王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
太陽が昇るころ────王国では通勤をはじめる職員がいる中、すでに窓があいている魔法局の一室。
朝日が照らす執務机には、魔法局3課の札、淹れたての珈琲、山積みの書類、と。
細いしなやかな手がのびて、一枚の書類をつまみます。
「暑い、暑すぎる……」
声がするのは椅子に座り、書類を団扇にして涼む、赤髪少女からです。
ふわり......風がながれ、肌色に透明な汗だまをしたたらせながら、ショートの赤髪がゆれます。
貧相な胸をつつんでいるブラウスは第二ボタンまであけられて、制服(王国指定)は背もたれに放置されています。
『いあいあ、もう夏ですよ』
黒色15cmペンは、執務机の端に横たわっています。
なぜペンが横たわっているかと言いますと、魔法ペン……ではなくても普通は転がっていますね。
では、ペンが何故、自ら横たわっているかといいますと、彼女が魔法ペンだからです。
名はブラック☆ナビィ。自称、最強の魔法杖を名乗るペンです。
「今日は熱すぎるわよ」
『早朝は雨が降っていて涼しかったんですけどねェ』
「むしろそのおかげで、今が蒸熱いまであるわよ」
『まあこればっかりは仕方ないというか。我慢してください』
「我慢が出来れば文句はいってないわよ」
『なら冷房魔法でも経費でおとしてください』
えーめんどくさ。への字に口をして喋る、赤髪少女。
魔法ペンは、彼女がだらけている間にゴミを散乱させていきます。
「なにをやってんのよ」
『夏場アイスを買うためのお金を溜めようかと』
「で、このゴミの散乱がどう繋がるワケ」
『ここを使いたければ、お金を払ってゴミを買い取ってくださいと「えい」────ああ、そんなぁ』
ガラガラ。ゴミをゴミ箱にデコピンで飛ばしてしまう、赤髪少女。
打率は3割4分5厘と言ったところ。つまりは飛んだ3つの内、2つはゴミ箱の外に出ているという事。
『ツーアウトって感じですね』
「なにそれ。どこのゲームのお話よ」
『まさかミジカさんッ。野球をご存じないんですか?』
「ご存じも何も、私はゲームなんてほとんど知らないわよ」
『なら夏は野球観戦で決定ですね』
「なら私に休暇を与えるべく、アンタも働きなさい」
魔法ペンはいそいそと動き出して、画用紙を取り出します。
机上に置かれた紙には“それはソレ、これはコレで”と書かれていました。
◆◇◆◇
【王国/魔法局・3課執務室 [現地時刻 10:30]】
太陽がお空に陣取るころ。執務室の窓から暑さがふきこまれ、机上には汗が数滴にじんでいます。
ニートな魔法ペンは放置して、書類を片付けていく赤髪少女。
「で、次の査定はこれかぁ」
彼女が見つめる書類には、銅で刻まれた“幾何学陣”と“魔法名”が記されています。
丁重に書かれた文字は────低い温度を測定する魔法。
作者からの注意事項は“高い温度は測定しないでください”とのことです。
「メンドクサ。昼前なのに他課に、申請がいるじゃないの」
『そうなんですか』
魔法ペンは机上でくるくると回って、?を描きます。
まあインクを使って描かないだけマシか、と思いながら答える赤髪少女。
「温度を測るって簡単に言うけど、どうやって計るか知ってる?」
『そりゃあ、火でも、日光にでも近づければいいんじゃないですか』
「馬鹿ね、それじゃあ計った温度が正しいかわからないじゃない」
『……確かに。じゃあどうやって数値が分かる熱源なんて用意するんですか』
「簡単よ。基準温度を出してくれる魔法陣があるのよ」
基準魔法陣(火)。一定の魔力を込めて、一定の詠唱で発動すれば、決まった威力が出る魔法陣です。
威力、温度、大きさなど、すべて規則で決まった魔法がでるようになっており、査定ではよく使われています。
「だけど、コレ保管が面倒で一課にあるのよねェ」
『なら今から申請すればいいじゃないですか』
「嫌よ。昼前の一課とか、飢えた肉食獣の集まりだもの」
『じゃあどうするつもりですか』
「とりあえず、お湯を沸かす」
ポットに水を入れて、簡易魔法陣で火にかける赤髪少女。
右手にはカップ麺がすでに半分開けられた状態で用意されています。
『あの、ミジカさん……』
「なによ、ついでに食べようとしているだけじゃない」
『食べようじゃなくて、査定してください』
「分かってないわね」
しゅぽぽぽ。蒸気をだしながら、ポットは沸いたことを知らせます。
待ってましたとばかりに、指に魔力を溜めて陣をえがく、赤髪少女。
「いい、お湯ってのは大体100℃で沸くのよ」
『じゃあ、それを測定するんですか?』
「まあ、見てなさい────未認可魔法、発動」
極彩色の輝きが放たれて、散った粒子が空間に集まり、緑色のデジタル表示が現れます。
表示されるは温度は98℃。赤髪少女の指先近くの温度を計測しているようです。
『何とも言えない温度ですね……』
「ここで使うのが、カップ麺」
『なんか使う要素あります、コレ?』
カップ麺に、お湯を注ぎ、秒まで表示できるタイマーが添えられます。
『そろそろ、答え教えてもらっていいですか』
「このカップ麺、100℃のお湯で3分きっかりで作らないとおいしくないのよ」
『まさか味で判断する気ですか……』
「そうよ。一番妥当で、分かりやすいでしょ」
『いやいや、誤差とかいうレベルじゃないような』
「問題ないわよ。死ぬほど食ってるから、数度ぐらいの温度の違いは余裕よ」
というわけで3分。湯気が昇るカップ麺を食べた赤髪少女の感想は────
「うーん、微妙っ」
どうやら温度は+3度ほどのズレがあったとの、本人談。
魔法ペンは呆れてなにもいうことができませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。