奈落に啼くペレグリヌス〜ウェルニクロの女〜【愚痴よりつまらない無価値な小説】   作:?がらくた

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第4話 雌伏の時

夜の街の訓練場にて

 

 

 

怪我の療養から明けたNobodyはエレインとマンツーマンの鍛錬を行うべく、訓練場へと足を運んだ。

几帳面な彼女は約束の時間よりも早く訪れ、淡々と屈伸をし体を温めていた。

 

「N、病み上がりだし多少は手加減してあげるわ。しっかりと準備運動しておきなさい」

「ああ……」

 

Nも促されるままに、エレインの真似をする。

2人のやりとりに、これから起こるであろうことを察したのか。

恐れをなした冒険者は遠ざかり、奇異の目を2人に向ける。

片や仮面をつけた不気味な男、片やあらぬ噂が立った気難しい女。

だが関わってはならないと理性が拒んでも、危険なものは興味と関心を惹く。

結末と成り行きを、まじまじと眺めていた。

 

「準備はできた?」

「問題ないが、1ついいか。いつもの剣ではないのか?」

 

絢爛な装飾が施されておらず、剣の鍔(ガード)に宝石が埋め込まれていないので、一目して普段とは別の剣だと判別できた。

 

「これは刃のない訓練用の得物よ。だから安心して、死にはしないから。でも覚悟して、容赦なく叩きのめすから」

 

Nの問いに真剣な眼差しで高らかに宣言し、緊張で場が張り詰めた。

本気を受け取る青年が深呼吸すると、胸の内に静寂が訪れた。

エレインにだけ意識を集中し、次第に周囲の雑音が遠のく。

 

「合図は……そうね。あのスリング使いの男が、木の板を壊してからにしましょうか」

 

報せると周囲は上半身が裸の大男に、釘付けになる。

勝手に試合開始のゴング代わりにされたとは露知らず、例の冒険者は思いのまま紐の輪に手頃な石をはめこむ。

折り曲げた右腕を上げ、振り回した紐は円を描き、徐々に速度を増した。

そろそろだ、彼女と戦闘になる……握る拳に力がこもった。

静まり返る空間にビュッ、ドシャッ! 

紐が音を超えて風を切り、木の板を貫通する音が響き渡ると同時に、エレインは一気に間合いを詰めた。

鎧を纏っているせいか、予想よりも動きは鈍い。

だが自分を制する明確な意志を持つ存在が、絶え間なく鼓膜を震わす金属音を轟かし迫るのは、なかなかに迫力があった。

左腕に巻きつけた盾で顔を隠し、先制の一撃を受け止める。

致命傷は負わずとも盾越しから腕はじんじん痺れ、威力の大きさを肌で感じた。

 

「それでいいのよ。さ、来なさい」

 

青年は双眸を細めて次の動きを待つも、彼女の指示を受けて鞭の持ち手に力を込めた。

戦闘経験の差を埋めようとしても、そもそも訓練すら数週間の積み重ねの自分が勝とうなど無理筋だ。

ならば攻撃あるのみ、一撃で勝負を決める他ない。

 

「せぇいっ!」

 

一閃した鞭打は彼女の顔を目掛けて向かっていく。

全身を鎧で武装している以上、狙う場所はここしかない。

当たってくれ! 当たるな!

エレインへの遠慮からか、相反する感情が共に湧き上がるが

 

「甘いッ!」

 

彼女は身を低くし躱すと、すぐさま体勢を整える。

そして横に薙いだ一撃はNの回避を許さず、革の鎧に容易く傷をつけた。

致命傷を免れるための防具とはいえ、鎧越しから伝わる衝撃までは防ぎようがなく。

吹き飛ばされた青年は鋭い痛みに顔を顰め、堪らえようと奥歯を噛む。

だが抵抗も虚しく次の瞬間、吐血でもするみたいに、ゲホッ、ゲェッと体全体を揺らし咳(せ)く。

既に敗色濃厚な彼にトドメを刺すかの如く、首には刃の切っ先が突きつけられ

 

「……私の勝ち。これで終わりじゃないわよね。次にいくわ」

 

と、エレインは呟いた。

冷徹な無表情は戦場の無慈悲を知り尽くし、生命の奪い合いに一切の感情を持たぬように映る。

しかしそんな彼女の助けがなければ、命はとうになかったのだ。

 

「……まだまだ……」

 

よろめきつつも立ち上がり、青年はさらなる実戦に向けた指南を願い出た。

その覚悟に薄く笑む彼女との稽古を終え、玉の汗を額に浮かべた青年は疲労のあまり、地面にへたりこむ。

 

「訓練自体の問題もあろうが、そもそも威力が足りないのか。どう工夫すべきか……参考になる動きはないか、他の冒険者を見てみよう」

 

オークにエレイン、心の奥底にこびりつく度重なる敗北。

迅速に改善せねば冒険者としての活動など不可能だ。

脳味噌にある大量の反省材料を、どれから改善すべきか。

だがまずは長所を生かすべきかと思い立ち、周囲に視線を向けた。

 

「おお、これがスリングか。実物をゆっくり観察するのは初めてだな。紐に括り付けた物が1回転して放たれるのか……これも鞭と同様に投げる瞬間、先端部分の速度が音を破って……」

 

先ほど合図にした男が拾い上げたただの路傍の石が、分厚い金属の鍋蓋を貫く。

原始的な投擲武器でありながら、その威力たるや近代兵器に勝るとも劣らない。

シンプルながら練達の域に達した武器使いにおおっ! と青年は驚嘆の声を発した。

 

「なるほど、他には……刀を使う冒険者もいるんだ。腰から一瞬で獲物を抜く剣捌き……目にも止まらぬ速度で竹を切り捨てたな」

 

目移りすると目を奪ったのが、十字型の木製の台に固定された、何の変哲もない竹。

相対するは後ろ髪を一本に束ねた、紅髪の刀剣使いの冒険者。

眼前に怪物が現れて邂逅したような、眉に皺を寄せた力強い眼差しで竹を凝視する佇まい。

―――この男、只者ではない。

口を窄めて深呼吸し、瞳を閉じた刀剣使いは極限の集中状態に達したのか。

目にも止まらぬ素早さで斜め、横、斜めと刹那の暇で切り落とし、衰えぬ絶技を確認し訓練施設を去る。

 

「武器は違えど、動き自体は参考になりそうなものもあるな……」

 

自らの力を蓄えるべく水を吸う乾いたスポンジのように、青年は様々な技術を学ぶのであった。




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