○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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崩落の中で

激しい衝突音のあと、まるで嘘のように、周囲を吹き荒れていた風がピタリと止んだ。

ガイルの身体がふらりと揺れて、その場に膝をつく。

 

「……まいったな。若いくせに……いい拳を持ってやがる。」

 

目元を拭うように、血をぬぐいながら、小さく笑みを浮かべた。

 

「なぁ、少年……今、いくつになる?」

 

「今年で、13です。」

 

「そうか……あの子が生きていたら……ちょうど同い年だった。君にトドメを刺せなかったのは……たぶん、君と息子を……重ねていたからなのかもしれないな。」

 

「ガイル……。」

 

俺は膝をついたまま、全身の力が抜けていくのを感じていた。ただ、その言葉を真っ直ぐ受け止めることしかできなかった。

 

だが、その刹那――

 

ドォンッ!!

 

鈍い地響きが武器庫全体を揺らした。粉塵が天井から降り注ぎ、金属片がカラカラと床を転がる。

 

「な、なんだ……!?」

 

『ユウト、要塞内部から急激な魔力暴走反応が…!?』

 

アインスの声が鋭く響く。

 

「少年……ここから早く逃げろ。」

 

ガイルが低く告げた。

 

「ガイル……何か知ってるのか!?」

 

「今ごろ、外の兵器が止まったことで、武装隊の連中が一斉に要塞内部に突入し始めている頃合いだろう……。」

 

「それが、なんだよ……!?」

 

「この要塞は、元々私と人質、それに数人しか常駐していなかった。外見だけは立派だが、中身は空っぽの見掛け倒しだ。だがな……」

 

ガイルは血の滲む唇をかすかに歪めた。

 

「この要塞は罠なんだ。一定以上の人数が内部に入ると同時に、要塞全体を自爆させる仕組みになってる。」

 

「……なんだと!?」

 

「この要塞は、元より管理局の戦力を削ぐためだけの捨て駒……。他の地域にある拠点にも、すべて同じ罠が仕掛けられている。」

 

「俺たちの作戦がばれてたのか…?おや、そんなことより……急いで脱出しないと……!」

 

粉塵の奥で、再び大きな揺れが走る。金属が軋む音が響き、武器庫の壁にひびが入っていく。崩壊していく要塞の中。壁が崩れ、むき出しの電線からは火花が弾け、瓦礫が落ちるたび、轟音が響き渡る。

 

「……アインス! シグナム達に通信繋げるか!?」

 

『AMFもジャミングもすでに停止している。可能だ!』

 

「なら――突入してる全員に避難指示を出してくれ他の拠点にもな! それから……たぶんさっき、拠点から幹部クラスが脱出したはずだ! そいつらの拘束も頼んでくれ!!」

 

『了解! すぐに送る!』

 

俺は倒れ込んだガイルの腕を掴み、肩に担ぎ上げるようにして立ち上がった。

 

「……少年、このままじゃ爆発までに外へは出られん。俺を置いていけ。」

 

ガイルが低く言う。その声には諦めの色が滲んでいた。

 

「そんなこと……できるわけないだろ!!」

 

崩れ落ちた床板を飛び越えながら、俺は叫ぶ。

 

「いいから足を動かせ!! 俺は――誰も見捨てない!」

 

要塞全体が軋み、鉄骨が悲鳴を上げる。ガイルの表情には苦痛と、わずかな感情の揺らぎが浮かんでいた。

 

ガイルを肩に支えながら、俺はなんとか地下の出口までたどり着いた。

 

だが――

 

「……っ!」

 

目の前に立ちはだかったのは、完全に崩落した通路。分厚い瓦礫が道を塞ぎ、冷たい砂塵が立ち上っていた。

 

「……ディジター! 他に脱出経路はないのか!?」

 

『……ルートを検索中……』

 

頼みの綱であるデバイスの声が、いつになく重く響く。

 

その横で、ガイルがかすかに笑った。

 

「無駄だ……地下へ通じる出口は、ここ一つしかないんだ。」

 

「――だったら、無理やりをこじ開ける!!」

 

俺は血のにじむ拳を握りしめ、ディジターを構える。

残った力を絞り出し、魔力を注ぎ込んだ。

 

だが――

 

「……っ、魔力切れ……!?」

 

全身を駆け抜けたのは、鋭い痛みと同時に、力が急速に引いていく感覚だった。

リヒトフォームの光が消え去り、バリアジャケットが砕け散るように剥がれ落ちる。

俺はその場に膝をつき、荒い息を吐いた。それと同時に視界は赤く染まり、眩暈に襲われた。

 

「くそっ……! 血流しすぎたか……!」

 

「大丈夫か、少年!!」

 

「俺は平気です……! それよりなんとかして、ここを出ないと………!」

 

必死に足元の瓦礫を掻き分けながら、俺は声を荒げる。

 

焦る俺とは対照的にその隣で、ガイルはゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。

 

「……ふぅ……」

 

「ガイル……?」

 

その顔は…まるで死に場所を決めた男の顔をしていた。

 

「少年、君は……こんなところで死なないさ。」

 

「ガイル、何を……」

 

ガイルが、寂しげな微笑を浮かべたその瞬間。

彼がゆっくりと手を伸ばし、俺の額へと触れる。

 

瞬間、世界が真っ白に弾けた。

俺の意識は、温かな魔力の奔流に飲み込まれるようにして、暗転していった――。

 

 

 

 

 

 

 

微睡む意識の中で、ゆっくりと目を開く。

周囲の音や光が、じわじわと鮮明になっていく。

 

 

 

 

そして――直前の記憶が、鋭い痛みと共に蘇る。

 

「……ッ、ガイル!?」

 

咄嗟に体を起こそうとしたが、激痛が走り、息が詰まる。

全身が鉛のように重く、うまく起き上がれない。

 

「ここは……」

 

苦しげに息を吐いた俺の耳に、穏やかな声が届いた。

 

「お、目が覚めたかい……ユウト。」

 

声のする方を振り向くと、そこには――包帯でぐるぐる巻きにされた、まるでミイラのような男がいた。

 

「……新手の化け物ですか、ティーダさん。」

 

俺の言葉に、ティーダさんは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「ははは……この姿を見て言ってるなら、自分も鏡を見た方がいいよ。ほら。」

 

差し出された手鏡を、恐る恐る覗き込む。

 

そこには――同じく包帯だらけで全身にチューブのつながれた自分の姿が映っていた。

 

「……俺の方が、化け物みたいですね。」

 

「あはは、僕もユウトも……あの人に、こっぴどくやられたね。」

 

ティーダさんが、どこか遠い目をする。

 

「……作戦は、どうなりましたか。」

 

震える声で問いかける俺に、ティーダさんはゆっくりと頷いた。

 

「作戦は無事に終了したそうだよ。ユウトが伝えてくれた情報通りに武装隊員たちは、全員無事脱出。逃げようとした敵の幹部たちも、ヴァイスが狙撃して乗り物を落として捕獲したってさ。」

 

安堵と共に、胸の奥にまだ重く沈むものが残る。

 

「……俺は、なんで助かったんですか。」

 

その問いに、ティーダさんは一瞬眉をひそめ、そして小さく笑った。

 

「なんでって……ユウトが自力で、要塞の外まで脱出したんじゃないのかい? 話では、撤退直前の隊員たちが、要塞の出口付近で倒れてたユウトを保護したって聞いたけど。」

 

ティーダさんは、怪訝そうに首をかしげる。

 

だが――俺の胸の奥には、まだはっきりと残っていた。

あの時、ガイルが差し伸べた手の温もりが。

 

(……あのあと、どうなって……)

 

俺は視線を伏せたまま、心の中で悩み続けていた俺だったが――。

突然、病室の扉を叩く音が響き、思考が強制的に現実へと引き戻される。

 

「入るぞ。」

 

「……あ、どうぞ!」

 

ドアが開くと同時に、外の光が差し込み、そこからシグナムとゲンヤさんが入ってきた。

 

「お、シグナム隊長に、ゲンヤ指揮官! お疲れ様です……もう現場の後処理は終わりましたか?」

 

ティーダさんが慌てたように姿勢を正す。

 

「ああ……と言いたいところだがな。色々と問題があってな、まだ終わってない。」

 

低く答えながら、シグナムは俺の方へ視線を向ける。

 

「また書類を溜めるのだけは勘弁してくれよ。」

(なんでこっち見るんだ……?)

 

「…もうそんなヘマはしないさ。」

 

そういいながらもシグナムはこちらから目線を外さない。

 

(俺、なんかやらかしたか…?)

 

見かねたゲンヤさんが、腕を組んだまま声を低くした。

どうやら真剣な話のようだ…

 

「さてと、そろそろ本題に入ろうか、隊長。」

 

「そうですね……」

 

シグナムは一歩前に出て、真剣な表情で俺たちを見る。

 

「まずはティーダ、ユウト。二人とも……今回の任務では、本当にすまなかった。」

 

そう言うと、シグナムは深く頭を下げた。

 

「ちょ、ちょっと隊長……! 顔を上げてください!!」

 

「そうだぞ、シグナム……謝られるようなことなんて、何も……」

 

ティーダさんも慌てて手を振るが、シグナムはそれを制するように首を振る。

 

「今回の作戦、予想外の敵の対処に戦力を割かれた結果……お前たちだけに要塞潜入という大きな負担をかけることになった。そして、それがこの怪我に繋がった。ひとえに、私のミスだ。」

 

「いや……シグナムは別部隊の救援に動き回ってただけだろ? 怪我したのは単に俺たちの実力不足…それをお前の責任だなんて……」

 

「……これを見てくれ。」

 

シグナムが差し出したのは、赤い文字で「機密」と書かれた封筒だった。

俺は戸惑いながらも、それを受け取り、中の書類を取り出す。

 

「これは……今回の作戦内容と……上級左官の名簿……?」

 

「その名簿に載っている者たちは……先程、秘密裏に拘束された。罪状は……内通罪といったところか。」

 

「それって……」

 

「――ああ。今回の作戦は、その左官たちが犯罪組織と手を組み、仕掛けた大規模な妨害工作だった。犯行の動機はすべて判明してはいないが……我々、特務行動隊の失脚を狙ったものだと言われている。」

 

「どういうことだよ……なんで新設部隊の俺たちなんかが……」

 

言葉を詰まらせる俺に、シグナムは苦しげに瞳を伏せる。

 

「裏切りを働いた左官たちの一部は、反ベルカ……つまり、ミッドチルダ式第一主義者たちだった。カートリッジを使い、近代ベルカ式を広めようとする我々特務隊の存在が、目障りだったんだろう……。」

 

「……じゃあ、残りの左官たちは……?」

 

言葉を途切れさせた俺を見つめ、シグナムは一瞬、深く目を閉じた。

 

「……残りは、過去の闇の書事件…アダムの時の事件で部下、もしくは親族を失った者たち。つまり、私たち守護騎士への復讐が動機……だろうな。」

 

ティーダさんが、小さく息を呑んだ。

 

「……。」

 

「この任務は……最初から最後まで、私たちを陥れるための罠だった。それに、お前たちまで巻き込んでしまったこと……深く謝罪させてくれ。」

 

もう一度、シグナムは頭を深く下げた。

 

その姿を前に、俺は拳をぎゅっと握り締めたまま、何も言えずにいた

 

「僕は……気にしてません。だから、頭を上げてください、隊長。」

 

「ティーダ……しかし……」

 

「なら、俺は貸し一つってことでいいぜ? 今度なんかあったら頼らせてもらうから。決定な」

 

俺がニッと笑って腕を組むと、シグナムは一瞬きょとんと目を瞬かせた。

 

「……え?」

 

その隣でティーダさんが慌てて俺の耳元に顔を寄せてくる。

 

「ちょ、ちょっとユウト……! 今そういうこと言うタイミングじゃ……!」

 

「いーや、ティーダさん!」

 

俺は顔を真剣にし、声をひそめながらも断言する。

 

「シグナムは頑固なんで、『謝らなくていい』って言っても絶対に聞かないんですよ。こうやって“貸し”ってことにしといた方が話が早く済むんです……!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

ティーダさんが困惑顔でシグナムを交互に見やる。

 

「付き合いだけで言ったら、俺の方が長いんで間違いないです。あいつ、頭頑固なんで。」

 

「実の隊長に向けて言うセリフじゃないけど……」

 

ティーダさんが呆れ顔でため息をつきつつも、シグナムの方を見ると、彼女は小さく肩を震わせていた。

 

「……小声とはいえ、聞こえてるぞ。まあ…確かに、少しは自覚はしている。」

 

少し苦笑を浮かべるシグナムの声に、場の空気がわずかに和らいだ。

一旦は、重い空気も晴れただろうか。

話がそれている今のうちに話題を変える。

 

「それで……ゲンヤさんの方は、何か御用でしたか?」

 

ゲンヤは「ああ」と軽く鼻を鳴らしてから、少し照れくさそうに頭をかいた。

 

「…しんみりした空気になってて、すっかり忘れてたわ。ほら……お前さんらが助けた女の子から手紙、預かっててな」

 

「……ああ、あの子から……無事で良かったです。」

 

そっと渡された封筒を受け取り、中を覗く。

そこには子供らしい丸い文字で書かれた感謝の言葉がびっしりと並んでいた。

伝えたいことが多すぎるのか、文章はあちこち飛びながらも、一生懸命な気持ちが真っすぐに伝わってくる。

 

口元が、自然と緩む。

 

……っていうか、なんで最後に電話番号書いてんだろ。

 

(…でも、あの子といえば親が……)

ふと俺の頭に、あのときのガイルの話がよみがえる。

 

「あの、ゲンヤさん……あの子のご両親のこと、なんですけど……」

 

「ああ……そういや、父親のほうは逮捕されたらしいな」

 

「えっ、逮捕……ですか?」

 

ゲンヤは腕を組みながら、どこか遠い目をした。

 

「過去の交通事故の件で自首したそうだ。理由は……まあ、分からないけどな?」

 

そう言いながら、ゲンヤは片目をつむってウインクを飛ばしてきた。

 

「ゲンヤさん……いい歳した男がやることじゃないですよ……」

 

「はははっ! 言うじゃないか、ガキンチョが……!」

 

ゲンヤは豪快に笑いながら、肩をバシバシ叩く。

 

「ッ……あの……マジで痛いっ!?」

 

「ゲンヤさん! ユウト、大怪我してるんで手加減を!?」

 

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