「う〜む………」
指で顎を支えて何かを考え込む老人ヒーロー。
「………あの、どうかなさいましたか?グラントリノ」
その老人に逆さまでぶっ倒れている緑谷が問いかける。
ついさっきまで特訓していたようだ。
「小僧、俊典に送ったと思うがもう1人のやつについてどれぐらい知ってる?」
「もう1人?…キシノさんですか?それほど詳しくはないですが多少は…」
「何も問い詰める気はせんわい。分かる範囲でいいぞ」
「わ、分かりました」
緑谷は自身の分かる範囲でキシノ・ガーディアンについてグラントリノに話した。
「個性『レベルアップ』とな?」
「『たくさん経験を積めば積むほどスキルが………言い換えると個性を増やせる』とかなんとか」
「個性を増やす………じゃと?」
眉間に皺を寄せるグラントリノ。
緑谷はその様子に緊張の面持ちとなる。
「おい小僧。おめぇこの事を言いふらしたりしてねぇだろうな?」
「いえいえいえ!滅相もございません!説明受けた時にキシノさんから『間違っても悪い人に話さないでくださいね』と散々注意を受けられてますから!」
「ほぅ?多少自分自身を理解していると見えるな」
「あ、あと『自分のみならず珍しい個性持ちは何かと注目されるからいろんな方面から狙われやすい』とも言ってました」
「ほほう?ますます興味が湧くわい」
グラントリノはキシノの人格を高く評価したようだ。
「何か気になることでも?」
「いや気にするな。単なる好奇心じゃ」
緑谷ははぁ…と空返事しながら埃を払い落としていく。
(OFAとは別口で厄介な運命を背負ったみたいじゃの。しかもそういう経験を受けたと言う。もし機会があればあやつの出生についても聞かねばならぬかもしれん。………やつに目をつけられるかも知れぬがな…)
グラントリノはかつて相棒でありオールマイトの師匠でもあったあの人の命を奪った宿敵を思い浮かべた。
???
「………………………」
スーツを着てフルフェイスのマスクを被った男があるデータを見ている。
『まだ調べているのか?』
そこにメガネをかけた小太りの医者がホログラムで現れる。
「ふふふ、仕方ないさ。僕は色々な個性を見て来たが、彼女のような個性はこの僕ですら初めて見るからね」
マスク男が見ていたのは『キシノ・ガーディアンのデータ』だ。
「『経験を積めば積むほど個性を増やす』なんて、それこそ今の僕に相応しくないかねドクター」
『だがすぐに増えるとは限らんぞ。軽く調べたところ『一年以上も個性が増えなかった』とある。タイミングもばらついているからいざって時に出ないかも知れんぞ』
「それについては僕なりに考えてあるさ。僕の個性ならば『根源ではなく増えた方』を奪えばいいって」
『飼い殺しにするのか』
「いずれはね。ふふふ、正義の騎士が敵に堕ちるなんて面白いと思うね僕は」
ふふふと笑うマスク男にドクターと呼ばれた男はやれやれと呆れながら通信を切った。
「…それにしても」
マスク男は今一度キシノのデータを見る。
「こんなことは初めてだよ。僕は弟一筋のはずなのに今は君が気になって仕方がない」
マスクなので表情は見えない。
しかし声色からどこか狂気じみた感じがする。
「ああ、楽しみだよ。君に出会ってその魂を悪に染め上げたい…」
「クソ!イライラする!」
怒りを隠さない男は八つ当たりに電柱を蹴る。
「おいおい大丈夫か暗血」
「血糖値上がったのか?」
「うっせぇ!黙ってろ!」
男は
「くそ!あの兜女のせいで………」
「ああ、体育祭の優勝者だろ?」
「聞いた聞いた。たしか『ヒーローと人々は共に助け合う』とか言ってたやつ」
「えー?やだなー。ヒーローはアタシらの雑用係でいーじゃん」
「ブハッ!言えてる!ヒーローは俺たちのために働いてればいーじゃん」
彼らはヒーローを下に見る発言をする。
彼らの中では『ヒーローは一般市民の奴隷』と言う認識らしい。
「それでどうする?今日もヒーロー反対運動でもするか?」
「………やめとく。今日はなんだか気分が悪い」
「なんだよノリ悪いな」
「うるせ」
暗血はそそくさとこの場から離れて行った後、
(くそ!あの目が………あの光景が今でも思い出す!)
それは
あの目を見た瞬間命を握られた感覚を今でも思い出すのだ。
「おい!シオンさんの路上ライブだ!!」
「まじか!早くいかねぇと!」
「し、シオンさんのライブだと?」
ふとストリートワーカー達の話に正気に戻った暗血。
早足で向かうとたくさんの人混みと中心に小さな蝙蝠を連れた少女がギターを手に現れた。
「本日は傷ついた思い出から癒される曲『ラブミー・ハート』を歌います」
「「「「「「イェーイ!!シオンさーん!!!」」」」」」
「ラララ〜ラ〜♪」
(はぁぁ………やっぱ彼女の曲を聴くと癒されて心が洗われるようだ…)
流浪の音楽者『シオン・サウンディア』の曲を聴いてイラついた心が洗い流されるのを感じた。
彼女の曲は(自称)シオンファンクラブ第一号の暗血にとって癒しそのものだった。
(俺はヒーロー含め何もかもを陥れて愉悦に浸る生活を送っていたが………彼女の歌だけは唯一俺が陥れたくないと思ったんだ。もし誰かが彼女を陥れる馬鹿がいるなら、絶対に俺が陥れてやるからな!)
さっきまでイラついた顔はなく恍惚な顔で気持ちを新たにする暗血。
すでに怖い思いはもう無くなった。
………だが未だに女騎士の顔が消えることはなかった。
???
「………準備はいいか?」
「はっ!完了であります」
インヴェーダーの一小隊が隠れ家にて話し合っている。
「最後に確認だ。数日後、ある街で騒ぎが起きる。我々はそれに乗じて作戦を行う」
「………あのガーディアンについてはいかがいたしましょう?」
少し不安げな兵士が隊長に問う。
「奴はこの作戦エリアから離れているから問題ない………とは言え、警戒は必要だな。何名か援軍を要請してみる」
「ありがとうございます」
「奴は我々の目の上のたんこぶ。全員気を引き締めろ!」
「「「ヤー!」」」
主人公(キシノ)は色んな意味でモテモテです。