永い旅路を歩む春   作:レガシィ

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アビドス対策委員会編
第一話 沈みゆく陽の下で(前編)


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 連邦捜査部の先生へ

 

 奥空(おくそら)

 

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 

 今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、

 

 こうしてお手紙を書きました。

 

 単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

 

 それも、地域の暴力組織によってです。

 

 シャーレの活動開始以降、様々な噂が広がり、助けを求める連絡が複数届いていた。そのどれもを順調にこなし、他校との交流も程々にできてていたころ、その中で先生に読んでもらった方がいいものがあると、アヤネから届いた手紙を渡され、その内容が以上のものであった。タブレット状の何かてわあるシッテムの箱に備えられた自称、超高性能AIであるA.R.O.N.A(アロナ)も先生を見守りつつ 今回のアビドスへの救助要請に応じることになった。

 

 簡潔な詳細に関しては、昔はマンモス校だったものの、砂漠化によって人口が減少し、都市のゴーストタウン化が進行していることを説明される。また、街の中で遭難する可能性もある、なんて冗談めいたフリをかけられてから、先生はアビドスへと出発した。

 

 のだったが……。

 

 [こ……ここまで広いとは……]

 

 頭から突っ伏した先生は、街のど真ん中で突っ伏して干からびそうになりながら呟く。もう駄目だと思考を放棄しそうになる瞬間、通りかかった狼耳に、少し無口なアビドスの制服を身にまとう生徒、砂狼シロコに拾われることになり、自転車の後ろに乗せてもらうことになった。

 

「……大丈夫?」

 

 [大丈夫、君のいい匂いがする]

 

[……本当に大丈夫?]

 

 そんな些細な会話をしながら先生はアビドス高校へと案内される。道中見回す景色は砂埃と砂漠に、人気のない建物ばかりで、噂通りの巨大なゴーストタウンというのが理解できる。

 

 暫くライディングをしながらアビドス校へと到着し、シロコに学校案内をしてもらいながら、本来教室番号が書かれている札に、廃校対策委員会書き換えられた部屋へと足を運ぶ。

 

「ん。拾った」

 

「し、シロコ先輩、ついに拉致を……!?」

 

「お、おぉ、落ち着いてアヤネちゃん!こういう時は……」

 

「はいストップ。落ち着いて二人とも。あの人無事だから」

 

「そうですよ〜。それより、お水はいかがですか?その様子だと結構放浪したように見えます」

 

 [あ、ありがとう]

 

「そ……そうよね、ごめんなさい……」

 

「そうですよね……すいませんでした」

 

「はいはい、謝るのは俺じゃなくてこっち」

 

 慌てる1年生達を宥める2人の二年生、ハクヤと片方はシャツの上から薄手の黄土色のカーディガンを羽織る包容力のある生徒、十六夜ノノミ。

 

 [大丈夫。気にしないで]

 

 それを眠ったふりをしつつ、薄っすら開けた目で見張る小柄ながらも隙のない桃色の髪の現アビドス生徒会副会長、小鳥遊ホシノ。

 

 その彼女は、欠伸をかきながら目を覚まして提案する。

 

「まーまー、皆そう固くならないで〜。まずは自己紹介をしない?」

 

 ダァンッ!!

 

 そう言ったホシノの言葉に、皆賛同しかけたところ、突然銃声が鳴り響く。

 

 [敵襲!?]

 

「先生、これが以前言っていた暴力組織、カタカタヘルメット団の襲撃です!」

 

 窓の外から先生は持ち前の観察眼で人数と武装を確認する。複数の色違いのヘルメットを被った女子生徒の中に、ちらほらと不良の男子生徒も少数ながら見かけ、全員交戦体制を取っている。

 

「あいつらまた……!」

 

「あー、いいよいいよ。俺一人でやってくる」

 

「駄目」

 

「ダメです」

 

 ハクヤが装備を整え、窓から乗り出そうとするがそれをホシノとノノミは両腕を掴んで止める。

 

「……そ、そうですよ!先輩は昨日から……いえ、最近無茶な戦闘を繰り返しすぎです!せめて皆で戦いましょう!」

 

「……はいはい、ごめんね皆。んじゃあいつも通り、指揮はアヤネちゃんに……」

 

 [あっと、君、名前は?]

 

「ん?あぁ、俺は(てんしょう)ハクヤ。何か?」

 

 [指揮は任せてくれないかな。きっと皆の助けになれると思う]

 

「……へぇ。学校の危機を、道に迷って死にかけたのを助けられた情けない男に任せろって?」

 

 [それに関しては何も言えないけど……助けになりたいんだ、私は君達の先生で、大人だから]

 

 ギラギラとした蒼い眼光に、先生は少しも臆すること無く提案する。意を汲み取り、敵意を消してハクヤは戦闘の準備を整える。

 

「ハクヤ君、任せてみませんか?」

 

「ん。私も賛成」

 

「……りょーかい。いいよ。ただし、駄目だと思ったら俺が全部やるからね」

 

 [ありがとう。それじゃ、まずは皆の基本的な陣形で校庭へ、後はインカムで伝えていくから]

 

 先生の指示の元、アビドスの生徒達は外へ飛び出る。

 

 [……アロナ、少し力を貸してくれるかな]

 

 [はい!お任せ下さい!先生は指揮に専念して下さい!]

 

 [助かるよ]

 

 先生も戦場の後方に立ち、実際の銃撃戦を目視する。

 

 暫くの間に戦闘を観察し、戦略を立てる。

 

「おらどしたぁ!?アビドス校の皆さんよぉ!!先日の借りはきっっちり返すぜぇ!?」

 

「ギャハハ!この人数差にゃあ手も足も出ないだろ!?」

 

「ハクヤさんよぉ、お得意の単騎突撃はいいのかぁ!?」

 

「生憎と、可愛い後輩達に止められててね。今回はまた別の催しがあるからちょっと待ってよ」

 

 先日の襲撃による精神的な追い込み、人数差による隙潰し等の問題点を確認、戦略を伝える。

 

 [ノノミは弾幕を張って撹乱!ホシノはハクヤと一緒に中枢の指揮系統破壊に専念、セリカとシロコはそれを援護!]

 

「り、了解!」

 

「なるほど……良い指示だ」

 

「なっ!なんだこいつら、急に動きが……!」

 

「く、くそっ!なんで急に……!アイツの仕業か!」

 

 [!!]

 

「っ先生!」

 

 瞬く間に殲滅されたヘルメット団のうち、一人の団員が先生へ銃を向け、発砲する。最後の団員にトドメを刺そうしたシロコが声を上げるが、その敵意に反応したハクヤが先生の前に立ち、銃弾をバックラーで弾きとばし、フリスビーのように投げて反撃する。

 

「うおっ、あっぶねぇ」

 

 [あ……ありがとう……]

 

「後方支援がこんな前でちゃいかんでしょ。指揮はかなり良いけど戦場経験は浅いね。0じゃないのが質悪いよ」

 

 [う……手厳しいね]

 

「でも……先生としてはいいのかもね。なにはともあれ、ありがとう、本当に助かったよ」

 

 その間に制圧を終え、一同は教室へと戻る。先生の指揮能力の高さに称賛を送り、これからは連邦生徒会からの援助も得られることを伝えられ歓喜する。

 

 そして、それぞれ自己紹介を終える。

 

「改めて、私達はアビドス対策委員会です」

 

 [対策委員会って?]

 

「そうですよね、ご説明いたします。対策委員会とは……このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」

 

「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なんです……全校生徒といっても、私たち6人だけなんですけどね」

 

「他の子は転校や退学で街を出ていった。学園都市なのに、学園がこのありさまだから、三流のチンピラにも遅れを取る始末……」

 

「いや~、良いタイミングで来てくれたよー。先生」

 

「でも、あいつらしつこいからこの程度で攻撃をやめるやつらじゃないわよ」

 

「そう、そういうわけで、ちょっと作戦を練ってみたんだー」

 

「え!?ホシノ先輩が!?」

 

「え、ホシノちゃんマジ?どんな計画?」

 

「ちょっとぉ、流石におじさんも傷つくよ?」

 

 そう言ってホシノは自身に視線を集めるが、当の委員達は信じられない様子で驚嘆の声をあげる。

 

「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからねー。だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗しているだろうからさー」

 

「い、今ですか?」

 

「なるほど、距離も三十km程度だし、出発しよっか」

 

「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「……で、先生は?どう思う?」

 

「いいと思う」

 

「それではしゅっぱ~つ!」

 

 ーーー

 

【それで、その後前哨基地を鎮圧。現在はアビドスの教室の一室を仮の宿としている。と、そういうわけですね?言ってくだされば宿はこちらで手配しますが……】

 

 [それは大丈夫。それより、皆いい子だけど、まだ信用を完全に得るのは難しそうでね。セリカとハクヤとホシノ。この三人はいまいち距離感が掴みかねててね]

 

【ふむ……セリカさんは少し感情的になりやすい性格のようですが、傾向から行くと時間の問題のような気もしますね。ホシノさんは……私の口から多くは語れませんが、大人に対して悪い印象が強いようです】

 

 [そっか。まぁ、気長に頑張るよ。って、ハクヤは?]

 

【あぁ、彼なら問題ありません。シンプルな男ですから。それでは、そろそろ切りますね】

 

 [あ、うん。じゃあありがとね、ミカド]

 

 ミカドの言っていた言葉に少し引っかかりを覚えつつ電話を切る。少しの肌寒さを覚え、一服しようと学校の屋上へと足を伸ばす。

 

 ガチャリッ

 

「よぉ、こんばんは先生。来ると思った」

 

 そこにいたのは落下防止柵に腰掛け、月を背にして和やかに、けれど警戒しつつ挨拶するハクヤだった。

 

 [……こんばんは。未成年がこの時間に外にいるのは感心しないかな]

 

「そう固いこと言わないでさ。ちょっと話がしたくてね。男同士、一対一でさ」

 

 [うん、いいよ。私でよければ]

 

「それじゃあ行くか。おっと、校内で煙草はやめてくれよ。皆の肺に悪い」

 

 [あ、ごめん]

 

 先ほどのミカドの言葉の意をなんとなく理解した先生はハクヤに連れられるまま、夜のアビドスを歩く。

 

 [ハクヤ、どこに……?]

 

「あそこ、見えるか?」

 

 丘を登った先の小さな公園。ハクヤが指差す方向は何も無い砂漠だが、今夜は風がなく砂煙も晴れているため、よく目をこらすと小さく木々と広く、枯れた湖が見える。

 

 [……オアシス?]

 

「そう、ずっと昔に枯れたんだ。昔は砂祭りって言ってさ、学校の規模も大きかったから観光客も沢山いたらしい。出店も並んだし、オアシスではしゃぐ子どもも数え切れなかっただろうな」

 

 [楽しそうだね]

 

「そうさ。きっと楽しかったと思う。花火やステージだってあったろうし、そうなると、ここは特等席だったんだろうって思うよ。いつかそんな日々が戻るかも。そんなことを考え続けてて、俺はアビドスにいる」

 

 [……]

 

「あそこには駄菓子屋があったんだ。砂煙の影響で店主が肺を悪くして閉店した。あっちにはレコードショップ、こっちの木陰は昼寝にぴったりでさ、疲れたらよく勝手にハンモック作って寝てたし、それで警察に怒られてた」

 

 ハクヤは遠く、懐かしい目をしながら日が沈みきった西を見つめる。

 

「全部、砂が埋め尽くした。街も、人も、思い出も、涙さえも。だから、俺はアビドス高校に入って、対策委員会に入った。この身が朽ち果てでも、もう一度皆に……"アビドス"に笑ってほしいから」

 

 言葉に詰まり、涙を飲み込んで一度深呼吸した後、ハクヤは言葉を続ける。

 

「……アンタに聞きたいのは一つだけだ」

 

 […………] 

 

「救えるのか?彼女達を……この真っ暗な夜に……夜明けを見せてやれるのか?」

 

「勿論。救ってみせるよ」

 

「……即答か。良いね……漢だよ、アンタ。いや……"先生"か」

 

 [ただし、私の救うには、君も含まれているよ、ハクヤ。君も笑える未来を……夜明けを、私がもたらしてみせる]

 

「いや、俺は……」

 

 先生は少したじろぐハクヤの頭を軽く叩く。

 

 [頼りないかもしれないけれど、私は大人で、君達の先生だ。頼ってほしい]

 

「……そう、か……まぁ……えと、じゃあ、よろしく頼むよ……先生」

 

 [任せなさい。それと、もう遅いから帰りなさい。送っていくよ]

 

 先に踵を翻した先生の背中は大人を見限っていたハクヤに、もう一度信じてもいいと思わせるほどに、希望と偉大さに溢れていた。

 

「……あっ、先生、道逆だぞ」

 

 [えぇっ!?いま凄くカッコいい感じに行こうとしたのに!]

 

「ハハッ!どうせ迷うんだから前歩いちゃ駄目だって。俺が学校まで送るよ」

 

 [えぇ……でもそれじゃあ大人として……]

 

「うーん。なら、こうしようーー」

 

 ーーー

 

「おはよ~」

 

「おはようございます〜」

 

「ん、おはよう……」

 

 ホシノがのんびりと対策委員会室へ入ると、先に集まっていた皆は挨拶を返す。しかし、様子が少しおかしいのを見て何事かとホシノは皆の視線の先を確認する。

 

「うへぇ……なにこれ」

 

 机に広げられた食べかけのお菓子やエナジードリンクと、遊んだであろうカードゲームやパーティーゲームの残骸。椅子に座って突っ伏して眠る先生と、椅子に座って上を向きながら大口を開けて寝ているハクヤ。

 

「ん。ここまで警戒心のないハクヤも珍しい」

 

「いや……う~ん……これが大人の姿?」

 

「いやでも……これ多分、ハクヤ先輩から誘った感じですよね……?お菓子とジュースもハクヤ先輩の好きそうなものばっかりですし」

 

 練乳いちご味のポテチや、もつ煮込み味のプリン、サボテン味のソーダなど、いわゆる変わり種のものばかり並んだテーブルに、一同は少し引きつった顔を見せる。

 

「……取り敢えず起こしましょうよ。会議出来ないし」

 

「んぁっ!!UNO!!?」

 

 セリカが起こそうとすると、突然ハクヤが大声で起き上がり、不用意に近づいたセリカが身体をビクリとさせて飛び上がる。

 

「……あれ?皆なんでいんの?」

 

「ん。先生も起きた?」

 

 [うん……最後のドロ4から記憶がない……]

 

「あーれ……うーん……」

 

「ハクヤ、取り敢えず机片付けようか」

 

 シロコはまだ頭がぼーっとしているハクヤの背中を叩いて片付けを促す。

 

「あ……ごめんごめん。先生、片付けよう」

 

 [うん、ごめん皆、すぐ終わるから]

 

 片付けをしながら昨夜の思い出を語る二人。ハクヤの警戒心はすっかりなくなったようで、二人の信頼感が見て取れる。

 

「ふぁ〜あ。はい、アヤネちゃん。これ計画書」

 

「えっ?」

 

「昨晩先生と色々話してさ、今後の方針に加えて今やれることをリストアップしといた」

 

「こんなに……」

 

「……ハクヤ君。なんで皆で話そうとしなかったんです?」

 

「おっと、別に皆の意見を聞きたくないとか、信用とか、そういう問題じゃないよ。昨晩訳あって先生を学校まで送ったんだけど、その時に軽く話したら思ったより夢中になっちゃってさ、もうこうなったら徹底的にやろうってなっただけ。俺達とは違う視点や知らない知識もあるし皆も話したほうが良いよ」

 

「……」

 

「なによ、ハクヤ先輩まで……!感謝はしてるけど!今まで大人が私達を助けてくれることなんてなかったじゃない!!」

 

「……セリカちゃん?」

 

 ハクヤの昨日とは打って変わった態度に、不信感が拭えないホシノとセリカ。言葉や表情にこそ出さないホシノと違い、セリカは端的に言葉に出してしまう性格なため、その様子に批判的な態度をとり、部屋を出ていってしまう。

 

「……ちょっとショック。でも、言ってることにも一理あるなぁ……」

 

「……」

 

 [ちょっと行ってこようかな]

 

「ストップです先生。そこは女の子心を理解してあげるところです。ハクヤ君もですよ」

 

「はい……」

 

 [……すいません]

 

 二人の男は大人しく引き下がるが、その複雑な感情を汲み取ってか、ホシノは提案する。

 

「ん~、だったら、行ってみよっか。お互いの合意が得られる会い方で!」

 

 [?]

 

「?」

 

 ーーー

 

「何名様ですか?空いてるお席にご案内いたしますね!

 

 少々お待ちください!3番テーブル、替え玉追加です!」

 

 忙しないバイト少女の声が駆ける。思わずお腹が鳴ってしまうような鼻腔をくすぐる香りの元へと暖簾をくぐる、6人の影。

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか……て、わ!皆!?」

 

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

 

「うへぇ〜、やっぱりここだと思った〜」

 

 ホシノとアヤネに続き、ぞろぞろとアビドスの面々が入っていく。バツの悪そうに肩を竦める先生とハクヤが最後に入り、セリカはさらに声を荒げる。

 

「げ、二人まで!」

 

「ごめん、どうしても心配で……」

 

 [同じく……]

 

「二人とも、ウジウジしすぎ」

 

「シロコちゃん、流石に俺も傷つくよぉ……?」

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

 

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ」

 

 入口に立って身内で話し込んでしまっていると、柴関ラーメンの大将から指示を受け、皆を案内する。

 

「はい★先生どうぞ!こっち空いてます!」

 

「ん。私の隣も空いてる」

 

 [いや、私はハクヤの隣で……]

 

「おっと先生。俺に"ソッチの気"はないよ?」

 

 [私にだってないよ!?]

 

 さり気なく先生が真ん中に座れるように席取りしていたハクヤは軽い冗談を交えつつ、面倒事と呼ぶほどでもない諍いを回避する。

 

「いやぁー、にしてもセリカちゃんってそっち系かぁ。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」

 

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」

 

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」

 

 [いや私は……]

 

「言い値で買おう」

 

 パシャッ

 

「毎度あり〜」

 

 先生が遠慮しようとする中、隣から無駄なキメ顔でお札を取り出しホシノへ渡す。ホシノも悪ノリで写真を撮り、ハクヤのスマホへ転送する。

 

「ちょっと!!流石におかしいでしょ!?」

 

「可愛い後輩の青春の1ページだよ?皆の卒アル作るときに必要でしょ」

 

「も……もう!変な加工しないでよ!?」

 

 至って真面目な回答をした後に、鼻歌を歌いながらハクヤは送られてきた写真を綺麗に加工して保存する。

 

 その合間に、皆それぞれ注文を終え、テーブルに美味しそうなラーメンが並ぶ。

 

「このお店、めちゃくちゃ美味しいんだよ〜!アビドス名物、柴関ラーメン!」

 

 ウキウキなホシノは笑顔でラーメンをすすり始める。運び終えたセリカは唐突な疑問を投げかける。

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

 

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ★」

 

「俺は払……あ、ごめんやっぱ誰か貸して」

 

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

 

 [!?]

 

「おっ、マジ?御馳走様〜。さっすが大人。じゃセリカちゃん、替え玉と餃子ちょーだい」

 

「えぇ……」

 

「先輩、最初からこうするつもりで……」

 

「先生としては、カワイイ生徒たちの空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」

 

 [くっ、謀ったなホシノ!]

 

 そんな騒ぎがありつつ、先生の支払いで腹を満たしたアビドス一行。帰り際になり、顔を真っ赤にしたセリカが捲し立てる。

 

「あはは……セリカちゃん、また明日ね……」

 

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!!」

 

「いやー、元気だねぇ」

 

 ーーー

 

「はあ……やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ。みんなで来るなんて……騒がしいったらありゃしない。人が働いているってのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。ハクヤ先輩まで……ふざけないで。私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから……」

 

 ボソボソと今日一日の文句を呟きながら暗くなった道を歩くセリカ。そこへ忍び寄る複数人の影。

 

「……少し、言い過ぎたかも……やっぱり、明日謝ろうかな……」

 

「黒見セリカ。だな?」

 

 赤いヘルメットの生徒が銃を向けて確認する。

 

「何よアンタ達。まだいたわけ?いいわ、この機会にコテンパンにして二度とこの辺歩けなく……」

 

 ガチャッドォンッ!!

 

「後ろにも!?って、何よ……これ……」

 

 ブシュゥゥゥッ……

 

(この音……Flak41改……?やばい……みん……な……)

 

 瞬く間の衝撃で意識がなくなってしまったセリカは倒れ込み、ヘルメット団員達に攫われてしまった。

 

 ーーー

 

「……アヤネちゃん、今なんて?」

 

「せ、セリカちゃんが行方不明になってしまったんです!!」

 

「バイトは定時に上がったらしい。ただ、その後家に帰ってない」

 

「ど、どうしましょう……!!セリカちゃんの身に何かあったら……!」

 

「アヤネちゃん、落ち着いて。今先生とホシノちゃんが調べてる。それで駄目なら皆で手分けして探そう」

 

 ガラッ

 

「やーやー、皆お待たせー」

 

 先生が持ってる権限を使い、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた。実はバレているのだが、非常事態と伝わったのか、ミカドがその履歴を揉み消したようだ。

 

「セントラルネットワークに……先生、そんな権限までお持ちなのですね」

 

「うへ〜もちろんこっそりだけどね。バレたら始末書だよー?」

 

「ええっ!?だ、大丈夫なんですか、先生?」

 

「問題ない、セリカの安全のためなら」

 

「いなくなる寸前のシグナルが途切れた場所……。廃墟エリアか。住人もいないし、チンピラばっかのところだ。ヘルメット団が報復か次の手にセリカちゃんを人質に取ったってところかな」

 

「考えていても仕方ありません!とにかく急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

 

 ノノミの提案に皆が頷き、急いでシグナルのポイントへ向かう。

 

 ーーー

 

(ここ……トラックの荷台……?私攫われた!?ヘルメット団め……私をどこに連れて行くつもりなの……。暗い……けど、隙間から少し光が漏れてる)

 

 ガタンッ……ガタンッ……

 

(もし脱出できたとしても、対策委員会のみんなにどうやって知らせれば……。どうしよう、みんな心配してるだろうな……。……このままどこかに埋められちゃうのかな。誰にも気づかれないように……。連絡も途絶えて……私も他の子たちみたいに、街を去ったって思われるんだろうな……。裏切ったって思われるかな……。誤解されたまま、みんなに会えないまま死ぬなんて.)

 

「そんなの……ヤダな.う……うぐう……うっ、ううっ……」

 

 ドカァァンッ!!

 

「うわぁぁっ!?」

 

 突然、轟音の後に車体が大きく揺れて転倒し、セリカは頭を打ちつける。

 

「な……なに……!?砲弾?いったい何で……」

 

 ガギギッ……ボギュンッ!!

 

 固く施錠されていた扉が鈍い音を立てて捩じ切られる。

 

 隙間から漏れていた光が一気に車内へと入り、目を細めるセリカの前には、ねじ切ったであろうトラックの施錠の金具を持つハクヤといつも通りのシロコがいた。

 

「おはよう、セリカちゃん。ベッドは選んだほうがいいよ」

 

「セリカちゃん発見!生存確認しました!」

 

「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」

 

「なにいー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」

 

「う、うぅぅるさい!泣いてないから!!」

 

「嘘!この目でしっかり見た!」

 

「泣かないでください、セリカちゃん!私たちが、その涙を拭いて差し上げますから!」

 

 バサッ!

 

「わぷっ!?」

 

「さて、悪ふざけはそれまでで。それ、俺の上着で悪いけど着て。無事でよかった……俺安心してちょっと泣いちゃったよ」

 

 セリカの頬に伝う涙を指で拭い、ハクヤは大きめのブレザーをセリカにかぶせる。

 

 [セリカ!無事でよかった!]

 

「な、何で先生まで!?どうやってここまで来たの!?やっぱりストーカーじゃない!」

 

「元気そうだねぇ、良かった良かった」

 

「こらこら、ちゃんと後でお礼言いなよ?先生のお陰で俺達ここに来れたんだから」

 

「よかった……セリカちゃん……私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって……」

 

 感動の再会を分かち合うところに、複数の車両の音と重戦車のキャタピラの音が砂漠へ響く。

 

「まだ油断は禁物。戦術サポートシステムを使ってトラックは制圧したけど、まだここは敵陣のど真ん中だから」

 

「だねー。人質を乗せた車両が破壊されたって知ったら、敵さん怒り狂って攻撃してくるよー」

 

「前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!!さらに巨大な重火器と戦車も多数確認しました!徐々に包囲網を構築しています!」

 

「……気をつけて、奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ。それも、多分私の時よりもっと大きなやつ」

 

「う~ん。なら、戦車は俺がやろっかな」

 

 ゴキゴキと右手の指を鳴らし、ハクヤが一歩前に出る。

 

 [ハクヤ、一人で大丈夫?]

 

「いやね、俺もちょっとだけイライラしててさ。可愛い後輩を拉致った奴らに……一泡吹かせてやらにゃ気が済まんのよ」

 

 笑顔を装った修羅の表情に、低くなった地声。隠しきれていない殺気が加わり、皆の背に緊張が走る。

 

「って、わけで他はよろしく!先生、期待してるよ〜」

 

 [了解。敵影捕捉、バギー3台、乗っている団員は12。重戦車は2台。皆、いくよ!]

 

「セリカちゃん、動けますか?」

 

「あったりまえじゃない!私だって目にもの見せてやるんだから!」

 

「んじゃ、お先」

 

 砂漠を全速力で駆けるハクヤ。しかし、砂埃は極端に静かに上がる上、明らかに砂に足を取られているとは思えない速さで接近する。

 

 [速っ……!?]

 

「ほんとはハクヤ一人でもやれるんだろうけどね〜」

 

 [ホシノ、それって……]

 

「あ、来たわよ先生!!早く指示出して!!」

 

 [あ、あぁ!]

 

 先生達が他の団員達を相手にする間、ハクヤは戦車の前へ到達する。

 

「撃てぇ!!」

 

 チュドォォンッ!ギィィンッ!!

 

「なっ!?」

 

 ハクヤは右腕のバックラーで砲弾を上空へと受け流しつつ、砂上を駆ける足を止めない。

 

「なんだアイツ!速い!狙いが定まらない!!2号機!機関銃は!?」

 

「駄目です、こちらも追えません!」

 

「悪いね、感が良くてさ。砂に埋もれた瓦礫や岩がどこにあるかなんとなく分かるんだわ」

 

 装甲を削るには威力が足りないことは理解している。ハクヤは戦車の操縦士を攻撃するため、ショットガンを正面の標準眼鏡に突き刺して放つ。

 

 バォンッ!!ガクンッ!!

 

「うわぁ!?操縦士!どうした!?応答しろ!!」

 

「よっと」

 

 スピンコック(片手リロード)を行いながら、戦車の上部に登り、扉をこじ開けようとする。

 

「バカめ!その扉は鋼鉄だぞ!人力で開くわけーー」

 

 バギョ゙ンッ!!ギギギッ……!!

 

「な……い……」

 

「次は扉にダイヤでも使うと良いよ。流石に俺でも開けるのに時間かかるし、お金になるからさ。っと」

 

 ハクヤは砲手のハッチを破壊して中に侵入し、戻り際に発射装置をショットガンで破壊していく。

 

「まず1台っと」

 

「撃て撃てぇ!!」

 

 ダラララララッッ!!

 

 2号機は機関銃を掃射するが、ハクヤはバックラーで防ぎつつ戦車の後ろへ回り、盾にする。

 

「この距離を保って回り込め!奴を炙りだせ!」

 

「よっ……どぁっっと!」

 

 ガィンッッ!!

 

 後ろに回り込んだハクヤは戦車を殴り飛ばして直接2号機へとぶつける。その衝撃でかなり戦車内部は揺れたらしく、大破まではいかずとも煙をあげて動きが止まる。

 

「警告しておくよ。次、何か動きを見せたらトドメを刺す。痛い目に会いたくなかったらそのまま大人しくしててな」

 

(くそ……一撃!一矢報いてやる!!)

 

 しかし忠告むなしく、主砲はハクヤの方向を向き始める。

 

「あれ、聞こえてる?もっかい言うよ?痛い目にーー」

 

 チュドォンッッ!!バァンッッッ!!

 

「やった!!直撃!ざまぁみろ!!」

 

 砲撃の余波で立ち込める砂煙の中から、平然と不発させた砲弾を掴み、指でくるくると回しながらハクヤは現れる。

 

「……化け物……」

 

「対空砲を積んだ戦車ねぇ。砲弾止めるのに少し技術がいるけど、タイマンなら怖くないや。これ、返すね」

 

「ひっ……うわぁぁぁああ!!」 

 

 ドガァァァアンッ

 

「お疲れ〜」

 

 ハクヤは砲弾を放り投げて背を向け、ノールックで肩に担いだショットガンで砲弾を撃ち抜いて爆破し、圧倒的な実力を見せつけた。




前回言うの忘れたんですけど、生徒の割合は男女比2:8くらいです。
トリニティには男子生徒は1人もいません。
前回の最後でちらりと出てきた方々は、各校のバランスブレイカーです。1人入れば戦争が変わるレベルの。
ですが、基本的に男子生徒は女子生徒より普通に弱いです。 現実の肉体的な力関係がひっくり返った程度ですが。
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