どうぞ、楽しんでいってください!
死神の運び屋 第1話
賑やかな酒場。
様々な人種や職業の人々が集まり、笑い声や話し声が飛び交うこの場所は、冒険者や商人たちにとって憩いの場であった。木製のテーブルと椅子が整然と並べられ、壁には様々な依頼の紙が貼られている。店員たちが忙しなく動き回り、料理や飲み物を運んでいた。
そんな喧騒の中で、俺は一人で隅のテーブルに座り、静かに料理を食べていた。周囲の賑やかさとは対照的に、俺は自分のペースで食事を楽しむ。タマネギのピザパンを手に取り、それを食い千切る。
その瞬間、突然俺に近付き、話しかける声があった。
「あんたね、噂の運び屋は」
俺に話しかけた人物は、ピンク髪の女性だった。彼女は肩まで届く長めのツインテールで、その髪色はこの酒場の中で一際目立っていた。彼女は挑発的な笑みを浮かべながら、こちらを見つめていた。
その瞬間、周囲の喧騒が一瞬静まり返ったように感じた。
彼女の存在がこの場に新たな緊張感をもたらしていた。俺はピザパンを食べる手を止めて、彼女の方を見つめ返した。
「依頼か」
「話が早くて良いわ」
俺の言葉に、そいつは頷く。だが、彼女の瞳にはまだ何かを秘めているように思えた。
「あんたを探すの、結構苦労したわよ、なんだって」
そのまま彼女は、椅子に座ると。
「依頼したら、どんな所でも3日以内に届ける運び屋。
だからこそ、何時、どこで何をしているのか、探すのも一苦労って訳よ」
「なるほどな、それで、見つけたって訳か」
俺はそう返事をしながら、改めて彼女を見た。
彼女は俺の反応に満足したのか、微笑みながら話を続けた。
「だからこそ、情報量は高かったわ。あんたがさっきまで依頼をしていた内容を聞いて、大急ぎでここに向かったわ」
「それで俺がよく分かったわね」
「私の情報網、舐めないでくれる。あんたがどうやって運んだとかは分からなくても、容姿とかは十分にあったのだから」
「そうか、それで依頼か」
俺は彼女の言葉に頷きながら、静かに問うた。
「えぇ、そうよ。まずは自己紹介ね、私はニコよ。商売を「どうでも良い」ちょっ、人の自己紹介を遮るんじゃないわよ」
彼女は少し怒った様子で俺を睨んだ。その視線は鋭かったが、俺は気にせずに彼女の言葉を遮った。
「お前が何者で、どんな人間なのか、お前のバックには誰がいるのか、そんなのはどうでも良い」
この場での優先順位は明確だったからだ。
「重要なのは、何を運ぶかだ。だからお前の素生など、どうでも良い」
運び屋として、重要な事。
それは、物を届ける事。
それ以外の情報で、私情を挟む可能性があって、必要ない。
俺の冷たい口調に、彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
彼女の口元には苦笑いが浮かんでいた。
「あんた、絶対に友達がいないタイプでしょう」
「別にどうでも良いだろ、それで、何を運ぶんだ」
俺は再び問いかける。
ニコは鞄を取り出し、その中身を見せる準備をした。
「これよ」
俺はニコが差し出した鞄を見て、その中身を確認する。
そこにはナイフが入っていた。
俺自身、そこまで武器に関しては興味はない。
それでも、その持ち手は豪華な装飾が施されている事から、それが高級品であることは分かった。
「これを届けるのか」
「えぇ、そうよ。エルシア王国に届けるの。依頼、受けてくれるわよね」
笑みを浮かべたニコは、そう尋ねる。
その笑顔は自信に満ちていて、同時に彼女がこの依頼に対してどれだけの価値を見出しているのかが窺えた。
俺は彼女の視線を受け止めながら、冷静に答える。
「金額は」
俺の問いに、ニコはすぐに応じた。
「これぐらいよ」
そう言って彼女が差し出したのは契約書。
細かい部分もあるが、何よりも目をひいたのは、その金額。
「・・・それ程の価値があるのか」
「そうよ、これは私にとっては命よりも大事な物なの。それを届けるのだから、当然報酬も高くなるわ」
ニコの言葉には確固たる自信が込められていた。
「分かった、その依頼受けよう」
俺は彼女の真剣な眼差しに心を動かされ、その依頼を受けることにした。
「良いだろう」
「だったら、契約書、サインしなさい」
「別に良いだろ、これまではそんな事はしなかったぞ」
「あんたにはどうでも良くても、私には必要な事なの!それとも、依頼者の言葉を無視するの」
「ちっ」
舌打ちをしながらも、すぐに仕事を契約書にサインをする。
そのまま、俺は残りの食事を食べ終え、代金を机の上に置く。
「依頼は受けた、必ず届ける」
俺はそれだけ言い、外へと出て行く。
店の外には、数多くの乗り物が並んでいる。
この世界における駐車所。
そこには数多くの物が並んでいる。
馬車に狼など、それらの種類は様々だ。
その中で、俺は自身の相棒へと近づく。
「次の依頼だ、行くぞ」
俺の言葉に合わせるように、相棒のバイクカバーを引き剥がす。
バイクカバーに隠れていた事で、周囲にはボロ布で被った何か程度しか認識されていなかったのだろう。
だが、バイクカバーを剥がした事で、露わになった相棒。
その姿に、周囲の人々の視線は釘付けになった。
「鋼鉄の馬……」
誰かがそう呟くと、周囲は一瞬静まり返り、やがて驚きと興奮の声が広がった。
ライドチェイサーの黒光りする車体は、異世界の雰囲気とは明らかに異質であった。だがその存在感は圧倒的で、見る者を惹きつける魔力を持っていた。
「このバイクが俺の相棒だ」
そう言いながら、俺はライドチェイサーに跨りエンジンをかける。低い唸り声と共にエンジン音が響き渡る。
座席の後部には髑髏の装飾が施されており、それがまた異様な存在感を放っていた。
「なるほど、それがあんたが死神って呼ばれる理由ね。なんというか見た事ないわね、生き物なの?」
「お前、何をしているんだ」
ライドチェイサーを走らせようとした時。
ニコが俺に話しかけてきた。
「何って、あんたに同行する為よ」
「はぁ、何を言って」
ニコの言葉に俺が文句を言おうとした時。
突き出したのは、契約書。
「これがなんだ」
「ほら、ここ、見なさいよ」
そう、ニコが見せた箇所。
小さくはあった。
しかし、確かに書かれていたのは、ニコ自身を運ぶという記載だった。
「クソが」
思わず呟く。この契約書には不適切な表現目を通すべきだった。普段は契約書の細かい部分をあまり気にしないが、今回はそれが仇となった。
「ふふんっ、そういう事」
ニコは勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、ライドチェイサーの後ろの座席に乗る。
「・・・ちっ」
舌打ちをしながらも、俺は仕方なくニコを乗せて出発する準備を整えた。契約書の細かい部分を見逃したことは悔やまれたが、今は彼女を連れて行くしかなかった。
俺はアクセルを捻り、ライドチェイサーはゆっくりと動き始めた。
ニコがしっかり掴まるのを確認した。
「・・・しっかりと捕まって」
「えっ」
「死にたくなかったらな」
それだけ言い、俺はアクセルを捻る。
ライドチェイサーは猛烈な加速を始め、周囲の景色が一瞬で後方へと飛び去る。
ニコの驚きの声が後ろから聞こえるが、俺は前方を見据えたまま走り続けた。