奈落に啼くペレグリヌス〜ウェルニクロの女〜【愚痴よりつまらない無価値な小説】   作:?がらくた

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第9話 血塗られた歴史

翌日 廃教会にて

 

 

 

暁を彷彿させる真紅の薄明かりに照らされた廃教会の石製の床に、おびただしい量の血の絨毯が敷かれた。

魔物の死屍累々は部屋の隅に堆く積み上げられ、戦闘の激しさを物語る。

モンスターの裂かれた身体からは血管が通った臓物が顔を覗かせ、死してなお脈打つ心の臓は生命の躍動を感じさせた。

血塗れの掌で汗を拭い、未だ興奮冷めやらず目を見開く彼らの顔は狂気そのものだ。

しかしまだ終わりではない。

売却すれば武具の素材になる牙を切り落とし、皮を剥ぐと一行は疲れからか。

乱雑に解体して肉塊になった処理済みのモノを放り投げていく。

自然というのは人の手を加えようがないほど、合理性に満ち満ちている。

残った血肉は廃教会の付近に棲む生物が、片付けてくれるだろう。

 

「冒険者組織は手を貸してはくれなんだ。助かったよ」

 

真赭(まそお)のローブの上から左腕に腕章をつける男が、デニスたちへ声をかける。

彼は冒険者ギルドでノックスの街の魔物の統括、及び個体数管理を担う中位の召喚士であり、今回の依頼人。

彼も自らの召喚獣を使役し、戦いに参加した。

複数の魔物と操り闘う召喚士の力と術を持ってしても、なおも困難を極めた突然の魔物の発生。

 

本来であればアピス・アンジェルス、ピューパ・シグニフィカ、コッチネラ・ディアボルスが介入すべき問題だ。

だが秩序の冒険者組織は街から離れていれば、大事には至らないだろうと依頼を放置。

混沌神信仰の栄えた街で組織のメンバー自体が少数派で、街の中や周辺の魔物退治、警備にしか手が回らないという、切実な問題を抱えていた。

中立、混沌の冒険者組織は内容が面倒で割に合わないと、商隊護衛などの金銭的利益と組織の信頼を得やすいものを優先。

さらにはどの組織も新人冒険者の実践練習とするには、魔物の群れ退治は荷が重い依頼と判断。

それもそうだろう。

まともな知能がある組織の頭なら、貴重な人材をむざむざ殺すような真似はするはずもない。

それに加えて冒険者ギルド側も緊喫の課題とは思わず、報酬金を渋ったのも要因の1つだ。

状況が深刻になれば報酬金を上げざるを得ず、それと同時に動き出し名声と金銭を求めるであろう、冒険者組織と冒険者ギルドのチキンレース。

そのデッドヒートに介入した一行は、まさに救いの神に等しい。

討伐を終え地べたに座り込み、肩で息を吐いてゆっくり呼吸を整える。

今日も誰1人欠けることなく、生き延びられた……安堵した一行が実感し、彼らの相貌からは憑き物が落ちた。

 

「グゥ~、グゥア、グゥア……グルルッ!」

 

双頭の猛犬オルトロスは犬が鼻を鳴らし甘えるように啼き、依頼者の召喚士は一旦、一行から目線を外す。

彼が喉を撫でてやると瞳を閉じ、恍惚とした笑顔を浮かべた。

人並みの図体で威圧感すらあるというのに、召喚士と絆を構築し懐いた姿を目の当たりにすると、不思議と愛らしく映った。

石炭の火で視界の確保に協力した、果肉をくりぬいて目や鼻、口の形に切った南瓜のお化け、ジャック·オ·ランタン。

彼は蜂が踊って仲間に意思を伝達するかのように規則的な動きを繰り返し、召喚士とオルトロスの頭上を飛び交う。

 

「……ああ、悪いね。この子が戦った後は、これをやらんと機嫌が悪くなるのだ。報酬は私の巾着袋に入っている。依頼の内容と齟齬がないか確かめてくれ」

 

カバンから取り出した巾着を受け渡され、ガヴィンは脇に抱え、天秤を地面に置き

 

「ありがとうございます。別にギルドを疑うわけではないが……職業病だ、許してほしい」

「いや、偽造硬貨が流通しているからな。存分に疑ってくれ。冒険者ギルドの沽券に関わる」 

 

彼は水筒の酒で血を洗い、濡れた掌を拭いてから、5枚づつ金貨を左右の秤に乗せ始める。

 

「なかなか腕の立つ冒険者だね。また機会があればぜひ頼むよ。君たちの勇姿と活躍、上司に報告させてもらう」

「ええ、その時は依頼次第で協力させてもらいますね」

「デニスとその仲間たちは、英雄への第一歩を踏み出した……な〜んてな」

 

依頼の達成とデニスの軽口で、和やかに締めくくられかけたその時

 

「……」

 

ルシルだけがただ1人、召喚士に対し無言のまま、じっと彼に視線を送った。

どんな意図があったのか、彼は露知らず。

しかしその憤怒にも似た双眸の圧力に、ついぞ耐えきれなくなったのだろう。

 

「……修道女のお嬢さん。私や私の魔物が何か粗相をしたかね?」

 

努めて冷静に訊ねられた彼女は

 

「いえ、すみません。ただの私事で……」

 

と、言葉を濁した。

すると彼は何かを察したように

 

「人とは相容れぬ魔獣を使う、我々は嫌われ者だ。気にしていないさ」

 

と、逆に気を遣われてしまう。

問答をしていると罪を禊ぐ大粒の雨が一雫、天から降り注いだ。

日帰りの距離で不要だと判断し、野営テントも持ち歩いてはおらず、ノックスへ戻るには骨が折れる。

流石に魔物の死体と共に過ごすのは気が咎めた。

血の匂いを嗅ぎつけられたら、また戦闘になってしまう。

すぐに近場で宿を探さなければさらに降水量が増え、びしょ濡れだ。

 

「この付近に宿泊施設はありますか? いや、雨宿りができるような屋内があれば、何処でも構わないのですが」

 

エレインの質問に

 

「ならば廃屋敷がよいだろう。かつては偉大なる二柱の神に仕えたという、由緒ある名家だったと聞き及んでいる。だが十数年前に惨殺事件が発生。その後に手に負えぬ呪いが原因で、残った主と屋敷の生き残りは逃げ出した……とのことだ。真偽は不明だが」

 

廃屋敷の噂を耳にし、一行は萎縮するも

 

「実際に帰ってきた者は平然としていた。心配はいらないよ。人の恐れがただの廃屋敷に勝手に尾鰭をつけた……珍しくもなかろう」

 

召喚士は特に動じず現実的な判断を下し、彼とは現地解散した。

もぬけの殻となった廃屋敷、ひっそりと記憶から途絶えた屋敷の住人、まことしやかに語られる血塗られた歴史……その場所で何が待ち受けるとも知らず、一行は召喚士の語った目的地へと向かっていく。




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