異世界探偵は推理しない、中年探偵の騒々しいミステリー未満の日々   作:ブラインド

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情報屋ヨダン

 大佐を見送ってすぐ、俺は猫の捜索を開始した。クロエは住居兼事務所で留守番だ。

 俺はアパートメントの一階にあるガレージで、この世界のバイクにあたる魔導馬に跨った。

 魔導馬という名前ではあるが、足がついているわけではない。かといってガソリンや軽油で動くエンジンもタイヤもついていない。

 それらの代わりについているのは、魔導炉という魔力をエネルギーとするエンジンと、前後二基の浮遊装置だ。

 炉に俺自身の魔力を送り込むと、浮遊装置にエネルギーが行き届いて発光しつつフワリと魔導馬全体がふわりと数十センチほど浮き上がる。

 あとは前世のバイクと似たように手足で操作できるアクセルとブレーキを使い、ハンドルをきって操縦することで走ることができる。

 ガレージを出て、歩行者や馬車に注意しながら飛ばしていく。路面が多少荒れていても、宙に浮いているので無関係だ。

 さて、魔導馬でまず向かう場所は動物病院だ。

 迷い猫探しという、ちょっとばかり拍子抜けの仕事ではあったものの、少々きな臭い部分もある。

 そもそも大佐が持ってきた仕事ということで、油断は出来ない。

 大佐は変わり者揃いの特殊部隊をまとめ上げている指揮官だ。その彼を困らせる案件なんて、なかなか想像がつかない。

 探し物をする時は普段なら探知魔法などを駆使しつつ、路地を自分の目で見て探し回るところだが、今回はそれをしない。

 大佐の話を信じて、猫が怪我をしたか、誰かに捕まっている前提で捜索することにした。

 この世界で動物病院というものがあるのかといえば、それは普通にある。牛や馬、羊といった家畜の病気は昔から見過ごすことのできない重大な問題だし、犬猫などのペットにも、番犬やネズミ捕りなどの役割がある。

 ちなみに回復魔法やポーションは、一応存在している。だが、どんな傷でもたちどころに全快とはいかず、治癒力を一時的に高める、くらいの効果しかない。

 

「そのような猫の診察はしてないですねぇ」

「そうですか、お時間取らせてすいません。ありがとうございました」

 

 午前中、シェルウェイ市内の動物病院を三件回って話を聞いた。

 守秘義務とかプライバシーみたいな倫理観はまだ無い世界なので、話を聞くことは簡単だったのだが、すべて空振りに終わった。

 ここからはもう少し幅広い相手への聞き込みをしていくことになる。具体的には、裏社会に関わる人間への聞き込みだ。

 シェルウェイは世界有数の港町であり、貿易港として栄えている。そのため船乗りや荷運び人といった力仕事を生業とする、荒くれ者が多い。

 また、海の玄関口として他国との往来の要所にもなっているため、国内外から多くの人間が訪れる。

 そのような人の流れの多い場所では当然、治安は悪くなりやすい。だからといってそのまま放置などされておらず、軍隊やその他の治安組織が配置されているため、表通りの治安はそこまで悪くはない。観光客狙いのスリや置き引きが多いくらいだ。

 ところがいくら取り締まろうと、悪い連中というのはある程度居着いてしまうものだ。

 俺は目抜き通りから外れた狭い路地を進み、その奥にある酒場を尋ねる。

 

「準備中だ、夜になってから来い」

 

 ドアを開けると取り付けられた鈴が鳴り、すぐに店の奥からそんな声が聞こえてきた。

 俺は構わず店に入っていく。

 店内はそこそこの広さにいくつかのボックス席が並んでおり、高めの仕切り板で区切られていて半個室みたいになっている。

 タバコと酒、それからちょっと健康に悪いタイプのオクスリの匂い。

 店内は薄暗いが、開店前で明かりをつけていないというわけではなく、この店はいつもこんな暗さだ。こっそりと密談をするのにちょうど良さそうだが、女の子にお金を払って接待を受けたり、さらにチップを積んで疑似恋愛的なアレやコレやするのにも使われる店だったりもする。

 どんな世界にもやはり風俗店というのは存在するもので、娼館などが領主から許可を得て営業している。ちなみにここは無許可営業だ。

 

「おい、聞こえなかったのか」

「俺だよ、ヨダン」

「なんだ兄貴か! 随分ご無沙汰だったじゃないか!」

 

 カウンターに立ってグラスを磨いていた男、ヨダンは顔が見えるくらいまで近付くと、しかめっ面から一転、ぱっと破顔した。

 上背が高く筋骨隆々、右頬を大きな切り傷が走っている。

 いかにも力自慢の脳筋っぽい見た目をしているが、こう見えて彼はこのあたりの事情通、いわゆる情報屋というやつだ。

 表では出せないような話を酔ったはずみにこぼしてしまうのは酒の席でよくある話で、そういう話を集めて商売のタネにしているわけだ。

 

「いつでも飲みに来てくれていいんだぜ、最近、兄貴好みの可愛い娘も入ったんだ」

「女は間に合ってるよ」

「えっ、あの兄貴がっ!?」

「なんでそんなに驚いてるんだよ……」

「昔、夢はハーレムを作ることだって言ってただろ」

「あぁ……あの頃は若かったな……」

 

 異世界にチート能力を持って転生なんてしたら、ハーレムの夢を抱くのも男の子なら仕方のないことだろう。

 色々と無理があるということに気付いたのは軍で頑張っていた頃だろうか。いくら功績を上げてもモテるどころか、恐れられるだけだったし。

 

「それより知りたいことがあってな」

「おっと、そっちのお仕事かい?」

「こいつを探してるんだ」

「ほう、これは……なかなか凶悪な人相だね? どんなヤバイ事件を起こしたんだ?」

 

 例の猫の写真を見せると、ヨダンは片眉を釣り上げてニヤニヤと笑いながら言う。

 

「詳しいことは軍事機密だ。どうも誰かに捕まってるかもしれないって話でね」

「そいつあ物騒だ、ふうむ……」

 

 ヨダンはグラスを置くと、カウンターを指先でコツコツコツと叩きながら天井を見上げる。

 

「そうだな……その猫のことはわからないが、灰月通りの連中が珍しい猫を捕まえて売ろうとしてるって話だ。どう売るつもりか知らないが、当たるなら急いだほうがいいだろうな」

「灰月通りっていうと……」

「えっと待てよ……そうそう、炎の狐団ってのがねぐらにしてたはずだ」

「ネットを閲覧できそうな名前だな……」

「網がどうしたんだい?」

「なんでもない、助かったわ」

「この程度の情報なら一枚でいいぜ」

 

 俺はポケットから取り出した百ラニー紙幣を丸めてカウンターに置かれたグラスに差した。

 ラニーは共和国の通貨単位で百ラニーは数日分の食費くらいになるだろうか。前世に比べたら物価などが不安定なのでなんとも言えないが、日本円で言えばおよそ一万円というところだろう。

 

「それと、なんか食い物ある? サンドイッチとか腹にたまる物がいいんだが」

「ここは酒場だぜ兄貴……トべるお野菜入れるかい?」

「……やっぱ他で食ってくわ」

 

 酒場を出た後、屋台で焼き魚サンドイッチを買ってから灰月通りに向かった。

 

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