらに4体――否、6体。まるで待ち伏せていたかのような正確さで、周囲から出現してきた。
そのうちの1体が射撃を始める。魔法とは無縁の質量攻撃は容赦なく俺たちを襲う。
「こうなりゃやけか!カートリッジロード!!」
即座にカートリッジを使用したヴァイスが射撃で攻撃を相殺した。
「本体まで届かないか!!このままじゃ押し潰される……っ!」
ヴァイスの攻撃はドローンを撃墜することななかったが、攻撃の相殺をすることができた。
「ヴァイスッ…それでいい!!」
「えっ?」
俺は低く身をかがめ、ディジターを両手で構える。
トリガーに指を掛けると、二発分のカートリッジを連続装填した。
『Cartridge Load.』
駆動音と共に、ディジター全体が赤く発光する。魔力の奔流が右腕から脳髄まで痺れるほどの熱を伴って駆け抜けた。
「――アンブレイカブル・バスター!!」
咆哮と共に、強化された砲撃魔法を放つ。
砲身から迸った紅い魔力弾は、空気を灼き、真っ直ぐドローンへと突き進んでいった。
次の瞬間、戦場を包む轟音と光が爆ぜた。
轟音と閃光がゆっくりと収まっていく。
視界がクリアになった瞬間、俺たちの目の前に広がったのは――砕け散った装甲片と、無残に転がるドローンの残骸だった。
「攻撃が……通った!!」
一拍遅れて、俺の胸に強烈な安堵が押し寄せる。息が荒い。まだ心臓がバクバクいってる。
「ち、力技かよ……でも、威力が減衰されるなら、それ込みで威力調整すりゃ通る……ってことか」
呆れたようにヴァイスが息を吐く。その横でティーダさんが嬉しそうに笑った。
「カートリッジなら、なんとか攻撃通りそうだね! ……ユウト、すごいよ!」
喜ぶティーダさんに、俺は小さく笑い返す。だが気を抜く暇なんてない。
「これでやっと一体撃破……だけど、まだまだドローンはいる。気を抜かずに行くぞ!」
そう言いながら周囲を確認するために振り返った――その瞬間だった。
「――ッ!?」
俺のすぐ横を、冷たい金属光が掠めた。空気を裂く鋭い音に、思わず肩をすくめる。心臓が跳ね上がる。
「油断、ですよ?」
静かな声が耳を打つ。
恐る恐る目を向けると、そこにはシャッハさんが立っていた。
ヴィンデルシャフトの刃が真横を掠めた先――そこには、俺がさっき撃破したはずのドローンが、最後の一撃を俺に食らわせようと迫っていたのが突き刺さっていた。
「師匠……助かりました……!」
俺がそう言うと、シャッハさんはニッと笑い、小さく頷く。
「ふむ、魔力結合の阻害……ですか。」
シャッハ師匠が、目を細めながら目前のドローン群を見据える。その声は相変わらず落ち着いているが、張り詰めた空気を纏っていた。
「ベルカ式術者は、魔力で強化した肉体強化をメインに戦えば比較的影響は受けにくい。私とクイントが、彼らを引き受けましょう。」
その言葉に、俺は反射的に声をあげた。
「なら、俺も!」
だが、シャッハ師匠の視線が鋭くこちらを射抜く。
「ユウト。あなたはティーダとヴァイスのカバーを。ミッド式術者は、アレとの相性が悪すぎます。」
冷静な口調の奥に、確かな決意が滲んでいる。だが、納得はできなかった。
「でも、ドローンの数が多すぎます! 師匠とクイントさんだけだったら……!」
自分でも分かってる。俺の言葉は、ほとんど叫びに近い。心臓が早鐘を打つ。
「ユウト……悩んでる時間は――っ!?」
言い切るよりも早く。空気を引き裂くような金属音が、戦場を揺らした。
気づけば、俺たちを取り囲むように、また新たなドローンが次々と姿を現していく。闇の中から、無数の赤いセンサーアイがこちらを睨みつけていた。
「一体、こいつら……何機いるんだよ!?」
「ユウト、危ない!!」
怒鳴るような声が、耳鳴りでくぐもって聞こえる。目の前の光景が、遠くの景色みたいにぼやけて見えた。
ーー完全に不意を突かれた。
息が浅い。脇腹に攻撃を受けたようだ。心臓が痛いくらい暴れている。
それでも――この場で立ち尽くすわけにはいかない。
(こんなところで死ねるか!!)
「ディジター!!」
『sword mode.』
必死に足を動かして弾丸を切り抜け、ドローンに切りかかる。
魔力刃で装甲の隙間を狙うも――刃は表面で滑った。音だけが虚しく響く。
「まっずいか……!」
「ユウト!?」
目の前でドローンがこちらに砲身を向けてチャージを開始する。
絶望が喉元まで迫った、そのときだった。
まさに絶体絶命の窮地。
燃え盛る紅蓮のように、周辺の空気が一気に熱を帯びた。
耳鳴りの向こうで、風を裂く鋭い音が響く。
そして、まるで流星のように颯爽と現れたその影が、鋼鉄の機体を一閃する。
「遅れてすまない。他の所にもこいつらが現れて手こずっているようだったのでな」
低く、凛とした声が耳に届いた瞬間――胸の奥が一気に軽くなった。
「シグナム……!」
振り抜かれた彼女の双剣が十字を描き、接近していた二体のドローンの装甲を、まるで紙のように切り裂いた。
それは魔力による破壊じゃない。純粋な剣技――質量と加速だけで成し遂げた、圧倒的な物理の一撃だった。
金属がひしゃげる高音が戦場にこだまする。
その迫力に、ドローンたちが一瞬たじろいだように見えた。
だが、その一瞬すら逃さず、別の影が頭上から飛び込んできた。
「ったく、好き放題やりやがって……!」
「ヴィータ!」
空を裂いて振り下ろされたグラーフアイゼンが、ドローンを直撃する。
巨大ハンマーの一撃が地面に衝突した瞬間、火花と金属片が爆風とともに四方に散った。
地面がめり込み、周囲のドローンが一斉にバランスを崩す。
二人が現れたその瞬間――空気が明らかに変わった。
息を呑む俺たちの目の前で、ドローンたちは恐怖すら覚えているように動きを鈍らせている。
「ユウト、ティーダ、ヴァイス!」
シグナムの声が響く。こちらを見ずに、それでも鋭く言い放った。
「こいつらは引き受ける。お前たちはその隙に拠点へ突入しろ」
「ですが……!」
言いかけた俺の声を、シグナムは一刀のように断ち切る。
「我々ならば問題ない。予定外ではあるが、任務の優先は“拠点制圧”だ。お前たちの役目を果たせ」
その言葉には、揺るがぬ信頼と確固たる覚悟があった。
それでも、心臓が痛いくらいに締めつけられる。
置き去りにしていくようで――本当は、離れたくなんかない。
「……了解!」
絞り出すように応える。
震えそうになる足を、無理やり前へと動かした。
背中では、ドローンの爆発音とヴィータの怒号が混ざり合い、戦場の空気を揺らしている。
「行くよ、ユウト!」
「……ああ。絶対に成功させる!」
ティーダさんとヴァイスが横に並び、俺たちは視線を交わした。
そこにはもう、恐怖だけじゃなく――決意があった。
俺たちは、地獄の縁から再び立ち上がる。
炎と鉄の雨を背に受けながら、拠点内部へと駆け出した。
(絶対に――生きて帰る。そして、この任務を終わらせる!)
回復魔法を傷口にかけながら進むが、心臓の鼓動はまだ速い。
けれど、その鼓動が、今は自分を奮い立たせてくれている気がした。
◇
「やれやれ……せっかくの試作品も、こうも簡単に対処できるのがいるとは。守護騎士か……まったく想定外だったよ」
低くくぐもった声が、暗い室内に響く。
ホログラムモニターがずらりと並ぶ部屋。その中央で、白衣の男が椅子にもたれかかり、指先でモニターの縁をゆっくりと叩いていた。
彼の目は、まるで冷たいガラス玉のように無表情だったが、その奥には狂気じみた光が潜んでいた。
その後ろで控えるのは、艶やかな髪を背中まで伸ばした女。
「どうなさいますか、ドクター。要塞に増援を送りますか?」
女の声は冷徹で、しかしどこか楽しげでもあった。
男は短く笑うと、片方の眉をわずかに持ち上げる。
「いや、いいさ。あそこは所詮、大した資金もないただの犯罪組織。試作品を提供したのも、ただのデータ取りのため。」
その言葉を吐き捨てるように言うと、男は足を組み直し、再び視線をモニターに戻した。
ホロスクリーンには、激しい戦場の映像が映し出されていた。
轟音と閃光の中、ユウトがドローンの一機をカートリッジによる攻撃で撃破する瞬間が、鮮明に捉えられている。
女が目を細め、吐息を漏らした。
「おや……守護騎士以外にも破壊されてしまいましたね」
その声には、失望というより、興味深そうな色が混じっていた。
「くっ……くくく……」
男が低く笑いはじめた。
肩が微かに揺れ、その笑い声は不気味な余韻を部屋中に響かせた。
女が不審げに眉をひそめる。
「ドクター……どうかなさいましたか?」
「いや、なに――」
男の瞳が、狂気を帯びた光で細められる。
「随分と懐かしい顔が見えたものでね……。単なるデータ収集のつもりだったが、面白いものが見られた。」
男の唇が吊り上がり、不気味な笑みを刻む。
女はわずかに溜息をつき、面倒そうに首を横に振った。
「はぁ……」
だが、男はそんな彼女の態度を気にする様子もなく、操作卓のスイッチに軽く触れた。
ホロモニターの映像が一斉に暗転し、白衣の男の姿も、ぼやけるように薄暗い部屋の奥へと溶け込んでいく。
「フフ……さて、次はどんな実験をしようかな……」
その声だけが、暗闇に尾を引くように響き、やがて静寂に飲まれていった。
一体誰なんだ…謎の男!!
ちなみに彼はしばらく出ません。ドローン試作型を出したかっただけともいう。
時系列的にはドローンⅣ型(透明化するやつ)は存在してるしちょっとくらい出してもいいかという安易な考えです。