永い旅路を歩む春   作:レガシィ

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危なー…忘れるところだった。セーフ!!


第五話 螺子を締め直せ

 突如エリドゥ内の灯りを除く全ての電源が落ち、ネットワークがヴェリタスに掌握され、リオの通信も遮断される。

 

【間に合ったみたいだね】

 

「チヒロ先輩!?」

 

【うわぁ~ん!副部長〜!!】

 

【流石です、待ってました】

 

【でも……どうやって?】

 

 [……まさか、"鏡"?]

 

【ご明察】

 

 先生の回答に称賛を贈るチヒロ。しかし、それを否定するインカム越しの声。

 

【あり得ねぇだろ……"鏡"やその他のウィルスの対抗策を怠ったわけじゃない。既存のシステムに対するカウンタープログラムだって組んで万全の状態だった……一体どうやって!?】

 

【どうやら、僕のことを忘れているらしい】

 

 [ゼンイ!]

 

「ゼンイ?なんかしたの?」

 

【いくらお前でも、この都市の膨大な対策プログラムを突破するのは……!】

 

【あぁ、流石にこの時間では不可能だよ。当初はハッキング仕返して嘲笑ってやろうと思ったんだけね。強度はともかく、バカみたいな量のプログラムだったから早々にハッキングは諦めた】

 

「ならどうやって?いつの間にかあの変なロボも動かなくなってるし」

 

【シンプルだよ、万物の道理だ。僕たち生物でさえ脳からの電気信号で動いている。ましてや、全てが機械で出来た都市なんて、莫大な電力が無ければ機能しないだろう?】

 

【……まさかっ!!?】

 

【僕の最大の発明品の一つ、WorldEntryMouse。本来この兵器の用途は相手のプログラムや権利を"強奪"することにあるんだけど、デメリットとして莫大な電気を消費する。ということで、少々拝借させてもらったよ。エリドゥの電気を】

 

 トモゼがコンピュータールームから発電システムがある地下の部屋まで走って確認しに行く。そこには、夥しい量の鼠型ロボが配線を齧って繋げていた。

 

【ッ……!!】

 

【おっと、別に破壊しても構わないよ。もう充分に電気は奪えたし】

 

【……仕込んでやがるな】

 

【流石だね。君に何が効くか分からないから、毒やらガスやら電気やら爆弾やら組み込んだ。一つでも壊せば、その一体一体に組み込まれた自爆システムが連鎖するよ】

 

【ゼンイの秘密兵器でエリドゥの強化されたシステムを脆弱にし、"鏡"を使ってハッキング。おまけに、電力も満足に使えないエリドゥの今の防御力は0……飛鳥馬トキ、だっけ。大丈夫?】

 

【っ!トキ!!】

 

 ──ー

 

(リオ様のインカムとトモゼ様の通信が切れて……まあいいです。エリドゥが健在である限り敗北は──)

 

 ドギュンッ!!

 

「!?」

 

 先程までトモゼの発明品で殆ど無傷で立ち回っていたトキだったが、ネルの銃撃を正面から受けて一瞬混迷する。

 

「あ"ぁ"?手応えあったなぁ今!変なバリアが消えやがったか!」

 

「……戦術を切り替えます」

 

 ──ー

 

【押収品保管庫には……どうやって……】

 

【私です】

 

【唯一といっていい、リオの監視を抜けていた部活】

 

【アリスさんが大変なことになっていると聞いて、居ても立ってもいられず、加勢させていただきました】

 

 インカムにさらにつながるスミレの声とチヒロ。通信の先では持久戦を繰り広げているのか戦闘音が鳴りやまない。

 

【持久戦ならお任せください】

 

【先生、今ならゼンイのおかげでほぼ全ての機能が停止してる。今のうちに──】

 

 バギャォォンッ!!!

 

【【!?】】

 

「「「「「!?」」」」」

 

【……嘘だろう?】

 

 耳をつんざく爆発音。あらゆる人体を害する音がインカムから響く。誰よりも早くその音の正体を理解したゼンイが感嘆の声を漏らす。

 

【ゲホッ……これで問題は解決だな】

 

 キュゥゥンッ……!

 

「あのダサいロボットが動き始めた!」

 

【まずい!もう復旧し始めた!!】

 

【皆急いで!私達がトモゼ先輩のハッキングを抑える!】

 

 [任せて!]

 

 予想外の反撃を繰り出すトモゼに一瞬怯むが、先生の指揮を受けた開発部とエンジニア部、ウズホ達は総力を結集してアヴァンギャルド君を破壊しにかかる。

 

 [今だ!]

 

「はい!ラジャー!」

 

「アレを設置するね」

 

「やるぞみんな!」

 

 [え、な、何をするの?]

 

「自律追跡機能に加え、防水防護も完璧」

 

「さらに絶対零度や3千度を超える高温下でも安定性を誇る超超超超安全認証を確認した……!」

 

「半年分の予算をつぎ込んで作った最強の……」

 

「「「最新式遠隔スピーカー!」」」

 

「「……」」

 

「……」

 

【……なんでそんな機能つけた?】

 

「機能なんてつけれるだけつけるのは鉄則さ!それでは……発射!!」

 

 [発射!?]

 

 ヂュドォォンッ!!!

 

 アヴァンギャルド君に向けて放たれたスピーカーを名うつ破壊兵器。もうもうと立ち込める煙をみたモモイはゲーマーならではの言葉を漏らす。

 

「……どうしよう、私、あのセリフ言いたくてウズウズしてる……」

 

「言わなくていいよお姉ちゃん」

 

「絶対言う必要ないと思う」

 

「ゲームには詳しくないけど、言わなくていいことは私でも分かるよ」

 

「やはり、私達が作ったスピーカーは響きが良いね!」

 

 [そういう意味のスピーカー!?]

 

【とにかく、今のうちだよ。ナビゲートは私がする。ヴェリタスは継続して近くの防衛システムを妨害して】

 

「そのことなんだけど……」

 

「どうやら、私達は此処までのようだ……」

 

 バタンッ……!

 

 [ッ!?ウズホ!!]

 

「どうしましたか皆さん!今診ます、辛抱を……!!」

 

 それぞれの反応を示しながら進もうとする中、エンジニア部の3人が倒れてしまう。先生とウズホは慌てて手当てをしようとするが、意外な理由でのリタイアになる。

 

「違うんだ……私達は元々インドア派……」

 

「無茶な動きをしすぎて、もう……」

 

「指一本動かせませぇん……」

 

「道半ばですまないね……」

 

「……ううん!大丈夫。助けてくれてありがとう!さっきのスピーカー、凄くカッコよかった!」

 

「この先は私達でいってきます!」

 

 [心配しないで、必ずアリスを連れて戻ってくるよ]

 

「そこまで言うなら……モモイ。これを持っていって、きっと役に立つ」

 

「これは……!うん、ありがとう!」

 

 ウタハはモモイの手に"役に立つもの"を握らせ、一同は駆け出す。

 

 ──ー

 

 ズダダダダッ!!!

 

「遅ぇなぁ後輩ぃ!その玩具の説明書ちゃんと読んだのかぁ!?」

 

(地形の変更……リオ様のデータと、一部の機能が停止したとはいえ、いまだ健在のトモゼ様の武装……なのに、なぜこんなにも……!)

 

「オラァ!!」

 

 バキィンッ!!

 

(彼女の間合いに入る度に……"シュレディンガーシステム"がデータを更新している……!?)

 

 バキィンッ!

 

「狙撃!分断した他の先輩達まで合流を!?要塞都市の迷路をいとも容易く……!」

 

「はっ、偉っそうに。確率だ?分断だ?データだ?んな御託並べてる暇あんならよぉ!!」

 

 ガインッ!

 

 ネルはチェーンをトキに巻き付けて引き寄せ、頭突きを食らわせ、額から血を流すトキの眼前で大きく吠える。

 

「アタシを見ろよ!妬けるじゃねぇか!!」

 

 ネルは心の底から楽しそうに嗤いながらトキを蹴り飛ばして煽る。

 

【トキ、一旦退きなさい】

 

「リオ様……」

 

【私達は今、ゼンイとのハッキング勝負でエリドゥの主導権を互いに奪い合っている状態よ。はっきり言って、彼を相手にこれ以上の時間稼ぎは厳しい。ゼンイの持つ秘密兵器の特性から、武装や防衛システムを向こうに使われる可能性すらある】

 

「ッ申し訳ありません……」

 

【あくまで私達の予測不足による失敗よ。算段はある、貴方は一度退いて、状況を立て直すわよ】

 

「……イエス、マム。現場から一時的に撤退します」

 

「おい!逃げんじゃねぇ!!」

 

 追いかけようとするネルに対して手榴弾を複数落とし、爆炎に紛れて撤退する。

 

「リーダー、どうする」

 

「……しゃーねぇ、先生と合流する。優先事項は間違っちゃいけねぇからな」

 

(……ねぇ、もしかしてリーダーって……)

 

(えぇ、かなり"キテます"。ゼンイのおかげで途中からは優勢になりましたが、そこに行き着くまでに受けたダメージはかなりのもののはず。対して、向こうは殆どダメージのない状態での撤退……一刻も早く先生達と合流しましょう)

 

 ──ー

 

 C&Cが一旦の勝利を収めた一方、チヒロの案内により最短ルートで走り、中央タワーの前まで先生達一同は辿り着く。

 

「ここにアリスちゃんが……」

 

「行こう!」

 

「うん!」

 

「えぇ」

 

「あっ、ご主人様とみんな~!やほやほ!」

 

「皆さん、到着されていたのですね」

 

 いざ中央タワー突入のタイミングでC&C達との合流を果たし、情報を互いに交換する。

 

 [その感じ……トキには逃げられちゃったんだね]

 

「まぁな……。もうちっとでぶちのめせたのによ」

 

「そちらは何かあったのですか?」

 

「うんまぁ……」

 

 [強かったね、アヴァンギャルド君……]

 

「「「?」」」

 

 [さて……アリスはこの中なんだよね?チヒロ]

 

【うん。ヘイローを破壊するにはそれ相応の施設が必要のはず。そのタワーにはエリドゥの電力が集約するようにできてる。ゼンイが乗っ取った電力は全体の3割程度だった】

 

「逆に言えば、その3割でエリドゥを運営できるのに、それ以上の電力を生み出して使う道は絞られるということ」

 

「まだるっこしいな。つまり、後はこのバカでかいタワーを登りゃいいんだろ?」

 

【そう、登るだけ。ただ、残念だけど……あの会長が、門番を用意しないわけがないよね】

 

 チヒロの言葉のあとに、トキがタワーの中から姿を現す。先程よりもさらに軽装備に身をつつみ、ネルを中心としたメンバー達に視線を向ける。

 

「お待ちしておりました。先輩方」

 

「やっほ〜トキちゃん!また会ったね!」

 

「あぁん?んだよ、さっきは尻尾巻いて逃げ出したくせに。いったいどの面下げて現れた?」

 

【作戦を変更したのは貴方達だけだと思って?】

 

【ありえないと思ってた。リオの計算が悉く狂っていくなんて……全ての計画や準備がぶっ壊れていく……。先生、アンタが関わったからか?】

 

「……リオ、トモゼ」

 

【それならそれで構わないのよ。規格外の力には、それ相応の切り札を。私達の最高傑作、それらの合作を】

 

「合作……?」

 

【トキ、現時刻をもって、"アビ・エシュフ"の使用を許可するわ】

 

「……リオ様、それは」

 

【……いいんだ、トキ。決戦用の兵器も……決戦が出来なきゃ意味がない。だろ……リオ】

 

【えぇ。トモゼの言う通り。既にシステムとの接続(コネクト)は済んでいるわ。トキ、やりなさい】

 

「イエス、マム」

 

 リオとトモゼの指示のあと、トキは全ての武装を解除し、レオタードスーツの姿になる。直後、地面が震動し、タワー上層から何かがやってくる。

 

 [!]

 

「「「「「!?」」」」」

 

 パワードスーツシステム、アビ・エシュフ、起動。

 

 同、シュレディンガーシステム起動。

 

 [来る!]

 

 直後、巨大なパワードスーツに換装したトキと防衛システムによる数台のARMSとC&Cの戦闘が開始される。

 

 しかし、先制の卓越した指揮がありながらも開始数分で完全に劣勢へと追い込まれる一同。

 

【このデータ量……!未来予測も同義の計算力!攻撃が全て当たる前に撃墜されている!】

 

 チヒロの驚愕の声、それを上書きするようにゼンイがインカムに重ねる。

 

【シュレディンガーシステムの併用で、ほぼ完全な未来予知だ。なす術も無いというのはまさにこのことだ…ただし、僕がいなければのことだけどね!!】

 

 異常な演算速度と数台分のスパコンによるデータ処理でアビ・エシュフの動きを確実に鈍らせていく。

 

「うぉぉ流石!やれば出来るじゃん!!」

 

【ハハハハ!!このまま内側から破壊して──】

 

【……ゼンイ、スパコンすら上回るお前の脳力、お前とのハッキング勝負は俺達じゃ勝てない。だが……エリドゥ全体なら、そして……お前のパソコンとなら、どうかな】

 

【……は?】

 

 直後、エリドゥの全ての電力が武装と、トモゼの発明品へ注がれる。

 

【シュレディンガーシステム、その全機能解放。オートカウンターモジュール。先輩からの忠告だ。氷山の一角を見て……全てを知った気になるな、世界は広ぇぞ】

 

【は?は?は?は?】

 

 決してゼンイのハッキングの手は緩んでいない。それどころか思考もタイピングの速度も加速してすらいた。しかし、それを許さない程に圧倒的な情報が、わずか数秒で流し込まれた。

 

【お前なら処理できちまうそれを、スパコンは処理してくれねぇよ】

 

 バチュゥゥンゥ……パチッ

 

【なぁぁぁぁ!!!!??】

 

「えっえっ、どういうこと!?」

 

【先にスパコンがダウンした!!まずい、エシュフの機能が全て戻った!!】

 

【流石よ、トモゼ。さて……後は唯一の変数、先生の指揮能力を奪って終わりよ】

 

【まずい!逃げて先生!!】

 

 チヒロの逃走の忠告、ゆっくり近づくトキに先生は毅然と構える。

 

「逃げないよ。君達の蒼い日々を、決して濁らせはしないために」

 

「?」

 

 [ネル!戦う場所を変えよう!!屋上に走るよ!!]

 

「ッ信じるぞ!歯ぁ食いしばりな!!」

 

 ネルは先生の言葉を信じて担ぎ、近くの建物屋上まで非常用に整備されたであろう階段を駆け上がる。

 

【追いなさい、トキ!】

 

【先生……あんた一体……】 

 

 ──ー

 

「ターゲットを追撃、屋上に到着しました」

 

【狭いところでなら戦えると、そう判断したのですね、先生】

 

 シボッ……!

 

「あ~あ、吸っちゃった。生徒の前なのに……高い所に来るとね、吸いたくなるんだ。それと……勝てると思った時は」

 

 追撃しにきたトキを先生は、一本の煙草に静かに火をつけて薄くはにかんで待ち構える。

 

「ふー……ネル!!」

 

 少量の煙を夜空に吐き出し、同時に頭上のオブジェに隠れていたネルに合図を出す。

 

「オラァ!!」

 

「そんなことをしても無駄です!回避できますので!」

 

「そりゃよぉ、"地上"の話だろ!?」

 

 仕込んでいた爆薬でトキを建物の外に弾き飛ばし、タワーの外殻を駆けくだりながら戦闘を開始する。

 

「無駄です、エリドゥとシュレディンガーシステムがある以上は……!?」

 

 ドガガガ!!!

 

(何故、バックアップが全て……!!)

 

「機能がダウンしている……!?」

 

【はぁっ!!はぁっ……!!ふざっけるなよマジでぇ!!】

 

【ゼンイ!?】

 

【予備のパソコン20台全部繋げてきた!重労働すぎ……!!ミレニアムの電力全部奪ってMouseももう一度起動した!!これで決めてくれよネル先輩!!もう無理だからね!!?】

 

「よくやったゼンイ!後は任せろ!!」

 

(逆に言えばここさえ凌げば……!)

 

【トキ!死守しなさい!!】

 

【くっそ、やってくれたな……!!】

 

 時間を稼ぐためにアビ・エシュフの全弾を掃射するトキ。しかし、それをネルは鎖とずば抜けた身体能力で空中で被害を減らしながら最も得意な間合いに持ち込む。

 

「壊れた玩具はよぉ……!!」

 

(まずい……!!)

 

「掃除しねぇとなぁ!!?」

 

 ドガガガガガガガッッ!!!

 

 ドガァンッ!!

 

 至近距離の大爆発で二人は互いに吹き飛び、ネルは立とうとするが膝をガクガクと震わせている。離れていた一同と、勝ちを確信していた先生は予想外に戸惑いながら階段を下りて駆けつける。

 

 [ネル!?]

 

「ネル先輩!!」

 

 [トキは……!]

 

 決して無傷では無かったアビ・エシュフの武装。しかし、エリドゥの全てが集約された装備に対して、一人の武器ではあまりに火力が足りていなかった。

 

【ほぼ全て……撃墜されたっ……!?】

 

【……トキ、シャーレの先生を回収して】

 

「イエス、マム……!?」

 

【トキ、動くな!遠隔で修復する!】

 

【ッモモイ!今!!】

 

「分かった!おりゃあ!」

 

 一瞬動きが止まったトキの目をモモイが投げた閃光弾で晦ませ、ネルと先生を連れてすぐに逃げる。

 

【……トモゼ、修理は】

 

【機体の損害は軽微。だがシュレディンガーシステムは駄目だ、オートじゃ使えない。これ以上鼠に学習されると奪われちまう。だから……マニュアルだ。予測のバックアップはオレがやる】

 

【……私達の主目的は防衛。トキ、戻りなさい。またやってくる。少しでも休みなさい】

 

【つっても……もうネルパイセンは動けねぇよ。ありゃ本気の限界だ】

 

【えぇ、だから次で終わりよ。なにもかも】




デカグラマトン編見て、再燃した感じなんですけど、原作(ゲーム)はやっぱいいっすねぇ、何回読んでも面白い
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