王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
すべての人が楽に草抜きができますように。
────査定の書類にはそう書かれていました。
【王国/魔法局・受付 [現地時刻 10:00]】
書類を執務机において、赤髪少女は呟きます。
「芝……魔法局の敷地でやるしかないわよねぇ」
机のまえにおかれた名札には、魔法局査定部3課、と刻まれています。
魔法局査定部は、とある王国において“魔法の安全性”を確かめる部署の1つです。
そんな部署に、赤髪の少女は所属していました。
「でも、許可とれるか『zzz』なぁ『zzz』────にしても、コイツは呑気よね」
赤髪少女の視線は、机上で寝ている黒色ボールペンに。
なぜボールペンが寝ているのかといいますと、彼女が魔法ペンだからです。
名はブラック☆ナビィ。最強の魔法杖と自称している黒色のボールペンです。
「まったく、まじめに仕事してる方が馬鹿らしくなってくるわ」
ちょっと腹がたった赤髪少女は、魔法ペンを指ではじきます。
「えいっ」
『いたッ』
「起きたか、寝坊助ナビィ」
『損害賠償を請求しますよ。ミジカさん』
ミジカと呼ばれた赤髪少女は、鼻で笑います。
笑われた魔法ペンは抗議にぐるぐると回ります。
机の上の書類が、バサバサと飛んでいくので結構な迷惑です。
「はいはい、寝てないで、庭の使用許可とりに行くわよ」
『えぇ、オチが見えているのでいきませんよ』
そんな魔法ペンの言葉を聞いて、眼を丸くする赤髪少女。
「珍しいわね」
『賢いナビィさんは、無駄な労力はしない主義なので』
「じゃあ私一人で行ってくるわよ。時間もおしてるし」
赤髪少女は上着を羽織り、執務室のドアを開けて、どこかに行ってしまいます。
残された魔法ペンはぽつりと、
『いや、前回やらかした事、ホントに忘れているんですね……』
と、つぶやくのでした。
◇
【王国/魔法局・受付 [現地時刻 11:30]】
魔法局一階の受付では、魔法局施設の使用許可が取れます。
施設は膨大な数があり、個人同士の取り合いをふせぐために、受付での一括管理となっています。
ですから、魔法局の裏庭をつかうのも、事前にいってからの使用となります。
「といわけで、申請「ダメです」────うん?」
赤髪少女は首をかしげます。
なんなら、施設名すら言ってないのに、申請の二文字をいっただけで否定された気がします。
魔法局員には、魔法局の施設をつかう権利があるハズ……そんなことを思いながら質問をします。
「し「ダメです」────ま、まだ、なにも言ってないでしょっ」
受付の女性は、真顔で質問に答えてくれます。
「現在、3課に施設を貸すことはできません」
「なんでよ」
「なんでって、前回施設を貸した時のことを覚えていますか」
「確か、アレは」
赤髪少女の脳裏におもいだされる記憶。
焼肉魔法で、施設ごと焼いたやつかしら……
それとも、ホースを増やす魔法で、水浸しにしたヤツ……
正確には思い出せませんので、しかたなしに受付の女性に聞くことにします。
「前回って施設を、焼いたっけ 浸したっけ?」
「吹き飛ばしたんですよ施設を。跡形もなく、ね」
受付の女性は、青筋をうかべなかがら、答えてくれます。
周囲の気温が下がっている気もしますが、赤髪少女は気にしません。
むしろ、謎が解けてすっきりした表情をしています。
「あー、そんなこともあったわね」
「そんなこともあった?」
「まあ、よくあることだから気にしないでちょうだい」
「“よくある”じゃないんですよッ!!」
急に、受付の女性の叫び声をあげて、びっくりしてしまう赤髪少女です。
「いいですか、毎回、毎回ッ、こっちがどれだけ後処理に困っていると思っているんですかッ」
「後処理って、魔法でぱぱっと片付けるだけでしょ?」
「そりゃあ、ブツが残ってたら片付けますよッ」
「ほら、少しぐらいは残っているから」
「知ってますか? 周囲に散らばる瓦礫は残ってるとはいわないんですよ」
「初耳ね。例え瓦礫になっても、魔法局の人間なら復元できると信じているんだけど」
気づけば────手と手で押し合って、お互いの考えを譲らない、女性と少女の姿がありました。
このままでは埒があかない。そう思ったのは両名とも。
ですが女性の方が一手はやく、口をひらきます。
日常的に受付と、査定をしている者の差ですね。
「ところで、前回行った言葉覚えてますか?」
「たぶん覚えてるわよ」
「こんど施設を爆破したり、燃やしたり、消し飛ばしたりしたら、貸しませんよって話です」
「やっぱり覚えてないわね」
「────大丈夫です。きちんと文書に残してあります」
彼女の視線のさきには、3課お断りの紙。
下には、赤髪少女が“わかったわよ”と言っている、動く写真もついています。
「で、なにか言い残すことはありますか?」
「ワンチャンとかないですか」
「そこになければないですね」
「殺生なっ」
「じゃあ、前回の施設修復代金はらってください」
「いやだっ」
「じゃあダメです」
赤髪少女はしかたなく、別の方法を模索するのでした。
◇
【王国/魔法局・3課執務室 [現地時刻 13:30]】
執務室には、土塊がボロボロと落ちていました。
元凶となっているのは、もちろん赤髪少女。王国に最近できたホームセンターまで往復して、買ってきたモノがあるそうです。
そのせいで、執務室ドアの向こうにも土塊がポツポツと落ちていますね。
「というわけで、園芸用の芝を買ってきました、はい」
『どうしたんですか、そんな疲れた顔をして』
「疲れた顔にもなるわよ。このクソ暑い中、店まで歩いて見なさいよ」
『別に、車でいけば良かったじゃないですか』
「車も壊すから3課には貸せないって言われたわよっ」
『なかなかに察しがいい魔法局員ですね』
赤髪少女は疲れたと表現するように、芝をドスンと床に置き、椅子にドカッと座ります。
「つ”か”れ”た”」
『じゃあ、魔法の査定しますか』
「つ”か”れ”た”っ」
『でも査定しないと仕事進みませんよ?』
魔法ペンから正論をくらい、赤髪少女はとりあえず窓の外を見ます。
青い空。蒼の輪郭のしたには、王国の建物がどこまでも広がっています。
────世界にくらべて、私って小さなものだな。
ちょっとだけ悩むのが馬鹿らしくなってくるのを感じます。
「さて、やるわよ」
『いいんですか? 芝の量足りてますか』
「じゃあ、追加分はアンタが買ってきなさいよ」
『それはちょっと違うかなーって』
椅子から立ち上がり、赤髪少女は芝を広げていきます。
だいたい1平方メートル。ざっと畳一畳分ぐらいの大きさです。
「さてと、書類、書類」
『机のうえに転がってますよ』
「ああ、ありがと、ナビィ」
『いあいあ、それほどでもです』
「では、さっそく────」
赤髪少女は指に魔力をこめて、魔法陣の輪郭をなぞります。
すると魔力はゆっくりと流れ、次第に文字を浮かび上がらせていきます。
「────未認可魔法、発動」
極彩色のかがやき。魔法陣から放たれるそれは、極限までつよくなります。
そして視界を埋め尽くすほどの、光が放たれます。
「まぶしっ」
『ありゃ、召喚魔法ですか』
眼をみひらいた先には────ヤギ。
しかも一匹ではありません、執務室を埋め尽くすほどの、大量のヤギです。
「あのさ、なんかオチが見えたんだけど……」
『まっさかー、気のせいですよ。芝を刈る魔法ですよ?』
「でも、刈るための芝って少量しかなくて」
『じゃあなんですか、芝以外のモノが刈られると』
「ほら、ヤギって結構雑食じゃない」
『そんな草みたいな都合のいいモノがあるわけ』
むしゃむしゃ。
音がした方向をふりむくと、そこにはおいしそうに書類を咥えている、ヤギの姿がありました。
「ちょ、それ大事な書類っ」
『知ってた』
むしゃむしゃむしゃ
「ああ、それまだ読んでない雑誌ィ」
むしゃむしゃむしゃむしゃ
「駄目、机と椅子は食べ物じゃないのォ」
『スゴーイ、ホントに雑食だぁ』
そしてたらふく食べたヤギたちは、もちろん────
ぶりぶりぶり。気持ちよさそうに食べたモノを分解して出します。
そして、一通り食べたヤギたちは満足して消え去っていきました。
「終わりだ」
『ほらまだ一部分残ってますし……ワンチャン復元出来たりしませんかね?』
「じゃあ、アンタはこの天然肥やしを受付に持っていけるわけ?」
『自分は魔法ペンなのでちょっと無理かなって』
ぷーん。と土の香りを漂わす、天然肥やし。
地面に撒けば、いい土ができて、草木が成長しそうな気がします。
「……とりあえず、庭にでも撒いとくか」
『……そうですね。そうしましょう』
現実逃避をはじめた、赤髪少女と魔法ペンは、とりあえず部屋の片づけから始めるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。