第一〜三話 プリンを求めて
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レッドウィンター連峰学園。
常に寒気に晒され、赤い思想をもつ生徒が絶えず、今日も革命やストライキを日常として過ごす学校。
そんな学校の生徒会室、一人の少女の怒号と男子生徒の謝罪が木霊する。
「ご、ごめんチェリノ、知らなかったんだ……」
「オイラが大事に取っていたプリンを……!!お兄ちゃんなんて大っきらいだー!!!」
乱射されるHG。頭を抑えながら最愛の妹から逃げる、
カナゼの仲直りをしたいという気持ちが、レッドウィンターを救う……。
イベント 遥か遠くへ甘いお届けを
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第一話 兄妹喧嘩
ある日、レッドウィンターの男子生徒から呼び出しを受けた。ホログラムに映る彼は、雪に紛れる為の真っ白い迷彩服に、ふかふかの毛皮のネックウォーマーと黒いゴーグル姿だった。
[えっと、赤冬の生徒だよね。どうしたの?]
【……シャーレの先生。緊急事態。今すぐ来てほしい】
[待ってて!すぐに行くから!]
先生はバタバタと身支度を整え、仕事を放り出して赤冬へと走っていった。それが、2時間前の出来事。
[さ……ざぶい……]
ろくに寒さ対策もしてこなかった先生は、常に雪が積もる寒冷な気候に翻弄され、手を擦って僅かな暖を求めながら学園へと足を踏み入れる。
[彼はどこに……]
さっきの電話番号にかけ直すと、ワンコールで彼が出る。
【場所を伝え忘れてた。屋上に来て】
[うん。了解]
少し不思議な様子に僅かに困惑しながら先生は屋上へと向かう。赤冬の校舎は、現在はお世辞にも整っているとは言い辛く、隙間風がそこかしこから入り込み、暖房は大して機能していない様子。
やや軽装の先生をすれ違う生徒達は不思議そうな目で見るのがいたたまれず、屋上へと急ぐ。
古い扉を開けると、ホログラムに映った彼の後ろ姿を捉える。
[あ、君が呼んでくれた生徒?はじめまして、私はシャーレの先生、何があったのか聞かせてほしいな]
「…………」
[どうしたの?まさか、凍死……!?急いで温めないと!]
「うわっ!何!?」
先生は急いで後ろから彼へ抱きついて暖を取ろうとする。しかし、飛び起きた彼は驚嘆の声を上げる。
「びっ……くりした……あれ、ごめん。寝てた」
[こんな寒いところで寝ちゃ駄目だよ!]
「いや、防寒してるから平気……それより、来てくれてありがとう。じゃ、さっそく行こうか」
[待って待って、まだ何も聞いてないよ?]
「あれ、どこまで話したっけ……?」
[緊急事態ってことしか聞いてないよ!まずは君の名前を聞かせてほしいな!?]
「あれ、そうだっけ……?そうだ、そうだったかも。じゃあ、はじめまして、先生。僕は
[え、プリン……?]
「昨日、チェリノのプリンをうっかり食べちゃって、喧嘩したんだ。だから、この自治区のどこかで秘密に作られているらしい、限定プリンをあげて仲直りしようと思って」
[なるほど……確かに緊急事態だね]
「でしょ?なのにシドウ……僕の友達は下らないとか言って協力してくれないし、友達は他にいないし」
伏し目がちにして落ち込むカナゼに先生は明るく協力を承諾する。
[大丈夫、協力するよ!]
「うん、ありがとう。目星は少し付けてあるんだ。早速行こう。っと、寒いでしょその格好。これ付けてよ」
カナゼはネックウォーマーと手袋を渡し、先生もそれに甘える。
[あれ、ところでカナゼは銃を持たないの?]
「……重たいから。でも、持ってたほうが良いかも。先生は外の人間だから、応戦できないもんね」
そう言って彼がは屋上の一室から一丁の、明らかに改造された、真っ白のスナイパーライフルを取り出す。
[で……デッカ……!?]
恐るべきはその大きさ、銃身だけでも先生の体躯を超え、背に担げそうにはとても見えない。
[2……いや、3メートルはあるね……?]
「大体3.5メートル、40kg弱くらい。待ってて、このままだと学校歩けないから銃身を解体する」
ガチャガチャと銃身を取り外しても2メートルほどの大きさのまま背に担ぎ、パーツは専用のバッグに入れる。
[解体しちゃって、撃てるの?]
「そうだな……あそこ、あの的見てて」
[……あれ?]
ガションッ!
カナゼはスコープを覗くことなく、2キロはあるだろう距離の射撃場の人型の的の頭部へ平然と命中させる。それを先生は口を開けて唖然としてしまう。
「うん。撃てる。じゃ。いこっか。先生」
第二話 プリンの情報収集
[ここが目星をつけた場所?]
「そう」
広い学園の敷地内。学園の中でも一際人の気配が少なく、少し古びた気配もある図書館。そこは、知識解放戦線という、図書委員にあたる生徒達の部室だった。
「彼女達は内外の知識を豊富に持っている。ここなら何か情報を得られるかも」
[よし、早速……お邪魔します]
ノックを挟んだ後に図書室へ入るが、人の気配が全くないようで、先生は少し大きく呼びかける。
[あれ?おーい、誰かいないー?]
「はーい!」
モコモコのパーカーとファンシーなクマの顔をした弾頭が特徴的なRPGを持つ生徒がパタパタと走ってくる。
「お待たせしました!って……カナゼ先輩!?わ、私まだ何もしてません!」
「僕も何もしないし」
[ごめんね、突然。ちょっと聞きたいことがあって]
「貴方は……?」
[シャーレの先生だよ。今回はちょっと助けてほしいんだけど、君達もいつでも私を頼っていいからね]
「シャーレ?えっと、連邦生徒会の……?本当にあったんですね」
先生が自己紹介をした後、カナゼは本題にはいる。
「で、聞きたいことがあるんだけど、限定のプリンって知ってる?」
「限定のプリン……ですか?」
「そう。モミジ、何か知らない?」
「う~ん……すいません。ちょっと知らないです。先輩なら何か知っているかもしれませんが……」
「
「今は、多分同人誌の即売会に……」
[同人誌?]
「はい。先輩の新作でして、外面が凄く良いけど、家の中だと凄く横暴な皇帝が、強気な使用人に恋をする1次創作です。普段二次創作を描いている先輩がアイデアが降りてきたとかで、ネットのサイトで一部公開したんですが凄い人気なんです。……あっ、ありました。これです」
[……"萌える帝の初恋、〜生意気女中に理解らせを〜"…………うん、まぁ……あんまり、リアルに寄せすぎないようにね]
どこかで見たことがあるような顔の主人公のイラストを確認し、先生はページを閉じて軽く注意する。
「じゃあ、その即売会とやらに行こう。ありがとう、モミジ」
「い、いえいえ。限定プリン、見つかるといいですね」
「うん。量があったらあげるよ」
「良いんですか!?」
「まぁ、手伝ってもらったし。そのお礼ってことで」
「ありがどうございます!頑張ってくださいね!」
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[即売会……あった。結構遠いみたいだね]
「どのくらい?」
[ここから北に6kmくらいかな]
「めんどくさ……バス来るかな」
[あ、それならすぐみたいだよ]
二人はバスの停留所に並んで時を待つ。カナゼは待つのが好きじゃないのか、短い時間でも少しイライラしているようだった。
[大丈夫?重かったらバッグ持つよ?]
「……大丈夫。妹の為だし……このくらい我慢しないと。それに、狙撃する時はもっと待つこともあるし。それより、遅くない?もう時間じゃないっけ」
[う~ん、確かに。もう5分過ぎてるね]
「……あ、来た」
[え?どこどこ?……よく見えるね、あんな豆粒みたいなの……]
「……先生、バスジャック犯って撃ってもいいと思う?」
[え!?そんなことになってるの!?]
望遠に優れているのか、カナゼは直線で点のような距離からバスを補足する。しかし、一つ問題があるようで、先生へ相談する。
[う、う~ん……犯人だけに当てられる?]
「この距離、もう1キロないでしょ。パーツつけなくても余裕」
カナゼは道路の真ん中に立って狙撃銃を構えると、ほぼノータイムで放つ。
バス内
『飛ばせ!このまま例の場所まで行くぞ!』
『既に人員は抑えてありやす。後は各地からの増援を待つだーー』
パリンッ、バチィンッ!
突然フロントガラスが割れ、ジャック犯が狙撃されて倒れる。乗客が騒ぎ立てる中、もう1人のハイジャック犯は驚きのあまり声も出せない。その一瞬のうちに、もう一度狙撃され、確実ににこめかみを撃ち抜かれて気絶する。
[凄いよカナゼ!!]
「……このくらい、大したことないし」
素直に賞賛される経験が少ないのか、カナゼは少し照れながら銃を背負い直して停留所へ戻る。
やがて到着したバスから運転手が降りてくる。
「あ、ありがとうございます!本当に助かりました、奴らは……」
「そういうのいいから。早く出発して」
「え……は、はいっ!」
[すいません。彼も悪気はないんです、ただちょっと急いでて]
「いえ、助けられたことに変わりはありません!安全運転で一刻も早く目的地までお届けします!」
フロントガラスが割れていても、熟練のドライバーだったらしく、直ぐに出発したのだった。
第三話 白い風
[カナゼ、着いたよ]
「ん……?あぁ、ありがとう。寝てた」
「ご乗車ありがとうございました、またご利用ください!」
[無茶を言ってすみません、ありがとうございました。早く直してもらってくださいね。それと、彼らも]
バス運転手は先生達に手を振って感謝を伝える。
カナゼも、即売会の場所を調べながら、そっけないながらも手を振り返す。
「こっち。この辺にマーケットがあって、その奥にドームがあるみたいだ。即売会は11時からだからあと三十分、話は聞ける」
[よし、行こう]
二人は積もった雪を踏みながら、目的の姫木メルいるドームへと進む。
カナゼは荷物が重たいらしく、息を切らし、最終的にはパーツが入ったバッグを先生に持ってもらうことになった。
「ごめん、重いよね」
[ううん、気にしないで。若い頃はもっと重い装備で現場を走ってたから、これくらいお手の物だよ]
「?先生って前は何だったの?まさか狙撃兵じゃないでしょ?」
「狙撃は殆どやってないけど、心得と経験はあるよ。だからこれを見た時は驚いちゃった」
「あぁ、まぁ、僕にしか使えないし。っと、この先だ……人多……」
[即売会ってこんなに人が来るんだね……これは探すのに苦労しそう]
二人は溜息混じりにごった返す人波をかきわけて探し始める。すると、騒ぎが起こっている場所の中心に、目的の人物を発見する。
「だから!私はただの同人作家なんだってば!」
『同志よ、もう偽る必要はないのです!』
『そうです同志よ!貴方も知っているのでしょう?例のモノを!』
「へぇ、例のものって何だろうね」
[もしかして限定プリンのことだったりして?]
「ラッキーじゃん、メルに聞く必要もないね。ねぇちょっと、アンタ達」
『誰ですか、私達の……ひっ!?れ、連河カナゼ!?それに、シャーレの先生まで!?』
[知り合い?]
「いや、知らない人。誰?」
『ま、まさか計画が……!いえ、奴は狙撃手!この距離ならば!同志達よ、奴を拘束するのです!』
[な、何だか分からないけど、カナゼ、逃げよう!]
「聞きたい事があるだけなんだけど……限定プリン、そんなに人気なわけ?」
数人のスーツ姿の獣人が二人を追いかけ始めるが、その二人に銃を構えたメルが並走する。
「こっちは過密なスケジュール縫って来てるのに……!許せん!二人とも手伝って!」
「丁度いいや。メル、囮になって。5分でいい。先生、こっち。観測は要らないから僕の後ろにいて」
[おっとぉ!?]
カンッカンッカンッ
カナゼは銃を構え、ドームにある漫画キャラの象に登って構え、的確な狙撃を始めた。
ー戦闘終了ー