○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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免許……というか交通ライセンスの件、先日視聴したドラマCD「ミッドチルダの夜空の下で」においてエリオが13~4歳にしてキャロと二人乗りでバイク運転してたのでユウト君も免許もってってOKになった。


初めての休暇 ーその3-

「ヴァイスさん、そこ、まだ汚れてます」

 

無慈悲なひと言が飛ぶ。

 

「……は、はいぃぃ……」

 

返事をしながら、ヴァイスの肩がズーンと沈んだ。

片手に雑巾を握りしめたまま、まるで戦に敗れた将軍のように、膝をついた姿勢で項垂れている。

屈強な魔導師だったはずなのに、今やそのオーラはどこにもない。

 

ティアナちゃん、7歳。恐るべき完璧主義者であり、家事の現場監督。

年齢と身長の小ささを感じさせない凛とした指示に、ヴァイスは完全に押し負けていた。

一方――

 

「よし、玄関まわりと靴箱、終わり。次は……廊下かな」

 

俺は手際よくタオルを畳み、振り返って軽く伸びをした。

「……ユウト、お前、なんでそんなに余裕そうなんだ……」

廊下の片隅でへたり込むヴァイスが、うらめしそうに見上げる。

「え? 普段から実家でやってるし、寮でも自分のとこは自分で掃除してるから…。むしろ全部やらなくていい分今日の方が楽かも」

 

「……生活力の差ってやつか……」

 

ヴァイスの瞳が遠い。

水気を含んだ雑巾を握るその手から、しずくがぽたぽた床に落ちていた。そこさっき拭いた場所なんだけどな。

 

「ヴァイスさん。拭いたあとに水を落とすと逆効果です。……やり直しです」

 

「お゛ぉぉぉ……!」

 

ティアナちゃんの無慈悲な指示が飛ぶ。

その声に、ヴァイスは崩れ落ちそうになりながら再び雑巾を絞った。

 

「はは……頑張れ、ヴァイス」

 

ヴァイスが思わず立ち上がりかけて、すぐに足を滑らせて尻もちをついた。

 

「うぅ……オレ、訓練より雑巾がけの方がきついかも……」

 

「情けないこと言わないでください」

 

背後からスパーンと飛んでくる、冷たい声。

 

「もういい年したおじさんなんですから、家事ぐらいまともにこなしてください」

 

「じょ、おじ……っ!?」

 

その言葉が心臓に突き刺さったらしい。ヴァイス(15)、撃沈。

 

リビングの端でコーヒーをすするティーダさんが、そんな俺たちの姿を見て、楽しげに目を細めていた。

 

「うん、仲良くなっててうれしいよ」

 

(絶対おもしろいって意味で言ってるやつだ……)

 

ため息をひとつ吐いて、俺は廊下の掃除に戻った。

タオルをきゅっと絞って、床に膝をつける。掃除動作はすでに身体に馴染みつつある。

「よし、廊下はあと一列で終わりかな」

 

そうつぶやいて体を屈めたその時だった――

 

――プルルルルル…!

 

電子音が突然、静かな廊下に響き渡った。

 

「うわっ……!」

 

びくりと肩が跳ねる。ポケットの中の端末が激しく震えていた。

 

「……だれだろ、こんなタイミングで」

 

少し水気を拭った指先で端末を取り出して画面を見る。

瞬間、心臓が一拍止まった。

 

《八神はやて》

 

その瞬間、思考がフリーズした。

 

(……終わった)

 

目の前がスッと暗くなる。

呼吸が浅くなっていくのが、自分でもわかる。

その名を見た瞬間、背筋を冷たい汗がつうっと伝っていく。

 

(うそ、なんで……!?いや、ヴィータには口止め頼んだよな!?任務入るからって頼んだよね!?)

 

震える親指で通話ボタンを押すと、耳に当てる前から、機械越しに伝わるような“圧”が流れ込んできた。

 

そして――

 

『……意外と電話には早く出るんやね、ユウトくん』

 

静かな、でもどこか底が読めない声。

 

「は、はやて……!?お、お疲れ様?」

 

『あんたのとこの隊長たちは、さっき無事に帰還されましたけどなぁ……』

 

『肝心のあんたが、どこにもおらんのは、なんかおかしない?』

 

『任務って、どんな任務なんやろなぁ……?』

 

その一言一言が、耳ではなく胃を撃ち抜いてくる。

内臓に直接響いてくるタイプの恐怖だった。

 

「いや、その……あの、ほら!俺がちょっと仕事遅くて……はい、あの……その、ミスが……それのリカバリで、残業的なやつで…」

 

『いま電話出れるなら、貯めてるメールの返信もできたよな?』

 

「すみませんすみませんすみませんっ!!」

 

あまりの威圧に、反射的に三連謝罪。自分でも何言ってるかよく分かってない。

 

と、後ろから。

 

「……ユウトさん?」

 

ふと、背後から冷静な声がかかる。

 

「はいっ!?あ、なに!?」

 

肩越しに振り返ると、モップを構えたティアナが、まっすぐこちらを見ていた。

あの顔は“現場のサボりを見つけた監督”のそれだった。

たった7歳の少女なのに、なんでこんな威圧感あるんだこの子。

 

「……手が止まってます。廊下、まだ終わってませんよ?」

 

「……あ、うん、ごめんね。ちょっと今、それどころじゃなくて……」

 

『ん? 今の、女の子の声か?』

 

(あっ……やばい)

 

『そっか、ユウトくん。じゃあ“任務”ってウソついて女の子と遊んでるってことでええんやね?』

 

「いやいや、えっ、何のことだろ!?気のせいじゃないか!?幻聴とかそういうの!」

 

『……ユウトくん。』

 

「はひっ!」

 

『あんた、休暇もろたのに、地球に帰ってへんとか……ないやんな?』

 

(詰んだ)

 

もはや逃げ場はなかった。完全に詰みの状況。

 

俺はもう何が正解かわからず、反射的にこう言った。

「ご、ごめんっ!ちょっと用事があって、でも、あの、その、また後で連絡するわ!!」

 

\――ピッ(通話終了)

 

言い訳も言い切らないうちに、自分で通話を切った。

背中には冷や汗、額にもじっとりと汗が滲んでいた。

 

「…………ふぅ」

 

何とか逃げ切ったというより、爆心地から緊急脱出したって気分だった。

 

「で、“用事”ってなんですか?」

 

ティアナちゃんの声が、するどく突き刺さる。

 

「……床掃除です(真顔)」

 

「だったらすぐに、再開してください。夕飯の時間までには終わらせてくださいね。」

 

「……はい」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日が傾き始めた頃、ようやく一通りの家事が終わった。

 

バケツの水は三度目の交換を終え、掃除機もモップもきれいに収納済み。

リビングには、どこか達成感のような空気が流れていた。

 

「ふぅ~……これで本当に全部終わりか……?」

 

ヴァイスがへたりと座り込み、天井を仰ぐ。

 

「お疲れさま。だいぶ動いたな」

 

俺も横に腰を下ろして、軽く腕を伸ばす。

 

その時――

 

「じゃ、ご飯作るか」

 

ソファに座っていたティーダさんが、さらっと立ち上がった。

 

「僕がちゃちゃっと作るから、二人はちょっと休んでていいよ。手間かけさせたし。」

 

「いえ、俺も手伝いますよ」

 

気づけば自然にそう言っていた。

身体はそこそこ疲れていたはずなのに、台所に立つときの感覚はむしろ心地よかった。

 

「お?ユウトくん、料理できるのか?」

 

「一応。実家が飲食やってて手伝いしてたんで。メインはお菓子なんですけど。」

そう答えて立ち上がると、ティーダさんがにやりと笑った。

 

「じゃあ遠慮なく。そこのエプロン使って」

 

渡されたエプロンを無言で受け取り、腰に巻く。

キッチンに入ってすぐに、俺は野菜の場所、調味料の並び、まな板と包丁の取り出し位置をざっと確認して――

 

「……こっちの包丁、ちょっと研いだ方がよさそうですね。あとその肉の部位に使うなら、この方が切れ味いいです」

 

さっと別の包丁を取り渡す。

 

「へぇ……」

 

ティーダさんが少し感心したようにうなずいた。

 

「じゃ、僕がメインの煮込みやってる間に、サラダと汁物頼める?」

 

「了解です。野菜、冷水にさらしますね。切ってからじゃなくて先にさらした方がパリッとしますし」

 

トントンッ、とリズミカルに刻まれていく野菜たち。

イメージするのは、恭哉さんとの早打ち稽古。

 

包丁に入れる力に無駄なく、断面も均一に整える。

 

その様子を見ていたティアナちゃんが、リビングから声を上げた。

 

「……なんだか、見たことないぐらい手際いいです。ヴァイスさんも得意料理とか何かできないんですか?」

 

「んっ……!」

 

ヴァイスが振り返り、うっすら汗をにじませながら言い返す。

 

「いやいや、俺だって目玉焼きくらいなら――」

 

「あなたと違って、ユウトさんはなんでも出来そうですね」

 

「ぐふっ……!」

 

まるで見えないダメージを食らったかのように、ヴァイスがうずくまる。

 

「ヴァイス、料理は上手さじゃなくて習慣だって昔誰かが言ってたよ……」

 

「言ってないだろそんなこと!!」

 

「ふふっ」

 

ティアナちゃんは珍しく口元に笑みを浮かべて、ティーダさんは肩をすくめながら「まあまあ」と苦笑いしていた。

 

夕食は思った以上に豪華になった。

メインはティーダさん特製のトマト煮込みハンバーグ。

それに、俺が作った日本式ワカメと豆腐の味噌汁、彩り野菜のサラダ。

 

「いただきますっ」

 

みんなで手を合わせて、箸を動かし始める。

 

「うん、味しっかりしてておいしい!」

 

「ほんとだ。ハンバーグ、ふわっとしてる」

 

「この汁物、ユウトさんの故郷の味なんですか?」

 

「そうだよ~、ティアナちゃんおいしい?」

 

「……うちの寮の飯、毎日これにしてくれないかな…味が染みる」

 

ヴァイスの嘆きが、ちょっとだけ本気っぽくて笑えた。

 

「ヴァイス…おじさんっぽいぞ」

 

「おじさんやめろ!!…なあ、明日はどっか出かけようぜ。せっかくの休暇で遊びに来たわけだし。」

 

「ティーダさん的にはどうですか?」

 

「このへん、山も川も近いからな。自然多いし、ちょっとした遊び場ならいろいろあるよ……」

 

「川って、泳げるやつですか?」

 

「時期的にはそんなに微妙だけど、僕らは膝ぐらいなら浸かれるかな。あとは釣りとかバーベキュー場もあるよ」

 

「バーベキュー!それいいですね!」

 

「お兄ちゃん、炭火で焦がす率が高いから、ちゃんと見張らなきゃですよユウトさん。」

 

「ティア、そろそろ兄も成長してるって信じてくれても……」

 

くすくす笑うティアナちゃんの隣で、ティーダさんが苦笑い。

兄妹で仲が良さそうで何より。

 

「じゃあ、明日晴れたら川に下見ついでに行ってみようか。天気悪ければ、町の方まで出てもいいし」

 

「了解!……その前に、筋肉痛が残ってなければだけどな……」

 

ヴァイスが肩をぐるぐる回しながら苦笑する。

 

「大丈夫ですよ、ヴァイスさんはまだ片付いてない部屋ありますから。明日もちゃんと動いてもらいます」

 

「えっ、冗談だよね!?ティアナちゃん!?」

 

「冗談じゃないですよ」

 

「鬼ぃぃ!!」

 

そんな風に、食卓は笑いと冗談に包まれていた。

 

――心地いい、この空気が、少しだけ高町家に似ているような気がした。

 

 

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