永い旅路を歩む春   作:レガシィ

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第一話 沈みゆく陽の下で(中編)

 ヘルメット団達との戦闘が終わり、一同は帰路についていた。

 

「皆さん、お疲れさまでした。セリカちゃん、怪我はない?」

 

「えぇ!私はピンピンして、あれ……?」

 

 ふらついて倒れるセリカをハクヤが受け止め、上着を被せたままで姫抱きにする。

 

「まぁそりゃ、あんなん食らって立てるほうがおかしいよね。保健室に連れてこう、休ませてくる。シロコちゃんもついてきて、看病は任せるからさ」

 

 二人は保健室へとセリカをんでいく。その間、戦車の部品を調べると、ヘルメット団の力では手に入らないようなものだと発覚する。

 

「先生、改めてありがとうございます。先生のお陰で大事に至らずに済みました」

 

 [お礼なんていいんだよ。皆が無事なら。]

 

「でも、これでただのチンピラが、なぜここまで執拗に私たちの学校を狙っているのかも、明らかになるかもしれませんね」

 

 教室へ戻り、情報を共有するとハクヤに思い当たる節があるようで部品を手にとってボソリと呟く。

 

「ん?この武器……あぁ、俺心当たりあるかも」

 

「本当ですか?」

 

「うん。多分あいつらの武器、ブラックマーケット産じゃないかな。知り合いがいるから明日にでも行ってくるよ」

 

「駄目だよハクヤ。こんなことがあったのに一人で動くつもり?」

 

 ホシノの睨みに素直に反省し、ハクヤは妥協案を提案しようとするが、ノノミが言葉を遮って暗に却下する。

 

「あー……ごめん、今のは俺が悪いね。じゃあ、ホシノちゃんと俺で……」

 

「皆で行きましょう。先生も。それでいいですよね?」

 

 [私もそっちのほうが良いかな。先生として]

 

「う〜ん……じゃあ、明日は皆、俺から離れないでね」

 

 ハクヤの言いつけを守るように約束し、明日を迎える。

 

 ーーー

 

 ブラックマーケット。隠れて不良生徒達が取引を行ったり、グレーゾーンギリギリの商売が日常的に行われる場所。

 

 その、少し深い場所へと足を踏み入れていた。

 

「な……なんか、凄い見られてる気がする……」

 

「皆、俺から離れちゃ駄目だよ。特に先生と後輩ちゃん達ね。先生はフードもっと被って」

 

 [うん。頼りにしてるよ]

 

「ハクヤ、もしかしてここじゃ有名人?」

 

 ハクヤは一同を引率するように警戒しながら前を歩く。

 

 一部はハクヤを見た途端に隠れ、一部は警戒の眼差しでハクヤの後ろに並ぶアビドス生達を吟味する。それをよしとしないハクヤは青く鋭い眼光で睨み返す。

 

「ちょっとハクヤ、少し怖いよ〜?」

 

「……目合わせちゃ駄目だからね。ろくでもないのばっかなんだから」

 

「それで、その武器屋はどこにあるんです?」

 

「ちょっと待ってね、大分様変わりしててさ。たしかここの路地に……お、いた」

 

「……げっ……」

 

 ハクヤは数回路地を曲がって目的の人物へと辿り着く。そこには、目立つ赤いシートの上にあぐらをかく、深い黒色のサングラスをかけ、焦げ茶色のローブを被った人物がいた。

 

 ハクヤをみた途端に明らかに怪訝そうな顔をする人物。逃げようとするのをハクヤは肩を掴んで座らせ、和やかに会話を始める。

 

「そう警戒するなよ。俺とお前の仲じゃないか。久し振りに会ったんだ。茶でもしばこうぜ?」

 

「遠慮しくぜ旦那……。アンタに関わると碌なことがねぇんだ」

 

「ちょっと前、随分稼がせてやっただろ?それに今回は情報だけでいい。頼むよ、"スニッチ"」

 

「……はぁ。分かったよ。ただ、アンタの名前は暫く使わせてもらうからな。最近物騒なんだよ」

 

「いつものことだろ」

 

 交渉とも呼べぬ交渉が成立し、スニッチと呼ばれる彼は隠れ家へと一行を案内する。普通のドアの見た目ながら引き戸になっている不思議な扉をあけて中へ入り、バラバラの装飾の椅子にかけるよう促される。

 

「あの……ごめんなさい。先輩がちょっと横暴で……」

 

「気にすんな。ぶっちゃけあれはただの戯れだ。本当はそんなに悪い気もしてない。もっと危ない連中なんてごろごろいるしな」

 

 スニッチは器用に紅茶を淹れつつアヤネの問いに答え、その横でハクヤはニヤニヤと笑っている。

 

「ん、あら〜、随分良い茶葉ですね?」

 

「あぁ、この間来た常連のトリニティの嬢ちゃんがくれたんだ。俺には味がわからんから客用に使ってる」

 

「お嬢様校の……そんな人も来るのね」

 

「それで〜、本題に入っても良い?えっと……」

 

「スニッチで良い。本名は悪いが諦めてくれ」

 

「"密告屋"……あんまりいい響きじゃないけど?」

 

「んなことない、可愛い響きだろ。なぁ、アンタもそう思うだろ?シャーレの先生さん。下手な変装なんかするより堂々としてな」

 

 [良い目利きだね。情報屋は伊達じゃないってわけだ]

 

「どうも。さて、無駄話も好きだが、本題に入ろう。用件は?」

 

 一同は目配せしあい、代表のアヤネが部品を見せると、すぐにスニッチはその元締めの候補を羅列する。

 

「んーむ……意外と候補多いな。絞れないのか?」

 

「悪いがこれ以上は無理だな。金とかの問題じゃなくて普通に分からない。まぁ、俺個人の俯瞰を含めるなら、カイザーかダウト企業のどっちかだろ」

 

「そうか……確証はなし。アテが外れたね。どうしたもんか……」

 

「どうしようか、教室に戻る?」

 

 ガンガンガンッ!

 

 シロコが提案した瞬間、隠れ家の扉が激しくノックされ、外から女生徒の焦った声が聞こえる。

 

「ごめんなさいスニッチさん!入れてくれませんか!?」

 

「お、嬢ちゃんか?それ引き戸だぞ」

 

「え……?あ、わわわっ……!」

 

 ドタンッ

 

 見た目に困惑しながら中へと入ったようたま、盛大にこけてしまう生徒。奇妙な鳥のようなカバのような謎の生物、ペロロとリュックとその限定商品を抱きしめる彼女は非常に慌てている様子。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「た、助けてくださいぃ」

 

「ど、とうしたの?」

 

「おい、ここか?」

 

「見つけたぞ!ちょこまかしやがって、トリニティのお嬢様がよぉ!」

 

 ヒフミの懇願に後ろに三流らしきチンピラの男女二人組が隠れ家へとはいり、ヒフミの後ろ首を掴んで持ち上げる。

 

 [ちょっと、何があったか知らないけど、暴力は駄目だよ]

 

「あァ、コイツの先公か?知るかよ。俺等の縄張りに入ったのはコイツだぜ?邪魔するならお前も……」

 

 パシッ

 

 チンピラが先生に向かって伸ばした腕を、いつの間にか席を立っていたハクヤが掴んで睨みつける。

 

「おいてめ……あ……」

 

 怒りの矛先がハクヤへ変わり凄んだが、何者か気づいた途端、青褪めた表情で口をくぐもらせる。

 

「シーッ……3.2.1で回れ右で帰りな。ついでにこの子に二度と関わらずこの場所は忘れろ。いいな?」

 

「は……はいっ……帰って……きてたんすね……?」

 

「誰だか知らんけど、復帰するつもりは無いよ。さぁいったいった」 

 

「は、はいっ!行くぞ!」

 

「えー、なんで?こいつトリニティのお嬢……」

 

「いいから行くんだよ!」

 

 だかだかと男子生徒は慌ただしく出ていき、女子生徒は納得がいかないながら渋々と退室する。

 

「た……助かりました。ありがとうございます!私は、阿慈谷ヒフミっていいます!」

 

 [お礼なんていいんだよ。怪我はない?]

 

「はい!ペロロ様の限定グッズを買いにきたら、絡まれてしまって」

 

「どうりで。トリニティの生徒が来るような場所じゃないと思ったら……」

 

「でも、お陰でペロロ様の限定タペストリーが買えました。何かお礼が出来れば良いんですが……」

 

「あ、だったらさ、おじさん達を案内してくれない?この辺りに慣れてる様子だし。スニッチさんのアテも外れちゃってさ〜」

 

「そういうことでしたらお任せ下さい!」

 

「というわけでスニッチ、邪魔したな。代金はいくら?」

 

「いらねぇよ、力になれてないんだから。それに、アンタ等みたいなのに売るべきは情報じゃなくて恩だ。いつか返されるのを期待しとく」

 

「そのうち利子付きでたっぷり返すよ」

 

 後ろ手に手を振るハクヤと、恩を返せると思い張り切って案内を始めるヒフミ。次の情報を得るため、ヒフミが知る限りの情報屋と武器屋を当たるがしかし……。

 

「結局、スニッチの所が一番絞れてたわね。しかもぼったくろうとしてくる奴ばっかだったし」

 

「あはは……でも、ハクヤさんの名前を出した途端に皆さん態度が一変してましたね」

 

「生きにくい場所だなぁ。覆面でも被ろうか」

 

 段々と疲れ始めたのかハクヤは文句を言いながらブラックマーケットの表通りを歩いていく。

 

「ん……?皆、あれ見て!」

 

 セリカが1台のトラックに気付いて視線を誘導する。

 

 セリカが指を差した先のトラック。それは、いつも彼女達の利子の回収に使われているトラックだった。

 

「……見覚えあるねぇ」

 

 [あのトラックって……借金の回収に来るやつ?]

 

「そう、まさか闇銀行に流されてたなんて……」

 

「それって、私達が必死に返してたお金が違法なことに使われてるってこと!?何よそれ、許せない!!」

 

「どうどう、落ち着きなって。カリカリしても良いことないよ」

 

「ん。こういう時は……例の方法しかない」

 

「例の方法?あー!アレか〜!」

 

「アレですね!」

 

「あ……アレとは……まさか……」

 

「?……あ、アレってまさか!?」

 

「えっえっ……私は関係ないですよね……?」

 

 [まさか……やる気なのかい……?]

 

「ん、銀行を襲う!」

 

 シロコはどこからか取り出した0〜4の色違いの覆面を取り出して宣言する。

 

「えっと……俺の分無いよぉ?」

 

「ちゃんとある。ただ、この話をしてる時にハクヤがいなかったから番号を張り忘れた。だから自分で書いて」

 

「酷いなぁ」

 

 シロコは真っ白な覆面を渡すと、ハクヤはそこに6と大きく書く。

 

 [あれ、5じゃないの?]

 

「ん?だってヒフミちゃんも入るでしょ?」

 

「え……えぇぇ!?わ、私は遠慮しておきます!このことは口外しませんし危ないことをする気は……」

 

「ヒフミちゃんだけ仲間外れになんてしませんよ〜★はい、これどうぞ!」

 

 ノノミはほんのりたい焼きの香りがする紙袋に5と書かれた覆面代わりを用意してヒフミに被せる。先生も止められそうにない勢いと、ギリギリ善行だということで目をつむり、アヤネの合図で作戦は決行される。

 

「えっと……さ、作戦開始です!」

 

 アヤネと先生のハッキングで銀行のシャッターを侵入前に下ろして脱出経路を塞ぎ、シロコの目配せで察したハクヤは注目を引くために派手に扉を蹴り壊して銀行へと入る。

 

「ん」

 

「りょーかいー……っと!」

 

 バゴォンッ!!

 

「な、なんだ!?」  

 

「ぅわぁぁ!!」

 

 職員と銀行を利用する一般人、マーケットガードが突然の出来事に取り乱す中、シロコは銃を発砲し、声色を変えて武器を捨てるように指示する。

 

「全員、武器を捨ててその場に伏せて!」

 

 マーケットガードが構えた瞬間、それを許さないと瞬く間に鎮圧してみせる。

 

「武器は捨てろって、言ったわよね?」

 

「大人しくしないと、痛い目見ますよ〜!」

 

「え、えっと……!皆さん、怪我されないように、大人しくしててくださいね!」

 

「あ、貴方はもしや……!」

 

「ん?あ……うーんと……そう、俺は今この……そう、ファウストさんの専属でやらせてもらっててね。大人しくしたほうが身のためだぜぇ〜!」

 

 両手をワキワキと動かしてハクヤは自らの知名度を利用して脅し上げるが、予想以上の効き目でブラックマーケットの関係者が震え上がる。

 

「さ、それじゃあ、リーダーのファウストさん、指示をよろしく〜!」

 

「え、私ですか!?」

 

「そうです!ヒフ……ファウストさんがリーダーです!ボスです!」

 

「えぇっと……じ、じゃあ、やって下さい……?」

 

「了解。というわけ。早くして」

 

「お……お金は差し上げますぅ!!」

 

「ん。私達が欲しいのは集金記録だけ」

 

「ひっ、ひぃぃっ!どうかこれで命だけは勘弁を!!」

 

 シロコは流れるように銀行員に欲しいものを要求する。しかし、お金もついでに詰めさせることになり、ものの数分で完全な銀行強盗を完遂する。

 

「……確認した」

 

「さ、目的も達成したし、撤退しようかね〜。皆行くよ〜!」

 

「け、怪我人は居ないようなので、さようならです〜!」

 

 ヒフミは頭を下げて撤退し、皆もそれについていった。

 

 犯行開始から撤退まで約5分。追っ手も報復を恐れて追撃は無し、しかも映像機器も入念に破壊済み。キヴォトスでも珍しい、完全犯罪が成立してしまった。

 

「うぅ……このことが"オルニス"の方々の耳に入ってしまったら……」

 

 [先生として……これで良かったのかなぁ……]

 

「ここまでくれば大丈夫かなぁ。さ、シロコちゃん、集金記録は?」

 

「ん」

 

「ん?なんじゃこりゃぁ~!?」

 

 シロコがバッグを開けると、中に入っていたのは溢れんばかりの札束だった。

 

「うへぇ、軽く一億以上あるね」

 

「先輩、お金まで盗んじゃったの!?」

 

「ん。違う、集金記録はある」

 

「やったぁ!持って……あ、でも、駄目……だよね。ハクヤ先輩」

 

「お、踏みとどまったね、偉い偉い。そうだねぇ、一度楽な方に逃げてしまえば、それは一生つきまとう。いずれ、一度やってしまったから何度やっても同じ。そういう思考になっちゃう……ね、ホシノちゃん」

 

「うん、その通り。確かに、おじさん達の返済が闇銀行に流れて武器に変えられたのは事実。悪人からお金を盗んで何が悪いの!っていうのも分かるよ。でも、私達は真っ当に、真っすぐに借金を返そう。いつかの後悔をしないように」

 

 ハクヤとホシノは考えるまでもなく完全に反対。シロコも頷きながら当たり前だと、集金記録のみを取ってバッグのお金をしまう。

 

 [じゃあ、このお金は処理してしまおうか……]

 

「待ってー!!」

 

「?」

 

「待って待って、敵じゃないの!」

 

 突然、彼女達をその場に留める声が遠くから響く。

 

 慌てて覆面を被り直すと、目の前の厚手のコートを羽織った大きな角がある生徒はキラキラとした手で敵対の意識がないことを表明する。

 

「さっきの見てたわ!その、正直感動したわ!大胆で颯爽としたお手本のような強盗!誰も傷つけることなく目標のみを達成してクールに去っていく……!そんなアウトローに憧れてたのよ!」

 

「誰?」

 

「さぁ……」

 

「それで!貴方達の名前は!?ほら、組織名というか、グループの名前みたいなの、あるでしょう?」

 

「えっと……」

 

 戸惑う一同に、ノノミとホシノが前に出てノリノリで名乗りだす。

 

「仰ることはよーく分かりました!私達は人呼んで……覆面水着団です!!」

 

「ふ、覆面水着団!?」

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く!それが私達のモットー!!」

 

 感動している彼女の後ろから、仲間と思しき三人の生徒たちが合流する。

 

「何やってるの……」

 

「……ぅわやべっ。さ、そろそろ行こう、皆!」

 

「行こう!夕日に向かって〜!」

 

「それでは、アディオース!」

 

 ハクヤは先に走り出し、アビドスの一行と先生はその場を後にする。

 

「我が道の如く魔境をゆく……かっこいい〜……!!」

 

「あ……あの……これ……」

 

「んー?」

 

 一億円の入ったバッグを1人の生徒が拾い、皆に開けてみせる。

 

「こ……これで、ご飯抜かなくて済みますか……?」

 

 不憫な彼女達は、珍しい大金から目が離せずにいたのだった。




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