王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな魔法局の執務室。古びた壁でかこまれた部屋に、赤髪の少女がいました。
「ほげーた」
間抜けな声を口からだして、両腕をのびのびと天井にむけている少女。
ショートの髪先はかわいらしい頬にかかり、王国指定の制服がうえにひっぱられ、ぺったんこな両胸がこれでもかと強調されています。
がしゃがしゃ。こすれた音が聞こえるのは、彼女が制服内にさまざまなモノを詰め込んでいるからでしょう。
「ああ、もう寝てもいいかしら」
『いあいあ、駄目に決まっているでしょ、ミジカさん……』
赤髪少女のことを名前で呼んだ声。
執務室内には彼女しかいませんが、声ははっきりと聞こえています。
「別にいいでしょ。必要な休憩よ、ナビィ」
『その休憩さっきから何回とっているつもりなんですか……』
やっぱり、びびく声。ころころと転がるような丸い声。
よく見てみると執務室の机にころころと転がっている、黒色ボールペンがいます。
もちろん普通のボールペンからは声は聞こえませんが、彼女は魔法ペンなのでなんの問題もありません。
「そりゃあ、3回ぐらい?」
『これを含めて10回目です』
「まあ誤差みたいなモノね」
『二桁が誤差だったら世界が崩壊しますよ』
そんなつっこみをいれるボールペンこと、彼女の名前はぶらっく☆ナビィ。自称最強の魔法ペンにて、魔法局三課の居候となっています。
まあ居候の割にずうずうしいのはいつもの日常。
今日も働かない赤髪少女をからかって、時間をつぶそうとする魂胆です。
『まったく、サボるのはいいですけどちょっとは働いてくださいよ』
「あのね。働いてはいるのよ。ただちょ~と仕事が終わらないだけで」
『それを働いていないって、いうんじゃないですか?』
「私の予定では寝ているあいだに、こびとさんがやってくれる予定だったの」
彼女の手元にあるのは、1+3は7と書かれた書類。
『どっからツッコめばいいんですかね』
「こびとさんが計算を間違えるところかしら」
『いや、そもそもこの書類判子を押すタイプでは……』
魔法ペンは呆れた声をだします。
それはこの後、書類を再び発行して貰って、もういちどサインする手間を考えたら、今夜は残業じゃね、と思った気持ちも含まれています。
「まあ今日は予定があるから、早上がりするけど」
『でもこの書類どうするんですか?』
「明日の私がなんとかしてくれるでしょ」
『それって昨日のミジカさんもいってませんでした?』
「悪いけど過去のことは振り返らない性格なの」
『だから毎回同じ事で怒られているって気づいてください』
「────ええい、うるさい」
乱高下する感情とともに、真っ赤になった赤髪少女の顔。
気持ちがおもむくままに魔法ペンを折ってやろうかとと思いますが、どう考えても自分が悪いので今回は自制します。
そのまま、すう、と深呼吸をして、
『赤髪もあいまって熟したトマトみたいで────ボキッ』
よけいな一言をいった魔法ペンは見事に、半分。折れられた部分から黒インクがもれてないのが唯一の救いといったところでしょうか。
そんな残骸を机のすみに片づけて、赤髪少女はペンをはしらせます。
いつもどおりに降ってくるは1枚の書類。
「で、今日はどんな魔法がやってくるのよ」
彼女にとって変わらない査定時間のはじまりです。
◇◆◇
大きな執務机に置かれたのはさまざまな、布きれ。
積み上がった山をわけてみると、大小、質感、光沢、40種類ほどに及びます。
「で、これも駄目か」
指で布をつまみ上げては、放り投げを繰りかえしているのは、赤髪少女。
現在39回目の失敗をしたところ。声色もあせて、根気もつきてきたといった状況になっています。
「もう不認可の印をおしていいかしら」
『いいんですか? そんな簡単に諦めて』
ちゃちゃをいれるのは、体にガムテープをまきつけている魔法ペンです。
接合部が不安定なのかぐらぐらしながら話していますが、そもそもガムテープをどうやって巻いたのかすら疑問です。
「もういいじゃない、39種試して発動しない魔法はクソ一択でしょ」
『でも、まだ一種残ってますよ』
赤髪少女の目に映るのは、1枚の布きれ。
ボロボロの布に、ミシンの縫い目をいれたそれはいわゆる“ぞうきん”と言われるものでした。
「逆にこれでいけると思うのかしら」
『いけるんじゃないんですか。どんな魔法かは知りませんけど』
「どんな魔法もこんな魔法よ」
少女の指がつまむのは1枚の書類。
銅の彩色でおおわれた用紙にかかれた文字は────黄色いハンカチを作る魔法。
制作者からの注意事項は、ハンカチにしようしてくださいとのことです。
「で、そのハンカチっ! どれよっ!!」
『まあ、よくある奴ですよね』
「あるあるだとしても、試すこっちがわの気持ちになれっつーのっ」
査定あるあるの1つ。制作者の対象指定が厳しすぎて魔法が発動しないパターン。
今回は、材質か、大きさ、のどれかの条件が一致せず、かれこれ3時間ほど魔法を試す羽目になっています。
このパターンの最長記録7日にはおよばないもの、3時間も拘束されたら誰でもキレそうにはなります。
「もう、このぞうきんで発動しなかったら不認可一択にしてやる」
『いや、むしろ発動したら不認可一択じゃないですか……』
「じゃあ、どうしろっていうのっ」
『そんな感情豊かにキレられましても……うん?』
魔法ペンはふと思います。
「────そもそも、ミジカさん、ハンカチで試しました?」
「────ハンカチって布ならなんでもいいんじゃないの?」
いいわけないです。そんな気持ちをぐっとこらえる魔法ペン。
どうせ、生活力:雑の赤髪少女にいったところで分かってくれないだろうという諦めも含まれています。
気持ちの整理に数秒かかったあと、とりあえずの提案を魔法ペンはしてくれます。
『まずは、ミジカさんのハンカチとかで試して見ませんか』
「なら、向こうの机にあるティッシュをとってちょうだい」
『あの? いや、ハンカチの魔法ですよね……』
「私にとってティッシュは実質ハンカチみたいなもんよ」
『えぇ』
そんな呆れをみせる魔法ペンのよこで、ティッシュに向けて魔方陣を書き始める赤髪少女。
このあと黄色くなったティッシュをみてから、もういちど呆れた声をだす羽目になる、魔法ペンでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者がよろこびます。