ブルーアーカイブ異聞録 カヤ*転生者    作:連邦生徒会のモブ書記

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プロローグ∶チュートリアルの終わりに

「ふう・・・」

一仕事を終えた後、私は執務室の椅子に腰掛け一息をつく

 

今日の仕事はかなり重要であった。

『シャーレの先生』への案内と各自治区の代表への状況説明、そして『サンクトゥムタワー』の行政制御権回復。

 

本来であれば防衛室長に過ぎない私の仕事では無いのだが

 

「リン首席行政官向きの仕事ではないですからね・・・」

 

連邦生徒会長不在の現状、連邦生徒会のトップであるリン首席行政官は優秀であるものの対人関係、殊の外渉外という分野においては高圧的に見える一面もあり、向いているとはお世辞にも言えない。

 

「まあ、かく言う私も首席行政官並みの仕事を振られたら潰れる自信がありますがね」

 

役割が違う、この一言に尽きる。

 

「『シャーレの先生』ですか・・・」

彼の印象を振り返ってみると

 

「信頼は出来そうですね」

第一印象で全てを判断するのは時期尚早かもしれないが、連邦生徒会長が選んだ人物なだけはある。

指揮能力、判断力共に優れており人格面でも問題そうな部分は見られなかった。

 

『防衛室長』兼『連邦生徒会渉外代行』兼『連邦捜査部シャーレ取次・補佐役』

 

これが明日からの私の肩書

 

もし、連邦捜査部が私の仮定通りに機能するのであれば。

 

私の理想としていた、行政が機能するのであれば。

 

私は、『シャーレの先生』の手足となって働く事を厭わない。

 

不退転の思いを込めた肩書だ。

 

「私ではSRTの問題を解決できませんからね。」

 

SRT特殊学園

 

おそらくSRTは廃校となるであろう。

 

連邦生徒会長という武力装置の責任を負う存在が不在となり、同時に行政権喪失に伴う混乱により各自治区への介入能力を失った連邦生徒会には無用の長物とみなされる。

 

仮に防衛室室長として異議を申し立てれば最低でも癒着を疑われ、最悪の場合は連邦生徒会に対するクーデターが疑われる可能性がある。

 

私に出来る事は、廃校となった後一部の生徒を防衛室傘下の特殊部隊としてリクルートすることぐらいだ。

 

「所詮、転生者が1人努力した所で出来ることなど限られていますね」

思わず自嘲するような言葉が出てしまう。

 

傍らに控える蕪木副官が何か言いたそうにしていたが、私はそれを制する。

 

空に浮かぶ月をこの手で掴めないように、私の描いた理想など現実の前には倹しい画力で描いた落書きに過ぎない。

 

「それでも、私は立ち止まれない。」

 

ーーー気付いた時にはここ(キヴォトス)に居た。

 

右も左もわからない。

ましてや『神秘』という謎過ぎる力も存在する。

 

前世の記憶は詳細に思い出す事が出来ない。

ただ『日本』と呼ばれる国で『令和』と呼ばれる時代まで生きたこと。

何か『やり残した事』があったという事。

 

だが、そんな事は厳しい現実の前には些細な事だった。

 

過去の私は自分の手の中にあるものを取りこぼさないように必死だった。

 

そして『生きる為』、『大切な者を守る為』に必死で藻掻き苦しんだ結果としてこの椅子に座っている。

 

防衛室改革

 

その一手として今回の反省を踏まえて前室長時代に設定された防衛室即応中隊の再編をしなければならない。

 

G·P·T·F(汎用任務部隊)』構想

 

市街戦・室内掃討戦(CQB)特化の特殊混成部隊

 

単一の兵科ではなく普通科・工兵科・対装甲科・衛生科等の諸兵科を連合させ市街地におけるあらゆる特殊任務に対応した混成中隊とでも呼ぶべきだろうか?

 

SRT特殊学園からリクルートできた人材から選抜された精鋭と旧来の防衛室部隊からの選抜人員を充当する予定だ。

 

小隊・分隊単位での戦闘を基本とし小型高性能無線機によって中隊単位での連携を取る。

輸送ヘリ・戦闘ヘリによる空中支援を前提とし、機動力を以って最速の対応を行う。

 

そして『汎用』の名前の通り市街戦における対戦車戦から人質救出まで行う精鋭部隊だ。

 

行政にifはナンセンスな考え方であるが、もし今回のような場合にこの部隊が存在していれば、携帯用対戦車火器と戦闘ヘリによる上空支援で敵戦車を簡単に撃破できていたはずだ。

 

今回の問題は用兵側、つまり組織の構造的な問題。

 

これまではSRT特殊学園が存在していた為、その必要があったかと言われればそうではなかったが、あくまでSRTは連邦生徒会長直属であり防衛室の戦力ではない。

治安維持を担う防衛室が怠って良い備えではなかった。

 

結果的にシャーレ消滅(物理)という最悪の事態は避けられたが、それは幸運が重なっただけであり全ての条件が下限に振れていれば、どうなっていたかなどわからない。

 

「室長、コーヒーが入りました。」

コーヒーの芳醇な香りがする。

思考の沼にどっぷりと浸かってしまっていた私を見かねてか、蕪木副官がコーヒーを煎れてくれていた。

 

「ありがとう。」

 

私がカップを受け取ると淹れたてコーヒーから漂う香ばしい匂いは私を現実に引き戻した。

 

カップを傾け一口飲む。ほろ苦さと微かな酸味が私の思考を明晰(クリア)にする。

 

「贅沢品は基本的に私の身体(からだ)に受け付けないのですが……これだけは心から美味しいと感じられますね。」

 

転生直後の路上生活が祟り、贅沢品に対して拒絶反応を起こすようになってしまった私の身体であるが、唯一高級なコーヒーだけは煎れる蕪木副官の腕もあってか美味しく味わう事が出来る。

 

気分転換完了

 

「ユメノちゃんにはいつも助けられていますね。」

 

転生して一番最初に出会った存在。

そして家族とも呼べる唯一の娘。

 

「室長は頑張り過ぎです。……少しは息を抜かれる時間が必要だと私は思います。」

彼女の言う通りだ。少し悪循環に陥っていた

 

「『職務』をこなすためには『休憩』が大切です。」

 

「それに不知火先輩は以前言っていました。『職務には相応の対価と権利が必要』と休憩は当然の権利であり、この原則を組織の長である先輩が否定するのは示しがつきません。」

 

「ふふふ……過去の私に論破されてしまいましたね」

彼女の正論にぐうの音も出ない。

 

だから大人しく彼女の優しさに甘えて休む事にする。

 

「ああ、そう言えば補償の件がありましたね」

一息ついている間にユメノちゃんへ伝えておかないといけないことがあった。

 

「今回の件の非番職員に対する補償ですが防衛室規定に基づく手当に加えて………」

「私のポケットマネーから打ち上げ用の費用を出します。」

これは防衛室の慣例のようなもので厄介な事件などを解決すると防衛室長ポケットマネーから打ち上げ費用を出す不文律があるのだ。

 

幸い今はクレジットに困っていないのでしっかりと領収書を受け取る事を条件にいつもの飲食店での打ち上げを許可した。

 

「やはり室長は打ち上げに参加されないのですか?」

ユメノちゃんは私を気にかけてくれる。

しかし、これに関しては私なりのこだわりがあった。

 

「私が参加した所で場の空気が悪くなるだけですよ、管理職には管理職の役割があります。ユメノちゃんこそ行ってきても良いのですよ?」

 

職員とのコミュニケーションは重要であるが、これは頑張った職員の為の打ち上げだ。私のような『使う側』である管理職が参加しては、変な気遣いで場の空気が盛り下がる事に繋がりかねない。

むしろ、私の『後継候補』であるユメノちゃんこそ参加して他職員との交流をした方が良いと考えていたが………

 

「いいえ、私は室長副官ですので室長の補佐を行うことが何よりも優先されます。そして、それが私の望みです。」

彼女の決意は堅いようだ。こうなった彼女は梃子でも動かないことを長い付き合いから私は理解している。

 

「正直、事後処理の業務が大変でしたので助かります。二人でやれば今日中には終わりそうなので、」

 

ユメノちゃんの優しさを汲んだ私は職責たる業務に取り組むために短い休憩時間を切り上げた。

 

その日、執務室の明かりは日付を跨ぐ前まで灯されていた。

 

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