楽園なんてなかった。 作:焼きすぎて焦げた炭
ゴールデンウィークギリギリ間に合ったから私の勝ちだ。
そしてこの話までエタらずに書ききったから私の勝ちだ。
次からは恐らく大多数の皆様が望んでいるものを出せると思っているのでお待ち下さい。
ニア達と一緒に暮らすようになってもう三年が経とうとしていた。
組織の保護を受けた場所なだけはあり、今まで住んでいたところとは異なって襲撃や略奪もなく、安全に生活することができている。その分物価は高いが全員金には余裕があったのでどうにでもすることができた。
適当に簡単な依頼を受けて、ニグの発明の手伝いをして、業者に売りこむ。
慎ましく暮らす分にはこれだけで十分で、命の危機も無く、穏やかに、しかしあっという間に月日は流れていった。
俺の心を蝕むような『退屈』はなかった。
それどころか
———
「ハーハッハッハ!素晴らしい発明ができたぞ!!『超高速全自動食器洗い機2』だ!!」
「……ねえ、本当に大丈夫?前回みたいに勢い良く洗いすぎて洗い終わる頃には中の掃除が必要にならない?」
「問題ない!何故なら前回の反省を生かして丁寧に洗うようにしたからな!!」
「おーそれならまあ安心かな?」
———
「ねえ、今月のボク達の電気代が8万近くなんだけど?」
「あーそれはコイツのせいだな。なんてこった!私としたことが電気代の事を念頭に置いていなかったよハッハッハ。まあラルトにさえバレなければいいんだよ!」
「………。」←真後ろで銃を構えているラルト
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退屈しない。特に何もない日でも、アイツらといれば楽しかった。余計な事をなんて考えなくて済むようになった。気がつけばアイツらとの日々が、そんな何もない日こそが俺にとっての宝物になっていた。
…唯一、ラルトとは打ち解ける事が出来なかったがそれでも此処は俺にとってかけがえのない場所になっていた。
そして
『今まで、本当によく頑張ったね。』
俺を肯定して、此処に連れてきてくれたニア。
俺を苦痛から解放してくれたアイツへの感謝はいつの間にか好意へと変わった。
今日、ニアに買い物の付き添いを頼まれている。
そこで、想いを伝える。
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組織の保護を受けているこの安全な場所だからこそ出来た大型ショッピングモール。毎日昼から夜まで人で賑わっており、他の場所と異なり品質が保証されている事からこの地区外の住民も訪れる事も多い場所だ。
「オボロ、今日は頼まれてくれてありがとね。いやー買う物が沢山あるんだけど全部買うとなると重くてさ、か弱いボクじゃあとても持てないんだよ。」
「か弱い…?嘘つけ怪力め…。」
ニアの『神秘』は強く、肉体スペックで俺は勝てない。例えば武器だ。一見唯の二丁拳銃に見えるがその実態はニグによって魔改造されて反動が対物ライフル並みになった代わりに威力を底上げされている。
それを軽々と連射しやがる。俺の特殊弾丸に匹敵する威力を連射するな。
因みにニグは自分のボルトアクションライフルにも同じ様な改造をして腕を骨折したらしい。馬鹿かな。天才ではあるのか。
「確かお醤油が切れてかけてたんだよね。」
「それなら他に切れかけてたのと纏めて昨日通販で買った。」
「あそう?後卵と塩と味噌……。」
「それならラルトの奴が昨日買ってきてたな。」
「……や、野菜…。」
「まだ沢山あるな。」
「………ボク達何しに来たんだろうね。」
「お前が知らないなら俺が知ってると思うなよ。」
「……ご飯でも食べて帰ろっか。」
「……ああ。」
どうしよう。気まずい雰囲気になってしまった。何とかして場の雰囲気を軽くしなければ…。
「……そうだ。確か此処の近くに美味い店があるんだ。よければ一緒にどうだ?」
「お、良いね!じゃあ行こうか。」
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「へーここ?」
「はい……ここです………。」
ショッピングモールまでの道から外れて少し歩いた先にあるラーメン店。少しボロいが味は本物でリピーターの多い店だ。
ただ、1つだけ問題があるとするなら今日は朝っぱらから獣人の皆様方が酒盛りしてたりそもそもの店の雰囲気がとてもデートには向かない位だろう。
駄目じゃん!!
「こんなはずではこんなはずではこんなはずではこんなはずではこんなはずではこんなはずではこんなはずでは」
「だ、大丈夫…?」
「あ、ああ大丈夫だ。」
「もーうボクだって女の子なんだからさ。一応少しはこう…オシャレな感じのお店を期待してたんだけど?」
「悪い……奢るから許してくれ。」
二人で座って注文してからラーメンが来るまでの10分位が1時間以上に感じた。因みに『奢る』のワードを聞いたニアはこの店で一番高いラーメンを頼んだ。安くて助かった。
「ラーメンお待ち!!」
「おお…これは…凄いね。」
ドン!と低い音が机から鳴ると机には山盛りのラーメンが二つ乗った。黄金の様なスープ、立ち上る湯気。うん、コレがデートじゃければガッツリ食べたいときに最適だ。
「うん、味も凄く良い!これは来た甲斐があったねー。」
「あはは…うん…そいつはよかった……。」
恐らくニアは笑っているんだろうが俺はイマイチ申し訳なくて顔を見れなかった。
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「一時はどうするかと思ったけど思ったより悪くなかったよ。ありがとね、オボロ。」
まずい。せっかく決意してきたのにもう終わるムードだ。
いや、そもそも今日言わなくても良いんじゃないか?色々二人ともグダグダだったし、もっと良いムードの時に話せば……。
いやいや今日逃げたらきっと言い出せなくなる。だから、今ここで言うんだ。
「……なあ、ニア。」「……ねえ、オボロ。」
「あー……先に言ってくれ。」
畜生被った!!どうしてこうも上手くいかないんだ!!
「……えーとね。オボロ、背…伸びたねって。」
「こうやって二人で並んで歩いてると顕著だなーって思うんだ。君と一緒に暮らし始めたときはボクと同じ位だったのにさ。」
あまり考えてなかったが確かにそうだ。この3年で俺は随分と身長が伸び、150程度しか無かったものが一気に170近くまで伸びた。成長痛のせいでまともに動けなくなったこともあった。
「因みに身長が170未満の男性は人権がないらしいよ。」
「言いたいことはそれだけかテメェ。」
「……あはは!それだけそれだけ!で?オボロは何が言いたかったの?」
だークソッ、出鼻を挫かれた。更に言い出しにくくなったじゃないか。
とにかく言うしかない。
「あー、あんまり言えなかったんだけどさ、俺…お前がここに来れてよかったと思ってるんだ。多分…俺ここに居なかったらどっかで野垂れ死んでたからさ。」
「さっきお前も言ってたろ?その…俺だって身長伸びたし、強く…なったんだ。だからお前を、ここに連れてきてくれたお前を守りたいんだよ。だから———」
「えー!?あのオボロが!?
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
最もなことを言われてしまい恥ずかしさを隠すようにニアの頭を軽く何回も拳で叩く。
「やめて!そのポカポカやめて!謝るから!」
———
「それで続きは?」
「うるさい黙れ!!もう知らん!!」
「えー!?拗ねないでよー続き気になるじゃーん!」
「うるせえ!バーカ!バァァーーーカ!!!」
「あ!!逃げるな!まてーー!!」
真昼、青空の下で悪名高いブラックマーケットの一角に響き渡ったその声は、
恫喝でもなければ、悲鳴でもない。
慟哭でもなければ、奇声でもない。
なんでもない、ただの少年少女の無邪気な声だった。
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暗い部屋。一人の少年が電話をしながら頭を抱えている。
「なあ!!おい!!ここは安全じゃなかったのか!?」
『こっちだって余裕がないんですよ。代表が急に逝っちまって跡継ぎがまだ正式に決まってなかったんだから跡継ぎ争いで此処の管理なんてやってられないんですよ。』
「言ったはずだ!!『安全な場所への移住権を与える』ってな!約束が違うじゃないか!?」
『あーはいはい。与えたじゃないですか。誰もそこが「ずっと安全」とは言ってませんけどね。』
「なんだよ……それ……。」
『それじゃあ切りますんで。あ、でもそこに居たって事はあんたら強いんですから自分達で頑張ってください。』
「あっ待て!!おい!!」
無常にも電話は切れ、終了音が虚しく響く。
「クソッ!!」
少年は電話を投げる。壁が大きくへこんだがこの程度の破損はもはや『誤差』でしかなかった。
ふと窓に目をやると『安全な場所』で火事が起き、略奪が横行し、肉塊が転がっている事が見える。
「これじゃあ前までの方が安全じゃないか……。」
ここだけではない。今やこのブラックマーケット全体がこのザマだ。ここを牛耳っていた組織の内部分裂。それによって起きた火種はすぐさま何もかもを焼き尽くさんとする大火へと変わった。
「………なんとか、しねえと。」
そう呟く少年の手には『ゲヘナ学園』と書かれたパンフレットが握られていた。
真昼、太陽の最も高い位置。後は唯落ちていくだけ。
また夜の明けるその時まで。
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