投擲士と探検技工士はダンジョンを潜る   作:左高例

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16話『本当に大丈夫?』

 

 

 三匹の子オークという寓話がある。

 これは三男坊だけ何故か兄に比べて予算が多く貰えてる、とか兄より優れた弟が居る、とか兄は愚かな自然主義(ヒッピー)で弟にたかる寄生虫──そんな感じで使われる話である。

 反対の寓話は三匹の雷鳴羊(ガラガラドン)。パワーこそ全て。長男に勝るパワーは無いという意味がある。

 いやまあ、この場合はガラガラドンは関係ないのだが、子豚の話では襲いに来た狼はついにレンガの家を破壊するのを諦める。

 つまり何が言いたいかっつーと、殆どの野生動物は石製の壁を突破できない。それこそ象とかじゃないとな。しかし、象にしたって無理やりぶっ壊したら足を怪我したりしそうな壁をわざわざ好き好んで壊したりはしないだろう。

 

 

 さて、そんなこんなで洞窟を進んでいて現れた凶獣。毛深い虎といった雰囲気の大きな獣である。

 目があってこちらに唸り声を上げながら様子を窺っていると、センセイが指示をしてエリザと共にすぐさま岩の小型のシェルターを組み立ててしまった。三人が立って並べば肩を触れ合うぐらいの広さだ。

 とりあえず敵の様子を窺うためにまず姿を隠すことにしたのだ。基本方針は安全な距離から先制攻撃というより、安全な場所から攻撃である。如何にも素早くて頑丈そうな相手だから、攻撃より先に防御陣地を築いたのだった。

 そのシェルターには、赤ん坊の手が入るかどうかぐらいの覗き穴があっちこっちに付けられていて外に置いた松明の輝きもあり、近づいてくる獣の姿がよく見えた。

 毛深い虎に見えたそれは、顔は虎というより猿に近い。ただ、四足歩行している手足は太く爪の鋭い虎そのもので、地味な色の長い毛皮からは異臭を放っていた。長くてつるりとした尻尾には縞模様と、先端が分かれているので蛇のように見える。

 

「天然キメラか。いやまあ、ダンジョンの魔力で自然発生したんだろうが、変なモデルだな」

「天然?」

「ライオンと蟻が交配したミルメコレオとかの類だよ」

「そんなのが居るんですか?」

「ああ。ライオンが食べるモノも蟻が食べるモノも消化できなくて、寿命は生まれて二週間。その間に、地面に生きた証の詩を彫ってから死ぬという」

「ロマンチックで悲劇的な生態です……」

 

 あれ? 詩を書くって設定あったっけ? 自分で言っといてなんだが適当だ。

 そんな余裕をぶっこけるのも、シェルターのおかげである。

 岩製だが、あの虎サイズなら十分壊されないことは腕の太さから推察できる。大体、木製の扉とか硝子の窓とかならともかく、岩の壁をぶち破って虎が襲ってきたって事件など聞いたことも無い。

 岩とかレンガとかを破壊してでも襲い掛かってくるのはそれこそドラゴンとか、巨人とかの砂のお城感覚で叩き潰せる強力な魔物ぐらいだろう。

 そして覗き穴は外の様子を伝えてくれるが、空けた理由はそれだけじゃない。

 センセイがキメラの覗き込んでくる方の穴にサイコブラスターの銃身を突っ込んで無造作に引き金を引いた。

 集弾率の悪い拡散する無数の銃弾が飛び散り、訝しそうにしていたキメラを穴だらけにする。

 ぶぎゃ、と悲鳴を上げてのたうち回るキメラに執拗に打ち込んで静かにさせ──周囲を確認してシェルターの壁を解体して外に出た。

 安全な位置から一方的な攻撃。これが無理をしないってことだ。

 もう慣れたものだな。

 

 ザックザックとエリザとセンセイが死骸をマテリアル化していく。洞窟では貴重なタンパク源です。

 俺はその間、辺りを警戒していた。

 ちょっとした通路の交差点というか鍾乳洞めいた柱ばかりの場所になっているこの辺りは、松明の明かりが届かない場所も多い。

 闇夜や自然物ばっかりの場所で異常を見つけるにはコツがある。斥候が得意な傭兵から聞いた話だがな。

 それは自然の風景ってのは、殆ど完成されたセンサーになっているってことだ。

 誰も居ない状態で調和が保たれているところに、何者かが混じれば必ず波長っつーかパルスっつーか、そういうのが乱れる。

 乱れさせないためには特殊な技術で自然と同化する必要があるらしいが、そこまでは俺もできねえ。

 けど持ち前の視力で見破るのにはそれなりに能力がついた。

 それが、隠れるつもりの人間ならともかく、襲う気満々な野生動物ならば尚更だ。

 

 居る。それも、かなりの数が。

 

「お二人さん、ちょっとシェルターに戻ったほうが良さそうだ」

 

 俺が指示を出して、センセイは迷わずに移動した。俺も驚いた様子のエリザを引っ張って、出入りする部分が開いているシェルター跡に入る。

 センセイは迷わずにシェルターの壁を埋め直した。同時に、ばっと音が鳴ってシェルターの上に置いていた松明がふっ飛ばされ、地面に落ちて消える。

 獣の臭いがそこらの覗き穴からした。俺はランタンを翳すと──四方に幾つもある覗き穴から、無表情な猿面のような目が中を覗いている。

 

「ひゃあああっ!?」

 

 エリザが悲鳴を上げるのと、センセイが手早にサイコブラスターを穴に向けてぶっ放すのは殆ど同時だ。

 だがセンセイの射撃が始まる直前に、その穴を覗いていた獣は逃げ出していく。別の穴を見ている獣が、がりがりと穴を爪で引っ掻いた。

 今度はそっちにサイコブラスターを向けるが、奴らにとって危険な物というのは既に共通認識らしい。すぐに離れる。

 そして、覗き穴という固定された外と繋がる場所以外に銃は向けられない。安全な銃眼として作ったが、その射角は大きく限定されている。

 周囲に集まった獣は何匹居るだろうか? 十匹を超えているかもしれない。だが、明かりが無くて正確にはわからなかった。

 シェルター全体に圧迫感が来る。集団で囲んで、上に乗っているのも居るらしい。

 幾ら単体じゃ壊せないからといって、こうも集まられると不安になる。

 

 "地下を掘って逃げるか。一応シェルターを強化するから、エリザは脱出口を"

「は、はい!」

 

 センセイがシェルターの内側に鉄板をクラフトして張っていく。少なくとも、石造りよりは安心だな。

 その間にエリザが足元を崩していくのだが──。

 

「あっ!?」

 

 幾らか深くも掘らないうちに、ぼろりと一気に崩れ慌ててエリザが穴の縁に掴まった。

 掘って判明したことだが足元のすぐ下は、底の見えない水溜まりになっていたのだ。

 まあ、途中でアレだけ水を流したのだからどこかの地下空間に溜まっていたとしてもまったく不思議ではない。

 しかしその代わりに地下から脱出することは難しそうだ。どれだけの大きさの水溜まりかわからんし、舟を浮かべられる空間も無さそうだ。

 

「こりゃ仕方ねえ。このシェルターをマイホームに改造して幸せな家庭を築こう。ちっと狭いが」

 

 欠伸混じりに、冗談めかしてごろりとシェルターに寝転がりながら軽口を叩いた。

 だがなんかエリザが慌てて手を掴んでくる。

 

「だだだ、駄目ですよ何言ってるんですか! そういうのはちゃんとしないと!」

「なにがだよ」

「こ、こう……ねえ先生!」

 "落ち着け。しかしもう少し広く作っていれば籠城して魔物が居なくなるのを待つのも良かったが"

 

 確かに、このシェルターは長時間耐えるには狭すぎる。

 

「覗き穴からくっせえ臭いもするしなあ。俺がコいたんじゃないぞ?」 

 

 獣の体臭もきついので空気が悪い。

 それにしてもこいつらの顔は猿か猩々に似ている。

 

「……悪知恵を持ってる猿の仲間は、クソを投げつけてくる奴も居るというが」

「塞ぎましょう先生」

 "そうだな。当たりでもしたらザンキが減る"

 

 効果的な攻撃が出来ない銃眼をぺたぺたと塞ぐ。空気は篭もるが、いざとなればエリザの風魔法でなんとかなる。

 あれはセンセイが瓶詰めの風を作れたように、そこらの大気を動かして風を作るというより風自体を精霊によって作り出す魔法だから閉鎖空間でも新鮮な空気がもたらされるはずだ。

 自分で言っといてなんだが、あんまりここに長居はしたくねえな。アイケアさえ出来そうにないぜ。

 

 "ここらはあの獣の巣らしいな。ひとまず、周囲の敵を一掃してから急いで先に向かおう"

 

 言うとセンセイはクラフト──ではなく、腰につけていた先っちょに丸い球のついた矢みたいな道具を出す。

  

「それは?」

 "フラッシュボムという、特殊な光を広範囲に放つ爆弾でな。弱い魔物はこれで死ぬはずだ"

「……それ、人体に悪影響とか無いよな?」

 

 センセイは少しだけ黙って、何を考えているかわからない声で素直に応えた。

 

 "私のこの外装なら少なくとも大丈夫。そうでなくとも、ただちに影響はない"

「「安心できねえー!!」」

 

 エリザとハモった。

 

 "このワカメを食べておけば大丈夫。ヨード成分が甲状腺をガードする"

「やっぱりヤバイやつだよね!?」

 "粉塵は吸い込まないように口を布とかで押さえてくれれば大丈夫"

「怖い怖い怖い」

 "すぐにこの場を離れるから大丈夫"

「大丈夫って言われる度に疑惑ですよ!」

 

 なんだかんだでやることになった。

 俺たちはひとまずわかめラーメンを食べて備える。実際のところ、悪影響についてはセンセイも詳しく知らないらしい。逆に怖くないか? それ。

 あとフラッシュボムはかなり特殊な材料を使うので作りおきだった一発限りのようだ。今後手に入るかもしれないけど。

 

 手順はこうだ。

 シェルターの天井に穴を空けて上に向けてフラッシュボムを発射。

 即穴を塞ぐ。

 周囲が静かになったらシェルターの外に出てダッシュで先に進む。

 一段落ついたら大量の水で体を洗って、今晩は皆でウォッカを呑むことにしよう(毒が消えると信じられている)。

 

 対策を取れば取るほど生々しく影響があるのではと不安になるのはどうしてだろう。

 まあいい。いつも通り夜にウォッカを飲めば忘れてるだろ多分。

 

 "それではエリザ"

「はい!」

 

 センセイの合図でエリザが屋根に穴を空ける。三十センチ四方の穴だ。幸い──といっても音で探ったのだが、シェルターの屋根には獣は乗っていなかった。乗っていたらすかさず俺が槍でぶっ刺す算段だったが。

 そしてフラッシュボムが点火され、火花を出して推進力となり上方へ飛んで行く。それを確認して、エリザが穴を塞いだ。 

 エリザが塞いだ穴の縁を、フラッシュボムの真っ白な光が漏れでて輝かせた。直視したら目が潰れそうな強烈な白熱光だ。こんなもん、遮蔽物無しで使ったらヤバイだろ。骨まで透けそうだ。

 光は数秒続いて、そして収まる。シェルター周辺の音は何もしなくなった。

 獣が死んだにせよ、目を眩ませてるにせよ、逃げるのは今だ。

 センセイがシェルターを開いてサイコブラスターを構えながら外に飛び出し、俺らも続く。

 近くにはヤバイ疫病で死んだかのように動かない獣の死骸が残っていて静寂していた。

 

 "よし、すぐに出発。小走りで行くから転ばないように"

 

 外装を着ているから安心安全なセンセイについて、エリザと俺は口と鼻を押さえて走っていった。ひょっとして背後できのこ雲が上がっていたかもな。

 

 

 しかし、大量に死んだ獣以外にもそこらの洞穴に隠れていたようで、追いかけてきた獣の群れに追い回されることになる。

 

 

 

 

 *******

 

 

 

 で、一話に続く……って自分で言っといてなんのこっちゃ。

 獣の群れから逃げて崖から飛び降りて、トロッコに乗って下りまくった。

 トロッコの中で思い出してみてプロローグ的なあれかと思ったら、結構後のイベントだったぜ。もう何週間潜ってるんだ俺ら。

 そういえばエリザの作った武器をぶん投げたのは初めてだった気がする。普通に使えた。偉い偉い。

 

「さってと。そろそろ終点か。かなり下ったな」

 崖の傾斜は徐々にゆるやかになり、それに合わせて作るセンセイのレールも角度を緩めてスピードは落ちてきた。

 俺らが下ったのは崖だったのか案外急な勾配の正規ルートだったのかはわからんが、曲がりくねった道を延々と進んだわけだが、軽く一時間はトロッコに乗っていたと思う。

 

「結構、今の下り具合は大きな進展だったんじゃねえの?」

「道こっちで合ってるのかなあ?」

 "……一応大丈夫のようだ"

 

 センセイが色々と突起が付いている観測棒を取り出して、周囲へ向けながら応えた。

 それによって極小の風でも感じることができるのだ。どれだけ長かろうが、この洞窟は入り口の地上とゴール近くの地下世界が繋がっていて、空気が流れている。

 俺はエリザに松明を突きだして、着火を促す。

 香ばしい油の臭いをしたオレンジ色の炎が周囲を広く照らした。壁は岩というより乾いた砂だ。蟻の巣の入り口みたいな、生き物が掘り返した感じのさらさらとした手触りをしていて、大小様々な穴ぼこが地面や壁、天井にあるので強度が不安になりそうなエリアである。

 センセイは回収できるだけのトロッコとレールパーツを回収していく。鉄素材はそこらを掘れば手に入るが、木材は貴重だ。ここまで降りてきた鉄製のレールとて、飴細工のように好き勝手に伸ばせるわけではなく、凹凸の激しい地面に直接敷いたらトロッコごと吹っ飛ぶ可能性も無視できない程度にあったので枕木も控えめながら仕込んで安定させたのだ。

 回収できるのは終点近くの一部だけだったが。

 エリザの解体速度じゃ無理だったが、もしセンセイが二人いたらトロッコの前面でレールを敷いて、後面でレールを回収するって無限軌道が可能なんだろうか。可能なんだろうな。

 ……そこになんらかの、トロッコが前に進む動力をつければどんな地形でもトロッコで行けそうだな。いや、前提条件のエリザがセンセイ並の敷設か回収能力を持ってくれないと。

 

「アルトくんどうしたんですか?」

「エリザの成長性に期待してたところだ」

「頑張ります!」

「よしよし、花丸を上げちゃおう」

「はい! アルトくん! クラフトしたサインペンです!」

「お、おう」

 

 適当に言った発言を捉えられて、ペン(樹脂素材+油素材+色素材)をエリザが渡してきたので受け取ってしまった。

 彼女は胸を張ってはばからぬように言う。

 

「色々あたしも考えて見たんですけど」

「ああ」

「体にペンで何かを書かれるって興奮しないですか? お腹とかに書いていいですよ!」

「サキュバアアアアス! どこだあああ! 隠れてついてきてるだろまたああ!!」

 

 サインペンを投げ捨てて俺は叫んだ。うちの可愛いエリザちゃんを淫らにするイケない悪魔め。膝の皿割ってやろう。

 冷静にセンセイが、エリザの掌──すぐに消える場所に花丸を描いて、暗闇に向けて石を投げまくる俺の肩を叩いた。

 

 "落ち着け。何者かに追われている気配は、今のところ無い"

「じゃあエリザのやつ素でアレってことじゃんっ!」

 "まあ……そうなるな。それより"

 

 愛弟子の性癖は「それより」で片付けられてしまうようだ。

 だが──だが、だ。落ち着け。俺。勘違いするな。何事もエロに結びつける俺の汚い心が、エリザを変な風に思っているだけではないのか?

 あれだ。ガキにクレヨンを持たせて落書きさせたら、なんか楽しげに自分の手や顔にも絵を描く。あれと同じ精神性をエリザが持っている、ということにしよう。

 別な意味で天使ちゃん(比喩表現)になりかねないが、それより、なんだ?

 

 "声の大きさに気をつけた方がいい"

「声?」

 "このあたりの、砂に近い土壌は[潜飛蛇]が生息している可能性が高い。これまでのダンジョンの経験から言って、恐らく居るだろう"

「潜飛蛇?」

 

 エリザの疑問に、物知りアルトリウス様が教えてやった。

 

「その名の通り、地面に潜ったり飛び出したりしてくる蛇だ。グランドホッパースネークとか言う名前もあるけど長えよな。死にゃあしないけど毒があって足を噛まれたら行動不能だな」

 "足音や声の響きを感知して砂の中から飛び出し、嗅覚で察知した獲物の位置へと跳躍方向を修正して襲ってくる。特に洞窟では、天井や壁からも来るから危険が多い"

「しかしよー、この地形で音を立てないで動くのって無理くね?」

 

 まだまだ砂の道が続く先を見やる。松明に目が慣れてきただけかと思ったが、そこら辺はわりと薄暗いが見通しが効いた。

 瞬きを数度して、その明るさの原因がわかる。砂道にあちこち生えている、白い花が開いて僅かに発光していたのだ。

 

「あれなんですか?」

「ホシアマナの花だな。夜に光る花を咲かせる。ダンジョンの残留魔力で発生したんだろうな、あれも」

 "或いは、地下世界が近いから種が吹き込んできたか、だな"

「綺麗ですね……」

「ってそうじゃなくて。どうやって進むかだ。このどこから蛇が飛びかかってくるかわからん道を」

 

 砂から出てくる潜飛蛇の跳躍力は数メートル。地面から飛び上がって首に食いつくこともある。

 じゃあ地上とかの生息地じゃどうしてるんだって話だが、確か生息してる砂漠や荒野なんぞ近づかないようにしてるんじゃなかったかな。ピラニアのいる川を安全に泳ぐ方法を現地人が知っているかというと、そんなわけはないのと同じだ。近づかないようにするのが一番である。

 じゃあこれまでに経験のありそうなセンセイに聞くと、

 

 "一応安全な方法はこれだ"

 

 ドラム缶をクラフトして見せた。金属製の樽だな。

 

 "このドラム缶を頭から被って横になり──転がる"

「吐くだろそれ!」

「前が見えませんよ!?」

 "私のセンサーで進行方向のカバーはできる。それに目元にはスリットを入れておけばいい"

 

 確かに殆どを防御してる移動方だけどよ!

 絵面がやべえだろ。集団でドラム缶がゴロゴロ転がってダンジョンを進む。魔物と出会ったら魔物を弾き飛ばす。ドラム缶最強伝説。

 

「まだダンボール戦車に入って進んだほうがいいぜそれ……」

「ううう……痛いのはともかく、苦しいのはつらそうです……」

 "……他の方法にするか?"

 

 センセイの窺うような言葉に、否は無く俺とエリザは首を縦に振った。洞窟をドラム缶で転がって進むよりはなんだってマシだろ。

 するとセンセイも張り切ったような声音で、

 

 "私も初めて作るクラフトになる。だが、やはり楽しいな。初めてというものは。わくわくする" 

 

 知らない物を知りたい。

 そんな想いでスペランクラフターになったセンセイはやはり楽しげに、そう言った。

 そしてリュックから多くの素材が取り出されて部品に組み立てられていく。俺もエリザも、一瞬で出来上がらず組み上げるように作るセンセイのクラフトに目が釘付けだ。

 流れるように素材が──瓶詰めの風素材、樹脂素材、コウモリ素材、歯車素材、ゴム素材、グラビトン鉱石素材、燃料素材、瓶詰めの水素材───。

 様々に使われるそれを把握することすら、常人には不可能な高度にして技巧な組み合わせで重なりあい、大きなクラフト物が出来上がりつつある。

 そして──。

 

「うお、なんだこれ」

 

 と、しか言い様のない乗り物?が完成した。

 形は一言で云うなら、三つの潰した巨大饅頭の上に煙突と風車付きのごちゃごちゃした箱が載っている。

 箱は三人がギリギリ入れそうな大きさで、天井以外骨組みだ。

 センセイは箱の中に既に乗っていて、俺らにその乗り物の名前を告げた。

 

 "ホバークラフト。風の力で地面を浮き、砂道を進める乗り物だ"

 

 浮いて動く乗り物……だと?

 無限軌道どころの話じゃねえ……こりゃあとんでもねえ大発明だろ。

 技工士ってのはただの便利な土建家具屋じゃねえ……世界的にあり得ない道具を作り出す、神の手の技術者集団だな……改めてその驚異的な技術力に、俺は額に浮いた汗を拭った。

 

「な、なるほど! 地面を浮いて進むから、音が出ないで蛇に気付かれないんですね!」

「なんて的確な発明なんだ……! さすがだぜセンセイ!」

「さすセン!」

 "ふふっ……我ながらいい出来だと思う。さあ、乗り込んで進もう"

 

 俺たちは地下深くで発明された新たな時代を切り開く、驚異的な道具に乗り込んだ。

 どうやら操縦のレバー的なものが箱の中に付いているらしい。センセイはそれを動かして、

 

 "スペランホバークラフト──発進!"

 

 瓶入りの風素材で組み上げられたコンプレッサーが唸りを上げて、燃料炉に火が灯り水蒸気が噴出されつつタービンを回してプロペラに動力を伝える!

 ホバークラフトは下部の潰れた饅頭のようになっていた部分が空気で膨らんで持ち上がり、前進を始めた──。

 

 地面の砂をすげえ勢いで吹き飛ばして噴出する嵐のような風の音と、スチームパンクな轟音を立てて。

 

「……」

「音の問題は?」

 "運用してみたら無理だったってことあるよね……"

 

 センセイは遠い目をして、洞窟の先へホバークラフトを向ける。

 

「ああ……ホシアマナの花まで撒き散らされていきます」

 

 風に吹かれて砂埃に、きらきらと白い最後の輝きを見せる星の花。

 

 "エリザ……技工士は何度花を踏みにじられても、また植えればいいやの気持ちが大事だよ……"

 

 センセイは逃避するようにそう告げるのであった。

 

 ところでこのホバークラフト作戦だったが。

 逆に音がデカすぎでまず蛇は狙って飛びかかることが不可能になり、空気と砂埃を撒き散らしているものだから嗅覚探知も碌にできず。

 襲われずに潜飛蛇の生息地を突破する、という目的は達成できたように思えた。

 

 

 しっかしこれ、この巨大な乗り物と爆音を恐れない系の生き物とかが突進してきたら反応が遅れそうだな。音がでかすぎて。

 ハハハ。まさかそんなデカイ生き物が出てくるわけはないか。ドラゴンぐらいだぜそんなの。

 ん? フラグ?

 

 

 

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