2ヶ月以上オマタセシマシタ…。
今回の関係者一同がミレニアムの一角に集まり、事情をかいつまんで理解する。
「結局、会長がアリスちゃんを連れてったって…やばくない?」
「やばいどころじゃない。超、非常事態だ。会長と僕は思考が似てる。だから、会長の考えはなんとなく分かってた。無理にでもアリスに近づけるのを止めるべきだった。一番状況が読めてた僕が何とかするべきだったんだ…僕のミスだ」
「ゼンイ…」
[気に病まないで。彼女達のことだ、君の横槍も計算に入ってるはず。むしろ無理をして怪我するような事態にならなくてよかった]
「何が怪我しなくてよかった。ですか。先生の掌の怪我。一体どんな力込めてるんですか。下手したら骨いかれてますよこれ」
[う…ごめ…いだだだ]
「…ネル先輩、まだどこか痛みますか?」
ウズホは先生の掌に消毒とガーゼを張りながらぐりぐりと傷口を弄くる。皆の様子を、ネルは座して沈黙する。
「…最初から、リーダーが裏切ることを知ってて、私たちを呼ばなかった」
「ひどい!アリスちゃんを連れてった上にリーダーのこともいじめるなんて!しかも不意撃ちなんて、無効だよ無効!」
「…お前らは、任務が失敗してもそんな言い訳をするのか?」
「う…」
軽薄だった発言を恥じてアスナは言葉飲み込む。その後にネルは続ける。
「…アカネ、ゼロフォー…トキっつったか。知ってるか?」
「…彼女の存在は知ってはいました。会長直属のC&C部員。実力もそれ相応のようですね」
「…5人目のC&C、そいつの武装。チビがヘイローを壊されることを知りながらリオについて行った理由。何より…トモゼがその選択をした事実…なぁ、あたしだけが理解できてないのか?教えてくれ、何が起きてんだ?」
「…ミドリもユズも、まだ飲み込むのに時間がかかるだろう。先生、頼めるか?」
[どこから話したものかな…とにかく、皆に最初に理解してほしいのは、今回の件。誰一人として悪くないということ。互いの正義と思想の行き違いがあったということ。そこは納得出来なくても理解してほしい]
先生の言葉に、一同は鈍い表情で頷き、状況をまとめる。
モモイの意識が戻らないうちに、アリスは自らの意志でリオに誘拐され、その目的はアリスのヘイローの破壊。
アリスが、オーパーツであり、、Divisionの指揮官であり、皆を傷つける"魔王"だということを告げる。
「先生…アリスちゃんは会長の言う通り、魔王なんでしょうか…?」
「私には、よくわからない…アリスちゃんと会って話したい。アリスちゃんは魔王なんかじゃないって会長を説得したい…」
「先生…私達は、どうすればいいかな…」
[………]
息を呑むのも憚られるような、濁った空気。
その空間を叩き割るかのように、とても明るく、活気に満ちた声が響き渡る。
「モモイ、降、臨!」
「お姉ちゃん!?」
[モモイ…!身体は大丈夫!?傷は!?]
「身体は大丈夫!ぐっすり眠ったから体力も全快!そう…今の私は、ポーションを使って次ステージ以上に推奨レベルを上げ終えた戦士…!怖い物無しの超強化女子高生状態だよ!」
「お…お姉ちゃん!お姉ちゃん!!アリスちゃんが…!トモゼ先輩が…!」
しかしモモイの明るさでも掻き消せない程、ミドリは自らの胸の内がいっぱいだったようで、唯一の姉に抱きついて弱さを吐露する。
「うわ!?なになに!?ミドリが1日限定甘えんぼモードになってるんだけど!?」
ユズの掻い摘んだ事情の説明。それを受けたモモイは声を上げる。
「この、おバカさんが!!」
「お、お姉ちゃん?」
「モモイ…?」
「正直、難しいことはよく分かんないけど…皆の話を聞いてたら胸がぎゅっとしちゃって…あんまり言葉がまとまらないんだけどさ…でも、一つだけ確かなことがあるよ!」
「…確かなこと?」
ネルの疑問符に声高らかに宣言する。
「私達がこの事態に納得できていないってこと!アリスが魔王だろうがなんだろうがそんなことはどうでもいいの!私はこのままお別れなんて嫌だ!別れの言葉も挨拶もないし、トモゼ先輩だって絶っっっ対こんなの望んでないし!」
「…お姉ちゃん…先輩は…」
「徹夜でクソゲー祭りに付き合う人が!体張って廃墟探索に付き合う人が!!私達やアリスのことを"嫌い"なわけないでしょうが!!」
「…!」
「こんな最悪なエンディング!シナリオ担当として認められないね!!だから、私はアリスを連れ戻したい!連れ戻しに行く!皆もそうでしょ!?」
「うん、そうだね」
「チビ…お前、なかなか良いこと言うじゃねぇか!」
「う、うん…?」
「お前の言う通りだ。ゴチャゴチャ考える必要はねぇ。殴られたら殴り返せばいい。奪われたモンがあるなら取り返しゃいい。だろ、お前ら!」
ハレの一言にヴェリタス一同は深く頷き、ネルを筆頭とした達C&Cも賛同し、個人的な関わりのウズホとゼンイも協力を決意する。
「…ネル先輩の言葉に同意するわけじゃないけど、僕も賛成。やられたらやりかえす。対人ゲーの基礎的な考えだね」
「大して役に立てないかもだけど、私も是非」
「皆…協力して!!」
[モモイ…皆…。ありがとう。一緒にアリスを連れ戻す方法を考えよう]
「…その言い方。まるで私達が協力しなければ一人で実行するつもりだったように聞こえるね」
[まぁ…最悪そうするしかないなって]
「気合入ってんのはいいけどよ。無謀だろそりゃ」
先生の言葉にウズホとネルは呆れたように言葉を返す。
直後、ミドリが先生の裾を掴み、涙で掠れた声で問いかける。
「先生…私…先輩に酷いこと…トモゼ先輩だって…こんなの、望んでないって、分かってたのに!わたし…わたし…!」
ポムッ
「大丈夫。彼ほど器が広い男はこのキヴォトスにいないよ。君の心からの想いを伝えれば、笑って許してくれるし、受け止めてくれる。だから、仲直りするためにも、会いに行こう」
「そう!大丈夫だよミドリ!なんならもう一発ビンタしちゃえ!」
「…ゔんっ!」
先生の言葉の後、暫くモモイの胸で泣くミドリを宥めて先生はユウカへと状況を説明がてらに連絡する。
[ユウカなら、リオの居場所を知ってるんじゃないかと思って]
共にいたノアはリオに対して怪訝な表情を浮かべ、とユウカはリオの行動の突飛さに怒りを画面越しにかなり示す。
「…ミレニアムの最高権力者で先輩に対してもあの態度とは。流石はユウカ先輩。恐れ入る」
「ま、そういうとこがユウカらしいよね」
[…ユウカ、ノア、お願い。リオがアリスを何処へ連れていったのか調べて欲しいんだ]
「…ゼンイやヴェリタスじゃ駄目なんですか?独自の情報網とか…」
「残念ながら。向こうにはトモゼ君がいる。異常なほどの量と質のファイアウォールで防がれていてハッキングは無理だ。見つけられるとすれば、既に残された痕跡からの逆探知。ということになる」
「なるほど…任せてください、全力で協力します!何処かに必ず記録があるはずですから!」
記録を確認する間、一同は固唾を呑んで待つ。セミナーの二人の特異な能力を使った追跡は、想像を超える速さで行われ、リオの居場所が判明する。
「連れて行った先が分かりました。でもまさか…本当にセミナーの予算を横領していたなんて…」
「本当にショックです…そんな事をされる方だったなんて」
[えっと、どういうこと?]
「削除されたデータベースから意図的に隠ぺいされた痕跡を調べたところ…」
「予算の流れに不明瞭な部分を発見。それを追跡することに成功しました。それが…ここです」
映し出されたのは、恐らくミレニアム自治区の何処かにあるであろう"都市"。
[これは…都市?]
「コードネームは"エリドゥ"。秘密裏に建設していた。終焉に備えるための要塞都市。だそうです」
「終焉やら要塞都市なんて言葉には無縁な人だと思っていたけど、蓋を開けると分からないもんだね」
「そんな呑気な…」
「会長はやると決めたら迷わない人です。目標達成のためならブルドーザーのように重大な決断も瞬時に、強引に下せる方」
「その終焉とやらを防ぐための決断で、必要になったのが要塞都市エリドゥ。横領やアリスの拉致は計画の一部なんだろうな」
「えぇ。そして、アリスちゃんはエリドゥの中心部にあるタワーに連れて行かれた可能性が高いわ」
「座標を送ります。立場上、私達がお手伝いできるのはここまでですが…。お願いします。リオ会長を止めて、アリスちゃんを連れ帰ってきてください!」
「うん、任せて」
先生は力強く自分の言葉を口にする。一同は作戦を立てる為に会議を始める。
「これで座標は分かった。次は潜入方法だ。会長なら100%防御システムを構築してる。アリス奪還はおろか、侵入さえ難しいだろう」
「要塞都市と呼称する所以を身を以て知ることになるだろうね」
「近づくことも難しいなんて…」
「問題ない。建築には効率を考えてドローンを使っただろうが、資材となると話は別。私達エンジニア部が侵入をサポートしようじゃないか」
[ウタハ。私達はリオと戦うことになるよ、それなのに…]
「どうして協力するのかって?当然。リオ会長はエンジニア部最大の発明品をを奪い、データの実測を妨害した。これは越権行為であり、宣戦布告ってわけさ」
「ウタハ先輩の恥ずかしがり屋…」
「一体どういうこと?何の話?」
「説明しましょう!ウタハ先輩の論理は友達を助けに行きたいけどそれを口にするのはちょっと恥ずかしい…ほうだ!いっそ物を奪われたことを口実にしてしまおう!」
「ちょっとコトリ」
「うっ、うぅっ!?」
ウタハがコトリの口を抑え、口に指を立てて静かにとジェスチャーで伝える。
「よし、これで秘密は守られた」
[…ごめん、何一つ守れてないと思うけど]
「……守られたんだよ。それに、もう一人、文句を言いたい友人もいる」
「トモゼ君のこと?」
「その通り。文句もそうだがどうしても聞きたい」
「何を?」
「無論、リオ会長に協力した理由だ。彼は合理主義とは言え、人情味のある男だ。どうにも、今回の計画に加担するには証拠が弱い気がするんだ」
「……もしかして、アレかも」
「アレ?」
ハレが呟いた"アレ"について言及する。
「トモゼ先輩最大の発明品。多次元観測装置…"シュレディンガーシステム"」
[多次元観測…なにそれ…!?]
「"時間"じゃなくて"空間、次元"を利用した未来予測装置。無限に存在するであろう平行世界を観測し、その過程を照らし合わせることで、この世界の未来を予測する…って」
一同は驚愕の表情を浮かべ、中でも先生の顔は一際歪む。
「なんでそんなものを…?」
「……マイスターもしかり。科学者という者は、己の好奇心に逆らえないものさ。だが、それがもし完成しているのなら…」
「私達の動きも予測される可能性があるね」
[……完全に想定外だ]
「先生…?」
[………あぁ、ごめんね皆。大丈夫]
先生は口に手を当てて思考を加速させる。生徒達がその様子を不安そうに見つめるがしかし、不安にさせたことを謝りながら先生は話し始める。
[とにかく、その装置のことは忘れよう。あくまで予測だ。確定した未来じゃない。それを上回る策を練るまでだよ。問題は…アリスをどう連れ戻すか。だね]
「そう。要塞都市はおまけに過ぎ無い。聞く限りでは アリスの説得はマスト。そしてトモゼ先輩と、おそらく先輩を上回る戦闘力を持つメイド、トキの存在」
「あの時の動き…まるでチートプレイヤーだった」
「………あたしらに必要なのは作戦だな」
「あ!部長の任務モードだ!」
およそ普段のネルからは想像のつかないセリフに一同は思考がフリーズするが、C&Cの3人は彼女の姿を知っておりそれを頼りに話す。
「陽動だ。あたしらの勝利条件は単純明快。あたしらがやられる前に、あのチビを連れ戻す。あたしらが正面から突っ込んで暴れてやるから、その隙にお前らが攫え」
「…ネル先輩、大丈夫?相手はチートプレイヤー…」
「あ?あたしを誰だと思ってやがる。それに、次会ったらやり返してやるって決めてたんだよ。後はそれを実行するだけだ」
「わかった、従おう」
「私達に任せて!」
「ふふ、精一杯頑張りますね」
「おう。それと、ゼンイ」
「?」
「お前はリオとトモゼに対する隠し玉だ。どうせ持ってんだろ?表に出せないようなオモチャを」
「…要塞都市エリドゥ。ぱっと見た感じでは攻め込まれた際の防衛にリソースを割いた演算都市だろう。僕の秘密兵器の実験には最適だ。けど、これを使って僕はまた怒られないかい?既に予算の大部分がカットされている状態なんだけど」
「あぁ、約束する。存分にやれ」
「了解」
[決まりだね。正面はC&C、後方潜入はゲーム開発部とエンジニア部にウズホ、そして私。ヴェリタスとゼンイは遠隔支援]
「システムハッキングは私達に任せて!」
「えぇ。やり遂げてみせます。ゼンイは秘密兵器とやらの準備を万全にしてください」
「決まり!!家出したアリスを連れ戻すよ!」
[それじゃあ、これより…アリス奪還作戦開始!]