第一話〜四話 天下無双、宮本マサムネ
プロローグ
百鬼夜行連合学院
かつて数多の学校が熾烈な争いを繰り広げ、最終的に合併することで大きくなった学校。
お祭りや"和"の文化による観光客が多く、常日頃から賑わいが見られる学校。
そんな場所に仕事の為に先生は訪れ、イベント中だとお勧めされたお店、百夜堂に折角だからとのんびりお茶を楽しもうと並んでいた。
[う~ん……人気店なだけあってやっぱり混むなぁ]
先生が列の最後尾で諦めようとしたところ、急に周りがざわつき始める。
「お、おい!あれもしかして……!」
「きゃああ!」
「道開けろみんな~!」
[何か事件!?]
「おやシャーレの先生、天下無双を知らないのかい?」
[天下無双……もしかして]
獣人の一人が先生をなだめたとき、人混みを割って現れたのは、一人の男子生徒。
赤白の着物と右腰に挿した大小の刀。背にはグレネードランチャーを携えており、草履から鳴る独特な摺り音で店の前に並ぶ。
「まっ、マサムネさん!どうぞ!」
「む?いや拙者は並んで……」
「そんな!マサムネ様の貴重な時間を取らせるわけにはいきません!!」
「別に忙しい訳では……」
困っているマサムネに先生は気さくに話しかける。
[やっ、マサムネ]
「先生、丁度いい。助けてくれ」
[みたいだね]
群衆をうまく宥め、プライベートの先生と生徒という関係に他の住民や生徒達も理解して二人は最後尾に並ぶ。
「助かった。礼を言う」
[あはは、相変わらずマサムネは人気者だね]
「悪い気はせんが……みなの邪魔をしたいわけではござらん。少々困ったものよ」
マサムネは期待で目を輝かせる子供やファンであろう客たちに手を振りながら頭をポリポリとかく。
[百夜堂……マサムネはここの常連?]
「うむ。だがしかし、此度は別の目的もある。これだ」
期間限定と書かれたチラシ。5つのお店に丸印が書かれており、スタンプラリーのようになっている。
「全ての店で茶を飲み、すたんぷなるものを集めるとこの桜模様の茶飲みが貰えるらしい」
[茶飲み……マサムネって食器にこだわりあったんだ?]
「拙者ではござらん。ミモリだ、普段の礼にとな。折角なら特別なものを用意したかった。さぷらいずというやつだ」
[なるほど……でもお店に行く度に騒ぎになってちゃバレちゃうね]
「さよう……。そうだ先生、共に巡らぬか?先生といると騒ぎもすぐに収まる。拙者は言葉を交わすのが苦手ゆえ、いると助かる」
[もちろん!私から提案しようと思ってたくらいだよ]
「うむ、助かる。お礼に、茶の代金は拙者が全て持とう」
──ー
1話目 百夜堂、ソメイヨシノケーキ
先生達は自分達の番になり入店する。一気にお店のお客さん達がざわつき始める。
「いらっしゃいませ〜!あっ、先輩と先生!?」
[やぁシズコ。繁盛してるね]
「うむ、良きことよ」
「来るなら言ってくれればそれなりのご用意が……!」
「よい。拙者は今宵、普通の客よ。限定の桜セットを二つ頼む」
「あっ、はーい!ご注文ありがとうございまーす!」
席に着いてもシャーレの先生と、百鬼夜行の武神という二人のビッグネームは注目を浴び続けるが、二人の意思を汲み取っシズコは元気に接客を始めた。
先生は少し落ち着かない様子だが、マサムネは慣れている様子で届いた桜風味のお茶を啜っている。
「うむ、美味い」
[本当だ。にしても、行く先々でこんなに注目されるなんて大変だね]
「もう慣れたものよ。がしかし、百夜堂が一番人が多い。ここのすたんぷを押せば後は速いだろうて」
「お待たせシマシタ〜!先生、マサムネ先輩!ソメイヨシノケーキセットとスタンプデース!」
「うむ、ここに」
ポンッ
「ごゆっくりデース!」
席に置かれたソメイヨシノをイメージした桃色のケーキ。食べることが趣味の彼は、普段の強面も自然と頬がゆるむ様子で食べすすめる。
[美味しいね]
「うむ……すたんぷだけのつもりで来たわけではもちろんないが、かように美味だともっと食したくなるな」
──ー
「そろそろ、次へ参ろう」
[うん、そうだね。ご馳走でした。お会計はっと]
「ならん。拙者が払うと……」
[残念、もう払っちゃった]
「むう……遅れをとったか」
三十分程度の滞在、少しだけ急ぎ足なものの、充分にゆっくりできたと二人は店を出る。シズコ達は忙しそうにしながらも丁寧に見送り、二人は大通りで次の店を探して歩き出す。
「次は……歩いて十分程度か」
[丁度いい距離だね]
しかし、歩き出す二人を拒むように悲鳴があがる。
「きゃー!止めて〜!!」
「む?」
声のした方に振り向くと、操縦者がおらず坂道を転がっていく大八車(リヤカー)。そこには大量の米俵が乗っていた。
「ふむ……止めるか」
第2話 釜倉家、枝垂桜おはぎ
[マサムネ!]
「案ずるな、先生」
……ダァンッ!!バシィッ!!
転がる大八車が人に危害を加える前にマサムネは駆け出す。呼吸一つ乱すことなく数十メートルの坂上までの距離を一足で詰め、取手を掴んで勢いを殺してみせる。
「
「まっ……マサムネ先輩!?申し訳ありません!お怪我は……!」
「拙者も他の者も無事、案ずるな」
その光景を見ていた住人たちは拍手と称賛の声をあげる。先生も走って坂上まで上り、確認する。
[大丈夫?これ、一人で運ぶつもりだったの……?]
「う……すいません。私達徳積商会は米や野菜を飲食店に運ぶんですけど、ついさっき突然欠員が出ちゃって……」
[それで急いじゃったんだね]
「ふむ……それで怪我をするようなら元も子もなかろう。ましてや、他人が怪我をするなど以ての外」
「う……おっしゃる通りです。すいません……」
「……どこまでだ?」
[マサムネ?]
「えっ……この先の旅館までですが……」
「手伝おう、乗りかかった船だ。お主一人で運ぶのは辛かろう」
「そ、そんな!マサムネさんのお時間を……」
「案ずるな、これも"修行"よ。それにこの先には我らも用がある、もののついでだ。だろう?先生」
[はは、そうだね。手伝うよ、三人でやった方が安全だ]
「あ、ありがとうございます!!」
マサムネを中心に大八車を押して道を進む。目的地よりやや離れてしまったものの大した労力ではなく、二人はお礼を受けてお店へと辿り着く。
民家を改装した出で立ちのカフェで、賑わうというよりも落ち着くといった雰囲気。ロボットの店員に案内されて席に着き、少ない客たちから注目を浴びながら注文を待つ。
「おまたせしました!枝垂桜おはぎセットと、スタンプです!」
「うむ、確かに」
[色々なお茶とお菓子が楽しめるね]
「始まったばかりだが、良き旅よ」
スタンプをもらい、お菓子とお茶を堪能した後、二人は店を出ようとする。しかし直後、店内で些細ながらも見逃せない事件が起こる。
「ふざけんな!写真と見た目が違うじゃねぇか!ここの桜の花びら!」
「し、写真はイメージでして、全く同じというわけには……」
[トラブルかな?]
「暇な奴もおるものよ。がしかし、これも店を持つ者の宿命。よい修行になるだろうて」
ただのクレームだとマサムネは桜色のお茶を啜り、今度こそと財布を取り出す。しかし、激昂した獣人はHGを取り出そうとする。
「ざけんな!ぶっ殺して──」
バチィ゙ンッ!!
「ッ!?」
カランカランと音を立てて曲がった小銭が床を転がる。
財布から出した小銭をマサムネがデコピンの要領で打ち出したらしく、獣人は引き金にかけた人差し指を押さえながら悶える。
「誰……ひっ!み、宮本マサムネ……!?」
「選べ。名乗りを上げるか、謝罪と共に会計を済ませるか」
刀に手をかけるマサムネに血の気が引いた顔で瞬時に頭を下げる獣人の男。
「すいませんすいませんすいません!!ギャンブルで負けちまって魔が差しちまったんです!!もうしませんこの通りです!!」
必死にマサムネに対して土下座するが、目配せで遅れて気付き、店員に対して床に頭をこすりつける。
「うむ。店員殿、許してやれ。そして拙者達の会計を」
「あ、お会計は既に……」
[さ、行こっかマサムネ]
「……むぅ……」
少しだけ不満げにマサムネは唸って出口の先生の後をついて行った。
3軒目 喫茶和綿 八重桜どら焼き
次のお店に行こうと道を歩く際、マサムネが口を開く。
「先生。先程から先生ばかり支払いをしている。拙者に華はくれぬのか?」
[ははっ、その言い方されちゃうとなぁ。でも、私は大人で先生で、今日に限っては君の旅の友だ。少し格好つけさせてよ]
「……むぅ……ズルい人だ。ならばせめて約束しよう。この宮本マサムネ。主に振りかかる今宵の火の粉の一切を、一つ残らず斬払ってみせようぞ」
[いいね、最強の用心棒だ]
他愛のない話。デジタルの桜が街中を彩り舞う中、聞き馴染みのある三人の声が聞こえてくる。
「流石部長です!」
「わ……私も手伝います……!」
「えへへぇ……これで再生回数も鰻登りだにぇ!」
少し舌っ足らずな灰色の狸耳の生徒、ミチルを部長とした忍術研究部、その二人の部員。長身で少し内気なツクヨと、狐の耳とふわふわの尻尾が目立つイズナ。
SNS活動をしている彼女達はマナーを守りつつ投稿用の動画を撮っているようで、楽しそうに騒いでいる。
「あ、主殿です!」
「え!先生……と、マサムネもいるじゃん!」
[皆元気そうだね]
イズナの元気な挨拶に応え、見てわかることながらも話の種に興味本位で何をしているか聞く。
「ふっふっふ……実はね、菊里通り2丁目の廃墟。そこにお化けが出る噂があるんだ〜」
「[お化け?]」
「そうです!それを新しく開発した忍術で祓うという企画です!」
[お昼にいくの?そういうのって普通は夜じゃない?]
「うぐっ……だっえ……夜は怖いじゃん……」
「時にそういった場所に対する蛮行は礼儀を欠く行いに当たる。ゆえ、引き際はしかと見極めよ」
「そこは分かってるよ。っていっても、どうせ噂の一人歩きだろうしね」
「はい……夜に声が聞こえるとか、近くを通った生徒が突然消えるとか……そういうものです」
いかにもといった噂話の内容に二人は信じることこそないが、気をつけるようにと注意を促し、ミチルからのコラボ提案は丁重にお断りした後、次のお店へと向かうのだった。
──ー
百鬼夜行 陰陽部
「にゃはは〜。今の報告は本当ですか?カルラ君」
陰陽部部長、天地ニヤ。生徒会がない百鬼夜行の実質的な代表。城を模した部室のある建物。その一室にて、青と黒の和風な着物とヤツデの団扇が描かれた羽織に、腰には十手と小型のSMG、金黄色の瞳の男子生徒が報告している。
「俺が嘘の報告をしたことがあるとでも?」
「質問に質問で返すその癖、やめたほうが女の子にモテますよ〜」
「うるさい。ともかく、菊里通りに不審な人影を複数確認。警邏部部長としての発言だ。どうする、必要なら人を集めるが」
「ふ~む……カルラ君、これどう思います?」
突然ニヤは期間限定の桜菓子が食べられるお店が記されたポスターを向けて問う。
「また変な質問を……なんだ、桜の菓子か?美味そうとでも言えばいいと?」
「また質問で返す〜。まぁ結論から言えば放置でいいんじゃないですかね」
「厄介事が起こるかもしれないのにか?」
「菊里通りねぇ……彼が順番通りに行くのなら、そこは最終目的地でしょうから」
「またお前は……言ったからな。どうなっても知らないからな?」
「えぇ、どうぞご心配なく。ついでにカホにも顔を見せに言ってはいかがです?」
「お断りだ。何を言われるか考えたくもない、俺は帰るぞ」
「お帰りはあちらでーす」
──ー
「はい!スタンプでーす!そ、それと……サイン、貰ってもいいですか!?」
「うむ、確かに。さいんも良かろう」
3軒目にて食事を終えた二人。若者をターゲットにしているた様相だからか、生徒が多い場所で、マサムネはミニサイン会状態になっていた。
「他はいないな?それなら、これにて御免」
[行こっか、マサムネ]
4話 レストラン和倉、大島桜餅
「いよいよあと二つ……次は桜餅だそうだ。実に心躍る品書きだが、先生、腹は大丈夫か?」
[おやつは別腹だよね!]
「ハッハッハ!頼もしいものよ、よく食らうことは強い証。ゆきずりの巡り合わせだが良き旅だ。ニヤには感謝せねばな」
[ニヤ?なんで?]
「む?言っておらなんだな。この催しを教えてくれたのはニヤだ。拙者の好む菓子も食える上、悩んでいたぷれぜんとも用意できると」
[へぇ……ニヤがねぇ……]
怪訝な顔をした先生は謀略高いニヤのオススメという話を聞き、一種の不安を覚える。しかし、そんなことは露知らずなマサムネは地図を見ながら次のお菓子に思いを馳せていた。
──ー
百鬼夜行修行部
「菊里通りにて不審な人影あり……確認だけでもするべきでしょうか」
「う~ん……不安があると、皆安心して眠れないよねぇ〜」
ミモリの言葉にゆったりとツバキは言葉を返す。街の巡回もしている修行部はこの事態の確認をしようかと会議を開いている。
「まだ近隣住民からの被害の声などはありませんが、百鬼夜行はマサムネ先輩がいる分、表立って動く犯罪者は殆どいません。そのため、水面下でことを進めている人間がいないとは言いきれませんね」
「じゃあ、やっぱり確認に行ったほうがいい?」
「ですね。確認が取れ次第、マサムネ先輩を呼びましょう。私達だけで対処出来そうなら、警邏部と連携して制圧の形で」
「オッケ~」
「うん、了解!」
──ー
菊里通り廃墟
『人員は集まってるな』
『はい、つつがなく。宮本マサムネに恨みを持つ者を中心に実力者を集めました。たとえ百花繚乱が相手でも遅れは取りません』
『ま、停止中だがな。それじゃあ、そろそろ始めるか……国取りをよぉ』
眼帯をして、背中に大太刀を背負った犬の獣人。彼を中心に荒くれた様相の生徒やロボット達が準備を進めていた。そして運悪く、それを陰から聞いてしまった三人組は、どうするか判断に迷い、こそこそと話していた。
「どっ……どうする!?結構やばいよねこれ?」
「むむ……悪党の気配です!ですが……この人数はイズナ達だけではどうしようもありません……」
「……修行部に頼むのは……いかがですか?」
「う~ん……それが一番いいかなぁ……。陰陽部とか警邏部がいないってことはまだ見つけてないってことだろうし……。うん、そうしよう。イズナ、お願いできる?」
「そうと決まればこのイズナ!最速で修行部の元へ報告に行ってきます!」
「私とツクヨはもう少し見張ってよう。くれぐれも、危険がないようにだけしてね!」
「は、はい!」
──ー
4軒目のレストランにて、デザートセットになっている桜餅と、桜風味の紅茶。それらを嗜みながらスタンプをもらい、二人は上機嫌で次の店の話をしていた。
「いよいよ最後……嬉しくもあり名残惜しくもある……だが」
[移ろいゆくから、物事は美しい。君ならそう言うんでしょ?]
「……流石だ、先生はいつも拙者の予想を上回る」
マサムネの言葉を予想した先生。少しのズレもない心根を見透かし、それを嬉しそうにしながら彼は称賛の言葉を贈った。