ブルーアーカイブ異聞録 カヤ*転生者 作:連邦生徒会のモブ書記
シャーレオフィスビルに到着した私は『重要物』が無事かどうか確認する。
「幸い、傷一つなく無事なようですね。」
ーーーーシッテムの箱
連邦生徒会長が先生に残したオーパーツだ。
私はそれを先生に渡す。
「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明です。」
これを『先生』が使えばタワーの制御権を回復させられる。
そう、連邦生徒会長が言っていた。
「私達には起動すらできませんでしたが……先生であれば起動出来ると信じております。」
私はここまで言うと、邪魔にならないように離れて静観する。
そして先生がタブレットを操作する間、私は別の事に思考を巡らせる。
『先生の指揮』について、D.U.区の監視カメラなどから状況を俯瞰していた蕪木副官より興味深い報告があった。
『戦場の霧』の影響を感じない、まるで上空から戦場を俯瞰したかのような適切な指揮だったと。
通常、地上からの指揮は地形的障害や相手の戦力といった見えない部分の不確定要素、所謂『戦場の霧』によって阻害される部分がある。
古来より名指揮官と呼ばれる者たち………アレクサンダー大王等は戦場を平面的な視点ではなく立体的な視点から見ていた。
即ち、先生は指揮官として類稀なる能力を持っている。
そこまで思考した所で、再び蕪木副官から連絡が入る。
行政制御権回復の報告だ。
「『サンクトゥムタワー』の制御権の確保が確認できました。」
そしてこれからは連邦生徒会長が居た頃と同じように、行政管理は行えるが、それだけだ。
そこで思考を止める。今、それを言うのは適切でない
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。」
そう、今すべき事は協力してくれた先生に感謝を伝える事だ。
そしてもう一つ、
「ここを襲撃した不良及び停学中の生徒はそのほとんどの確保に成功しました。ここはもう安全です。」
「ついて来てください。連邦捜査部『シャーレ』の紹介をさせて頂きます。」
私は、先生をまずシャーレのメインロビーへと案内する。
「長い間空っぽでしたが、ようやく主人を迎える事ができました。」
誰もいないメインロビーはその広々とした空間もあってか『近々開業予定』の張り紙に少し寂しさを覚えさせる。
「ーーー草の戸も 住み替はる代や 雛の家 『シャーレ』のロビーが多くの生徒達で満たされる事を私は願います。」
私は先生に期待を込めた眼差しを向ける。
先生も私の意図を察してくれたのか、笑顔を返してくれる。
「では、先生の部室に向かいましょう。」
誰もいないシャーレの廊下を二人の歩く足音だけが響く、
(ガチャ、バタン)
「ここがシャーレの部室です。」
最低限の備品しかなく、しんと静まり返った部室。
「ここから先生としてのお仕事が始まります。」
ここで初めて先生から質問がある。
「"仕事といっても………何から始めたら良いのかな?"」
至極当たり前の質問だ。
「シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、 特に何かをしなければならないという強制力は存在しません。」
そうなのだ。連邦生徒会長がそれを伝える前に失踪してしまった。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です。」
目的はわからないまま、権限だけはある。
それが今の『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』
「捜査部との名前はついていますが、その部分については連邦生徒会長は触れていません。」
「つまり、先生のやりたい事をするのがお仕事です。」
先生の心のまま好きな事ができる組織
「しかし強いて言うならば………」
「今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる嘆願。支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請等の連邦生徒会が動けない人々に対する救済。」
「全ては私達連邦生徒会の責任で情けない話ですが、連邦生徒会長捜索が最優先でキヴォトス各地での問題に連邦生徒会が割けるリソースはそう多くありません。」
本当に情けない話だ。だが、今回の事件では連邦生徒会の足元であるD.U.の治安維持すら覚束ない状態である論証だ。
治安維持部隊の改革と再編成にはしばらくの時間が必要となる。
「設立直後でリソースに余力のある『シャーレ』が大小様々な問題を解決していただけるのであれば、これほど助かる話はありません。」
「関連書類に関しては、先生の机の上に地域別でまとめてあります。もし、先生のやりたい事がその中にあるのであれば一読頂けると幸いです。」
「またわからない事、協力が必要な事があれば何時でも防衛室にご連絡ください。私が不在の場合は蕪木副官が対応致します。」
「なお本日付けで『シャーレ取次・補佐役』を拝命しておりますのでこれからもどうかよろしくお願いします。」
「"なら、一つ良いかな?"」
「はい、何なりと」
「"君の肩書について教えて欲しいな?"」
「『防衛室長』兼『連邦生徒会渉外代行』兼『シャーレ取次・補佐役』です。」
………長い分少し早口になってしまう。
「"………少し多くない?大丈夫?"」
先生は少し心配そうに私を見る。
「防衛室に関しては現在業務の見直しを行っており、仕事量の削減の目処が立っておりますので、私個人の負担は全く問題ありません。渉外代行に関しては基本は形式的な業務が多いですので問題ありません。」
どちらも成り行きとはいえ、好きでやっているのだから問題はない。
だから決してやりがい搾取ではないと自分に言い聞かせている。
「"それにさっきの戦闘でもすごかった、戦闘も業務もできるなんて凄いね"」
「いえ、防衛室の皆が補佐してくれているからです。あと、リン首席行政官に比べれば私など全く仕事が出来ない部類です。」
防衛室長という立場からか普段こうやって褒められる事が無いので、少しむず痒い気分になる。
それに先生の言葉は嬉しいが、頑張ったのは私だけではない。
対物ライフルで戦車の装甲を貫通できると私を信じてくれた中隊長以下臨時火器支援中隊の隊員のおかげだ。
「"それを含めて凄いと私は思うよ"」
………もしかすると先生は『女たらし』の性質があるかもしれません。
まっすぐな目でそう言われると私はそう思わざるを得ない。
「"でもどうして戦車を撃破できたの?"」
至極全うな疑問。でもその質問に答える為にはまず『神秘』について語らないといけない。
「キヴォトスにおいて攻撃には生徒が持つ『神秘』が影響します。」
神秘、それはキヴォトスの生徒が大小問わず持っている性質だ。
「私の神秘は『
1対1の直接戦闘には役に立つとは言えない神秘だが、集団戦においては役に立つ神秘だ。
「そして『神秘』には個人差……いえ、限界が存在します。」
私は胸ポケットからペンを1本取り出すとその場で手を話し落とす。
同時に私のヘイローが輝くと
「"止まっているね"」
丁度私の腰くらいの高さでペンが空中停止している。
「このように軽いものであれば運動エネルギーをゼロにすることはできますが、油圧ショベルや戦車といった一定以上の質量を持った存在を掌握することは不可能です。」
それが現状における私の神秘の限界。
「今は『そういうもの』という認識で問題ありません。大切な事は、各々の持つ神秘の強弱があること、攻撃には神秘が上乗せされるという事です。」
「"わかった。何から何までありがとうね"」
「ふふ……キヴォトスに来られたばかりの先生の疑問に答えるのが私の業務でもありますので、あと……最後に」
ここで伝えるべき事があった事を思い出す。
「リン首席行政官は本日多忙を極めていた為、『シャーレ担当』である私が案内致しましたが、また近日中にリン首席行政官と会食を設けさせて頂きます。」
本来であればリン首席行政官が先生への対応を行う筈であった。
しかし、いくつかの不運な事情が重なり事実上の『シャーレ担当』である私に仕事が回って来たのだ。
「"ありがとう。会える日を楽しみにしているよ"」
先生はそう言うと
「"カヤ、これからよろしくね"」
右手を私に差し出してくる
「ええ、よろしくお願いします。」
私もそれに応え右手でしっかりと先生の手を握り、握手を交わす。
この人とならやっていけそうな気がする。
そんな気がした。