中央タワー最上階
「着いた!」
「ここが最上階……」
「……ッ……」
[……リオ、アリスはここにいるんだよね]
先生は人の気配からリオと断定し、目的の彼女がいる場所を聞く。
「えぇ、アリスならここにいるわ」
「まだ戦うつもり!?」
[落ち着いて、モモイ]
先生はモモイの銃口を静かに下げる。敵意はなく敗北を悟った者に対し、彼は必要以上の戦いを望まないと、穏やかに話す。
「……本当に、貴方達はここまで来たのね……。防衛システムも、トキもトモゼも……悉くを薙ぎ払って、キヴォトスの脅威になる、あの子を救うために……」
「当たり前だよ!最初からそう決めてたからね!」
「アリスが、キヴォトスに終焉を招くとしても?」
「急に何?アリスの事そんな風に言わないでよ!」
「……私は……ただ……」
[確かに、君は正しいのかもしれない。アリスは魔王で、それを助けようしてしまう私達の行動は、システムにおけるバグのようなものなのかも]
先制の言葉に生徒達は静かに耳を傾ける。
[でもね……私は先生だからさ。目の前の生徒を救わない理由がないんだ。例えキヴォトスの終焉を招く生徒だとしても、ヤンチャが過ぎる生徒だとしても……少し仲間に頼るのが下手っぴな、合理主義の生徒だとしても]
「…………いつか、身を滅ぼすわよ」
「ハハッ……!上等。この身朽ちても、朽ち果てた先でも、私は先生を全うするよ。全部終わったら、ちょっと話そうね、リオ」
「…………」
【先生、アリスがいる部屋を見つけた。電力が集中する施設……向こうの扉だよ】
広い部屋で無機質なベッドにケーブルとつながれて寝かされているアリス。一同が救けに来たと明るい声色で話しかける。瞬間、部屋いっぱいのモニターが全て怪しく光り、Divisionの文字が映り出す。
【いま……急に……な……が……!?】
プツン……
[チヒロ!?]
「エリドゥ全体がハッキング?ゼンイの仕業ではない……いえ、そんな単純なものじゃなく……都市が何かに……変わろうとしている?」
「やばい!早くケーブル外してアリスを……!」
『その行為は推奨しません。現在、"王女"の表層人格は内部データベースの深層部に隔離されています。強制的な接続の解除は、取り戻しのつかない事態を招くでしょう』
無機質にアリスがケーブルを抜こうとするモモイ達に警告を促し、一同の手が止まる。
「アリス!一体何を……!?」
「お姉ちゃん、これアリスじゃないよ……」
『アリス?それは、あなた達が私達の王女を呼ぶ際の名称……王女に名は不要です。名前は、存在の目的と本質を乱します』
「何を言っているの!?ねぇ、貴方は誰!アリスちゃんを返して!」
『私の個体名はKey。王女を助ける無名の司祭達が残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ、"鍵"です』
バガァンッ!!
「「「!?」」」
[!?]
「急にロックがかかったから嫌な予感がして、窓ぶっ壊して外壁登ってきたが……なんだこりゃ……何が起きてんだ?」
[トモゼ!]
『ふむ……私達への攻撃が止まった要因はあなた達ですか。ただ今より、エラーを修整、王女が本来あるべき玉座に王女を導かせていただきます』
全体検索……リソース領域の拡大……
リソース名、要塞都市エリドゥの全体リソース──1万エクサバイトのデータを確認。
『現時刻をもって、プロトコル、ATRAHASIS稼働』」
『コード名、アトラ・ハシースの箱舟起動プロセスを開始します』
「まさか……エリドゥを丸ごと掌握しやがったのか!?
『プロセスサポートのため、追従舎をを呼び出します』
「エリドゥ各地で各地で追従舎の出現……?」
ひたすらに困惑が渦巻く中、察したリオは端末を落として自らのミスに気がつく。
自分が作り上げた都市は、鍵と王女にとっての、"祭壇"になってしまっていたことに。
[……アトラ……ハシース……]
「私の計算が間違っていた……?私が……ミスを……?」
『リソース確保、26%……46%……』
「くっ!リオ、ハッキングして少しでも遅らせる!!手伝え!!」
過呼吸気味にリオはカタカタと震えてまともに動けず、ゲーム開発部の一同も困惑から抜け出せない中、トモゼの声がこだますることでかろうじて現実に戻ってくる。
「せ、先生……エリドゥが奪われれば……キヴォトスに終焉が来てしまう。その前に、決断しなければ……!」
「分かってんだろ先生!これは俺達のやらかしだ!!チビ達連れて逃げろ!!」
「トモゼ先輩!?」
「だっ、だめです!折角仲直りできるのに……!」
「嫌だ……やだ……!」
二人の切羽詰まった表情と言葉に、先生は極めて静かに、そして断言する。
[よし。君達の犠牲は無しだ]
「「……はぁ?」」
[君達の優しさは良く知っている。この決断も100回や1000回じゃないよ]
「な……何を言って……?」
[トロッコ問題……一人を選ぶのが君の優しさだ、リオ。選べないのが君の優しさだ、トモゼ。私はね……こんな問題自体が間違っていると思っている]
「思考実験で前提条件を変えてしまうのは、ただの屁理屈よ……」
[レバーを引く人が、見落としたものがあると思うんだ。たとえば、本当に周囲に手を差し伸べてくれる人がいなかったのか、とか]
「「!?」」
『リソース確保99%』
[私は、全員で力を合わせて、"全てを救う"選択肢を選びたい]
先生の言葉の直後、セミナーの二人と、ゼンイの声がインカムを通して一同の耳にはいる。
【ノア!ゼンイ!!今よ!全部電源落としちゃって!】
【はーい、えいっ!】
【了解】
ドガァンッ!!
突然の轟音と共に、Keyの動きが停止する。
【みんな、大丈夫!?】
「ユウカ!?」
「どうやって……!?」
「なんで……?」
【ゼンイが全て教えてくれました。ノアの記憶能力と合わせて、さっきまでに起こったこと全て把握済みです!】
【……どうせ、ユウカ先輩みたいなお人好しは、最後までなんとかしようとか思うんだよ。だから、ミレニアムの電電力を奪う時に全部伝えた】
「ゼンイ……!!」
「ほんっと……お前は最後まで……」
【ゼンイ君、私達に頭を下げたんです。お願いしますって……あの彼が。ですよ?】
【別に良いだろ……】
[ふふっ、流石、完璧〜!だね!]
【これくらい当然です。それより会長!予算の横領でこんな都市を作るなんて!後でお説教ですよ!覚悟しておいてください!!】
「ユウカ……」
【あ〜あ、怒ったユウカ先輩の説教は長いよ。ま、安いものだろう。甘んじて受けることだね】
『リソース確保プロセスエラー。エリドゥ中央タワーに再び集約開始……』
ボガァァンッ!!
『……邪魔者?残存勢力は0のはず……モニターにて確認』
「あっ……あれはまさか!?」
モニターに映っているのは、数刻前に下したアヴァンギャルド君を改造し、エンジニア部が並走し、次々と兵力を薙ぎ払う姿だった。
【華麗に復活ですよ〜!】
【負けられないね。廃墟から這い上がってきた怪物が相手なら、こっちは宇宙を目指す技術者さ。マキ監修の頼もしい味方もできたことだしね】
【突撃ー!】
「アヴァンギャルド君を改造して……宇宙戦艦を……え、何言ってるの?」
「宇宙戦艦なら仕方ないよ!だってみんなのロマンだから!」
「えっと……先生が何を仰ってるのかよく分かりません……」
「まぁ……結構分かるけどよ……」
『理解不能。状況判断不可……再命令を……』
「申し訳ありませんが、その子たちはここまで来られませんよ。タワーの入り口でしたら、エイミとウズホ、C&Cのメンバーが塞いでおりますので」
さらに、中央タワーの最上階であるはずのこの部屋に、ヒマリが単身で登場する。予想外の人物の登場に生徒達は驚きの表情を隠せない。
[や、ヒマリ]
「あら……もっと驚いてくれても良いんですよ?この超天才清楚系病弱美少女ハッカーの華麗な登場に」
「貴方……逃げたんじゃ……」
「あら、逃げるだなんて……この先の状況にある程度検討がついていてそれをするのは、あなたぐらいですよ。また事件を起こすという私の予測……当たったみたいですね」
「……」
「さて、これがKey。無名の司祭のオーパーツを稼働させるトリガーAIですね」
「……このまま放置すりゃ、アリスの人格はそっちと逆になっちまう。そうしたら……無もなき神々の王女として覚醒することになる」
「そんな……!」
「それって……アリスちゃんはこのまま……!」
「もちろん、それを防ぐ手だてはあります」
[流石だね、悪いけど時間がないかも、聞かせてくれるかな]
「躊躇なし、流石です。方法は明快……データベースの深部に隔離されてしまったアリスを起こすのです。そうすれば、この事態を防げます」
「そんなこと……本当にできるの?」
「できますとも。リオ、ダイブ施設くらいありますよね?」
「えぇ、あるわ……でもそんなこと、現実的にできるわけない、危険すぎる。精神世界に侵入できたとしても、下手をすれば二度と戻ってこれない。そもそも、そんなこと一体誰が……!」
「現状、アリスを連れ戻せるのは、ゲーム開発部と先生、そして……トモゼしかおりません」
ヒマリの発言にトモゼは目を丸くして反対しようとする。
「……は?いや俺がいくのは──」
「よし、やろう!すぐやろう!!」
「いや、待てモモイ、だから俺は……」
「行きますよトモゼ先輩!」
「ミドリ……待てって、なんで俺まで……」
「と、トモゼ先輩……行きましょう」
「ユズまで……」
[トモゼ、行こう]
「いや、待てって……俺は……アリスを……!」
[助けたいんでしょ?]
先生の言葉とゲーム開発部達の純粋な瞳と連れて行こうとする力強い手に、トモゼは自分が先ほど出した答えを思い出し、再び胸の奥で反芻する。
「……あぁ、そうだな……もう、誰かの答えに縋らない。迷わないって決めたばかりだ……俺の信じた答えを出す!行こう!!」
「えぇ、その意気です……ふふっ……。やっといつもの調子に戻りましたね。貴方はそのくらい……片っ端から、やれることからやっていくスタンスの方がお似合いです」
「あぁ、ありがとうヒマリ。頭がスッキリした」
問答の間に準備を終えていたヒマリがそれぞれの頭にギアを被せ、アリスの精神空間へとダイブする。
「それでは皆さん……お願いします」
ヒマリの合図の後、5人はアリスの精神世界にダイブする。そこはいつかの廃墟探索の時に見た景色、最初と同じ椅子に、アリスは座っていた。
「アリス!!」
「…………だれ?」
モモイを先頭に駆け寄り、先生達を認識できないアリスを囲む。
「私達だよ!」
「アリスちゃん!私達が来たよ!」
「アリスちゃん!」
「アリス……!」
「アリス、大丈夫?」
「モモイにミドリ……ユズ、先生…………トモゼも……?どうして……ここに……?」
「そりゃ、家出したアリスを迎えに来たんだよ!」
「アリスちゃん、早くここから出よう!」
「帰ろう、アリスちゃん」
「……アリス……ッ……」
「あ、アリスは……アリスは……」
三人の説得と、罪悪感からか言葉が出ないトモゼ。アリスが言葉に揺らぐ時、先ほどのもう一人の人格、Keyが5人に殆ど同じ姿で語りかける。
『王女よ、貴方が見てきた光景を忘れましたか?』
「だれ!?」
「……Key」
「アリスを閉じ込めた元凶!」
「アリスが見てきた光景って、どういうこと?」
『文字通りの意味です。"王女様"が、この空間で見聞きした光景の数々。ましてや、そこにいる男……"不抜トモゼ"など、王女を害した最たる人物でしょう』
「ッ……」
5人の脳内に直接、彼女たちが闘う姿をKeyが送り込む。
『王女。貴方を助ける為に傷ついた。助けたとして、結局は他者を傷つける。走って、転んで、争って、傷つけ合う。その理由を、王女はご存じではないのですか?』
「…………モモイを傷つけたのはアリスです。ミドリやユズがあの時泣いてしまったのも……トモゼとネル先輩が戦って傷つき合うのも、全部、アリスのせいです。キヴォトスの終焉がアリスのせいでやってくるのなら、大切な人が傷つくくらいなら……アリスはこのまま消えるのが正しいのです」
『……王女に臣下はあれど、並ぶものはおりません。隣に立てる者など必要ないのです』
アリスの言葉に、締め付けられる程の胸の痛みを抱え、自分のしてきた行いに吐き気を覚えるが、彼ははをくしいきたうたえさ自分の頭を近くの廃材で強打して言葉を中断する。
ガァンッ!!
「「「「!?」」」」
『!?』
「……アリス」
「と、トモゼ。いったい……?」
「まずは、すまなかった。どの面下げてとか……報いはあとでいくらでも受ける。だがまずは……本当にすまなかった」
トモゼは頭から流れ出る血を拭ってアリスに頭を下げる。
「い、いえ……正しいのはトモゼとリオです……。優先すべきなのも、出会ってちょっとのアリスじゃなくて、モモイ達の方です」
「違う。俺は……アリスが大事なんだ。もちろん、アリスだけじゃない、モモイもミドリもユズも、ゼンイもヒマリもリオも……ミレニアムが全部大事だ。でも、問題のスケールがデカすぎて、自分に選べるようなものじゃないって……答えを他人に縋っちまった。本当はお前も含めて皆救いたいのに」
「でも……アリスのせいで傷ついて……」
俯くアリスの髪を上げて、泣きそうな程に表情を歪ませる彼女の顔をじっと見つめて会話を続ける。
「傷は治る。コケたなら、立ち上がればいい、争ったなら仲直りすればいい。100回間違えたって、101回リトライすればいい。そうやって、お前達は最高のゲームを作っただろ?」
「!」
「そうだよ!テイルズ・サガ・クロニクル2は!私達が一緒に作ったゲームは、特別賞をもらったよ!」
「アリスちゃんがいたから、ゲームは開発部は今もあるんだよ」
「アリスちゃんがいるから……私達は笑顔になれるんだよ」
「ネルやゼンイとだって、ぶつかっても最後に仲良くなれた。俺だって、お前のおかげで前にまた進めた」
「アリス。君が黙って消えようとするのを放ってなんておけないよ」
「な、な……なぜ、ですか……?みんな……どうして……アリスは魔王です……キヴォトスの終焉の元を……怖がったり、憎んだりしないで……そうやって……」
「だって!アリスちゃんは……私達の仲間だから!」
「アリスちゃんは言ってたよ!何十本もやりこんだゲームで、どんな作品の主人公も、決して仲間を諦めないって!」
「でも、アリスは……アリスの隣には……」
「俺がいる。俯くなよ……俺は、お前の"相棒"なんだろ?」
「ッ!」
「魔王なんてただのジョブに過ぎないよ!自分が誰なのか、それは自分自身で決めるもの!アリスはただ、自分がなりたいジョブを選んで転職すればいいんだよ!!」
「戦士、剣士、魔法使い、なんでもいいんだよ、アリスちゃん」
「もちろん、ほかの職業、たとえば……勇者でも」
「だから、アリスの本音を……聞かせてほしいな」
5人の言葉に、アリスは自然と裾を握りしめ、熱い涙を目に浮かばせる。
「アリスは……魔王なのに……世界を……滅してしまう……のに……なのに……それでも……アリスは……そんなでも……いいんですか……?冒険を……みんなと一緒に……クエストを……続けても良いんですか……?」
「こんなアリスでも……?本当に……?」
「うん、もちろん」
「あぁ、当然だ!」
「当たり前だよ!」
「行こう!」
「アリスちゃん!」
アリスの問いに、5人は応える。
「それなら……も……がしたいです……アリスも……勇者になって……みんなと……モモイ、ミドリ、ユズ、そして先生とトモゼと……!冒険を続けたいです……!」
「魔王である……アリスが、そうしても許されるのなら……!」
「"そうしたい"なんて、充分すぎる理由だ、アリス」
「うん!アリスがしたいならそれで十分!」
「魔王だって勇者になれるよ」
「最近だとそういうお話もヒットしてるからね!」
「もしブームがなくても……私達が次回作として作ればいい」
「私達は……ゲーム開発部だから!なんだって作れるよ!」
三人はアリスに笑顔で抱きつき、喜びを体いっぱいに表現する。
「は……少し、妬ける」
「ふふ、そう?あの子達が、君を置いていくわけないと思うけどね」
「ん?うぉっ、モモイ、ミドリ!?」
「何やってんのさ!ここまで来てトモゼ先輩を蚊帳の外になんてさせないからね!」
「先輩は……デバッグとプログラムの補佐!あと素材とか、ゲームを作るための色んな話を聞かせてください!」
手を引っ張って輪に加わるアンバランスな大男。やりたいことや構想をさらに詳しく矢継ぎ早に開発部達はトモゼに語り出す。
「アリス、トモゼと一緒に勇者になりたいです!」
「相棒ポジは戦士が定番だろ?」
「いや、良いかも、W勇者。斬新で」
「だったらいっそパーティ全員勇者にしようよ!」
「それは新しいね……」
「はは……魔王、不敗の象徴、ゲーム開発部、医者やスパイやエンジニアにハッカー……君達がなりたい存在は、君達自身で決めて良いんだよ!!まだまだ青い……眩しすぎる日々を、いっぱいに吸い込んで!生徒達!」
先生が言葉を投げかけた瞬間、台座にいつかのゲームでみた聖剣が現れる。
「勇者の剣……アリス、これ!」
「アリスちゃん!勇者の剣を……!」
「抜くんだよ、アリスちゃん!」
「でもって、空に掲げろ、
「……はい!」
現れた剣を抜くと、スーパーノヴァに変形し、それを空に向かって掲げる。
『王女よ、その能力は、世界を終焉に導くための力……!貴方のその力は、世界を滅ぼすために存在するというのに……!』
「違います!アリスのこれは勇者の剣です!なぜならアリスがそう決めたからです!今のアリスは光属性の勇者……!!」
キィィィンッ……!!
「光よ──!!!!」
まばゆい光と共に記憶の空間を破壊する。辺りが真っ白に染まり、繰り返して王女と呼ぶKeyにアリスは返す。
『王女よ、貴方は……』
「アリスのクラスは王女ではありません!アリスは……"勇者"です!」
『……理解……不能……』
──
最上階、Divisionの信号は途絶え、追従舎達も消え去り、ハッキングが全て解除されてエリドゥは元の姿を取り戻す。
「本当に……こんな事が可能だなんて……」
[できるよ]
「しかし、私の計算では……こんな……どうやって……そんなバカな……」
一足早く起きた先生とトモゼは唖然とするリオに自分達なりの答えを話す。
「……計算違いが起きることだってあるさ、リオ。俺はその計算違いが起きるまで、次の新しい何かを見つけるまで、何度もリトライを繰り返す。だから実験ってのは面白いんだ」
[あの子達に、不可能はないよ。もちろん、君達にもね]
「あぁ……ありがとう、先生」
「はっ!アリスは!?」
「アリスちゃん起きた!?」
「……アリスちゃん!!」
「慌てんなちびっ子共、心配しなくても起きるだろうからよ」
アリスに駆け寄る四人、その背中を見て先生は笑う。
「良い景色だ……勇者と、そのパーティメンバー。ね」
──ー
数週間後
シャーレ調査記録
作成者 シャーレの先生
エリドゥはヒマリが責任を持って閉鎖。ゼンイと共同で何か別の物事に、今度こそ安全に役立てようと話したらしい。ミカドに伝えるべきか悩んだものの、1学園の問題を大きくしたくないというセミナーの意見をのみ込んだ。
トモゼは、最初はバツが悪そうにしていたものの全員からの許しと、主にユウカからの説教によって普段通りに日常を送っている。ただ少し変わったのは、彼がゲーム開発部と空間理論開発部を兼部するようになったということ。理論開発部の方の実績も問題なく積み重ねているようだ。
当事者であるリオは……責任を取って一言の謝罪を残して失踪してしまったらしい。正直、いつでも会いに行けるから私はあまり気にしてはいない。少し時間が経てば、彼女も戻ってくれるだろう。心を整理する時間が必要だろうし、あまり介入してはいけない。
ネルは物凄い大怪我と薬の影響でしばらく入院していたらしいけど、そこは流石の回復力とそして、ウズホの献身的な介護。彼女は今回のチームメンバー全員分の治療を一人でこなし、誰一人として後遺症も、傷の一つすらも残さなかった。元同業として素晴らしい手腕だといわざるを得ないね。
そういえば、この間のC&Cの打ち上げにトキが参加していた。ネルに対して挑発したり、少しズレたことを言っていたりしたけど、皆最後は笑顔だったし喧嘩するほどなんとやら、楽しそうで良かった。
そして、ゲーム開発部。
トモゼも兼部で入ってますます賑やかに、友情も強固になっていた。次はどうやらあの時話していた、登場人物が全員勇者だというゲームを作るらしい。
良いゲームを作りたいのなら、ゲームを愛せ。GBibleに書いてあったことだけど、彼女たちはゲームを、この青い時を愛している。コケるにしろヒットするにしろ、彼女達の自由さが現れた良いゲームになるだろう
「さて……」
移ろう時間は大切で、例え過ぎゆく1秒でさえもそれは生徒達にとって青春の1秒だ。
きっと何度も転がるだろう。壁にぶつかるだろう。傷つくだろう。争うこともあるだろう。でも、立ち上がり、乗り越え、互いに癒やし合い、理解し合う。
物語は得てして、そうやって紡がれていくのだから。
花のパヴァーヌ編第2章〜完〜
──
白い部屋。体中に自分で殴ったことでできた青痣が痛々しく刻まれている先生は床で悶えている。
「二幕目のフィナーレ、おめでとうございます……ひとまずは、そう言っておきましょう、先生。先生というキャストを、愚かしくも清々しく演じきったことは称賛に値します」
「はぁ"……ぉ"ぇッ……¥##¥ぁがっ、(%((っぐむ……」
「まだ人の言葉が吐けるとは……一応聞きますが、やめるつもりはないんですね」
およそ人間が発音できないような言葉を紡ぎ、先生は首を縦に振る。
「はぁ……であれば、再び幕間です。幕間を乗り越えれば、次はこの世界の醜さと虚しさを嫌というほど知るでしょう」
少女は相変わらず質素な椅子に座ったまま、伏し目に先生を見下ろして淡々と言葉を投げかける。
「この世に楽園など存在せず、あぁすればこうすればという空想に浸ることで、ありもしないもしかしたらを祈り続ける。空虚でまさしく人の夢見事」
「はぁ"……はぁ"っ……ッ……!」
「正義も悪もないただ純粋なまでの絶望のシナリオを……嫌になったら、どうかその賽を、渡してくださいね」
「あぁ"……そんな未来は……永劫やってこないけどね……!」
先生は呼吸を整えて自分の両頬を叩いて気合いを入れなおし、立ち上がって笑う。
「ありがとう!行ってくるよ!!」
「……えぇ、行ってらっしゃいませ」
先生は次の扉へ駆け出した。
パヴァーヌ2章完結!
どんどん進めていきたいところですが、エデン条約は少し複雑なストーリーなので、また時間を少しいただきます。
その合間に、イベントを投稿しますのでお楽しみいただければ幸いです!