王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな執務室で、叫ぶ赤髪少女。
「歯磨きがしーたーいっ」
天井にひっくりかえる頭、ショートの赤髪は地面にくっつきます。
魔法局制服の袖はジタバタとふるえ、微動だにしないのは彼女のペッタンコです。
『いあいあ、すればいいじゃないですか』
机からはみ出して下を見つめるは黒色ボールペン。
ペンが言葉を話すことはありませんが、彼女は魔法ペンなので言葉を話します。
自称するは最強の魔法杖。名乗る名は、ブラック☆ナビィです。
「それが歯ブラシが壊れたのよ」
『歯ブラシって壊れるものなんですか……?』
「壊れるわよ。ボキっと」
『いあいあ、普通は壊れませんよ。普通は』
魔法ペンは、わざとらしく2度言います。
なんなら、まあミジカさんは割と普通じゃないんで壊れますよね、と付け足すのも忘れません。
「えいって」 ←デコピンをする赤髪少女。
「見切った」 ←上手く躱す魔法ペン。
「あまいっ」 ←追加攻撃をかます赤髪少女。
「まだまあ」 ←華麗にジャンプする魔法ペン。
「どっこい‼」←ヘッドバットをかます赤髪少女。
「へぐげっ⁉」←流石に予想できなかった魔法ペン。
ぐるぐるとペンが空回る音だけが、部屋の隅から聞こえます。
「ふう、悪は去ったわね」
『うぅうぅ、どちらかと言えば悪はミジカさんでは......』
部屋の隅からはうめき声とともに、とんでくるツッコミ。
気にせず椅子を立てて、ドカッと座り直して、はぁーとため息をつく赤髪少女。
「うう、やっぱり息が匂う」
『そんなに気になるなら口をゆすいどけばいいじゃないですか』
「ゆすいだわよ、何回もっ」
『じゃあ、いいんじゃないんですか』
「朝、納豆食べちゃったのっ」
『ああ、だから納豆臭いんですね。今日のミジカさん』
驚き、慌て、椅子をひっくりがえす赤髪少女。
もちろん魔法ぺンには鼻なんてありませんから、適当に行っただけです
赤髪少女は、机の周りを言ったり←→来たりして、何とかしようとします。
「だ、大丈夫よね……もう匂ってないよね」
『大丈夫か聞きたいのはこっちのほうなんですが』
「う、うがいはしたわよ。ヨーグルトも飲んだし……」
『もう胃の中に入ってるから関係なさそうですけどね』
魔法ペンは呆れて机上で転がっています。
未だに慌てふためく赤髪少女。どうやら彼女にとって納豆を食べたとバレることはよっぽどマズいようです。
『そんなに大変な事態なんですかね、それ』
「当然よ。二課の生物連中に見つかったら処刑されかねないわ」
二課とは回復魔法を査定する部門。もちろん動物や、微生物に働きかけるモノがありますから二階には色々な規則があります。
その1つが納豆を食ったら処す、です。
「昔、納豆で実験生物が全滅していらい厳しくなったのよ」
『でもミジカさんは納豆を食べてきたと』
「3課だしいいかなって」
魔法ペンは、ひとつ下の階が二課なので駄目じゃね、と思いますが口にはしません。
魔法ペンがカランコロンと音をたてている間にも、赤髪少女は仕事の山から一枚の書類を発掘。
いいモノを見つけたとばかりに、魔法ペンに言います。
「じゃじゃーん、これでどうよ」
『なんですか、この魔法……』
魔法ペンは呆れてしまう、いつもどおりの微妙な魔法。
銅のインクで彩色された書類、魔法名は────水で歯を磨く魔法。
作者からの注意事項は、水には不純物が少ないモノを利用してください、とのことです。
◆◇◆◇
【王国/執務室/洗面台 [現地時刻 10:00]】
鏡にうつった少女は、蛇口をひねり水を風呂桶に注いでいます。
風呂桶からはみ出るくらいに、なみなみと揺れる水面。
『いっぱい注ぎましたね』
「大は小をかねるってやつよ」
『でもコレって非常用でしたよね』
魔法局の洗面所で、蛇口をひねると水がでるようになっているのは、危険な魔法が当たった場合、素早く手当をする為です。
屋上に貯蔵されたタンクから、上限がある綺麗な水を流しているので、赤髪少女の行為はヨシとはいえませんね。
「まっ、細かいことは気にしない」
『まあミジカさんがいいなら、いいんですケド』
指に魔力の灯りをともし、神秘的な陣をえがいていく赤髪少女。
最後の円を、少女の指が繋ぎきった時、空中に魔法陣が完成します。
「さて────
極彩色が宿るのは、ちゃぽちゃぽなる風呂桶。
風と、輝きが、大きくなり「ふげっ⁉」────少女の顔に盛大にぶち当たります。
正確に表記すれば、巨大な歯ブラシとなった水の塊が口の中に突っ込んでいった、といった感じでしょうか。
「ナビィィ……タオルある……?」
『ありますよ。濡れたタオルがミジカさんの後ろに』
「だーれが、濡れたタオルを教えろっていったぁ」
『ちなみに乾いたタオルはミジカさんが洗濯をサボっているせいでありません』
「うぐっ」
『まあ、ペーパータオルなら机上に「それを早くいいないさいっ」────あっ、はい』
ドアが盛大な音をたてて、紙がめくれる音が響いたあと、赤髪少女が戻ってきます。
『もう一回、風呂桶に水を溜めます?』
「うっさいわね。今度は少しの水量でやるわよっ」
『アレ、それ水少なすぎません?』
「こ、これぐらいの水量でいいにきまってるハズ……」
再び魔法を発動すると、今度は水が足らず魔法がうまく発動しない結果に。
結局3回ほど顔に水をぶっかけた後、ようやく口を磨くことに成功する赤髪少女。
「お、覚えていないさいよ、製作者……」
『まあ、そんなモンですよ、魔法なんて』
呆れる魔法ペンを放置して、査定書の編集に取り掛かる赤髪少女でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。