どうも、「どうも、私です」の人です。
毎度遅くなってすまんかった。いろんなことをちびっちびちびっちびやってるから遅くなっちまってる。ゆるしてね、みんな。
今回…今回ちょっといつもと違う感じ。
なんかこう…こういう、無機質というか、抑揚がないというか…淡々とした文を書くのは、初めてかもしれない。楽しみ。
母が死んだ。
私が寝ている間に、病死だったそうだ。先程起き抜けに連絡が来た。私は「ああ、そこまで意外でもないな。」と思った。
着替えをしてリビングへ行き、いつものように朝ごはんを食べる。最近は、珍しく朝ごはんを作って食べている。ベーコンは好きだった。
母はいわゆる「難病」だったらしい。通常の病気よりも治療が難しい病気。治療法が確立していない病気。治療が難しく負荷のかかる病気。
だからといって「難病」であるせいで母が死んだわけではない。だいいち、ここはK社の巣で母はその中でもそこそこ上の方の金持ちだった。患部を切り取って負荷がかかる前にアンプルで再生するくらいは私でも思いつくし、あれくらいの金持ちならK社に治療を依頼することもできるかもしれない。そうでなくとも、この都市には自分を生きながらえさせる技術であふれている。最悪全身義体に変えれば病気なんぞにかかる心配はめっきり無くなる。
しかし母は何もやろうとしなかった。何も、というのはつまり、特異点を使った…そして、大金のかかる治療をやろうとは微塵もしなかったという意味だ。彼女はただ、誰だってできるような簡単な対処だけを受け入れ行っていたそうだ。どれだけ訴えられても考えを曲げなかったらしい。
朝ごはんを食べ終える。皿をまとめ、洗う。昔からこれが嫌いだった。私は少し潔癖の癖があり、これは手が汚れる。しかし、もう慣れた、我慢できるようになった。そういうものだ。
先程らしい、と言ったのは私が母とずっと別居しているからだ。私は母が嫌いだった。この都市であんな大言壮語を吐く人と血がつながっていると思いたくはなかった。
尊敬はしている。あの人から学べることはあったし、彼女にも悟りがあったのだろう。何か常人ではない悟りが。その悟りを曲げない…曲げることができないのは、誰だってそうだろう。私には、そんな大層なものは有りはしないが。
だから、母が悪いのだ、とは全く思っていない。私と彼女とは、馬が合わなかっただけだ。親子だからといって必ずしも同じ考えを持つというわけではない、私も彼女もそんなことを気にする人間ではない。
洗い物を終え、手を拭く。この瞬間は好きだ。潔癖の癖があるから洗い物は嫌いだが、潔癖の癖のおかげで汚れが綺麗になった瞬間を好きでいられる。そして、その良い気分のまま暖かいコーヒーと新聞に浸ることができる。
私は母のことが何一つ理解できなかった。私は彼女のことを理解したことがなかったし、理解できる気がしなかった。
ただ育てられた中であの人の考えを少し知っただけだ。彼女も私が理解できないとわかっていたのか、もしくは元から子に悟りを受け継がせる気が無かったのか、私に詳しく話そうとすることはなかった。
だからこそ、迷惑だと思った。私は死ぬのが惜しい。彼女は違うが、そんなことは勝手にすればいい。どうして私が葬式なぞすることになっているのだろうか。私は求めたことはなかったが、しかしながら金も悟りも私には残さなかった。求めなかったとはいえ、理解している。その2つは、都市で1番必要な物だ。それを独り占めして、息子に残さずに逝って行った。
新聞をたたみ、古新聞にまとめる。私は一度読んだだけで満足する質だった。コーヒーの苦みと酸味が口の中に残っている。なかなか珍しい、美味いコーヒーだ。後味も、心地良い。こんな趣味ができることに関しては、母には感謝している。
私は母が嫌いだ。自分勝手だからだ。私のことをまるで理解していないくせに、理解したような口を聞くのが、本当に嫌だった。
私とまともに話もしなかった癖をして、信じるだの、任せるだの、何をのたまっているんだ。しかし本当に反吐が出るのは、そんなことを行った次の瞬間にはやっぱり後悔してるとか、もっと話せばよかったとか、心配だとか話すことだ。
それならば最初からそうすればよかったじゃないか、と思う。そうでなければ一度やり始めたことは貫き通せと。そんなことは、並の人間では無理なのはわかっている。しかし…しかし、母はその「並の人間」ではないと思っていた。十分そうできる人間だと、そう思っていた。普段あんなに確信に満ちて話をする人だったから。だから、最後の最後で裏切られたような気がした。
母と喋った最後の日は、母をもう一度、もう一段深く嫌いになった日でもあった。
コーヒーの後味が消えたころ、携帯を取り出し会社の番号を入力する。本当に憂鬱だ。なぜこんなことをしなければならないんだ、彼女が勝手にやったことではないか。
葬式のために、会社に休みの連絡を入れなければならない。会社というのは…つまるところ、K社だ。金持ちである母が葬式を望んだのだから、ケチをつけられることはないだろう。しかし、間違いなく会社や関係者は嫌悪を感じているだろうし、その母が受けるべき嫌悪を私が受けることになるだろう。本当に迷惑だ。
どうせ電話でもぐちぐち言われるんだろう。もう割り切ってしまうしかないか。そう思い、電話を掛ける。
電話の内容に関しては、もう忘れたい。
気分の悪い一時を終え、憂鬱という名のコーヒーにも引けを取らない強烈な「後味」を感じつつ、ソファに座る。
葬式に関して、母は前から言っていたらしく、準備も既に終わっているため今日の内に行われるらしい。準備をしなくては、そう思うと心なしか後味がまた強烈になってきた。渋い味が口いっぱいに広がるように感じられる。
頭をひたすら空にして、準備し、家を出て、バスに乗り、葬式に参列する。時間の進みがとても遅く感じられるが、なにも考えなければ少しばかり早くなる。何も記憶しない。ただ空になる。
私が覚えているのは、ただ棺の心地よい手触りだけだった。
葬式の後、母の関係者が話しかけてきた。遺産や権力目当てだろう。私は、私がどうなろうと構わないので、とにかくここを離れたかった。適当に挨拶を済ませ、そそくさと帰った。
帰りのバスの中は、少しだけ考え事をした。
母は病に冒され死んだ。しかし、彼女ほど病気という言葉にふさわしくない人間はなかなかいなかったのではないか。
私はきっと病気だ。この都市の人はみな、病気なんだろう。人と接している時、たまにそう感じる。
しかし、母とは生まれた時からずっと接してきたのに、そう感じたことは一度も無かった。なぜだろうか、それは彼女が強い人だからかもしれない。強い思想、強い芯、強い人、強い自我…
…私はこのような話が嫌いだった。自分が病気なことを、はっきりと理解させられる。あの嫌いな母が正常で、私が異常だと、感じさせられる。嫌だ、ひたすらに嫌だ。私のような人間も、「人間」という枠から出ることはないというのはわかっている。それでも、母のほうが人間らしいのではないか…どうしてもそう考えてしまうから、考えたくなかった。
でも…今日だけは、少し考えなければならない気がした。病について考えるのも、少しだけ、本当に少しだけ苦ではない気がした。
私は母のような強い人間になることはできないだろう。そもそも、あんな人間になることを望んでいるわけではないし、病に冒されること自体がもはや正常なのかもしれない。
しかし…もしかしたら、母と違う方法で、私の方法で病を克服できるのかもしれない。
そう思うと、心の中で光る何かが芽生えた気がした。
「老人と海の次は異邦人かよこいつ!!!」
by作者の頭の中の読者