戦闘訓練から翌日の早朝
タッ!タッ!タッ!タッ!タッ!タッ!
黒いタイツのような肌着と灰色のシャツ、頭に騎士兜を装備したキシノが朝のジョギングをしていた。
「不意に早起きしてしまって暇だからジョギングしているけど、何やってんだろうね私」
今一度今までのことを振り返るキシノ。
雄英に入学し、緑君と友達になり、一部除いてクラスメイトと友達になり、戦闘訓練の授業をしていた。
「本当に雄英に入ったんだなぁ」
クエスターとしてそれなりの実力で上り詰めたことや、故郷のことを思い出す。
「………いずれ、奴らも現れるかもね」
故郷と共に『ツノが生えたマグマ色の侵略者』達を思い浮かべる。
いずれ故郷であり守ると誓ったあの子の居場所を………
「ん?」
ふと海岸に見覚えのある緑のモジャモジャ頭を発見した。
「緑君?………それと…」
緑君こと緑谷のそばにまるでガイコツと間違われそうなガリガリに痩せた男がいた。
遠くにいるので聞こえはしないが、2人は知り合いと思われる。
「ん〜………」
しばらく観察していると、
「………あらま〜」
さっきまでガリガリに痩せていた男が、つい最近まで見覚えのある筋肉モリモリマッチョマンに変身したのを目撃してしまった。
「………やらいこっちゃ」
なんかやらかしちゃったような気分になったキシノ。
まるでマスコット人形の中身を知ってしまったかのような。
「………まいっか。おーい緑く〜ん!」
が、そんなものはかなぐり捨てて緑谷を呼ぶキシノ。
「き、きき、キシノさんっ!?」
「浮気がバレた夫みたいに驚くね緑谷少年」
かなりびっくりした様子の緑谷。
「緑君もしかして秘密のトレーニングでもしてた?」
「そ、そそ、そんな感じ………かな?」
「少年。落ち着いて。自然に合わせるように」
心臓バクバクで落ち着きがない緑谷。
ガリガリの男が小声で落ち着くように促す。
「確か君の個性ってフィードバックが強いって感じだったね。経験から言わせてもらうと君の肉体とバランスが合ってないと思う。できることならまず力の出力を制限することが大事かな?」
「力の………出力?」
「君の個性は100%ブッパみたいな感じだし。仮に制限が難しいなら別方向へアプローチをすればいけるんじゃないかな?」
キシノのアドバイスに緑谷は考え込むような仕草をし、ガリガリの男はほう?っと感心するような顔をする。
「…とまぁ偉そうに言ったけどこれ受け売りだから参考程度でもいいよ?」
「いや、別方向へアプローチとなると当然そっちにも意識が向くわけで、そこで個性の暴発を無くすわけだけど………ブツブツ」
緑谷はブツブツと自分の世界に入っていった。
こりゃ当分聞かなそうだなとキシノは思った。
「………ところで、貴方は緑君の何かな?」
キシノはガリガリの男に目を向ける。
ハッ!と自分の世界から帰ってきた緑谷はハラハラと見守っている。
「私は緑谷しょ………緑谷君とは訳あって縁があってね。個性についての話し合いをしてたのだ」
「成程。緑君は結構無茶する子ですよね?」
「そうだね。緑谷少年を見てるこっちとしてはハラハラの連続だから苦労したよ」
ガリガリの男の話に、キシノはあることを切り出す。
「もしかしてだけど」
「ん?」
「貴方はオールマイトですか?」
「っ!!!!??」
緑谷がギョッとした様子で見つめる。
「………チガウヨ」
「あ、そうですか。昨日顔を怪我したって。で結構大惨事だと聞いたんだよね」
「いや、それほどでもないね。いまでも元気ハツラツさ」
「さすが筋肉モリモリマッチョマイトの変態先生」
「いやその呼び方はマジでやめて!!お願いだから!!」
「やっぱり先生でしたか」
「………ハッ!?」
迂闊!ガリガリ男ことオールマイトは慌てて口を押さえるが、時すでに遅し!
隣の緑谷は顔が真っ青にガタガタ震えている。
「………いつからだい?」
「あの訓練を見てた人は限られますし、何より緑君に対する呼び方が変わってないので」
「………オォウ シット」
手で顔を覆って空をあえぐオールマイト。
「で、教えてくれますか?緑君との関係と細くなった貴方について」
「………このことは内緒で頼む」
オールマイト曰く、
『とある巨悪との戦いで、大きな怪我を負った』
『その後遺症で
『後継者探しのために雄英の教師になることにした』
『後継者を緑谷に決めた』
『オールマイトの個性は先代から続く引き継ぐタイプ』
「………とどのつまり、ガリマイト先生は緑君と通ずる所を感じて個性を与えたと」
「まぁそういうことだね。活動時間は狭まったけどまだヒーローとして頑張れるから。………と言うかガリマイトってやめてくれないかい?」
「ガリガリに痩せちゃってダイエットに失敗した見た目ですもん。だからガリガリのガリマイト」
「だからそういうのはやめてって」
ガリマイト呼ばわりに力無くツッコミを入れるガリマ………オールマイト。
「地の文までその呼び方はしないで!!?」
「なんで空に向かって叫んでいるんです?先生」
空向かってシャウトするオールマイトにキシノは首を傾げる。
「………ともかく、緑谷少年に力を託した訳だけど、ヒーロー活動を続けるつもりだよ」
「普通弟子に受け継がせたら師匠は隠居生活ってイメージだけど」
「HAHAHAHA!ヒーローたる者、私はまだまだ戦わねばならんのだよ!」
「………ヒーローの
キシノの一言にオールマイトは静かになる。
「私は『平和の象徴』と言う名前に恥じない戦いを行なっている」
「………」
「『ヒーローは常に笑顔に、悪を退け、弱き者達を助ける』それを信じ、時に信じさせ、今の平和を築いた」
「………でも貴方はヒーローを辞めなかった」
「そうさ。私がまだヒーローであり続ける限り、No. 1ヒーローとして、『平和の象徴』として、戦い続けるのさ」
「………」
オールマイトの言葉に何か思うところがあるキシノ。
そして彼女は口にする。
「なんだか緑君そっくりですね」
「へ?」
「ワッツ?どう言う意味だい?」
分かりかねた緑谷とオールマイトはキシノに聞いてみる。
「他者のためなら命を賭ける不器用な人」
「ブフッ!!?」
「………オーゥ」
緑谷は吹き出し、オールマイトは若干心当たりがあるので変なリアクションを取る。
「困った人がいたら助けずにはいられないって人は大抵自分を蔑ろにしがちって聞きますからね。それでその人の知人とか心配されるってオチが待っているからタチが悪い」
「「………………」」
心当たりがありすぎてぐうの音も出ないお二人さん。
「ま、私も似たようなことやらかして泣かされたことありますから人のこと言えませんが。私から言えるのは………」
キシノはオールマイトの手を握る。
「オールマイト、私達は強くなります。強くなって、背中を任せられる程に至ったら、私達を信じてください」
「!」
「そして忘れないでください。『平和の象徴の意志を引き継いだ者たちは、オールマイトの願いを叶えてくれる』って」
「………………」
キシノの言葉に開いた口が塞がらないオールマイト。
「ま、ぶっちゃけ緑君だけじゃオールマイトの意思を受け継ぐなんて土台無理な話ですが」
「キシノさんっ!!?」
キシノのあんまりな発言に叫ぶ緑谷。
ふと緑谷に向き直り、拳を突きつけるキシノ。
「だからこそ、力を合わせてオールマイトを助ける。そうでしょ?」
「………………はい!」
今度は力強く答え、拳を合わせる緑谷。
「あ、言っておくけどクラスメイトとしては友達兼ライバルとして扱うから負けるつもりはないよ」
「え、あ、も、もちろん!」
「………………(いい友達を持ったね。緑谷少年)」
2人を見て微笑ましく見つめるオールマイト。
(背中を任せる………か)
ふと昔の事を思い出すオールマイト。
よくよく考えれば
………故に、巨悪との戦いで満足に戦えないとしても、1人でなんとかしようと言う脅迫概念のようなものが働いたのだろう。
(………やはり教師というのは難しいです。お師匠様)
「そだ。鍛えるならエヴァ団長に相談しよ。ちょっときついけどより強くなるかも」
「私を呼んだか新入り?その子はクラスメイトか?」
「え、エヴァ・ナイトロード!?『光の騎士』と言われたあの!?本物!?」
「こらこら少年。落ち着いて」
思いを馳せるオールマイトだが、とりあえず偶然現れたエヴァに興奮している緑谷を落ち着かせることにした。