○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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初めての休暇 ーその2-

ヴァイスの背中が見えなくなってから、俺は小さく息をついた。

 

「……はぁ。久しぶりの、まとまった休みか」

 

気が抜けたというか、妙に体の力が抜けていくのを感じた。

 

三日分の荷物を抱えてロビーまで降りてきた俺は、誰もいないソファに腰を下ろす。壁際の蛍光灯が白く光っていて、外はもう完全に休暇日和だってのに、ここだけは静まり返っていた。

 

「ヴァイス、まだかな……」

 

俺がそうぼやいていた、まさにその時。

 

「ユウトくん?」

 

――ピン、とした声と共に、エレベーターの扉が開いた。現れたのは、見覚えのある金髪と白衣。

 

「シャマルさん…?」

 

「ふふ、やっぱり。ここで何してるのかしら?」

 

彼女は柔らかな笑みを浮かべながら、俺の方へと歩いてきた。

 

「えっと……ヴァイスと待ち合わせで。出発前に、ちょっと休憩してたんです」

 

「あら、ヴァイスくんと一緒ってことは……もしかして、今回は地球には帰らないの?」

 

「……う」

 

なんとなく、胸がチクリと痛んだ。言葉に詰まっていると――

 

「へぇ〜、そりゃまた随分と都合のいい話だな?」

 

腕を組んで、俺をじろりと見下ろしてきたのはヴィータだった。いつの間にか、隣に立ってる。

 

「…ヴィータさん」

 

「なのは達に会いに行かなくていいのかよ。お前、そういう約束してたろ」

 

「いや、それは……」

 

「まあ、お前が休暇中なにしようと自由だけどさぁ。」

 

そう言ったヴィータだったけど、その表情には――どこか呆れの奥に、叱咤の感情が見えた。

 

「でもさ、ユウト。お前さ、フェイトにはなんて言ってたっけ?」

 

「……(ギクッ)」

 

「地球には定期的に帰るって、言ってなかったか?」

 

「う……」

 

ヤバい。完全に図星だ。

 

「別に、休暇をどう使おうがあたしらは何も言わねーけど。でもさ、お前……一回でも帰ったか?“定期的に”って言葉、聞こえてなかったか?」

 

「……それは……」

 

「まさか一度も帰っていないとはな……任務が忙しかったとはいえ、少しは時間もあったはずだろう」

 

低く、しかし確かな重みを持った声がロビーに響いた。

 

――シグナム。

 

振り返るまでもなく、その凛とした声だけで分かる。

 

「……いや、その……行こうとは、思ってたんですけど」

 

俺の声は、妙に情けない響きを帯びていた。言い訳だって、自分でもわかってる。

 

「ふーん……」

 

ヴィータが腕を組み直し、露骨にため息をつく。

 

「まあ、そんな調子じゃ、あいつらに愛想つかされてもしらないからな。ていうか、メールも返してないんだろ?」

 

「あー……」

 

うっ、と俺は思わず頭をかきむしる。

 

はやてに怒られるって想像しただけで、胃がキュッとする。あいつ、怒るときの笑顔が逆に怖いんだよなぁ……。

 

「……ヴィータ。あのさ、今回だけは……“任務が入ってた”ってことに、できないかな?」

 

「は?」

 

ヴィータが怪訝な顔をして、眉をひそめた。

 

「いや、だから……その、はやてたちには、そう伝えてくれると助かるっていうか……」

 

「……おい、あたしにウソつけって言ってんのか?」

 

「……ごめん! でも、今回は本当に遊びとかじゃなくて、ちょっと事情があって……!」

 

必死に言葉を重ねる俺に、ヴィータはジト目を向けたまま、しばらく沈黙。やがて、呆れたようにふぅっと息をついて、片手をひらりと上げた。

 

「……しょうがねぇな。考えておいてやるよ」

 

「ホント!? ありがとう!」

 

「考えるだけだからな! 期待すんなよ!」

 

「あっ、はい……」

 

返す言葉もなく、俺は深々と頭を下げた。

 

それ以上何も言わず、守護騎士たちは静かにロビーを後にしていった。

 

その背中を見送りながら、俺はソファに背中を預けて、もう一度、小さくため息をつく。

 

「……地球、離れてもう3、4か月か……」

 

ポツリと呟いたその声が、ロビーに虚しく響いた。

 

「新部隊でバタバタしてたとはいえ…休暇中は師匠と訓練したり、入院してたり…気づけば、あいつらに全然顔見せてなかったな。そりゃ、怒られるよな……」

 

天井を見上げる。無機質な蛍光灯の光が、どこか冷たく感じる。

 

ソファの背に深く体を沈めると、胸の奥にわだかまる何かが疼いた。

 

――後ろめたさか。それとも、寂しさか。

 

自分でもよくわからないまま、俺はただ静かに、うなだれていた。

 

「おーい、ユーウト!!」

 

その声はロビーの外から、勢いよく飛び込んできた。

 

「……ああ、おかえり、ヴァイス」

 

俺はソファから立ち上がり、荷物を引き寄せながら彼に手を振った。

 

「こっちは準備OKだよ……ふぅ」

 

「なんで荷物用意するだけでそんな疲れてんだよ?」

 

ヴァイスが呆れ顔で俺を見た。

 

「い、いや、色々あってね……うん、ほんとに色々」

 

「ほーん……?」

 

ジト目で見てくるヴァイスに、目を逸らしてごまかす。

 

――そりゃまあ、守護騎士たちに軽く問い詰められたとか、

そういうのを全部説明できるわけもなく。

 

「ま、いっか!」

 

あっさり手のひらを返したように笑って、ヴァイスは自分のバイクの後部をぽんぽんと叩いた。

 

「ほら、乗れよ。置いてくぞー?」

 

「言われなくても。こっちだって、早く風に当たりたい気分なんだよ」

 

そう言って、俺は荷物をくくりつけ、シートにまたがった。

 

エンジンが唸りを上げ、旅の始まりを告げるように風が巻き上がる。

 

――少しだけ、心のもやもやも吹き飛ばしてくれたらいいんだけどな。

 

 

 

 

ヴァイスのバイクに揺られること約2時間。

ひとまず目的地のティーダさんの家近くに到着して、お土産を探しに商店街へと足を向ける。

 

「どうだった、オレのバイクは……!」

 

駐車場にバイクを停めると、ヴァイスが自信満々に振り返ってきた。

 

「うん、風が気持ちよかったよ。久しぶりに開放感ある乗り物に乗ったって感じ。……俺もちょっと欲しくなってきたかも」

 

「だよな!? わかるぅ〜!! やっぱ男はバイクよ、バイク!!」

 

「まあ、買ってもたぶん乗る機会ないかも…」

 

「ゆ、夢がない返しすんなよ…!」

 

そんな軽口を交わしながら、商店街に入ってすぐ――

 

「……あれ? 君たち、こんなところで何やってるんだい?」

 

背後から聞こえた穏やかな声。振り返ると、そこにはティーダさんが立っていた。

片手にはたくさんの買い物袋。もう一方の手では、小柄な少女の手をしっかりと引いている。

 

「ティーダさん!」

 

「ユウトにヴァイス。まさか本当に来てくれるとは……」

ティーダさんは笑いながら頷いたあと、隣の女の子に目を向ける。

 

「ティア、紹介するね。こっちがユウトくんとヴァイスくん。泊まりに来てくれるって話しただろ?」

 

「……こんにちは。長旅おつかれさまです」

 

そう言ってティアナちゃんはきちんと頭を下げる。年の割に、いやに落ち着いてる。

「おぉ……可愛いうえに礼儀正しい……!」

 

「ヴァイス、なんかきもいぞ」

 

「いや、うちの妹との差がすごいなあって驚いただけな!?」

 

「……ヴァイスからさっき遊びに来るってメールはもらってたけどさ。まさか今日のうちだとは……せめてもうちょっと前に連絡くれてもよかったんだけどな?」

 

「……あ」

 

あっさり図星を突かれ、俺は思わず肩をすくめた。

 

「ご、ごめんなさい……!完全に押しかけみたいになっちゃって……!」

 

「いや、いいんだけどね。歓迎はするよ、もちろん。ただ――」

 

その横で、ティアナちゃんがじとーっとした目で俺たちを見上げてきた。

 

「……うち、宿屋じゃないんですけど?」

 

「うちのお姫様がご機嫌斜めでね…」

 

「うっ……」

 

その一言が地味に刺さる。

しっかり者の妹、やっぱり想像以上だった。

 

「でも、わざわざ手伝いに来てくれたってのはありがたいよ」

 

ティーダさんが笑いながらフォローしてくれる。

 

「今、ちょうどティアと買い出しに出てたところでね。今日は隊服とか洗濯物も溜まってるし、キッチンも戦場みたいになる予定だったから、正直助かるよ」

 

「……じゃあ、泊めてもらえるってことでいいんですかね?」

 

「お兄ちゃんの迷惑かけないでくださいね…とくにそっちの人」

 

「お、俺!?…承知しました!」

 

「ぷっ…ティアナちゃんヴァイスにちょっとあたり強くないか?」

 

俺は思わず吹き出した。ティアナちゃん、見た目は小柄なのに言動がしっかりしてて、なんというか……すでにヴァイスより頼れそうだ。

 

「これからよろしくな、ティアナちゃん」

 

「……はい。邪魔だけはしないでくださいね」

 

「ごめんやっぱり辛辣じゃない!?」

 前言撤回、ヴァイスだけじゃなく俺にもあたり強かった。

 

「はあ…せっかくお兄ちゃんと家族水入らずで会えると思ったのに…(ボソッ)」

 

「あはは……とりあえず荷物重いし、うちに案内するよ!」

 

 

俺たちはうなずき、ティアナの視線をちょっぴり気にしながらティーダさんたちのあとに続いた。

 

「こっちです」

 

ティアナちゃんに案内され、俺とヴァイスはティーダさんの家に通された。

 

靴を脱いで玄関を抜けると、木目調の床とほんのりと香る柔軟剤の匂いが迎えてくれる。内装はシンプルで温かく、どこか実家のような安心感を感じた。

部屋数も多いし…八神家と同じくらいか?

 

「おお、広いなぁ……いや普通に広すぎないか!?」

 

「2人暮らしにしては広いし、それでいて整ってるよね、ティーダさんってやっぱ几帳面……」

 

「はい、こちらがあなた達の部屋です」

 

「お、おう」

 

「ありがとね…ティアナちゃん」

 

通された部屋はきれいに布団が二組敷いてあって、すでに荷物を置けるスペースも確保されていた。……多分これ、ティアナちゃんが準備してくれたんだろうな。

民宿に泊まりに来た感じがする。

 

「すごいな……全部準備してくれてたのか?」

 

「当然です。ちなみにお二人にはお兄ちゃんのお手伝いで来たからには、この一週間家事も完璧にこなしてもらいますから。甘えないでくださいね」

 

ピシィッと指を立てて、ティアナちゃんが堂々と宣言する。

――7歳とは思えない迫力だ。

 

「え……ちょっと待って、俺らって遊びに来た友人兼お手伝いじゃなかった?」

 

「ゲストではありません。“労働力”です」

 

「ぐっ……!」

 

ヴァイス、撃沈。

 

「はい、それではルール説明に入ります」

 

 「る、ルール?」

ティアナはスケッチブックを取り出し、なんと手書きでまとめられた“お手伝いルール表”を開いた。

 

「朝食前にゴミ出し、洗濯物の仕分け。朝食後は食器洗い。お昼はお兄ちゃんが作ってくれるので、食材の買い出し班に回ってください。」

 

「いや、あの、はい……?」

 

「昼食後は全体の大掃除を頼みましょうか。夕方には掃除機をかけて、床の雑巾がけ。夜は食器洗いと、翌日の買い物リストの作成です。トイレやお風呂掃除は担当で日替わり制、サボりは許可しません。以上です」

 

「…………はぇー……」

 

ヴァイスが遠い目をして壁を見つめている。

俺も正直、どこかの訓練資料かと思った。ていうか、うちの部隊より管理されてるかもしれない。

 

部屋の入口でその様子を見ていたティーダさんが、ふっと笑った。

 

「……あはは、ティアの方が段取りたてるの得意だからね。普段からあまり無茶言わない程度に任せてるんだ」

 

「ほら、お兄ちゃんも肯定してくれてるんですから、しっかり働いてください。お兄ちゃんのお手伝いに来たんですもんね?」

 

そう言いながら、ティアナが「じゃ、休むのは各自の自由時間で」とか言って部屋を出ていった。

軽快な足取りなのに、なんか軍の指揮官みたいな威圧感あったな……

 

「……おい、ユウト」

 

「ん?」

 

「俺たち、ちょっとした手伝いと遊びの誘いに来たんだよな……?」

 

「うん……はずだったんだけどね……。まあ、内容自体は軽い家事ていどだし…。」

 

二人して布団にへたり込む。

 

――こうして俺たちの、労働が始まった。

 

 




年齢かくと
ヴァイス15歳
ユウト13歳
ティーダ20歳
ティアナ7歳です
ちなみになのはが11歳の設定。
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