王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな執務室につっぷすは、赤髪少女。
「疲れているのかしら。蟲毒のように甘い夢を見たわね」
木机には粘性のある小池ができており、少女の口から垂れるは、ヨダレ。
慌てて、薄緑のジャケットの袖で拭き取ります。
「大丈夫よね、もうついてないわよね……」
赤髪ショートの毛先を揺らしながら、ほっぺを触る、赤髪少女。
髪はゆれても、揺れない胸はペッタンコ。こと────赤髪ミジカです。
「にしても夢だったかぁ、もう一回寝ようかしら」
『いあいあ、二度寝すると昼休みが終わっちゃいますよ』
黒色の15cmのペンは、呆れた声をだします。
なぜペンが呆れた声を出せるのかというと、彼女が魔法ペンだからです。
名はブラック☆ナビィ。自称最強の魔法ペンです。
『にしてもミジカさんが見てた夢ですかー』
「何よ、何が言いたいのよ」
『ちょっと気になるなーって事です』
「別に劇的でも、感動的でもない夢よ」
『具体的にはー?』
「灰色の空、小高い丘で、私は話していた」
首をひねりながら、腕を組んで、夢の記憶をたどる、赤髪少女。
ポワポワ。浮かぶフキダシには、夢の輪郭が描かれます。
「会話にふり幅は無く、ただ平坦なお話を繰り返していた」
『ミジカさんがそう言うなら、よっぽど平凡だったんですね』
「今思えば、ツッコミどころは沢山、何が良かったのかすらうろ覚えの、ただの情景よ」
『でもなんで、また見たいと思ったんですか?』
「それは、現実にはありえない光景だったからかしら?」
指を顎に当てて、首をかたむける、赤髪少女。
まぶたを閉じて思案するは、夢の内容ではなく、なぜそんな夢を見たか。
「ナビィ、私、変な魔法を使って寝たかしら」
『ええ、寝言で魔法を唱えていましたよ』
「私、夢遊魔法病の兆候があるってこと……?」
『どうでしょう、図太いミジカさんにしては妙だと思いますよねー』
魔法ペンは机上で、縦回転します。
クルクル。思考を回すように、回転は穏やかに。
「ちなみに────ミジカさん、午後から何かありましたっけ」
「そう言えば、面倒な会議があったわね」
『なら、それじゃないんですか』
「それって、何が言いたいのよ」
『嫌な事を忘れようとして体が反応したんじゃないんですか?』
「まさか、私が会議を恐れているとでも」
『でも前回、ボコボコに叩かれて、泣いてたじゃないですか』
眉毛が∞の形になる、赤髪少女。
まるで嫌な事を思い出してしまったというような、顔です。
「いやまあそうだけど、そんな事で……」
『そういうトリガーだったらどうします?』
「ナビイ、さては何か隠しているわね」
『前回の査定時に気づかなかったミジカさんが悪いと思います』
「前回の査定って、朝の────甘い夢を見せる魔法、かしら」
不認可の籠に入れられた、書類を取り出すは、赤髪少女。
色褪せた用紙に記されているは、特になにも起こらなかった魔法陣。
「これ、効果が無かった魔法じゃなかったけ」
『そうですね。ミジカさんが魔法陣が途切れてるじゃんってキレてた奴です』
「じゃあ、何が問題なのよ」
『暗闇に置いてみると分かりますよー』
魔法ペンは、ぐるぐると回り、少女の行動を急かします。
仕方ないので、カーテンの隅の一角に、書類を置いてみる、赤髪少女。
『ちょっと、光量が多すぎますね』
「はいはい、窓も閉じればいいんでしょ」
『なんなら、魔導ランプも消してください』
暗闇。消したあとには執務室の中は、真っ暗になり、何も見えないハズの室内。
ですが、隅に置かれた書類は違いました────妖しく光る、紋章。
「これは、妖精印……」
『そういうことです。特段の爆弾付きでしたねー』
妖精印。魔法の威力を向上させる目的で考案された、魔法陣へ追加する印。
印を1つ追加すれば、魔法効果は約2倍に。倍々的に増強できる印です。
「だけど、命を削る代償が見つかってからは禁止されたハズ」
『なんなら書き方ごと抹消されましたからねー』
魔導ランプの灯りをともす、赤髪少女。
すると、先程まで輝いていた妖精印は、全く見えなくなってしまいます。
「なるほど、暗闇で光るインクで書いて、検閲をすり抜けたって訳ね」
『私もミジカさんに昨日、執務室に閉じ込められなかったら、見つけれませんでしたよ』
「怪我の功名じゃない。毎日閉じ込めておこうかしら」
『生憎、おひさまに当たらないと、エネルギーが作れない体なので』
魔法ペンは、植物のようにくねくねと、葉を茂らす、物まねをします。
もちろん無視して、書類を見つめる、赤髪少女。
「ナビィ、30分しても起きなかったら、二課に運んで頂戴」
『えっ、ちょ、ミジカさん。まだボケに対するツッコミを聞いてませんよッ』
有無を言わさず、指に魔力をやどし、魔法陣をなぞっていく、赤髪少女。
最後までなぞり終え、極彩色の光りが、少女をつつみます。
「ごめん。ちょっとケジメをつけてくる────
少女は、空に落ちていく気持ちになります。
◆◇◆◇
【夢の中/赤髪ミジカ [現在時刻 ???]】
麦畑。小高い丘になっている、苔が茂った岩場。
苔岩場に座るは、二人の少女。
「────お帰りなさい」
少女、うろ覚えの輪郭をもつ、透明な少女が尋ねます。
「ただいま。とでも言っとけばいいのかしら」
「ふふっ。そうよ、早くお話の続きをしましょう」
透明な少女は手をさしだして、指先をむけるは、赤髪少女。
無風ですが、指先からは甘い香りがして、思わず手を取りたい気分になります。
「ああ、確かに“まだ”いてもいい気分になるわね」
「まだ、どころかずっとここにいてもいいのよ」
「あんた、私の友達にそっくりなしゃべり方をするわね」
「ええ、貴方がそれを望んでいるのだも」
「確かに、麦畑で馬鹿みたいに話し合って、星空を見上げたい、なんて思ったかしらね」
「そうよ、もうすぐ夜になる」
苔岩場から腰を上げ、歩き出そうとする、赤髪少女。
夕日に照らされた、少女の顔は、どこか面倒そうな顔でした。
「待って、まだ夜になってないわ」
「夜になるまでは居れないかな」
「駄目よ、そっちにいっては戻っちゃうじゃないッ!」
「戻って来いって、言われているからね」
「────誰によッ。ここには、私と貴方しかいないのよッ!!」
「────風によ」
赤髪の毛先が、前に揺れます。
冷たく、哀愁の籠った、怨念のような、風。
「戻っても、また苦しむだけよ」
「いいのよ。それが私の人生って決めたのは、私」
心が赴くまま間に、風をうけてすすむ、赤髪少女。
「じゃあ、なんでここに来たのよ」
「まがい物でも、私の過去とはケジメぐらいをつけておくべきだと思ったから」
それ以上でも、それ以下でもないわ────少女の足は、夕日の方へ。
数分後。病室のベットの上で目を覚ますは、赤髪少女。
魔法ペンは、恥ずかしいのを隠そうと必死に、布団の中に潜ろうとします。
「全く、30分も経ってないじゃない」
『いあいあ、私の腹時計だと30分どころか、1時間たってたんですッ』
「大丈夫よ。別に夢如きに囚われる、私じゃないし」
『信じてますからね、ミジカさん……』
なんとも言えない様子で、赤髪をいじくるは、赤髪少女でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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