王国魔法局査定部第三課 ー赤髪ミジカの魔法査定ー 作:上殻 点景
魔法作成者:愛に生きる少女
────魔法申請書にはそうかかれていました。
王国には書類(未認可魔法)が積まれた執務室がありました。
未認可魔法とは発動はしますが、使用許可が降りていない魔法のこと。
魔法の安全性を調べる場所こと、王国魔法局査定部。3課には分類:その他の魔法が集まります。
────そんな執務室で赤髪ミジカと呼ばれる、赤髪の少女は料理をしていました。
「ふ~、やっぱ料理は疲れるわね」
赤髪少女は汗をぬぐい、よっこらせと、ヤカンを火にかけます。
そんな様子で呆れているのは、黒色ボールペンです。
『で、コレのどこが料理なんですか?』
「なによ、文句があるのかしら」
『執務机の上をもう一度見てからいってください』
「机の上って」
赤髪少女の視線は、執務室の机上に。
そこには────封が切られたカップ麺が2つ置いてありました。
「人間的で最低限の料理でしょ」
『人はそれを料理とは呼ばないんですよ』
キッチンに包丁と共に転がっている、黒色ボールペンはさらに呆れます。
なぜ黒色ボールペンが呆れているかといいますと、彼女が魔法ペンだからですね。
名はブラック☆ナビィ。最強の魔法杖を自称している、黒色ボールペンとなっています。
「失礼な、きちんとお湯は沸かしているでしょ」
『そんなに誇らしげに言われても困るんですが……』
コンロの火にかけられた、ヤカンが小刻みに揺れます。
「いい、世にはお湯を沸かすのに失敗する人たちだっているのよ」
『つまり、ミジカさんのことですか?』
「私は失敗しないわよ。プロですから」
『まあ、毎週何個食ってんだってレベルで、カップ麵を食べてますからね』
簡易キッチンに置かれたゴミ箱には、カップ麺容器が大量に。
あふれ出しそうな内部を、押しとどめるように蓋がされています。
「そもそも、お湯を沸かすのだって、片づけるのだって、料理の一部でしょ」
『いあいあ、そうですけど、そうじゃないって言いますか』
魔法ペンが言いたいのは、こういうことです。
せっかくの料理回なんだし、もっと雰囲気とかあるじゃない────ということです。
『それにどうせなら、ミジカさんの手料理が食べたいなって』
「で、本音のところは」
『ミジカさんが盛大に失敗するのが見たいです』
「あいかわらずの性格ね」
それほどでも、と照れる魔法ペン。
別に褒めてない、と呆れる赤髪少女です。
「じゃあ、あんたが作ってみる?」
『いいんですか? シェフもビックリなモノ作っちゃいますよ』
「ペンが料理をしている時点で、シェフもビックリよ」
『時代は多様性。ペンだって料理をする時代ですよ』
「じゃあ、そのペン様は何を作ってくださるんでしょうか」
『そりゃ、レンジでチンな商品ですよ』
冷凍食品じゃねーか、という赤髪少女の視線。
『魔法量で考えたときの仕事量は私の方がおおいですよ?』
「そりゃ、冷凍されたモノをとかす方が、沸騰させるより魔力を使うでしょうね」
『つまり私の方が、凝った料理と言う訳です』
「凝ってるの意味を調べた方がいいと思うわ」
まあ、これ以上話すのは時間のムダだな、と思ってしまう赤髪少女。
さて、そろそろいいかと思っている魔法ペン。
集中を逸らすために、会話ってホントに便利ですよね。
『ところで、いいんですか?』
「なにがよ?」
『ほら時間が』
「まだ、カップ麺にお湯すら注いでもないでしょ」
『いあいあ、そうじゃなくて────ヤカンの方ですよ』
「へっ?」
ジュッポジュッポ。気持ちのよい音をたてて、あふれ出す泡。
つまるところ、沸騰を越えたヤカンからお湯が溢れている状態ですね。
「〇×△□っ⁉」
赤髪少女は声にならない声をあげて、コンロの火を消しに行きます。
『ホントにいるんですねー、お湯を沸かすのに失敗する人がー』
「うるさいいっ!!」
そんな叫び声が簡易キッチン内にひびくのでした。
◇
【王国/魔法局・執務室 [現地時刻 13:00]】
お湯が注がれて早三分。キッチンに戻り、湯切りをすませて、ふたたび元に場所に。
木製の執務机には、二つのカップ麺が並べてありました。
「これで出来上がりね」
『ですけど、その……』
ですが、魔法ペンは何か言いたいことがあるようです。
「なにか、言いたいことがあるのかしら?」
『まあ、色々と思うところはありますが……』
結局、お湯の量が足りなくて、もう一回沸かす羽目になったとか。
その間にミジカさんを弄り倒してたら、ペン先から折られることになったとか。
ですがそんな事よりも気になっているのは、
『なんで、カップ麵の上に────クリームが乗っているんですか?』
2つのカップ麺に鎮座する、黄色いクリーム。
見事なロールをえがいている様は、ケーキならほれぼれとしますが、カップ麺ならミスマッチの方が強いです。
「〇平ちゃん、シュークリーム味よ」
『いや、別に商品名を聞いているわけではないんですが』
「セールで沢山売ってたわ」
『そりゃそうでしょうね』
「ちなみにこれは元値で買ってきたモノよ」
『セール品ですら高いと思うのに、よりによって元値ですか……』
[〇平ちゃん、シュークリーム味]
ショートケーキ味や、チョコレート味ほどではないですが、脳が思考を拒む一品です。
不味いわけではないのですが、コレジャナイ感が否めない、そんな雰囲気を漂わせる味です。
『ミジカさん、好奇心は猫も殺すってしってますか』
「どういう意味は知らないけど、今日知る羽目になることだけは分るわ」
『てかですね、そもそもゲテモノを食べる必要はあるんですか?』
「だって、おいしいモノを食べたら、魔法が効いているかわかんないじゃない」
『そういうとこ、妙に律儀ですね……』
「これでも仕事なのよ」
赤髪少女は、指に魔力を集めて、送られてきた魔法陣にくっつけます。
ぼんやりとした明かりが、ゆっくりと魔法陣に灯されていきます。
「────未認可魔法、発動」
極彩色の輝きは、放たれ、片方のカップ麺にふりかかります。
そしてナニカを注いだ後、夢のように消え去っていきます。
「さて、魔法は正常に発動したわね」
『何が注がれたのかは分かりませんけどね』
見かけ上、大した違いはない、2つのカップ麺です。
しいていうなら、湯気がちょっとピンク色になったぐらいでしょうか。
「────さて食べなさい、ナビィ」
『────えっ、この流れで食べるの私なんですか⁉』
おどろく魔法ペン。
当然のように言うのは赤髪少女です。
「当然でしょ。私が食べて死んだら、誰が査定するのよ」
『そりゃ怨念にでもなって、査定してくださいよ』
「大丈夫よ、半分は多分おいしいから……たぶん」
『それっておいしくても、半分は地獄ってことですよね』
魔法ペンは当然ですが、ぶーぶーと苦情をいいます。
「なら、ジャンケンっで負けた方が食べるって、どうかしら」
『それ私が不利すぎませんか?』
「じゃあ、私が負けたら、追加であんたが欲しいモノ一つ買ってあげるってことで」
『まあ、それぐらいしてくれるなら』
「合意とみていいかしら」
『当然ですよ』
赤髪少女は、内心でも、外見でも拳を握りしめます。
────勝った。
それは、魔法ペンがジャンケンが出来ない故の勝利宣言です。
「じゃあ、最初はグー」
魔法ペンは、内心で、拳を握りしめます。
────そもそも、魔法ペンにジャンケンとか無理では?
もちろん彼女は気付いていましたので、おとなしく別の方法をとることにします。
『「ジャーンケーン」』
魔法ペンが出すのは、手は手ですが、物理的な一手。
すなわち、別にジャンケンなんかしなくても、赤髪少女にカップ麺を食べさせればよくね、作戦です。
「ぽん」『えい』
赤髪少女の出した手は、グー。
魔法ペンが出した手は、カップ麺の投擲です。
「ふぐぅっ⁉」
赤髪少女の顔に、カップ麺がぶち当たります。
溢さず、中身を口にすべて放り込むのは、魔法ペンのコントロールの賜物といってもいいでしょう。
「いがいといけ……がはっ」
『ちっ、まだ息の根がありますか』
赤髪少女は青い顔をしているので、すでに致命傷な気もしますが、
『なら────さらにもう一発ぅ』
バンッ。赤髪少女の顔に、もう一つのカップ麺がぶち当たります。
今度は魔法がかかっている方を引いたようで、赤髪少女は泡を吹いて倒れます。
おそらく、魔法がかかった事により、絶妙な味なのに旨い、と感じてしまい脳が耐えられなかったようです。
「ふぎゅー…」
『むなしい、戦いでしたね』
この後、魔法ペンが、ホントにマズい状態であることに気づくまで3分。
そのあと、運び込まれた病室で治療魔法を受けること1日。
赤髪少女は、ようやく復帰することができました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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