王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
ハラハラとドキドキを、アナタの日常に。
────魔法査定の書類にはそう書かれていました。
【王国/魔法局・3課執務室 [現地時刻 11:30]】
書類が山積みにされた執務室に、少女の叫び声がひびきました。
「いるかァ、そんな日常ォッ!」
書類をゆらし、部屋をゆらし、ドアをゆらし、かけられた表札はカランカランと盛大にゆれて、ブチっと落下します。
落ちた表札には────王国魔法局第3課、と書かれていました。
魔法局とは、魔法の安全性を確かめる機関のこと。そして3課には、分類:その他の魔法が集まります。
『あの~、私のプラモ壊れたんですけど』
そんな呑気な声が部屋の中から聞こえます。
「知らないわよ。後で接着剤でくっ付けておきなさい」
『え~、ミジカさん、最近のプラモが接着剤でくっ付くと思ってます?』
「なら魔法でくっつければいいでしょ」
『じゃあ、魔力分けてくださいよ』
「嫌よ、私が疲れるし」
部屋の中を見て見ると、赤髪の少女は一人で言い争っています。
机の上にむかって、ぶんぶんと腕をふるって、そこにいる誰かに抗議するようです。
「そもそも、なんで魔法ペンのくせに、プラモなんか作ってるのよ?」
『ほら最近趣味を増やしたくてですね。見てください」
机の上を見てみれば、綺麗なニッパーをもっている、黒いボールペンが立っています。
「奮発して新品のニッパーも買っちゃいました♪』
「いや、ペンなのにどうやって使うのよ……」
『そりゃ、こうやってうまい感じにですね』
かちかちと、ペン先をだしてニッパーを開閉する、黒いボールペン。
なぜボールペンがニッパーを使えるといいますと、彼女が魔法ペンだからですね。
名はブラック☆ナビィ。自称最強の魔法杖をなのっている、黒いボールペンです。
「もう……ナビィに付き合う方が時間の無駄か。仕事あるし」
『そんな、最初に話題をふったのはミジカさんじゃないですか』
壊れたプラモを器用にもってから、抗議する魔法ペンです。
「アンタが机の上に、何体も作っておいているからでしょ」
『だって、この部屋書類で埋まっているから、作業空間が机の上しかないんですよ』
「上しかないんじゃなくて、仕事をするために机の上は綺麗にしてるのっ」
『じゃあ、早く仕事をしてください』
「※王国スラング(規制表現)っ!!※」
正論を突かれて、自分への怒りと魔法ペンの怒りが混じる、赤髪少女。
結局仕事をしないといけない気持ちが勝って、体から蒸気をあげながらも、無理やり椅子に座ります。
そんな彼女をしりめに、魔法ペンは呑気に接着剤を用意して、プラモデルをなおすのでした。
◆◇◆◇
【王国/魔法局・3課執務室 [現地時刻 12:00]】
「で、これはどうすればいいわけよ」
数分後。机に肘をついて、頭をかかえる赤髪少女がいました。
机には1枚の書類。魔法の名前は────使ってみないと分からない魔法。
魔法記入の欄は、黒色に塗りつぶされ、真っ白な【】だけが描かれていました。
『ずいぶん変な魔法陣ですね』
「そもそも、内部に文字が描かれてない時点で、魔法が発動しなさそうだけど」
赤髪少女の疑問。魔法陣は【 文字 】で構成されるのが基本です。
ですが、この魔法陣には“文字”の部分が存在していません。
文字の部分がないということは、魔法に方向性があたえられず、何も起きないということを意味します。
『それはそうなんですが、えーと、うーん────ああ、なるほど』
魔法ペンは、魔法陣の周りをクルクルと回り、何かを感じ取ったようです。
「何がなるほど、なのよ?」
『確かにミジカさんにはちょっと難しいかもしれません』
「だから、どういうことよ」
『結論から言えば、文字っていっぱいあるよね、ってことですよ』
魔法ペンの要領を得ない回答に、赤髪少女は頭を痛めます。
『まっ、使ってみればわかるんじゃないんですか?』
「この魔法を使いたくないから、眺めてたんだけど」
『ちなみに私のオススメは陣の淵だけをなぞって、魔力を通すことです』
「なんで発動方法にオススメがあるのよ……シェフの気まぐれ料理じゃあるまいし」
いいから早く、早く。そんな急かす魔法ペンの声を聞いて、赤髪少女はしかたなしに詠唱を始めます。
「ええっと────」
指に魔力をあつめて、そっと魔法陣にちかづけます。
魔力の流し方は、魔法ペンが言った通りに、陣の淵をなぞって、
「────
極彩色の輝きがあふれます。
強まることしかしらない輝きは、次第に黒くなり、異空間に繋がります。
「あれ、ちょ、なんかヤバくないっ」
『ヤバいですよ。古代魔法に近い威力でてますから』
空間の奥底からは、はいよるナニカが。
赤髪少女は、ソレを見つめると一瞬だけ頭がいたくなり、存在を認識できるようになります。
そこには────黒い触手がいました。
『おー、凄い。中々によく組まれた魔法陣ですね』
「いや、なに感心してるのよっ」
うねうねと、触手はうなり、得物を探し求めるように動きます。
無数の触手がうごくものですから、椅子は倒れて、机は傾き、書類は舞っています。
そんな触手を器用に躱しながら、魔法ペンはしゃべります。
『大丈夫ですよ。餌を食べたら、たぶん消えると思いますので』
「で、その餌って言うのは」
一方、赤髪少女は涙目になりながら、腰を抜かしています。
『人型のモノならなんでも、ですねかぇ』
「雑食でボールペンとかも食べたりしないのっ」
『しませんね。彼らはあくまで人型のモノを減らすように作られていますので』
「ばかっ、ばかっ、ばかっ、私一択じゃないのぉっ!」
はい寄ってくる触手。腰を抜かして立てない赤髪少女には逃げるすべはなく、
「────って、あれは」
視界にうつるのは、魔法ペンが作っていたプラモデル。
1/40魔導戦機ゴーレムちゃん 。よく見ればワンチャンありそうな、人型です。
「なんのぉっ」
『ちょ、ミジカさん、それ私のプラモですよッ!!』
赤髪少女は腰を軸にして、足をプラモデルの後ろに、そして遠心力そのまま触手のほうに、シューート!
鋭い軌道をえがいて、プラモデルは触手がねっとりキャッチ。
「よし、我ながらナイスキックっ」
『いあいあ、ナイスどころか、バットですよッ』
プラモデルを手にした? 触手はうねうねと。全体的を触り、判断は────満足。
魔法陣からの光りが弱まって、そのまま吸いこまれるように消えていきます。
「き、消えてくれた……」
後にのこったのは、書類も、家具も、散らかりまくった執務室です。
赤髪少女は周囲を一瞥すると、背中から倒れ込みます。
「ハァハァ、死ぬかと思った」
息をきらして、床で大の字になる、赤髪少女。
その横では、床にめり込むほど落ち込んでいる、魔法ペンが。
『もってかれた、限定品プラモなのにもってかれた』
どうやら触手は消える時には、捕らえたモノももって帰るみたいです。
「……ナビィ、今度やったらただじゃ済まないわよ」
『……えぇ、これでもマシな奴を選んだつもりなんですけどねえ』
「……それ、マジ?」
『……下手すりゃ、魔法局ごと吹き飛ぶ奴もありましたよ、アレ』
赤髪少女は理解するのに数分かかった後、倒れた机の引き出しから、“不認可”の判子を取り出して、力強く押すのでした。
◆◇◆◇
【余談:なぜ文字もなく、魔法が発動したか】
「ちなみに、なんで発動したのよ、アレ?」
『あれはですね。黒く見えるところが、言語になっていたんですよ』
「……どゆこと?」
『ほら、ここ見てください』
「確かに一本の線が見えるけど」
『それが文字になってます』
「文字って、この直線と、直角が?」
『それで“角”って読みます。こっちは“虫”ですね』
「じゃあ、この線をつないで文字にしてたわけ」
『そういうことです。それが束となって書かれているので、黒色の塗りつぶしにみえたってわけです』
「なんというか……手の込んだことを」
『個人的にはおもしろさ99点って感じですね』
「じゃあ、残り1点はプラモを持っていかれた分かしら」
『分かりませんよ。ミジカさんを怖がらせた分かもしれませんよ?』
「ふふっ、じゃあ、そういうことで」
『そういうことです』
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。