近くの建物に逃げ込んだ一同。ゼンイがジャミングしたおかげでリオたちに会話は聞かれていない。しかし、最高戦力のネルが意識を飛ばし、いまだ戻らない。医療に強いウズホが手当てとネルの体調を測るが、告げられた真実は絶望的だった。
「……限界だ。少なくともすぐに動ける状態ではないし、数時間は目が覚めないよ」
【……最悪の状況だ……遠隔支援、ゼンイの持つ兵器ももう使えないし、ゲーム開発部は、はっきり言って戦力外】
【クソッ……2度目に当てるリソースを取っておくべきだったか?いやしかしそれだと武装の奪取が遅れてしまう……】
【C&Cは……】
「医療関係者として言わせてもらうけど、他の三人も本当はもう戦わせるべきではないんだ……限界のはずだよ」
「やっぱり私達……私達だけじゃ……力不足なのでしょうか……?」
「誰も悪くなんてないのに……なのに……どうして……」
姉妹は同じ表情で同じ言葉を、同じ沈んだ気持ちで諦めかけてしまう。
「皆が頑張って、手伝ってくれたのに……」
「こんな、こんなバッドエンドは……」
「んなもん!!納得できっかよ!!」
「ネル先輩!?」
[ネル、身体は!?]
「あぁ??」
ふらふらと揺れるネルを心配する一同だが、彼女自身は立ち直して気丈に振る舞って笑ってみせる。
「おい、葬式みてぇな面しやがって。テメェらの想いは所詮その程度だったのか?」
「所詮って……そんな言い方ないじゃん……!」
「まぁ、確かに腕は動かせそうにもねぇし、足も靭帯キレてんなこれ。向こうはノーダメでボコスカ殴られたせいで腹の骨も何本かイッてるし、一歩でも動いたら吐きそうになるけどよ……」
「それで済んでないよ先輩……」
「それを満身創痍っていうんだよ!?」
「だがよぉ、それで諦めるほど、テメェらの決心は脆いのかよ?」
「でもネル先輩!身体が……!」
「らしくもねぇ他人の心配すんなって。これくらい、根性で耐えてやんよ。アリスを救けに来たんだろ?じゃあ、最後まで諦めずに押し通せっての。分かったか?」
【……まさしく、"約束された勝利の象徴"だ。負けないんじゃなくて、勝つまでやる。感銘すら覚える】
「今だけはテメェの皮肉を素直に受け取ってやるよ」
「でも、あんなチート相手にどうやって……」
「……もしかして、方法があるかもしれない……」
「「「「「!!」」」」」
【本当かい!?】
[ユズ!本当!?]
誰もが思考を諦めかけた次の一手、ユズが打開策を思いつき、一同の視線と耳が彼女の言葉に傾く。
「はい……落下直前、本当に一瞬……刹那の瞬間だったんですが……ネル先輩の攻撃が、撃墜されずに通っていました」
【あの短い時間で……流石はUZQueenだ……!】
「でも何故……」
【……そうか、そういうことか!!踊らされていた……!!】
「んぇ、どうしたの?」
【あの言葉はブラフだ!!決して無敵じゃない!シュレディンガーシステムも、アビ・エシュフも!!全ての未来を演算できるのは、あくまでも重ね合わせた事象と照らし合わせた結果の計算!つまり最後は"即興"になる!加えて、"撃墜"と"回避"は同時に行われない!!】
「「「「!!」」」」
「それを利用すれば……!」
「倒せるかもしれない!」
「ネル先輩は……近距離なら勝てる。そういいましたよね」
「あぁ、勝てる。その前にチートをどうにかしねぇとだけどな」
「なら……できます。私達が用意できる、"ハメ技"を使って」
──ー
再び、タワーの前にC&Cが集う。
【何を企んでいるか知らないけれど、無駄よ。トキ】
【っとに……なんで……】
「イエス、マム」
「いいねぇ……!決着つけようじゃねぇの!!」
[ネル!頼んだよ!!]
【武装も修復済みだ。もう諦めてくれよ……!!】
「は、んなの知るかよ。あたしはもう決めたんだ。この手でテメェを倒して……チビを連れ戻しに行くってなぁ!!」
ネルはボロボロの身体を押して三人を鼓舞し、戦場へ身を投じる。
「おら後輩ども!!あたしらのリベンジマッチだ!アスナ!!」
「はーい、あははっ、突撃〜!」
「こんなもの……!!」
息の合った撹乱とアスナのラッキー、カリンの対物ライフルによる狙撃、アカネの正確な爆破、そしてネルの圧倒的な火力でアビ・エシュフを撹乱し、タワー内部に押し込む。
【何を……?シュレディンガーシステムの指す結果は全て……ッ!?まずい!トキ!そのタワーから離脱しろ!!】
「させねぇよ!!」
ネルがトモゼの言葉を先に遮り、ダメ押しにさらにトキをエレベーターへと押し込む。
【トキ!主砲の使用を許可するわ!!】
【中央タワーに電力が集まってる!!皆気を付けー!】
チュドォォンッ!!
突然、レーザー砲がトキの目前の全てを焼き払う。巻き込まれたC&Cも当然相応のダメージを負い、地面に倒れ伏す。
[……リオ……]
【……これで、今度こそ確率は0よ。僅かな勝機というものを何処かに見いだしていたのであれば、そんなものは無意味で、非合理極まりない行動……。なのに、それを信じて満身創痍の生徒にこんな行動をさせたのなら、心底、失望するわ】
先生という身の上で投げかけられる辛い言葉、気丈に返すことも難しく、先生は言葉に詰まる。
[……ッ……]
【勝手なことをごちゃごちゃと抜かすな!】
「ウズホ先輩!?」
【私達医療に関する人間が……文字通りに命を預かると決意している人間が!!合理や確率なんかで人を動かすものか!!!】
インカムを繋げたウズホが、C&Cに治療を施して血塗になった顔に涙を流しながら、リオに反逆の言葉を向ける。
【……鹿賀音ウズホ。二年生の、医療技術研究部。はっきり言うわ、貴方は変数に入ってすらいない。戦闘能力は皆無、手当ても一時的なもの。関わりも深くも浅くもなく、精神的支柱にもなりえない。貴方は、私以上にこの場にいるのに相応しくない人間なのではなくて?】
リオの非情ながらも正しい言葉に、ウズホは俯いて胸を抑える。しかし、その程度の言葉で諦めるという選択肢は彼女にはなかった。
【確かに私は……深い仲ではないよ。アリスの治療を手伝ったことがきっかけで少しゲームをするようになっただけの生徒さ。でも……!それ以前に、人を助けたいと思っている一人の生徒だ!!苦しくたって、もう無理だって諦めようとする生徒の足に!腕に!!力になりたいから私は
[ウズホ……]
【……そう。その志は立派よ。軽んじるつもりはなかった、謝罪を──】
【そしてそれは私だけじゃない……!皆、仲間の力になりたいからいるんだ……思い知れよ!数字に出来ない力を!!】
【?】
「よくいったぜウズホ!!」
ドガァァンッ!!!
【何故……!!】
【トキ!もう一度主砲の準備だ!!】
「ッ……!ッ!!使え……ない……!!」
【ハァっ……!権限の……奪取に成功……!!もう絶対に撃たせないよ!】
(Mouseの機能を主砲に全部注いで一からハッキングし直しやがった!!それでこの速度……!!嫌になるぜ天才ってやつはよ……!)
「ウズホさんの言う通りです。ここにいる皆、計算や確率などで戦っているわけではありません。ところでリオ会長、忘れていませんか?ネル先輩のもう一つの名前、コールサイン・ダブルオー。私達ミレニアムの、"約束された勝利の象徴"ということを」
ガァンッ!!
【貨物エレベーター、ハッキングした!!】
【バカな……!主砲をまともに食らって動けるなんて!!】
(どれだけ軽微にダメージを計算したとして、もう限界のはず……なのに何故……!)
──
「ネル先輩……」
「あぁん?どうしたウズホ」
「もう限界です。今の貴方なら……私でも勝機が生まれてしまう」
「アァ!?寝言は寝ていいやがれ!」
「……」
「……医者のお前が言う事だ、間違いねぇことくらい分かってる。でも……やるしかねぇだろ」
「ですから本当は……凄く……凄くやりたくないんですよ、でも……私も……皆と戦いたいから……!」
「?」
「今から、貴方に特別な薬と治療を施します。ミレニアムには報告していない、私オリジナルの薬です。良いですか、一時的に治癒力と脳から筋肉への伝達速度を底上げして、痛覚をシャットします。ですが、反動で物凄い激痛が明日から3日間、あなたを襲うことになる。今この時だけ、私達をハッピーエンドへと押し上げるバフです……辛い選択ですが、どうか受け取って下さい。私にできるのはこれしか……」
「ハッ……!いいじゃねぇか。ボス戦前の補給ってのは、ゲームの醍醐味だ。けどよ、お前は一つ勘違いしてんな?」
「え、何がです……ふぐっ?」
「お前は、ずっとあたしたちと戦ってただろうが。縁の下の力持ちってのは、お前みたいなヤツのことを言うんだぜ。胸張れ、ウズホ」
──
EXスキル
VariableEnding
「ネル先輩!!!」
[ネル!今だ!!]
【やられた!武装の欠点をここで……!!】
【まだよ、シュレディンガーシステムはまだ生きているわ。ここを凌げば……】
【させないよ!】
ヴェリタスの一同が三人がかりでトモゼの操作を、代わろうとするリオの操作をゼンイが妨害する。
【うりゃぁぁぁ!!!】
【膨大な量のプログラムでも力を合わせれば!!】
【崩れろ崩れろ崩れろ崩れろ!!!】
【ふぐグググッ……もゔっ無理だ!!一分!!!本当にそれ以上無理だ!!はやくしてくれれ"れ"!!】
【ッこのっ……!!】
【ッ……!!】
狙いに気付いたリオ達がハッキングで主導権を握り合う。もうこれ以上保たないと身体と唇をブルブル震わせてゼンイが時間制限を設ける。
エレベーター内で武装の欠点を突いて完全なタイマンに持ち込む。超至近距離、狭い密室、これこそがネルの独壇場。
「あたし、前に言ったよな?あたしの間合いに入った奴には、絶対に負けねぇって。あ?言ってなかったか?まぁいいや」
【加速するよ、重力加速10倍!!】
「……回避システム、撃墜システム、シュレディンガーシステム……全機能停止」
「さて……これでチートは使えねぇ。正々堂々戦うとしようぜ、後輩?」
「……はぁ……終わりですか」
ネルの堂々とした啖呵に、半ば諦観したトキはサポート用のゴーグルを外し、戦闘に臨んだ。
一分。ゼンイの指定した時間と、エレベーターが最上から一階に高速で上下し終わる時間。
到着の音と共に扉が開き、銃を担いだネルが現れる。
「ケッ、大したことねぇな」
【やっだぁぁああ!!!あぁぁぁぁぁ……】
【か、勝った……!!】
【うわぁぁん!!先輩ぃぃ!!】
【流石……うぐっ……】
【……これが……ミレニアム最強のダブルオー……】
【……だよな……ネル……】
戦闘を終え、ボロボロのネルを迎える一同。
「凄い!本当に勝つなんて!!」
「ユズちゃんも凄いよ!あんな作戦を思いつくなんて!」
「わ、私は特に何かしたわけじゃ……」
しかし、賛辞を贈る一同に応えられず、ネルは前向きに倒れ、それをウズホは受け止める。
「ネル先輩……お疲れ様です……本当に……!」
[ネル!大丈夫!?]
「あ"〜……痺れてもう動けねぇ……おいチビども、あたしは少し寝る。その前に……」
「「「?」」」
「ここにいる全員……C&Cも、エンジニア部もヴェリタスも、ウズホやゼンイも。皆だ……皆で、あたし達で繋いだ。あとはもう一つだけだ……ぜってぇ、連れ戻せよ」
「……私からもお願い。C&Cの皆は任せて、ただアリスを……絶対に連れ戻して!」
ぐったりとウズホに体重を預けるネルは、それだけ言って静かに瞳を閉じ、彼女も一緒にゲーム開発部へ全てを任せる。
「……うん!」
「勿論……!」
「当たり前です!」
[ネル、ウズホ……ありがとう、ゆっくり休んで。皆、行くよ!]
──
「……」
「トモゼ、最後よ。あとはここだけ。最後……"不敗の象徴"の所以を、私に見せて」
「あぁ。リオ……迷うなよ……お前だけは」
「そうね」
──ー
【やっぱりあった。まぁ、リオ会長なら100%そうするだろうとは思ってたけど……】
【説明の必要は無さそうだけれど、これも貴方達に諦めてもらう為よ。貴方達の目の前にある部屋に入れるのは定員2名で既に中にはトモゼがいる。そして、私の所へ来るための鍵は彼が持っている。ハッキングも無意味よ。その扉は、"アナログ式"。破壊も、貴方達が持つ装備では火力不足。大人しく、帰ることをお勧めするわ】
「ここまで来て、そんなんでおめおめ帰れるもんか!」
【でも……相手はあの不抜トモゼ……時間を稼ぐという一点においてあの人は確実にキヴォトス1だよ】
チヒロにインカム越しに伝えられた簡潔な言葉と、作戦会議の際に話された、101回目の挑戦権を作る男。
ゼンイとヴェリタスも先ほどの攻防で完全に力尽き、そうでなくともハッキングの類が意味をなさない部屋。その沈黙は、部屋の中が映るモニターからの彼の声で破られる。
「……先生、入ってくれ」
「まさかの指名!?ズルじゃん!」
「駄目です先生。先生がいけば、唯一の可能性……武力行使さえ出来なくなります」
[……トモゼ、開けて]
「先生!」
「ごめんね、でも信じて欲しい……私は"皆"の先生で居たいんだ。目の前の生徒も……手が届かないほど遠い生徒も」
「っ……分かりました。信じます」
「先生……お願いします」
「……お願い!先輩を説得して!」
[説得か……ちょっと違うかな]
三人の扉が開き、先生は真っ白い四角の部屋へと足を踏み入れる。宣告通りに背後の扉は閉まり、その空間には二人と、対面した椅子だけ。
「座ってくれ、先生」
ガチャ……ガララッ
トモゼは先に座り、武器を全て手放して敵意がないことを示すと、先生も座って正面から相対する。
「やぁ、トモゼ。前、直に会った時よりも少しやつれているね?ちゃんと休息は取っているかあ?」
「……あぁ……いや……このことを決めた日から……寝れてはないな……ずっと自問してる。何か違う方法があるんじゃないかって。でも、その度にリオは言うんだ。計算は嘘をつかない……アリスを殺せば、キヴォトスを救えるって」
「……」
「俺は……俺は正直馬鹿だし、皆みたいに特別な才能なんてない。でも、何回だって挑戦して、失敗して、無理矢理にでも結果を出してきたんだ。でも、リオは失敗しない。資材や資金も無駄にしないし、時間だってそうだ……だから、今回だってきっと正しいはずなんだ。トロッコ問題だって、5人と1人なら、5人助けるほうが正しいに決まってる」
「……」
「なぁ先生……!黙ってないでアンタの考えを聞かせてくれよ!何か……何かあるんだろ!?リオを納得させるに足る何かが!!俺は、リオがやめるならそうするつもりなんだ……!」
「そんなことは望んでないよ」
「!?」
「私が聞きたいのは、そうある"べき"なんて意志のない思想じゃないし、ましてや"リオを"説得するために今この場にいるわけでもない。私は……トモゼ、"君がどうしたい"かを聞きたいんだ」
「俺がどうしたいか……?そんなの……そんなの無理に決まってんだろ!人は数字や部品じゃない!!替えなんて効かないのに俺が決めるなんて……!」
「その通りだ。人は数字や部品じゃない。全く同じ1は存在しないし、足したり引いたり出来なければ、作ったりなんて出来ない。だからこそ……」
先生は立ち上がってトモゼの肩を掴む。
「私達は"思い出"を作っていくんだ。自分達がいた"証"をこの世に創っていき、君達は新しい物を……"未来"を自分達の手で造り上げていく」
「ッ!」
「君がアリスと過ごした日々は嘘や幻想になんてならない、消えはしない。そして、これから先もその当たり前の明日は続き、昨日になっていく。笑って泣いて、喜んで、時には怒って仲直りして……そんな眩しい毎日が待っている!トモゼ、私が聞きたいのは一つだけ、もう一度質問するよ……"君は"どうしたい?」
「お……俺が決めて良いのかな……こんな大事な……たった1回だけの選択を……俺はまだ迷ってるのに……答えなんて……」
「……君がリオに手を貸したのは、ミレニアムの皆を守りたいからでしょ?だったら…その優しさの時点で、答えはもう出ているんじゃないかな」
「でも……分かりもしない未来を……皆を救うなんて……そんな責任……」
先生は優しい言葉と瞳で、自分の顔を抑えて男泣きする彼の答えを求める。
「大丈夫、責任は私が持つよ。君達が過ごす極彩色の青い春を、鈍色になんて染めさせやしない。君達には……後悔のない、信じた答えを出してほしいんだ」
「…………あ"……あ"り"すを……ア"リスを……たずげたい……!」
「……ありがとう。君の本心を聞かせてくれて」
ぼたぼたと涙を溢れさせながらも先生を頼ったトモゼを抱きしめ、その手から鍵を受け取って扉のロックを全て解除する。
「せ"ん"せぇッ……」
「任せて、トモゼ。もう一つの答えを出しに行ってくるよ。小さな勇者達とね」
ロックが解除された扉の先からモモイ達が先生へ駆け寄り、無事に安堵する。座ったままのトモゼは自分の顔を抑えてこれ以上の涙を零さぬように上を向いている。その姿を見て、もう皆の邪魔をする気はないということを彼女達は悟る。
前へ進む彼女達。しかし、不意にモモイとミドリは足を止めて振り向き、彼を呼ぶ
「「……トモゼ先輩!」」
「……?」
「ありがとう!!絶対にアリスを助けるから!!そうしたら、またゲームしよう!!」
「約束ですから!今は時間がないけど……言いたいことはいっぱいあるんです!絶対!絶対来てくださいよ!」
「……っ……あぁ……約束……するよ……」
満面の笑顔で敵へ挨拶する楽観的な少女の言葉。それは、トモゼの失意を埋め、救うには、余りある無邪気な勇者の言葉だった。
次でパヴァーヌ編2章最終話じゃぁぁ!!半年かかった…。
取り敢えず今の目標は色がつくことです。楽しみにしてくれている方がいらっしゃるなら、楽しんでいただけるような物語を紡ぎたいです。
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