奴をドライブを始末した後。
俺はそのまま目的地へと向かう。
道中は静寂に包まれていた。遠くで鳥の鳴き声が微かに聞こえる。時折吹く風が木々の葉を揺らす音だけが俺の耳に届く。
「ここだな」
俺はそう呟くと、周囲を見渡した。
「えぇ、そうよ」
ニコは少し緊張した面持ちで頷きながら答えた。その視線は真っ直ぐ届け場所に注がれている。
そこはエルシア王国の端、スラムと言える場所だった。
貧しい家々が立ち並び、街並みはどこか暗い雰囲気を漂わせている。人々の顔もどこか疲れた様子で、活気を感じることはほとんどない。しかし、その場所には独特の静けさと温かさがあった。
「届け物は、これよ」
そう言いながらニコは鞄を開ける。
依頼の前に確認した高価な武器。
だが、その武器を、ニコはそのまま解体した。
「これは」
「ここに来る前の国の事、忘れたの」
「・・・イグニスで加工した偽物か」
「そっ、見た目は豪華に見えるからね、けど、本命はこれ」
それと共に取り出したのは。
「・・・これは」
俺は思わず息を呑む。そこには。
「・・・薬よ」
ニコは静かにそう呟く。
鞄の中には小さな瓶や粉末が詰められた包みが整然と並べられていた。それらは様々な色をしており、見るからに重要なものだと理解できた。
「これは何の薬なんだ?」
俺は思わず尋ねる。
「これは、病気の治療薬。ここには医者がいないから、薬がなければ病気は進行する一方よ」
ニコはそう説明する。その瞳には強い決意が宿っていた。彼女がこの薬を届けるためにどれだけ努力したのかが伝わってくる。
「分かった。それなら早く届けよう」
俺はそう言うと、鞄を手に取り、ニコと共にその中へと入る。
中には。
「ガキ」
小さな子供たちがたくさんいた。
彼らは興味深げにこちらを見つめていた。その視線には純粋な好奇心と少しの警戒心が感じられる。
ニコは、そのまま部屋の奥に入る。
「大丈夫」
そこには、ベットの上で眠るガキ。
そのガキはかなり衰弱していた。頬は痩せこけ、目には深い疲労の色が浮かんでいる。
「にこぉおねえちゃん」
そのか細い声には、懸命な意志が感じられた。
「すぐに飲ませるわね」
そう、ニコはガキに薬を飲ませようとする。
薬の苦味が口の中に広がるものの、その子供の目には少しだけ安堵が見えた。
「これを手に入れるのに苦労したわ。けれど、すぐに届けないと効力が無くなっちゃう」
ニコの瞳には深い責任感が映し出されていた。
「そうか」
俺はその言葉に静かに頷いた。ニコの苦労がどれほどだったのか、俺には計り知れない。しかし、彼女の表情からはそれを感じ取ることができた。
「ありがとう、運び屋。あんたのおかげでこの子は助かったわ」
ニコの声には感謝が溢れていた。その声はどこか震えていたが、それは喜びと安堵の涙が混ざっていた。
「どうでも良い、それよりも報酬は」
俺は淡々とそう答えた。仕事は仕事であり、そこに感情は必要ない。ただ、ニコの言葉には少しだけ心が揺れた。
その場にはしばらく沈黙が流れた。部屋の中には薬の匂いが微かに漂い、ガキの呼吸音だけが聞こえていた。
「そのぉ、実は薬を買うので、お金、無くなったのよねぇ」
「・・・なに」
ニコの一言に、俺は止まる。その言葉が俺の耳に届くと、一瞬の間、周囲の音がすべて消えたように感じた。俺の頭の中でその言葉が繰り返し響き渡る。報酬が無くなるとはどういうことか。俺はこの依頼を遂行するためにかなりの労力を費やした。その見返りが無くなるとは予想外の展開だった。
「・・・報酬は」
俺はその言葉を口にする。言葉には不満と苛立ちが混じっていた。その言葉を口にする時、俺は自分の声が震えていることに気づいた。
「ごめぇん」
甘い声でニコは言う。その言葉にはどこか軽薄さが感じられた。まるで自分の言葉が何の影響も及ぼさないと思っているかのように。
その言葉を聞いた瞬間、俺の心に怒りが湧き上がる。俺はその怒りを抑えながら、静かに次の言葉を待った。
「けど、まぁ、ほら、ここ」
そのまま契約書を見せる。ニコの手が震えながら契約書を差し出す。その手は少し冷たく感じられ、彼女の緊張が伝わってくる。契約書を受け取った俺は、それをゆっくりと広げて目を通し始めた。
俺は、そのまま契約書を見る。契約書の文字は一つ一つ丁寧に書かれており、その内容を確認しながら、俺は心の中で一つ一つの条項を吟味した。契約書の内容にはいくつかの不備や不明瞭な点が見つかり、俺はその都度ニコに質問を投げかけた。
「あんたへの報酬は、私が依頼の仲介で支払うわ」
ニコの言葉を聞いて、俺は、一つだけ分かった事がある。この契約書には報酬に関する重要な部分が抜け落ちている。報酬が依頼の仲介で支払われるという条件は初めから知らされていなかった。これは明らかに契約違反であり、俺はその事実を理解する。
「今後、契約書を書く時には注意しなければな」
俺の声には冷静さと怒りが混じっていた。その言葉を口にした瞬間、俺は自分の気持ちが整理されていくのを感じた。これからの仕事において、契約書の重要性を再認識しなければならない。
「あははぁ、まぁなぁ、運び屋。これからもよろしくね」
ニコがこちらに問いかける。その言葉にはどこか軽薄さが感じられた。まるで自分の言葉が何の影響も及ぼさないと思っているかのように。俺はその言葉を聞きながら、心の中で一つだけ決意を固めた。
「追跡秀樹だ」
「?」
「俺の名だ」