王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな魔法局の食事場で、赤髪少女がもぐもぐしていました。
「しっかし、ここはいつも人が多いわね」
塗装が剥げタイルが割れた、社員食堂の内部には、大勢の職員。談笑を交えながら列をつくり、席はないかと食事スペースをうろうろする様。
頬杖をつき、うどんをすすりながら、通りゆく人々を流し見する、赤髪少女。
「いやいや、いっつもこんなモンだよ☆」
白いナースと呼ばれた少女は、対面でカレーを食べながら答えます。
制服は白の改造ナース服。濃いアイシャドウのから覗く微笑みは、今日は40点といったところです。
「どうしたのよ、白ナースのクセに今日はやけに疲れてるじゃない」
「あはっは、そんな事ないよ☆」
「メイクで隠しても分かるわよ。それなりの付き合いの功ってやつね」
「はぁ、流石ミジカちゃんってところかぁ☆」
白ナースは、ちょっと疲れた笑顔で答えます。
厚いメイクの下には黒い隈。肌色で塗られても分かるほどの濃さです。
「今年も新人が入る季節になってさ」
「是非とも三課に教えてほしい季節ね」
「あっ、いや、ごめんね☆」
「いいわよ。話を続けて頂戴」
「実は新入りちゃん庇ったら、私がイジメの標的になっちゃって☆」
「とんでもなく、よくある話ね」
人手不足の三課とは違い、医学に精通する二課は、人気の職場です。
世襲制である医者という職業。ですが二課では身分にかかわらず、医学を勉強することができます。
そのため、膨大な人数が応募し、毎年大量の新人が入ります。
「どーせ、新人がやらかしたって話でしょ」
「ほら、新人なんだからしかたないって思わない☆彡」
「まるで体験してきたように語るようで」
「私も入ったばかりの頃は、ダメダメだったから☆」
「でも、あんたの周りはあの頃と同じじゃないわけでしょ」
「それはそうだけどさ☆」
白ナースが入ったのは4年前。ちょうど王国で大きな戦争が終わったころ。
そのため、回復魔法が使える人材は、誰でも歓迎され、大切に育てられました。
「まっ、あんたが望むなら、この私が頑張ってやるのもやぶさかではないって奴ね」
「流石に、ミジカちゃんに頼むほどじゃないかなぁ☆」
「なら「シロナース、そこをどけてもらえないでザマスか」────あんた、だれよ」
鋭角の眼鏡にナース帽をかぶった中年女性が、机の前に。
背後にはとりまきと思われる部下が数人。
「シロナースさんは休憩時間に食事が必要でザマスか?」
「いや、普通、必要でしょ」
「いいや、二課の新人担当に必要はないでザマス」
中年女性の目線は、白ナースに。
視線には、飯を食う時間があるなら新人に指導をしてやれ、と書いてありました。
「食事は必要ですよ。お腹が減って失敗したら元も子もないですからね☆」
「では、彼がした昨日のミスを許容すると」
「当然。あなたと違って彼を殴ったりは趣味じゃないですから☆」
「規則を破ったモノには、咎が降りかかるのは当然の事ザマス」
「だからって、殴っていい訳じゃないとおもいますケド☆」
「いや、イイに決まってるでざます」
中年女性は背筋をただし、眼鏡をこれでもか、と光らします。
考えに一点の間違いもないかのような輝きは、彼女の精神を表しているようです。
「────規律は全てにおいて優先される。そして犯した者は罰を与えられるのが、事実ざます」
「────いいえ、それは間違ってますよ☆」
そんな二人の争いをひょっこりと見守るは、黒い15cmのペン。
どこからか現れた、魔法ペンは、こっそりと赤髪少女の衣服に隠れます。
『うわ~、話が通じないタイプですねェ』
魔法ペンは、わざとらしくオドオドと震えます。
自分の服の震えも気にせず、鞄の荷物を漁っているは、赤髪少女。
『あれ、何やってるんですか?』
「ちょっと探し物よ」
カバンの中には、外で査定しようと思っていた書類が数枚。
どれもこれも、未査定の魔法となっています。
『まさか、職員で試すつもりですか』
「いいじゃない。ちょうどいい実験体なんだし」
『いあいあ。他の課ですよ。絶対仕事増える奴でしょ』
「仕方ないでしょ、三課に近づいたほうが悪い」
『ちなみに、私の力はいりますか』
「いらないわよ。大人しく執務室で寝てなさい」
魔法ペンは、カチカチ、ペン先を尖らせて抗議します。
気にせず、指に魔力をためて、机下で魔法陣をえがく、赤髪少女。
「アナタ、私に用があるでザマスか?」
「別に要はないけど」
「ならその反抗的な眼をやめるでザマス」
「でも、実験台にはなってもらうから────
女性に直撃するは、極彩色の光。
それは魔法が正確に発動した、ということです。
◆◇◆◇
女性は、顔に手をあてて狼狽えます。
「アナタッ、私に何をしたのッ! 何の魔法をかけたのッ!!」
「慌てる事じゃないでしょ。ただの未認可魔法よ」
机に頬杖をつき、いつもの様子で話す、赤髪少女。
会話途中にも、極彩色の光りは強くなり、女性の頭により一層の負荷をかけます。
「ああ、アアッ、流れ込んでくる。くっさい、むさくるしい、暑苦しい考えがッ!!」
女性はヒステリック気味に叫びます。
『ミジカさん、大丈夫ですか、コレ』
「最悪、病室に叩き込んどきゃ大丈夫でしょ」
『いあいあ、容赦無いですね、ミジカさん』
「多少の憂さ晴らしと、友人を馬鹿にされた罰よ」
少女と魔法ペンは眺めている間に、極彩色の光は収まり、女性はようやく自分を取り戻せます
「はぁはぁ、耐えきったわ。耐えきったのよ、私......」
女性は膝をつくほど狼狽し、汗を流すほど疲労しています。
「あ、あの治療とか要りますか……☆」
差し出されるは、白ナースの細い手。まっすぐに差し出された手には、慈悲の心のみが。
ですが
「アナタに施しを受ける程ッ、落ちちゃいないでざますッ!」
弾き飛ばされる、白ナースの手。
女性は髪をかき上げ、眼を見開き、闘争心をあらわにします。
「アナタが気に入らなかった。同僚に頼りにされる姿、そして後輩に慕われる姿ッ」
「それは、貴方だってそうじゃないですか……☆」
「私はそうじゃない。所詮は厳格な規律で固めた、暴力による絆」
「それに、私は皆さんに助けられているだけです☆」
「“納得”ができない。規律は二課で最も重要な事、なのに何故、規律を厳守しないあなたが好かれる」
「私は規律より、“やさしさ”こそが治療に必要な事だと思ってますから」
女性は、二課のナース帽を投げつけます
それが意味するは、決闘の挑戦。自分が最も大事にしているモノを賭けるという宣言でもあります。
「受け取りなさい、シロナース」
「それを受け取るという意味は知っているつもりですが☆」
「“受け取れ”っと私は言ったのよ、シロナースッ!」
「全く仕方ない人ですね☆」
沈黙のすえ、腕章を拾う白ナース。
「拾ったわね。なら、決闘ざますッ」
席から立ち上がり、数歩あるく白ナース。
中年女性はただ佇み、様子を見ているだけです。
「決闘の種目は、剣ですか、拳ですか☆」
「もちろん“魔法”ざますッ!!」
中年女性は解答とばかりに取り出す、一本の縫い針。
マスケット銃を、手に持っていたレシートで変化させ創り出すは、白ナース。
「勝敗は古来から伝わる作法ざます」
「杖の破壊か、利き腕の欠損☆」
「ならば開戦の合図は分かっているでざますか」
「審判の神による、北から吹く風☆」
ガタガタ。食事場の窓が揺れます。室内だというのに、髪を揺らす風。
それは“決闘”の合図でもありました。
「いざ尋常に────」「────勝負です☆」
二人の行動は同時。だが、攻撃は別々です。
女性が投げ込むは縫い針────銃弾を撃ち込むは白ナース。
二つは交差し衝突。ぐにゃり。互いは軌道を変え、後方の壁に激突します。
「なかなか、小癪な魔法を使うでざます」
「魔法ですか☆」
中年女性は腕から血を流しているにも関わらず、姿勢を張り、睨むは白ナース。
彼女の後方、壁には黒い跡。それは銃弾が跳ね返った痕跡を示すものです。
「でも、関係ないざます」
中年女性が発動するは魔法。極彩色の輝きでみるみる治っていくは、腕。
血は止まり、銃弾跡などは無かったかの如く、元の清潔な腕に戻ります。
「利き腕の破壊が通じると思っていたでザマスか?」
「思ってはいませんでしたけど、思った以上に早いですね☆」
技量の差。中年女性が回復魔法で人を癒し始めたのは、白ナースより30年ほど前。
分かりやすく言えば、銃弾だけでは彼女の“利き腕”の破壊は不可能ということです。
「────結局、経験が足らない、という話ザマス」
「────いえ、人を殺す経験なら、十分積んでますよ☆」
極彩色の輝き。魔法が発動したのは、中年女性の腕の内部。
「まさか、銃自体が魔法ではなかったでザマスかッ」
「射撃は技量。銃は杖。魔法が込められたのは弾丸です☆」
血管が膨張し、筋肉が紫色と肌色のコントラストに。
幾重にも異常がないにも関わらず、治そうと動く、腕 。
「この反応。まさか、
「正解☆ 結果はもちろんご存じですよね☆」
極彩色の光が消えた後、中年女性はボロボロになった利き腕を、もたれさせていました。
回復魔法による傷。それは回復魔法では治せないモノの一つです。
「見事。で、ざます」
「まだ利き腕は動くと思いますが☆」
「
中年女性は椅子にもたれかけ、白ナースの方向を見て、聞きます。
「どこでこれほどの技量を────いや、聞かなくても分かるザマス、ね」
中年女性の頭をよぎるは、戦時中に生み出された回復魔法で殺人を犯す部隊のこと。
部隊はあくまで戦場の噂。ですが戦地後方で働いていた彼女にとって、治すことが出来ない負傷捕虜がいたという事実が、忘れてない理由でありました。
「貴方は誰よりも規律の中で生きていた、だからこそ規律を軽んじる権利があるでザマスか……」
「権利なんてないですよ。だだ縛られた私は愚かな人間だっただけです☆」
過去を思い出し、硝煙の匂いが鼻をつく、白ナース。
服装は軍服だった、そんな頃の彼女の思い出です。
「その魔法も、人を殺さない程度にしか調整できない回復魔法ですから☆」
「それを含めて見事、ということでザマス」
中年女性は自分の太腕をみながら、語ります。
力を入れようとすれば、ピクリとする程度には致命傷を避けている右腕。
「回復魔法の効果は、身長、体重、性別によって千者万別。それを一瞬で見切った技量に敬意を評しているでザマス」
「敬意なんて、そんな褒められた技ではないですよ☆」
中年女性は“納得”をした顔で、赤髪少女に尋ねます。
「赤髪の職員、この魔法はあとどれくらいもつでザマスか」
「まあ、あと数分もすれば消えるんじゃないの」
「なら、それまでにやっておくことがあるザマスね」
中年女性は、眼を瞑り、普段の自分が言えない言葉を告げます。
「ありがとうございました────」
決闘の負けを認める言葉。極彩色の輝きはとうに彼女から失われていましたが、それを指摘する者はいませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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