目的地近くまで、辿り着いた。
ライドチェイサーに備わっていた簡易テントを広げて、俺達は休んでいた。
夜風が少し冷たくて、焚火の明かりが暖かく揺れている。
ニコは焚火の前で暖を取っており、その表情には疲労と安堵が混ざっていた。
「噂に聞いていたけど、あんた、噂以上にとんでもないわね」
ニコは焚火の炎をじっと見つめながら、口を開いた。その声はどこか感心と畏敬の念が混ざっていた。
「噂?」
俺はライドチェイサーのハンドルに寄りかかりながら、ニコの言葉に応じる。彼女の言葉には何かしらの含みを感じたが、俺にはその意味がわからなかった。
「そっ、死神」
ニコはそのまま、俺の噂を呟いた。
その言葉には、彼女が抱く俺に対する警戒心が込められているようだった。俺は内心でその呼び名に少し驚いたが、表情には出さなかった。その噂は俺にとって既知のものであり、特に気に留める必要もなかった。
「噂、気になる?」
ニコは焚火の炎に目を落としながら、少し挑発的な口調で尋ねた。その瞳には何かを試すような光が宿っていた。
「興味ないな」
俺は短く答える。彼女の質問には答える気もなかった。俺にとって噂とは、ただの他人が口にする言葉であり、それ以上の意味はなかった。
だが、ニコはそのまま、俺の噂を呟く。
「どんな場所だろうと必ず依頼の物を届ける。そして、それを邪魔する物には死を与える。故に、死神。それがあなたの噂よ」
ニコの言葉には、どこか警戒心と同時に敬意が感じられた。俺の名はこの世界の片隅で囁かれる存在であり、その呼び名は俺自身が選んだわけではなかった。だが、その噂が俺の評判を支えているのも事実だった。
「だから言っただろ、興味ないと」
俺は淡々と答える。噂について語られることは日常茶飯事であり、それに心を動かされることもなかった。
「俺はただ仕事を達成する。それだけだ」
俺の言葉には一切の感情が込められていなかった。この仕事において重要なのは、依頼を忠実に果たすことだけであり、それ以外のことは無意味だ。
ニコは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。彼女は俺の言葉に何かを感じ取ったようで、それ以上の質問を控えた。
「本当に愛想悪いわよ、まぁ」
ニコは肩をすくめながら呟いた。その言葉には少しばかりの諦めが混ざっていたが、同時に彼女自身の本音も見え隠れしていた。
「私としては、あんたが依頼を達成してくれるんだったら、良いけどね」
彼女はそう呟きながら、焚火の炎に目を落とした。その瞳には微かな不安が揺れているように見えた。俺は彼女の言葉を聞きながら、その意味を静かに考えた。
翌日、再び出発する。
日が昇る頃には早朝の露に濡れた草木の匂いが漂い、鳥たちが朝を告げるようにさえずる。その爽やかな空気の中で、俺たちはライドチェイサーに乗り込み、新たな一日のスタートを切った。
目的地であるエルシア王国まではあと少し。
俺たちが進む道は険しい山道から平原へと移り変わっていた。ライドチェイサーのエンジン音が静かな朝の風景に響き渡り、周囲の景色は次第に開け始めた。平原の風が頬を撫でる感触は心地よく、その風景が少しずつ変化していく様子が目に映る。
本来ならば数日はかかる道だが、ライドチェイサーでは数時間で十分だった。
俺の運び屋としての腕前が発揮される瞬間であり、ライドチェイサーの性能を存分に活かすことができる。ニコは後ろに乗って、その速度に驚きと感嘆の表情を浮かべている。
「本当に速いわね」
ニコの言葉には感嘆の色が混ざっていた。彼女が驚くのも無理はない。このライドチェイサーは、通常の馬車とは比較にならないほどの速度で走ることができるのだ。
「当たり前だ」
俺は冷静に答える。ライドチェイサーの性能には自信があり、それを使うことによって依頼を迅速に完了させることができる。そのことが俺にとって重要な意味を持っていた。
ライドチェイサーのエンジン音が高鳴り、その速度はさらに増していく。ニコは後ろからその感覚を楽しんでいるようだったが、同時に不安の色も見え隠れしていた。
目的地へと辿り着く直前。
道の真ん中。
俺の前を邪魔する奴が見える。
「あぁ」
そいつを見て、俺は睨む。その男の姿は、まるで巨大な壁のように立ちはだかっている。筋骨隆々の体格に、鋭い眼光が俺を射抜く。まるで野生の獣のような雰囲気を放つその男は、どこか不吉な予感を漂わせていた。
「・・・いた」
ニコは、そいつを知っている様子だった。彼女の表情には驚きと戸惑いが浮かんでいる。ニコの声には緊張感が滲み出ており、その男の存在に動揺していることが明らかだった。
「ヒデマルッ」
そう、坊主頭の奴の名前を言う。その声には警戒心とわずかな怒りが混ざり合っていた。ニコの言葉は鋭く、その男への敵意を隠すつもりはないようだった。
「おいおい、ニコぉ、そう睨むなよ。こっちは全うに警備の仕事をしているのによぉ」
そう、ヒデマルという奴は、いやらしい笑みを浮かべる。その笑みはどこか陰湿で、悪意に満ちていた。彼の言葉には威圧感が込められており、その声音には挑発的な響きが含まれていた。
「ふんっ」
俺は冷たく反応する。ヒデマルの笑みに応じるつもりはなかった。彼の挑発には乗らず。「邪魔だ、どけ」
俺はそう言う。
対して、ヒデマルは。
「それは駄目だなぁ、お前らのような怪しい奴らを通さないのが、俺の仕事だからな」
そう言いながら、ヒデマルはその鋭い視線を俺たちに向けた。彼の体格はまるで鋼の塊のようで、その存在感は圧倒的だった。しかし、俺には退く気など微塵もない。この仕事のために来たのだから、ここで立ち止まるわけにはいかない。
ヒデマルは左腕を翳す。それは右腕に装備されている無機質な籠手だった。その籠手はまるで機械仕掛けの鎧のように硬質で冷たい光を放っていた。
ヒデマルは手に持ったカードをその籠手にスキャンさせる。その瞬間、周囲の空気が張り詰めた。俺たちの間に緊張感が走り抜け、次の瞬間には何かが起こる予感がした。
「変身」『FakeRIDE DRIVE!』
ヒデマルがそう叫ぶと、巨大なカードが彼の体を通り抜けた。その瞬間、彼の姿は激しく変化し始めた。その姿はまるで異次元の存在のように見えた。俺たちの目の前でヒデマルは瞬時に変身を遂げたのだ。
「・・・仮面ライダードライブ」
その名を、俺は少なくとも知っている。