王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな魔法局の入り口に、赤髪少女の姿がありました。
「げっ、傘持ってきてないんだけど」
曇天を眺めて、頬にあたる雨粒を感じながら、呟くは赤髪少女。
雨に当たる赤髪はショート、全く濡れない胸はペッタンコ。制服は薄緑のジャケット(王国指定)です。
『いあいあ、雨の中走れば、水もしたたる美人になれますよ』
黒色長さ15cmのペンは、制服のぽっけから間違ったことわざを教えてくれます。
どうしてペンが、ことわざを教えてくれるかと言いますと、彼女が魔法ペンだからですね。
名はブラック☆ナビィ。自称、最強の魔法杖です。
「馬鹿を言わないで。水が滴ったら風邪をひくだけでしょ」
『まっさかー、馬鹿は風邪をひかないって言われてますし』
「確かにアンタは風邪をひかなそうよね」
『私はガラスのハートですから、いつも心の病にかかってますよ』
魔法ペンは、わざとらしくオロオロとペン先を震わせます。
ガラスのハートどころか、図太い幹の間違いだろと思うのは、赤髪少女です。
「まあ、それはともあれ、雨どうしようかしら」
『止むまで仕事しとけばいいじゃないですか』
「嫌よ。折角定時で上がってんだし、なんで執務室に戻らないといけないのよ」
『でも、このまま帰ると雨に濡れる事になりますよ』
魔法ペンの言葉を聞いて、周囲を観察する、赤髪少女。
どうやら周囲の人間も、雨が降るとは思っておらず、魔法局に置かれている置き傘は一本も残ってはいませんでした。
「はぁ、折角の服を濡らしたくはないし、執務室に戻るかぁ」
『流石ミジカさん。仕事中毒』
「いい加減にしないと折るわよ、そのペン先」
『あっ、はい。すいませんした』
魔法ペンは、鋭い眼光をくらってか、つい謝ってしまいます。
どうやら赤髪少女にとって久しぶりに帰れる定時というのは、命の次ぐらいに大事だったようです。
◆◇◆◇
【王国/魔法局・3課執務室 [現地時刻 17:30]】
濡れた赤髪をタオルで軽くふき取って、書類を探す赤髪少女。
執務室の机に積まれた仕事から、抜き出すは一枚の古びた紙きれ。
「さて、ついでと半分に査定でもしますか」
『あらら、こんなピッタリの魔法があるんですね』
「逆よ。天候に左右されすぎて、今まで塩付けになってたのよ」
取り出した紙に書かれた文字は────雨をはじく魔法。
作成者からの、使用条件は雨が降っていること。注意事項は特にありません。
『いっその事、コレをかけて帰ればいいんじゃないですか』
「あのね。未認可魔法の使用は、例外を除いて禁止されてるのよ」
『そういえばそうでしたね。ミジカさんが乱用しているせいで忘れてました』
いっつも赤髪少女が乱発しているので忘れがちですが、未認可魔法は特例をのぞいて発動は禁止です。
特例というのは、査定をするときなど、十分に安全が確保された状態でのことを指します。
「じゃあ発動するわよ」
『あの、周囲の安全とかは……』
「気持ち守っているから大丈夫」
『やだー、それって駄目な奴じゃないですか』
魔法ペンの言葉を流し聞きしながら、指に魔力を集めるは、赤髪少女。
魔力の輝き。極彩色の輝きが、爪の先を照らして描かれるは魔方陣。
「さてと────
光渦。陣から溢れた輝きが、赤髪少女の頭上に集まり、無色透明の膜を作り上げます。
最終的には頭上には何も見えなくなり、光さえも消えていました。
「違和感は特に感じないわね」
『それって本当に効果があるんですかね』
「まあ魔法が発動はしてるし、実験あるのみよ」
というわけで、入り口に戻って────雨の中に飛び込む、赤髪少女。
服装はいつもどおりのジャケット制服(王国指定)のまま雨の中を走り出します。
「みてみて、ホントに濡れてないっ」
『いつもだったら、少雨は貫通するとかいうオチがありそうなんですが……』
「どうやら今回の魔法はアタリって事よ」
『ほえー、ホントに濡れませんね』
魔法ペンは、キャップをあけて、曇天を眺めます。
降り注ぐ雨粒は、見えない膜によって弾かれ、地面に飛散していきます。
「水を一滴も通さない防水魔法とか久しぶりに見たわね」
『結構真面目につくってありますね。穴も見当たりませんし』
「これは認可……アレ、なんか、暑くない?」
『これは暑いというより乾燥しているような』
顎に手をあてて、首を傾げる、赤髪少女。
地面を見れば立っている場所だけ、干上がったような地面になっています。
「もしかして、水蒸気すら通さないパターン……」
『どうやら雨に濡れている時だけ、完全に発動するタイプの様ですね』
「ナビィ、これ非常にヤバイと思わない」
『私はペンなのでギリ耐えてません?』
「馬鹿っ、このまま湿度が0%になってみなさい! 体中の水という水を持ってかれるわよっ!!」
走り出す、赤髪少女。目指すは魔法局庁舎入り口。
ですが、一歩踏み出すたびに、体にのしかかる重力が倍増したように、足が重くなっていきます。
「脱水状態一歩手前ってやつ、ね」
すでに意識がもうろうとしている、赤髪少女。
前にきちんと進んでいるかは分かりませんが、彼女は歪む視界の中、歩きます。
「入り口は、あと、ちょ────…『全く仕方ない人ですね』」
どこかで金属が壊れる音。そして、徐々にもどっていく湿度。
「あれ、生きてる……」
歪む視界を抑えながら、立ち上がる赤髪少女。
彼女が疑問に思うは、なぜ外にも関わらず雨が止んでいるのか。
『壊した反省文はミジカさんが書いてくださいよー』
破壊された消火栓。水が斜めに吹き出る消火栓の下で、魔法ペンは佇んでいました。
上空に弧を描き、放出される水流は、水の虹。それは雨から彼女を守っていました。
「何枚でも書いてあげるわよ......ありがとう、ナビィ」
『お礼は言葉ではなく、食べ物でお願いしますねー』
魔法ペンはくるくると回り、彼女はいつもどおりに言うのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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