○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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見えない攻撃

床の崩落がようやく収まり、辺りに立ち込めていた土煙がゆっくりと晴れていく。

視界が戻ったとき――俺と金髪の男は、真正面から向かい合っていた。

 

ここは、地下牢のさらに下層。

恐らく武器庫だったと思われる広い空間が広がっていた。

壁一面に取り付けられたロッカーや棚はほとんど崩れ落ち、武器や弾薬が無残に散乱している。

地面からは火薬と鉄、血のような匂いが立ち上っていた。

 

「チッ……あの子に逃げられたか。こんなことをしてタダで済むと思うなよ、少年」

 

男は苛立ちを隠そうともせず、懐から取り出したデバイスを俺に向ける。

目は冷たく細められ、獣のように獲物を狙っていた。

 

息を切らしながら、俺はディジターを構えた。

床を蹴る足に、未だ震えが残っている。

だが、目はそらさない。

 

「デバイスに……その魔力量。あんた、Aランク魔導師のガイル・セイヴァンだな。なんで元管理局員のあんたが……こんな犯罪組織なんかにッ!!」

 

思わず叫んだ声が、地下に響いた。

だが、ガイルの瞳には微塵の揺らぎもない。

 

「何も知らない子供のくせに、知った風な口を!」

 

その言葉と同時に、ガイルが腕を振るう。

ビリビリと空気が震え、周囲の魔力が渦を巻くのを感じた。

けれど――何も発動した気配がない。

 

(……何だ? 魔法の詠唱も、発光もない……!?)

 

『Master!』

 

ディジターの鋭い警告が脳裏に突き刺さる。

 

「ッ……!」

 

咄嗟に地面を蹴り、側転で体を回転させた。

直後――

 

ズバンッ!!

 

背後の壁が、巨大な刃物で切り裂かれたようにえぐれた。

コンクリート片が降り注ぎ、火花が散る。

 

冷や汗が背中を伝う。

心臓が喉元を暴れ回り、息が乱れる。

 

「っぶな……!?」

 

ガイルは杖をゆっくりと下ろし、残念そうに肩をすくめた。

 

「チッ……避けたか」

 

低く呟くその声には、まだ余裕すら漂っていた。

その双眸は氷のように冷たいまま、次の一手を狙っている。

 

(発生が見えないほどの高速魔法――いや、違う。何か別の原理があるはずだ。

フェイトのスピードだって、ある程度は目で追える。全く見えないなんてありえない……!)

 

ガイルの杖が再び振り下ろされる。

次の瞬間、周囲の空間が急激に冷え込み、無形の圧が俺の全身を押し潰すように覆いかかってきた。

 

「ぐっ……!」

 

ディジターを構えても、防ぎきれないほどの衝撃が何度も襲いかかる。

斬撃のような痛みが、腕や肩を浅く切り裂いていく。

 

血が飛び散り、鉄の匂いがより濃く鼻を突いた。

 

(やっぱり見えない……! どこから攻撃が来てるんだ!?)

 

焦りが胸を締め付ける。

目を凝らしても、ただ空間が揺らいでいるだけで、形らしきものは見えない。

 

「何度やっても同じことだ……君では俺に勝てないよ、少年」

 

ガイルの声が淡々と響く。

余裕の笑みを浮かべながらも、瞳の奥には冷たい殺意が潜んでいた。

 

「くそっ……!」

 

俺は歯を食いしばり、再び踏み込む。

だが、そのたびに目に見えない何かに弾かれ、体勢を崩す。

壁や床に叩きつけられる度、鈍い痛みが骨まで響いた。

 

(なんだ……どうして、見えない!?)

 

必死で周囲を探る中――

 

ふと、ありえない感覚が肌を撫でた。

 

(……風?)

 

確かに、頬をかすかに撫でるような涼しい風。

ここは密閉された要塞の地下。

それなのに、まるで草原を駆け抜けるような爽やかな風が、頬を撫でた。

 

(……まさか!?)

 

「ディジター!!」

 

『Ready.』

 

魔力を圧縮した弾を、俺はあえてガイルにではなく、再び足元の床に叩きつけた。

 

ドォン!!

 

爆発音と共に、分厚い土埃が武器庫全体に立ち込める。

視界が一瞬、砂の幕で閉ざされる。

 

「……無駄な足掻きだ」

 

ガイルの声が低く響く。

(予想が正しければ……これで!!)

 

土煙の隙間から、魔力をこめた視界強化で空間を探る。

すると――

 

室内に舞った土煙が一点に巻き上げられていくのが見えた。

 

「……っ!!」

 

(これか!!)

 

今まで俺が弾き飛ばされていた理由。

どうやらガイルは、魔力を風属性に変換して圧縮して攻撃していたようだ。

魔力で練られた風自体は透明で、部屋全体を包み、攻撃の瞬間に集まって刃のように放たれているようだ。

AMFの影響下で、魔法の威力は弱まり感知を難しくし、そして風を部屋全体に拡散させることでこちらからの探知を阻止したまさに不可視の戦法ーー

 

ガイルが杖を振り上げる。

風の刃が、一斉に刃鳴りを響かせて俺に向けてうねり始める。

 

(軌道が分かれば対処ぐらいーーー!)

 

俺は左手のアンブレイカブルを前に突き出した。

そして同時に右手のディジターにも魔力弾が込め始める。

 

「アンブレイカブル、カートリッジロード!」

 

『Unbreakable slash.』

 

ガコン、と甲高い金属音とともにカートリッジが排莢される。

左手に握るアンブレイカブルに魔力が奔流のように流れ込み、その光が青白く脈打つ。

魔力制御を担当していたアインスがいないせいか、抑えきれず暴れる魔力が皮膚を刺すように熱を持つ。それでも俺は腕を引かない。

 

巻き上がった土煙の向こうで、まるで蛇のようにうねる空気の筋。

その中に螺旋状に流れる風の刃の軌跡が、確かに見えた。

 

(見えた……! 風の軌道が!)

 

「切り裂け!!」

 

吠えると同時に、俺はアンブレイカブルから放たれる青白い魔力の刃を風の筋に向けて叩きつけた。

――ギィィンッ!!

 

耳を突き破るような甲高い衝撃音。

透明だった風の刃が、真っ向から俺の魔力の刃とぶつかり合い、空間そのものが軋むように振動する。

 

ガイルの瞳に、初めてわずかな驚きが走った。

 

「な……攻撃を読んだのか……?」

 

「風は見えなくても、舞った土煙が流れを教えてくれる! 軌道さえ読めれば――防げるし、撃ち抜ける!!」

 

俺はすかさずディジターを強く握りなおす。

そこには、先ほどからずっと収束させていた魔力の塊が輝いていた。

 

「これが……俺の、全力!!」

 

ディジターが再びカートリッジを吐き出す。

魔力を装填し、砲身が赤熱するほどの魔力を抱え込む。

足元が砕けるほどの反動を全身で堪え、俺は渾身の砲撃魔法を正面から放った。

 

ドォォォォン!!!

 

紫の閃光が地下室を染め上げ、轟音と爆風があたりを引き裂く。

金属棚が吹き飛び、残骸が凄まじい勢いで宙を舞う。

衝撃波が髪と服を激しく翻し、全身に鉛のような重さがのしかかる。

 

「はぁ……いったろ!」

 

光が散った先、ぼやけた視界の中で、俺は勝利を確信した。

 

だが――

 

 

 

 

 

ひゅう、と細く風の吹く音が耳に忍び込む。

 

「……っ嘘だろ?」

 

「残念ながら、防御が間に合ったようだ。」

 

爆煙が晴れるとそこに立っていたのは、ボロボロになったローブを纏いながらも、確かな闘志を瞳に灯すガイルの姿だった。

その手には、魔力が十分に込められたデバイスがしっかりと握られている。

 

「ここからは、こちらも本気で行かせてもらうぞ、少年!」

 

ガイルが杖を振りかざす。

 

――ズバババッ!!

 

四方八方から、風の刃とともに魔力弾が一斉に襲いかかる。

透明な軌跡が縦横無尽に交差し、武器庫の中に狂ったような風の咆哮が響き渡った。

 

その間を縫うように、鋭い魔力砲撃が次々と放たれる。

蒼白い閃光が視界を焼き、鉄板が溶けるような熱が肌を焦がす。

見えない攻撃の正体を看破されたせいか、その攻撃は先ほどまでの静かな余裕を捨て、より苛烈さを増していく。

 

風と共に蒼白い魔力弾が矢のように連射される。

交差する透明な風を武器庫全体を切り裂くような光が交錯する。

 

「っ……ぐあっ!!」

 

風の刃が肩を抉り、鋭い痛みが走る。

飛び散る血が視界を赤く染め、鉄の匂いが濃く立ち込めた。

 

魔力障壁を必死に展開し、迫る魔力砲を弾く。

だが衝撃が全身を震わせ、内臓が揺さぶられるほどの痛みが腹を突き抜けた。

 

(風の軌道を追おうにも、魔力砲撃への対処に意識を割かれすぎる……!)

 

奥歯を砕きそうなほど噛み締める。

腕が震える。呼吸が荒く、胸が焼けつくようだ。

 

限界は、予想以上にあっさり訪れた。

 

「はぁ……はぁ……くッ!?」

 

ここまでの戦闘と、AMF影響下の魔法使用、そしてカートリッジの多用。

魔力はもう底を突いていた。

障壁は霧のように消え去り、バリアジャケットすら維持できずに砕け散る。

 

全身を焼くような熱が走る中、砲撃が迫るのを感じた瞬間――目を閉じた。

だが、その攻撃はいつまでも来なかった。

 

恐る恐る目を開けると、ガイルが杖を下ろし、ゆっくりとこちらに歩を進めていた。

 

「魔力切れのようだな。どうだ、逃げた人質の居場所を教えれば、お前を見逃してやらんこともないぞ。」

 

「……っ、黙れ……!」

 

必死に絞り出した俺の声は、掠れていた。

すでに体も魔力も限界。

だが、心の奥にあるものだけは、決して消えていなかった。

 

歯を食いしばり、俺は再び前へ飛び出した。

風の刃をアンブレイカブルで叩き落とし、間一髪で魔力砲を横に飛んでかわす。

一歩、また一歩。

地面を蹴り、痛みを無視してガイルとの距離を詰める。

 

「無駄だ……死にたいのか、少年!」

 

怒声とともに、風の刃が再び弧を描いて襲いかかる。

肩を抉り、脇腹を裂く。鋭い痛みが全身を駆け抜けるたび、膝がガクリと折れかける。

 

(倒れたら終わりだ……立て、立て……!)

 

「まだだぁぁッ!!」

 

俺はディジターを渾身の力で振り上げた。

だが、その剣先には、もはや魔力の光はほとんど宿っていない。

 

(今の俺を脅威だと認識させて、“あれ”を狙うためには――!)

 

「ごめん、ディジター!!」

 

「なッ……この期に及んで武器を捨てた、だと!?」

 

ディジターをガイルの顔目がけて全力で投げつけた。

ガイルは余裕を持って頭を避ける。

だが、ガイルの意識が一瞬止まった、その一瞬――

 

俺は左手のアンブレイカブルを握りしめ、ガイルへ肉薄する。

 

ここに、最後の切り札を賭ける。

 

「御神流歩法……神速!!」

 

闇の書事件の直前に、恭哉師匠から伝授された御神流武術、実力不足でいまだ師匠に及ばないどころか、魔法戦の高速戦闘にすらスピードで劣る付け焼き刃だが、油断している相手に隙をつくぐらいなら…!

 

「…確かに素早いが、そこまでだ。」

 

「……ッ!」

 

ほぼ密着した瞬間、ガイルの杖が目の前に突き立てられる。

とっさに宙返りでかわすが――

 

「飛べない状況で空に逃げるのは、的になるだけだぞ!」

 

蒼白い砲撃が、空中で身動きの取れない俺に向かって放たれたーー

 

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