「メガネく〜ん!」
「キシノ君!席は空いてるぞ!」
キシノを見かけて手を上げて呼び込む飯田。
後ろに麗日がいたことも気づいた。
「む?うらら………か、ってすごく暗いぞ!そんなに負けたのが悔しかったのか!?」
「…あ、飯田君…」
表情が優れないところがどこか怯えの見える麗日。
「負けたことはもう終わったことだよ。『ちょっとしたトラブルを目撃しただけ』だし」
「トラブル?」
キシノの言葉にみんなが疑問を浮かべる中、観客が騒ぐ。
「エンデヴァーがやられただって!?」
「声が大きいぞ!…幸い医務室ですぐ目を覚ましたけどかなり痛々しい姿だったよ」
「そうか。………で、それをやった敵は?」
「それが殴られたショックなのか敵の顔を覚えてないみたいでな。警備のヒーローたちが躍起で探してる」
会場中に『エンデヴァーが負傷した』との報告が広まる。
「エンデヴァーってヒーロー界のナンバー2だろ?あの人を倒すなんて何者なんだ?」
「少なくとも強盗ではないみたいだが」
「一体どんな敵なんだ?」
同時に『エンデヴァーを倒した謎の敵』の話に持ちきりになる。
A組は不安そうに見守る中、麗日だけはあの光景を忘れられないでいた。
少し前、控え室で両親との電話を終えた時だった。
ドッゴォン!!
「な、なな、何事!?」
近くで爆発したかのような轟音に無意識に確かめに向かう麗日。
扉を開けた瞬間驚きの光景を目にした。
後ろ姿のキシノと、同じく後ろ姿の緑谷、そして地面に倒れているエンデヴァー。
だがよく見るとエンデヴァーの顔面は拳の形に陥没していて、キシノの右手は赤い液体が滴っている。
それだけで麗日は何があったのか理解し、同時にどうしてこうなったのか理解できなかった。
「…ショート君は」
キシノがボソッと呟く。
「ショート君は、テメーのためのロボットじゃねーんだよ…」
そう言うキシノから何か強い怒りが含まれ、
「そんなのが、そんなのが『父親』であるはずがないじゃん…」
同時に彼女の背中が『泣いている』ように見えた。
現在
『START!』
プレゼント・マイクのコングでハッと意識を戻した麗日。
目の前には氷で拘束しようとする轟とリスク覚悟で氷を破壊する緑谷。
両者一歩も譲らない攻防戦が始まる。
「…ごめんねうららちゃん」
「え?」
隣のキシノが突然謝罪した。
「あの時ビビらせちゃったみたいで…」
「あ、いやいやそれに関しては大丈夫!………やけど」
エンデヴァー負傷事件の現場を目撃した事に麗日はキシノがやったことよりも『キシノが泣きそうな姿をしていた』ことが気になっていた。
「ねぇ、うららちゃんの父親ってどんな人?」
「へ?父ちゃん?建設会社やっとるけどまだ仕事がスカンピンで…」
「いい人?悪い人?」
「悪いわけあらへんがな!キシノちゃんでも怒るで!」
「はは、いい人か」
麗日の父親の事を聞いて納得するように頷くキシノ。
「うららちゃんはいい親に恵まれてるみたいで安心したよ」
「…キシノちゃんの親はどったん?」
「…私も育て親は“いた”んだけどね。三年前からまだ会えてない」
「!?」
『いた』と言う過去形と、キシノの言う三年前とは『インヴェーダーがカンタベリーを滅ぼした事件』の事。
麗日は軽はずみな失言に顔を青くした。
「ご、ごめん」
「気にしないでうららちゃん。あの人はどこかでみんなのために戦ってるって知ってるから。私が騎士を目指してるのも半分はあの人のおかげだからね」
そう言うキシノの顔はいつもの顔になっていた。
「『一流の騎士は笑顔と人々を守るためにある』ってのが口癖。私もこう言う矜持を持ってるから戦っているの。でなきゃお父さんにゲンコツ叩き込まれるから」
「なんやそれ」
麗日に笑顔が戻る。
少ししてキシノから雰囲気が怒気に包まれる。
「それに引き換え、あいつのショート君の扱い方にすごくムカついた」
「えと、詳しくは分からんけど落ち着こう。ね。」
「…まぁ、本当なら後百発ぶち込みたかったんだけど、頑丈だし大事な時期だから一発で我慢するけどね」
「………冗談よね?」
「いっそのこと玉袋ぶち取れば大人しくなるかな?」
「冗談よね!?」
そんなやりとりを半分聴いてた男達は思わず股間を押さえたとか。
「ふふ、誰かのために怒るのもお変わりありませんね」
「ん?あ、プリシラ」
「様をつけろ!このヘラヘラ顔め!」
ふと隣に体育祭前に会ったプリシラと気品溢れている従者らしき人がキシノを叱る。
キシノはめんどくさいと言いたげに従者を見る。
「うわぁ、ヴァレっちゃんだ…」
「『ヴァレンシア・ブラッドガード』だ!!その気の抜ける渾名はやめろと何度言ったらわかるんだ!!」
「わ、私は好きですよ………クフっ」
「ぷ、プリシラ様…」
「フォローになってないよ」
ツボだったらしく笑いを堪えているが、従者のヴァレンシアは泣きそうな顔になり、キシノは呆れる。
「し、失礼しました。………彼なのですかキシノ様」
「うん、赤白のショート君」
落ち着いたプリシラは轟に注目する。
「あの子父親に何もかもを押し付けられちゃってかなりやさぐれてね」
「まぁ、それならキシノ様が怒るのも無理はありませんね」
「貴様のファザコン談議はどうでもいいんだが?」
「私はそんなんじゃないよ。多分」
麗日そっちのけでプリシラ達と会話するキシノ。
「む?そろそろクライマックスだな」
「君の力じゃないか!!」
緑谷の叫び。
その後、轟の左から炎が噴き出す。
「ほほぅ?あれが彼の本気か」
「近衛騎士としてどんな感じなの?」
「………まだまだ未熟でしか無いな」
ヴァレンシアは轟を辛口に評価した。
「たとえ百回戦っても私が全勝するがな」
「きびし」
『轟焦凍!準決勝進出!!』
プリシラが苦笑いを浮かべる中、緑谷が場外へ飛ばされて決着がついたようだ。
「さてと」
「あら?キシノ様もう準備を?」
「んにゃ、お見舞いだよ」
仮設の医務室にて
「緑君だいじないか〜?」
「どこの方言だよそれ」
「む?キシノ君もお見舞いか」
「あ、キシノちゃん…」
「複雑そうねお茶子ちゃん」
訪れると峰田、飯田、麗日、蛙吹が先に見舞いに来ていた。
「あんた達、見舞いはいいけどこれから手術だよ」
「「「シュジュツ〜!!?」」」
(実際は個性で応急処置だろうけど)
「緑お兄ちゃんいる?」
ドアからコヒメが現れる。
そして包帯だらけの緑谷を見てすぐに駆け寄る。
「お兄ちゃん大丈夫!?しっかりして!」
コヒメは緑谷に近づいて彼の手に触れて…
「姫様ダメです!!」
キシノは素早くコヒメを抱えて離れる。
「心配するのはわかりますが、“その力はいけません!”」
「…でも」
「リカバリーさんが直してくれますから。今は戻りましょう」
コヒメは名残惜しそうに緑谷を見てしぶしぶ離れる。
「………さ、あんた達もうおしまいだよ。後はこっちの番さね」
コヒメの方を見つめてたリカバリー・ガールは飯田達を退出させる。
キシノもコヒメを連れてお辞儀をして出て行った。
「…全く、護衛ってのも大変だね。『コヒメの個性』は世界を一変させるってのも考えものだね」
やれやれとため息を吐くリカバリー・ガールの嘆きは、同じ部屋にいる緑谷とオールマイトに聞かれることはなかった。
キシノの家族構成はいずれ………