シグナムとゲンヤさんが病室を後にし、扉が静かに閉まると、再び部屋の空気は静寂に包まれた。
俺は視線を伏せたまま、精神リンクを通してアインスに話しかけた。
【なぁ……ガイルのことなんだが……】
『ああ……お前が気絶したあとのことを知りたいんだろう。』
アインスの声は、柔らかく、そして諭すように話し始めた。
『ガイルは、お前を気絶させたあと、制御室を破壊した時に空いた穴から、お前を地下から脱出させた。』
【……なら、ガイルは生きてるのか?】
少しだけ、希望を込めて問う。
だが、アインスの返答は、無情だった。
『……いや。彼の魔力も、限界に達していた。お前を外に出すのが精一杯だったんだろう。その後は……要塞の崩落と共に……』
【……ッそんな……。】
胸の奥が、軋む音がした気がした。
包帯に巻かれた拳を、思わず強く握ろうとする。だが、声を掛けられてそれも途中で止めた。
「にしてもさ、ユウト。よくあの人に勝てたよな。」
ティーダさんが、まだ少し痛みを堪えるように笑いながら言う。
「ティーダさんが制御室の場所を教えてくれなかったら、負けてましたよ。ティーダさんのおかげです。」
素直にそう言うと、ティーダさんは苦笑して首を振った。
「いやいや……僕なんて瞬殺だったよ…。ヴァイスに担がれて外に運び出された時なんか、人質の子にまで心配されてたくらいでさ……恥ずかしかったよ、ほんと。」
「そういえば……あの時、意識あったんですね。おかげでサーチャーが途切れてなかったんで助かったんですけど。」
俺が思い出したように言うと、ティーダさんは「あはは」と乾いた笑いをこぼす。
「意識あったっていうか……無理やり起こされてた感じかな。ヴァイスの肩の上でずっと揺れてたから、傷が痛くって痛くって。」
「それで人質の子に心配されるって……」
俺が笑いを堪えながら言うと、ティーダさんは肩をすくめる。
ティーダさんと話していると、病室のドアがノックされた。
「入っていいか?」
すぐに返事をすると、扉の向こうからシャマルとヴィータが顔を覗かせた。
「はーい、検診ついでにユウトくんの荷物持ってきましたよー!」
「おーすっ、ユウト……随分長く眠ってたな?」
「ヴィータにシャマル……おはよう。俺ってどのくらい寝てたんだ?」
首を傾げて聞くと、隣のベッドのティーダさんが肩をすくめる。
「あー、僕は三日くらい寝てたらしいから……大体ユウトは一週間ってとこかな。」
「え……もうそんなに経ってるんですか……」
驚きに目を見張る俺に、ヴィータがジト目でこちらを見つめる。
「お前は無茶しすぎなんだよ……それに……ん、ちょっと耳貸せ。」
「なんだよ、ヴィータ……?」
言われるがまま顔を寄せると、ヴィータが小声で話しかけてきた。
「お前……さんざん使うなって言われてたリヒト、使っただろ……」
「な、なんでそれを……」
俺が思わず顔を引くと、ヴィータが溜息をつく。
「この部隊の設立理由はカートリッジの実戦評価だぞ……デバイスの戦闘記録提出義務があるんだよ。あたしの方からディジターの戦闘ログは多少誤魔化しといたけどさ……」
「マジか……助かった……」
額に冷や汗をかきながら俺が呟くと、ヴィータは指先で俺の額をピンとはじく。
「今回の事件で夜天の書絡みが結構闇深いってことは分かったろ? アインスの存在なんて他所にバレたら、また面倒事になるからな……ちゃんと注意しとけよ……?」
「……うん。」
小さく返事をするしかなかった。
ヴィータはふっと表情を緩めると、俺の頭をぽん、と軽く叩いた。
「分かりゃいいんだよ。」
「そうだ、二人のデバイス、データ取りついでにアリシアちゃんが修理しておきましたから……はい、どうぞ!」
そう言うと、シャマルは待機状態のデバイスを手に持ち、笑顔で差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
「サンキュー、シャマル」
ティーダさんのデバイスは何事もなくスムーズに手渡されたが……シャマルは俺の前に立つと、なぜか少し苦笑いを浮かべながら、腕輪状態のディジターを差し出した。
「……なんだよ?」
「あの……ユウト君、いろいろ頑張ってくださいね……」
「ああ…あれか。まぁ……いつか刺されないように気をつけろよ。」
「ヴィータまで……いや、ほんとに何? 怖いんだけど。」
恐る恐るシャマルからディジターを受け取り、腕にはめる。
そして恐る恐るディジターを起動し、データを確認した瞬間――
【未読メッセージ: 1403件】
「うおっ……」
思わず頭がクラクラする。
一週間でこの量……どんな大事件が起きたのかとすら思う。
「なぁ、ヴィータ……もしかして俺のこの状況って、なのは達には連絡済みか……?」
「いや、なのは達には伝えると大騒ぎになるってアリシアが止めたんだよ。だからお前が入院してることはまだ知られてない。……でもな、その分、連絡が来なくて心配したメッセージが山ほど溜まったんだが。」
「……言い訳すれば、なんとかなると思う……?」
「まぁ、とにかく頑張れよ。あたしたちは仕事に戻るから、ゆっくり怪我を治しとけ。」
「あ、ああ……またな、ヴィータたち。」
するとシャマルが再びこちらに向き直り、にっこりと微笑んだ。
「あ、そうだ!全身に切り傷のような跡が多くて、今は包帯でぐるぐる巻きになってますけど、見た目よりは回復してるみたいなので。意外とすぐに退院できると思いますよ〜。お大事に〜!」
その明るい声に、なんだか少しホッとする。
「うん、ありがとうな、シャマル。」
シャマルは手を振りながら、ヴィータと一緒に病室を出て行った。
俺はベッドの上で深く息を吐く。
あの激闘と、ガイルとの最後を思い返しながら――。
(早く元気にならなきゃな……もっと強くならないと。)
ディジターの画面には、まだ“未読メッセージ: 1411件”の数字が輝いている。
それを見て、思わず頭を抱えそうになった。
「とりあえず一旦放置して寝よう…。」
ディジターが突然、ブルッと振動した。
またメッセージが届いたらしい。
恐る恐る画面を見ると、そこには短い一言が表示されていた。
【ゆ る さ な い】
「……!?」
ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
慌てて周りを見渡す俺を、不審そうにティーダさんが覗き込む。
「……どうしたんだ、ユウト?」
「いや……監視カメラとかないかなって……」
「……ほんとに何があったんだい?」
「いや……なんでもありません。」
必死に平静を装いながら、俺はディジターをそっと画面ごと伏せた。
それから3日後――。
俺とティーダさんは、そろって退院することになった。
というか、ティーダさんは俺が目を覚ました翌日にはほぼ完治していたらしいが、リハビリも兼ねて俺の世話を焼いてくれていた。
ちなみに、未だになのは達から送られてきた大量のメッセージには、なんて返事をすればいいのか分からず放置している。
メッセージの数は二千を超えたあたりで、もう数えるのを諦めた。
部隊に戻ると同時に、俺たちを待っていたのは――大量の書類と、基礎訓練だった。
基礎訓練は「リハビリ」と言う名目だったが、明らかに普段よりも何倍もハードな内容で。
ザフィーラやヴィータなりに、これからの俺たちを心配してのことなんだろうけど……病み上がりには、ちょっと優しくない。
そして書類の方はというと……休んでいた分の定期レポートに、長期入院のための事故報告書、さらにこの前の作戦の詳細報告書作成――とにかく、容赦ない量の書類が山積みで待っていた。
(はぁ……これじゃ、シグナムを笑えないな。報告書は流石にアリシア達に手伝ってもらうわけにもいかないし……)
「はぁ……入院中に書類やらせてくれても良かったんじゃないか?」
「お前、自分がどんだけ大怪我したか分かってないだろ……。包帯巻く前のお前、多分なのはとかが見たらショック死するレベルでボロボロだったんだぞ……」
呆れたように肩肘をつきながら、ジト目でこちらを見つめてくるヴィータ。
「でも、目が覚めたときシャマルが、見た目より治り早いって言ってたじゃん……」
「お前の傷の治りが普通の人より早いんだとよ。なんか心当たりあるか?」
「心当たりか……うーん、ないけど……」
そういえば、プレシア事件のとき、フェイトとなのはがジュエルシード使って俺の体を治してくれた後から、やたら身長が伸びた気がする。
もしかして、ジュエルシードの願いで健康体になる効果、いまも続いてるのか……?
「ま、とにかく考えるより手を動かせよ。そろそろ次の任務が来る時期だ。 さっさと終わらせねえと、また書かなきゃいけない報告書が増えるぞ?」
「はぁ……書類とメールがどんどん増えてく……」
「お前……まだメール返してないのかよ。」
「なんて返事すればいいか考えてる間に、どんどん次のメールが来るんだよな……。最近はほとんど、なのは達の行動日記みたいになってるけど。」
「まあ、向こうは平和な証拠じゃないか。ありがたく読んどけよー。」
「ありがたいけど…返信できない罪悪感がすごいんだよ……ここまできたら、あとで一気に謝るしかない気がするけど。」
ヴィータが、ふっと鼻で笑いながら背もたれに寄りかかる。
「ったく……お前みたいダメ男が、戦場じゃ無茶苦茶やってんだから、世の中分かんねえよな。」
「俺だって、メールくらいはちゃんと返したいんだけどさぁ……」
「はいはい。泣き言はいいからさっさと書類書け」
俺は深くため息をつきながら、山積みの書類をにらみつけた。
「了解…。」
それから1週間後
ついに二度目となるの任務が始まった
ちなみに届いたメールの内訳は
はやて:168件(1時間に1件ペース)
なのは:336件(1時間に2件ペース)
フェイト:1008件(10分に1件ペース)
でした。
ちなみに次の任務は短く終わります