投擲士と探検技工士はダンジョンを潜る   作:左高例

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19話『エピローグ』

 

 

 

 竜を倒した翌日に洞窟を進めば、地下世界にはすぐに到達した。

 多種多様の広さや景観、時には人工物や空を見上げることが可能な小さな世界になっていると言われる地下世界。

 この元ダンジョンの地下世界はかなり狭い平原であった。

 ホシアマナの花が咲き乱れて、無数の石柱が置かれているエリアが柵に囲まれている。

 柵の外は地平線まで見えるぐらい広がっているが、草もなく滑らかな岩でできた空間だった。ただ、太陽もないのに明るく、遥か彼方から風だけが吹いてきている。

 

「ここが……?」

 

 エリザが声を出しながら、俺たちはキョロキョロと視線を左右に向けつつ前に進む。

 何があるわけでもないが、一体どこから風は来ているのだろうか。来た道を振り向くと、背後は徐々に薄暗くなっており洞窟の岩肌も見えず地下世界との境界線も無いようだ。

 柵の中を進んで、それなりに規則正しく置かれた岩を軽く蹴る。

 

「まるで墓地だな」

 "敵の気配は無い。物哀しい世界だ"

 

 その中で一番上等な墓。いや、玉座のような場所が野ざらしにある。

 先頭を進んでいたセンセイがその手前で立ち止まった。

 ぴこん、と音がする。

 

 "どうやらここが一番奥のようだ。トロフィーが浮かんだ"

「トロフィー?」 

 "いや、何かは知らないが、ジャケットの内部画面に浮かんだ。[〈恐るべき聖墳墓〉跡地に到達!]とな"

「恐るべき聖墳墓ねえ……まあ、アルトリウス最高ダンジョンって名付けるが」

「もうちょっと別の名前無いんですか?」

 

 俺の名前をつけるのが目的だからな。誰の墓かは知らんが、墓碑を決めるのはいつだって生者だ。

 玉座だか墓だかを見ながらそう思った。掠れている文字で何か書かれている。

 

 [■■せし魔■アーサー■……ここに■る]

 

 か? ところどころ潰れていてよく読めねえ。っていうか何語で書かれてるんだこれ。

 なんか俺の名前と同じ単語があるように見えるがこれは……

 偶然だな。まず間違いなく。珍しいわけでもないし。歌もあるぐらいだ。『新しいアーサーが来た、希望のアーサーだ』って。いやまあ、作詞したの俺だけど。

 

 "それではここに、[ダンジョンの証]を配置する"

 

 そう言うとセンセイは荷物から、ダンジョン神より預かったアーティファクトを取り出した。

 見た目は小さな鍵のようで、石の玉座に差し込むと鍵穴もないのに抵抗なく刺さり、鍵を回すとロックされた。

 

 心臓が動き出したかのように、どん、と世界全体が膨らんだ感覚があった。

 

 多種多様な色を伴う風が吹き出して広がっていく。

 

 この地より発生したダンジョン作りの基になる魔力は地下世界を埋め尽くし、風とともにこれまでの洞窟へ蔓延して地形を作り変え、罠や宝箱を発生させ、魔物を生み出す。

 一気に変わるのではなく数日の時間を掛けて徐々に──だが確実に見てわかるぐらいの速度で変化を始め、元の洞窟よりも大きくなるという。

 故にダンジョンの証を配置した者は、ダンジョンが本格的に変化してしまう前に一気に地上に駆け戻らなくては、冒険の果ての復路が非常に危険な地点からスタートになってしまう。実際、ダンジョンを作ったはいいが証を置いてきた者が戻らなかった例は多い。

 最深部からスタートならアイテムとか取れるじゃんって思うかもしれねーが、魔物の方がアイテムより出現(ポップ)するのは遥かに早いわけだ。つまり、ダンジョンを作ってから少し時間を置かないとお宝もないクソダンジョンでしかない。

 

「しかーし、今回は今朝のブリーフィングからして、地上へ一気に上がれるポーターが作れるわけだよな? センセイ」

 "首尾よく竜を倒せたからな。竜の逆鱗素材を使っての[ディメンションゲート]を作成可能だ"

「楽ちんですっ!」

 

 いやしかし、このひたすら折りまくってきた道をまた帰らなくて済むのはヒッジョーに助かる。

 一体俺ら、何週間潜ってたんだ? 相当だぞ。数えてないけど。特別なイベントが無くて描写されてない日もあるから正確には覚えてない。

 多分世界中のダンジョン作成の中でも、かなり深い洞窟だっただろう。

 もしセンセイが居なかったらと思うとぞっとする行程だ。

 センセイはテキパキと、使い捨ての地上帰還装置を組み立てていく。といっても、竜の逆鱗を使ってすぐに作れるわけではない。

 他の素材を作るために必要な別の素材を、更にまた別の素材を合わせて作成していく。

 クラフトの派生ツリーは俺じゃあ把握できないほど多様化しているようで、次々に持っていた素材を使って別の素材に変えていった。

 そこらの知識はエリザみたいな感覚では難しいだろう。彼女も口をアホみたいに開いてセンセイの熟練したクラフトを見ている。

 やがて、一つの青白く光る縄が完成した。

 

 "これで囲んだ範囲に居る人を地上に戻すのがディメンションゲートの効果だ"

「ほほー気軽なんだな」

 "使い捨てではあるが……そういえば"

 

 センセイは俺らを見て思い出したかのように言ってくる。

 

 "地上に戻る前に必要なものがあるなら、今のうちに作って渡すが"

「ん?」

 "私のルールとして、今持ってるマテリアルは全て地上に出ると同時に廃棄しなければならないから"

「もったいないです!」

「おいおい、竜の素材とか町で売りゃどんだけ金になるか……」

 "そもそもお金に困ったことが無いからな……あまり勿体無いという感覚はないのだが"

 

 うーむ、自給自足の極致みたいな性能してる上に、豪邸でウハウハするんじゃなくてストイックにダンジョン潜りするライフワークだからな。センセイは。

 それにクラフトワーカーとなれば好きなときに幾らでも稼ごうと思えば稼げるわけで。

 だからダンジョンで手に入れたマテリアルは廃棄するのだろうが……やはりもったいない感じはする。俺としては。

 

「じゃあなんか素材で作ってくれよ。町で売りさばくから」

 

 売りさばいた金でゾクフーに行くから。

 そこまでは説明しなかったが。

 

「アルトくんが持てるぐらいの大きさで……」

 "高く売れそうなもの……"

 

 エリザもセンセイと一緒になって考えて、二人でクラフトしだした。

 

「できました! [鮭を取る竜の木彫置物]!」

「素材がウッドじゃねーか! 竜は鮭取らねえし!」

 "……竜素材を使った、ドラゴンソードキーホルダー"

「土産屋にあるよねそういうチャチィ手のひらサイズ剣のキーホルダー! ドラゴンの剣なのになんて安っぽさだ!」

「……[鮭を取る熊の木彫置物]!」

「そっちを修正しやがった!」

 "鉱石で作った初回限定特典、ペーパーウェイト" 

「なんでよりにもよって文鎮のチョイスなんだよ!」

 

 センスが酷い女達だ……おみやげ屋かこいつらのお宝基準は。

 

「ほらもっと金のインゴットとかよー」

 "……作ってもいいのだが、アルト。君はちゃんとそれを正式なルートで売れる伝手があるのか?"

「……」

 

 言われてちょっと考えた。

 インフレ・デフレに左右されない財産の物質化として一つの完成形でもある、金塊。

 当然ながらそこらのパンピーが好き勝手に作っていいものではない。金貨を溶かして金を抽出したら死罪だし、金細工は大抵割に合わねえ値段になっている。

 なので国の管理下にある銀行的なところで手に入れるのが普通であり、当然その取引をすればしっかり記録される。

 俺はしてないし、そもそも傭兵なんてヤクザ相手には信用問題でやってくれない可能性も高い。

 とすると、俺が金塊を手に入れたら非正規のルートで売らねえといけないわけで。

 そうすれば金塊を持っているという俺の噂なんて一日千里を走りまくり、飢えたナックルのような悪党が群がる。あれ? ナックルだっけ? いや、ジャッカルだ。ナックルは情報屋だ。まあ似たようなものか。

 つまり、非正規故の買い叩かれた値段で売ったが最後、俺は小金持ちで社会的立場の弱いカモとして知られるわけだ。

 

「無理だな……すげえ狙われそう」

「まあいいじゃないですかアルトくん。お給料いっぱい貰えるんですし。ご飯に困ったらあたしと先生が作ってあげますよ!」

 "そうだな。必要なものがあれば都度言ってくれればなんとかしよう"

「……んん? なんか俺このままの未来だと養われてない? ヒモってない?」

 

 妙な危機感を覚えたので、報酬の金でせめてダンジョンの外での自活はしようと思った。

 いくら外道な傭兵稼業をしている俺でも、ヒモなんて人間失格野郎に成り下がるつもりはない。

 ともあれ金目のものは置いておき、持ち運びに便利な道具を幾つか作って貰うことになった。

 

 鞘から抜くと徐々に発熱していって赤熱化までする[ヒートダガー]。

 ジェットの噴射で姿勢の制御・落下減速・僅かな空中移動ができる、魔法の脛当て増設アイテム[ジェットスラスター]。

 各種竜素材の爆弾。

 壊れたワイヤーフック改良型。

 

 そんなものを作ってから地上に戻ることにした。

 色々材料が集まってはいるが、いざ最後になんか作ろうってなるとイマイチ必要なものは思いつかないものだな。

 なにせこのダンジョンはもうクリアしてるし次行くところの見当もついていないわけで。

 センセイはロープを地面に敷いて輪っかを作り、俺たちの方を向いて言う。

 

 "では行こうか……一緒に"

「はいです!」

「おうよ」

 

 そうして。

 三人同時に輪の中に入ると、虹色の光がロープから立ち上って内部の俺らを囲む光柱へとなった。

 それに包まれて、まばゆい光に目を閉じると────やがて光は収まり、日差しの暖かさと草の匂いがする風を感じる。

 目を開けると、そこはもう何日前に通過したかわかんねえぐらい懐かしいダンジョンの入り口であった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 それから俺たちは村長にダンジョン作成完了の報告に向かった。

 驚喜して迎え入れた──成功を確信して迎え入れろよ──村長は、一応事後調査の後に報酬は支払うので休んでくれと再び俺らに宿を提供する。

 ダンジョンの入り口へ村の若いのを向かわせていた。

 ちゃんとできたか、そうでないかはひと目で分かる。

 作成完了したダンジョンには、入り口に魔法の門が自動で作られるのだ。だからそれを見ればすぐに確認は取れるだろう。

 これによりダンジョン内の魔力で発生した強力な魔物も、外に出てこないようになっているそうだ。

 んで、中にちらっと入れば明らかに自然洞窟から微妙に壁やら床やら変わってるはずなので一発だ。

 門と入口付近の内装を完全に作り変えれば偽装は可能かもしれないが、そんなもん可能なのは技工士ぐらいな上に、探検技工士センセイの信頼度はピカイチだから騙してないかと疑われることはないだろう。

 

 その間にエリザが村長やらにこれからセンセイの弟子になったので村を出てついていくことやらを説明する。

 感動の別れ、手厚い餞別、お前がどこに行ってもここは故郷だよ……!

 みたいなことはなく「ふーん」「頑張れよ?」てなもんだった。まあ……なんつーの? そんなもんだよな。実際。なんかポンコツな村人が引っ越すからっていちいち湿っぽくならねえわな。

 餞別代わりにエリザにも賃金は支払われているからいいとしよう。

 大体洞窟に入って一ヶ月半ぐらい経過していたそうだ。そんなわけで報酬は二ヶ月分。一人260万×3で780万エンスフィールド。勿論、そんな量の硬貨は持てないので銀行振込である。村にある銀行でしっかり記帳して受け取り終了になる。

 780万エンがどれぐらいって、まあ……ちょいと家持ちで中流の上ぐらいのご家庭のお父さんが一年で稼ぐぐらいか? 

 たったそれだけの出資で、村の資源となるダンジョンを開拓できたのだから破格だと思う。例えば温泉掘って村の資源にしようってなったら掘削費用で最低5000万エンは見積もるはずだしな。

 

 そして命名権。

 センセイとエリザは辞退したので俺が代表して名付けた。

 

 《恐るべきアルトリウスダンジョン》

 

「リスペクトも忘れない俺の奥ゆかしさよ」

「お、恐るべき……」

 "アルトは時々センスが変だ……"

 

 などと言われたが気にしない。これで[恐るべき]アルトリウスって俺の名も広がるだろう。

 

 そんなわけで村での用事も済んだ。これから村の連中は、冒険者などを受け入れる準備をしてから大々的に宣伝をするだろう。

 あとサービスで俺を雇った時からして微妙に見積もりが甘いので村長にダンジョン村のススメ的な本を紹介してやった。集まったあらくれ共の治安対策とか、娼館やサービス業の誘致とか詳しく書かれている。

 寒村ってほどじゃないが、地元の商店街だけではダンジョンの拠点として無理だ。

 

 そして俺たち三人は旅に出る。

 

「さてと、次に潜るダンジョンを見つける前に、まずはバニシュドの街にでも行くとしようぜ」

 "ああ。あそこはダンジョンの情報も手に入るからな"

「都会って楽しみですー!」

 

 センセイの目的である、ダンジョンでの未知を探し彼女の先生を見つけるために。

 エリザがセンセイから技工士の技術を学ぶために。

 俺はあれだな。名誉とダンジョンで手に入るお宝があればそれでいいか。

 そんなこんなで無期限のダンジョン潜りパーティはお気楽な旅を続けるのであった。

 

 とりま、都会でゾクフーに行って豪遊ストレス解消しよう!

 

 

 

 これは投擲傭兵アルトリウスが色んな称号を目指しつつ冒険し。

 半人前魔法使いで魔法技工士のエリザが新しい物を作り出して。

 探検技工士のセンセイと共に洞窟やらダンジョンやらに挑む。

 三人の長く続くこれからの、始まりの物語──。

 

 

 

 <完>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 その夜、バニシュドへの旅中で夜になり、すっかり慣れ親しんだ野宿イン仮設小屋。

 洞窟内ではないからちょいと屋内なのに開放感はあるがな。窓から月明かりが見える。

 

「洞窟の外に出たのに変わらねえなーこれ」

「まったくです~居心地いいですねー」

 "ふふっ、慣れてくれたのならば幸いだ"

 

 などと団欒していると、

 

「そやねぇこれから毎晩よろしゅうなぁ」

 

 ニコニコと。

 ベッドに座っている眼鏡のサキュバス。

 チャキリとセンセイとエリザが構えて、弾ける閃光とトリモチランチャー。

 銃声。悲鳴。破砕音。

 

「あかんあかんて──! うちは二人のやらしー気分で生み出されるから無駄やんな痛ぁーい!!」

 

 なにやら叫んでいたようだが攻撃の手は激しくなり、あっという間に見るもグロっぽく再び解体されるサキュバス。

 でも死んでねーんだろうな。よくわかんねーけど。

 なんか三人にプラス一匹、死んでも消えない悪魔が取り付いてきてやがる。どこまでも。多分今後も。

 肩で息をしてセンセイとエリザは悪魔の痕跡を消していたが、小屋の中は淫気めいた甘い匂いが残留していた。

 

 とりあえず俺はウォッカを飲んだ。ぐびっ。あっやべえウォッカ切れた。

 

 どうしよう……こちらを振り向く二人の瞳孔が、♥型に光ってやがる……!

 

 アルトリウスの戦いはこれからだ!

 

 




一旦ここで連載ストップしますが、アルトくんたちの冒険はまだ続きます
またいずれ!
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