王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
青春が思い出せますように。
────書類にはそうかかれていました。
【王国/魔法局・執務室 [現地時刻 10:00]】
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな執務室で、赤髪の少女は、可愛い顔を執務机にくっつけます。
まるっこい瞳をむけて、手にもっていた書類を再びみつめます。
「よし、次回に回そう」
赤髪少女は書類を山に戻しました。
無理やり戻したものですから、書類の山がゆれて、机もゆれます。
それにびっくりしたのは、
『いあいあ、急に揺らさないでくださいよ』
執務机の端で、新聞を読んでいるボールペンです。
なぜボールペンが新聞を読んでいるのかといいますと、彼女が魔法ペンだからです。
名はブラック☆ナビィ。最強の魔法杖を自称している、魔法ペンです。
「投げ出してはないわよ。ちょっと後回しにしただけで」
『それを投げ出したっていいません、ミジカさん?』
ミジカと呼ばれた赤髪少女は首をふりました。
「いいナビィ、これは戦略的撤退よ」
『撤退してんならダメじゃねって話をします?』
「いや、ほら、それは言葉のアレで……」
『まあ、査定するのが面倒って話は分かりますけど』
「人体実験をしなくていいなら、私だって今日中に終わらせるわよ」
人体実験。人に効果がある魔法を、査定する時に使われる魔法局のスラングです。
未認可魔法の安全性なんて、無いに等しいので、それなりの覚悟をもってやる必要があります。
『いつも通りに、囚人のおじいいちゃん方使えばいいんじゃないですか?』
「流石に、病気の内容もわからない魔法を当てる気にはなれないわよ」
『妙に人間性がありますね。ホントにミジカさんですか?』
「失礼ね。酷使はしても、死んでは欲しくないぐらいには人間性があるわよ」
『じゃあ、どうしますかねー』
と、いいながら、魔法ペンはふたたび新聞を読み始めます。
「アンタは楽でいいわね」
赤髪少女はそんな魔法ペンをジト目でみます。
毎回、査定方法で頭を痛めているこっちの身にも────
「ナビィ、その新聞詳しくみせなさい」
『あっ、ミジカさんも4コマ漫画に興味あったりします?』
「違うわよ。その王国事件の小見出しのところよ」
『この夜の街にスリがあらわれるって奴ですか?』
見出しは、王国中央外れの道にスリ出没。危険な夜の道。
内容を読むと、どうやらフードの男が、暗闇に乗じて財布や、金品を盗んでいくそうです。
『数日後には、警備隊に捕まってそうな話ですねー』
「まあ、連中の手にかかれば数日後には捕まるでしょうけど────逆に言えば数日はかかる」
『あのー、ミジカさん、すっごーい悪い顔になってますよ』
「ほら、防御目的で魔法を唱えるのは、仕方ないことだから」
『それが未認可魔法でも?』
「魔法局職員から盗むほうが悪いとは思わない?」
◇
【王国/中央外れの道 [現地時刻 19:00]】
コートを羽織った男は、いつもどおりの盗みのルートを辿ります。
最近は有名になってしまったのか、この時間帯に道を通る人間すくなく、今日も不漁か、と思っていたところ、
「へっ、馬鹿な少女が夜道を出歩いてるぜ」
男の眼に、赤髪の少女がうつります。
大事そうに肩掛けバックを抱えている、きっとアレには彼女が稼いだお金が入っているに違いない。
男はつい口元が緩んでしまいます。
「まっ、いつも通りに適当に脅かして盗んでやるか」
男は胸ポケットを探って、握るのは杖。16cm、細身、魔法鉄製の杖は、殺傷力が認められた武器となっています。
ですが、そんな危ないモノを見られたら逃げられるのは確定。
なので、できるだけ彼女の視界に映らないように、忍び寄るように距離をつめます。
「あと、一歩」
一歩踏み出した後、彼は杖を取り出します。
そして、赤髪の少女に向けて怒鳴り散らかします。
「おい嬢ちゃん、この杖が見えねえのか」
「な、その杖はまさかー」
赤髪少女からは棒読みの台詞です。
恐怖で感情すら消えてしまったのだろう、ならばさらに脅せば楽勝だな。
男はそう考え、さらに怒鳴り声をあげます。
「傷つきなかったらそのバックをよこしな」
「いやだといったらー」
「その可愛い顔に傷が入ることになるぜ」
「それはたいへんだー」
棒読みの赤髪少女は、困ってはいそうですが、バックを渡す素振りは一切なく。
「おい、早く渡しやがれ」
「でも、このバックには大事なものがー」
「なら痛い目を見てもらうぜ、認可魔法」
赤髪少女がいた横の地面がふっとびます。
石や砂埃が飛び散って、土煙が舞いあがっていますので、威力は大したものです。
「今度は体に当たっちまうかもしれないぜェ」
高らかな声をだして男が勝ちを確信していると、土煙の向こうからは、
「よし、ナビィ録画したっ?」
『ばっちりです。ミジカさん』
そんな声が聞こえてきます。
アレ妙だな、男が首をひねっていると、
煙の向こう側には、さらに不思議なことが起こります。
「なんだ、アレ……」
光が淡く飛ぶように軌跡をえがいているのです。
それはまるで幾何学的に意味があるモノのように────煙が晴れていきます
「やっぱり疲れるわね」
『なんで無駄に空中に描いてるんですか』
「ほら、そういう気分だったのよ」
彼の眼にうつるのは、暗闇で無色に透きとおる魔法陣。
つくりあげたのは、魔法陣のまえで笑っている赤髪少女です。
「さぁて、正当防衛タイムよ」
彼女の指には魔力がたまり、流れ、魔法陣に色が宿っていきます。
そして完成するのは、一つの魔法。
「未認可魔法────」
「えっ、ちょ、しかも未認可、魔法?」
極彩色の輝きが、今、
「────発動っ!!」
解き放たれます。
◇
【王国/中央外れの道 [現地時刻 19:10]】
魔法によって、男に宿ったのは中二病ではなく、似たナニカでした。
「……おいおい、死人をおこすのはルール違反だろ?」
それは黒でした。ですが、殺すや壊すとは違った────世界を終わらしてしまうモノ。
『ミジカさんッ! 魔法の使用許可をッ!!』
「えっちょ、ナビィ⁉」
『早くッ、完全に出てくる前に』
「りょ、了解ッ」
「……呼んでおいて、簡単に帰ってもらえると思うなよ」
『インク使用0.1mg、簡略使用者許可認証』
「解除を命────」『────逆説・未認可魔法、展開ッ』
ギリギリのところで、魔法の反転が間に合って、送り返されるナニカ。
間違って出てきてたりしたら、一夜のうちに街ぐらいは消え去っていたことでしょう。
今回ばかりは、魔法ペンの判断は良かったというモノです。
◇
【王国/中央外れの道 [現地時刻 19:11]】
数秒後。路地には眼をまわした男がいました。
それを呆然と眺めているのは赤髪少女。ツンツンとつついているのは魔法ペンです。
「で、なんでコイツは気絶しているわけ?」
『なんか魔法の容量に体が付いていかなかったぽいですね?』
赤髪少女は首をかしげながら、魔法陣を見つめます。
「これ、そんな変な事をする魔法には見えないんだけどなぁ」
『まあ、なにせ魔法ですからね。分かんないことも沢山起こります』
魔法ペンは訝しむように魔法陣をみつめます。
『────たとえば、死んだモノと繋がったりとか』
「────冗談でしょ。蘇生魔法なんて作れない魔法の一つでしょ」
赤髪少女は呆れた声をだします。
ですが、魔法ペンは真面目な声ではなします。
『死んだってのは、肉体的な意味だけじゃないんですよ。例えば忘れ去られたものとか』
「それと中二病がどう関係するわけ?」
『そうですね、ミジカさんは、“中二病”の意味をしってましたか?』
「知らないわよ」
『じゃあですね。この病気って、実はこの世界にないかもしれないんですよ』
未だに首を傾げている赤髪少女のために、魔法ペンは分かりやすく説明をします。
『魔法陣の中には魔法を指定するために、キーワードとなる文字が描かれてるのはしってますよね』
「この黒、だったり、口調だったり、でしょ」
『これって結構適当に書いても、この世界にあるモノなら、事象として起こるんですよ』
「じゃあ、世界に無いものだったらどうなるのよ」
『似たようなモノになりますね』
「それってキーワード的にってことよね?」
『そうですね。例えば、白く、丸いモノだったら────、卵も月もかわりません』
赤髪少女は夜空をみあげます。そこにあるのは月。
あれは卵と同じように手に持つことができるのでしょうか。
そんなことを思ってしまいます。
「魔法って実は結構ヤバいもの」
『ええ。だからしっかり査定する必要があると思いませんか?』
「耳が痛いことを言わないでちょうだい」
『まっ、何事も学びですよ、学び』
魔法ペンはまるで自分がそうしてきたように言います。
そんな姿をみて疲れを感じてきた赤髪少女は、とりあえず、眼をつぶって現実逃避するのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。