奈落に啼くペレグリヌス〜ウェルニクロの女〜【愚痴よりつまらない無価値な小説】   作:?がらくた

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第3話 虚と実

学校を通っていた頃はあれほど恋しかった週末の休みが、浪人生になり無味乾燥としたように。

突然の3日の休暇に青年はどう過ごすべきかと、頭を悩ませた。

暇というのは、人間には猛毒になりうるらしい。

教会で治療を済ませ、あてもなくフラフラと歩いていると、冒険者ギルドが目につく。

採集系の依頼ならば、魔物との遭遇の危険自体も少ないが万が一がある。

……割のよい仕事がないか確かめるだけ。

そう心の中で言い訳をし、脚を踏み入れると

 

「いつ見ても異様な……」

 

無機質な灰色のコンクリート壁を覆い隠す、ヴォートゥミラ三神を讃える、無数の聖典が目を奪った。

野外に徘徊する怪物を寄せつけぬ為には、魔に対抗する術が必要だ。

魔物には聖典を忌避する性質があるらしく、ノックスの重要な拠点には、このような方法で防衛を施したようだ。

薄汚れて本来の役割をこなせなくなり、寄贈された羊皮紙からは、バニラやチョコ菓子のような甘ったるい香りが漂い、鼻腔をくすぐる。

どうやら皮製品の加工の際には香料を用いるとのこと。

その匂いが空間に充満しているのだろう。

中には人っ子一人おらず、もぬけの殻の冒険者ギルドで羊皮紙に記された絵や報酬、依頼の難度を示す色を比較した。

すると受付のカウンター越しから

 

「エレインから聞きましたけど、怪我したみたいですね。駄目ですよ〜、依頼なんて〜」

 

暗黒の街に似合わぬ快活な声で、釘を刺す女性が1人。

 

「嫌だな、いいのがあるか見てただけですよ」

「ええ、本当ですか?」

 

団栗色(ドングリいろ)の艷やかな茶髪を靡かせ、哄笑(こうしょう)する彼女の名はヘイゼル。

ヴォートゥミラ大陸の各地に点在する冒険者ギルドで様々な雑務をこなし、彼に冒険者の道を示した人物だ。

狭き門を通ったエリートらしいが、傲慢な物言いをしない彼女はそれなりに慕われており、エレインとは無二の親友だという。

 

「エレインとは上手くやれてますか?」

「いや、怒られて淡々と指示をされて……どうすれば親しくなれるか、友達のヘイゼル職員は知ってますか?」

 

食事や趣味などの好みは彼女が詳しいだろう。

不機嫌な先輩と上手く付き合わねばと思い、訊ねてみると

 

「……あぁー、叱られるから怖い? あの娘ったら人を遠ざけるような真似ばかりして。君と仲良くしてくれたらいいなと感じてましたが、そう上手くはいかないか。仕方ありませんけど」

 

溜息混じりに答えたヘイゼルは

 

「少し当たりがきついかもしれませんが、ちゃんと理由があるんですよ。〝緋色の女〟と畏怖された彼女の虚と実。エレイン自身が弁明も語ろうともしないから、どんどん尾鰭がついて……友達やるのも苦労しますよ、ホント」

「……」

 

続けて弱々しく言葉を漏らした。

あのしっかりした性格だと、良くも悪くも人を頼らずとも冒険者として活躍できるはずだ。

だが孤独になってから人を寄せつけない為に、生き抜く為に。

厳格な性格を体得したのだと思うと、エレインに陰を落とした原因は、それほど根深いものなのだろうか。

 

「特定個人や冒険者組織への依怙贔屓は御法度……ですが他には誰もいないので、エレインの友人として無理を承知で頼みます。今後も彼女と共に冒険をしてくれませんか?」

「どのみち冒険に慣れるまで時間がかかります。だから暫くは一緒ですよ」

「……ありがとうございます。あの娘が冒険者でなくなれば、ギルドで働く私とも疎遠になるでしょう。その時エレインはどうなるのか……心配なんですよ」

 

薄く笑うヘイゼルは、ただただ長年溜めこんだであろう心の内を曝け出す。

その無力な様はエレインに課せられた、呪縛の強力さを物語るようで。

青年は慰めるでもなく、彼女が吐露した本心に無言のまま頷いたのだった。




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