永い旅路を歩む春   作:レガシィ

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個人的にうじうじハクヤの響きはツボだったりします。


第ニ話 黎明を迎えに(前編)

「「「「あ」」」」

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

 翌日、行きつけの柴関ラーメンにて、セリカの冷やかしついでにご飯を食べようとすると、まさかの再会を果たすことになった。

 

「便利屋の皆さん」

 

「き……奇遇ね。貴方達……」

 

「はわ、先日はお、お世話になりました……!」

 

 少しバツが悪そうな便利屋達。しかし、アビドス生は全く気にしていないようで前と同じように接してくる。

 

「皆さんもここの行きつけなんですか?」

 

「い、いえぇ?私達は……その……」

 

「くふふ〜……私達お金が無くてさ、一杯のラーメンを皆で分けるのに、ここは凄くボリュームがいいんだよね、アルちゃん」

 

「ムツキ、わざわざ全部言わなくていいの!」

 

「ま、そういうこと。あの依頼はもう切ったから気にしないで。そっちは解決したの?」

 

「俺も依頼主とはもう契約を切るよ。次持ちかけてきた時にちゃんと断るつもり」

 

「そう。よかったね」

 

 何気ない世間話をしながら緊張のぼくれた便利屋たちとアビドス生は運ばれてきたラーメンを食べていると、遠くから揃った足並みが聞こえ始めたのに、ホシノとハクヤは気付く。

 

「……あ、やばい。皆、こっち来て!!急いで!!」

 

「ん?どうしたんだいハクヤ君。注文ならセリカちゃんがーー」

 

「ごめん、大将」

 

「皆、おじさんとハクヤの後ろに隠れて!」

 

 ホシノは携帯型の鉄の盾であるアイアンホルスを展開し、ハクヤはバックラーで守れる範囲の客と大将を手荒に自分に引き寄せる。

 

 ヒュルルルッ……ドォォンッッ!!!

 

 直後に何発もの爆撃がお店を直撃、半壊する。

 

 ホシノとハクヤの二人の盾で総員が軽傷で済んだが、状況の整理が出来ないセリカ達は声を上げて正体を探す。

 

「み、皆無事かい?……店が……」

 

「皆無事!?一体何なのよ!!」

 

「……げ、ゲヘナの風紀委員会……!」

 

 視線の先にいたのは統制された黒い制服のゲヘナ生。

 

 その前に二人の生徒が立ち、統制を取っている。

 

「……砲撃してしまって良かったのですか?」

 

「だってアコちゃんがやれって……あ、アオ……」

 

 狙撃手のアオは遠くのビルからその光景を見ており、明らかな暴挙にイオリにインカムで声を荒げる。

 

「なんで砲撃許可を出した!?一般市民もいる店だぞ!!しかもここはアビドス自治区だ!!越権問題になりかねない!」

 

「ご、ごめん……アオ、どうしよう……?」

 

「アオ先輩、あまりイオリを怒らないであげてください」

 

「……もしかして、またアコの独断指示か?」

 

「う、うん」

 

「はーっ……!……あのうし……いや、何でもない。ごめんイオリ。でも撃ってしまったのは事実、とにかく、ビルを降りてすぐにそっちに行くから、それ以上事を荒げないように」

 

「わ、分かった。待機?」

 

「そう。チナツ、まず謝罪の準備とイオリのフォローを……」

 

「……すいません。アオ先輩、手遅れのようです」

 

「どうした?」

 

「あの、アコちゃんがホログラムで……」

 

 イオリとチナツが諦めた様子で、目の前の行政官の言い分に溜息をつきながら報告する。 

 

「@(¥'-'(##;'%)-';*')!!!(とても汚い言葉のため自主規制)!!!!」

 

「アオがキレちゃった……」

 

「委員長を呼びましょう。私達の手に負えません」

 

【それはダメですチナツ!委員長の耳にいれるほどのことではありません!】

 

「しかし……」

 

 バァンッ!!

 

 ホログラムを撃ち抜く、うるさいと言わんばかりの一発のSRの弾丸。

 

 陸八魔アルが宣戦布告を放つ。

 

「義も守れなくて何がアウトローよ!!こうなったらとことんやってやるわ!!」

 

「はぁ……まぁ、社長が言うなら」

 

「わ、わわ私はアル様についていきます、風紀委員会を爆破すれば良いんですよね?」

 

「うへぇ~、これはおじさんもちょっと黙ってられないかなぁ」

 

「話が通じねぇな。そこの牛女じゃなくてアオ連れてこい」

 

【う、牛女!?無礼な態度が過ぎますよ!これだから男子は!!】

 

 ズザァァ!

 

 とても綺麗なスライディング土下座をしながら鬼方アオが全力の謝罪をする。

 

「ウチのバカ牛女が失礼しましたァァ!!」

 

【アオ!?】

 

「お、来た」

 

「ハクヤ、いや、アビドス生の皆さん、柴関ラーメンの大将並びにお客様全員に謝罪申し上げます!!勿論弁償も致します!!このバカにはよく言って聞かせます!!!」

 

【ちょっと!アオ!!軽率に頭を下げるなんて風紀委員の自覚がーー】

 

「やかましい!!ここは他校の地区だぞ!!何考えてんだ大馬鹿闘牛女ぁ!!!」

 

「……あれ、アオって今何徹目?」

 

「そういえばアコ行政官が広げた捜索範囲のせいで……4日前から寝てないと……」

 

「久し振りに限界じゃん……」

 

※久し振り=一ヶ月振り

 

【も、もう怒りましたよアオ!!風紀委員!総員迫撃砲用意!目標は便利屋並びにそれに与するアビドス生です!】

 

「現場指揮は俺に一任されてるはずだぞ、勝手なことするな!」

 

【黙りなさい!立場を捨てた貴方より私の方が指揮権は上です!】

 

「えっと……」

 

【撃ちなさい!!!】

 

「「「り、了解!!」」」

 

「まて、今撃つとっ」

 

 ドォンッ!!ドォンッ!

 

「あぁ……終わった……」

 

 アコの気迫に押され、風紀委員達は一斉に砲撃してしまう。それに触発されたアビドス生と便利屋達は完全に臨戦態勢に入ってしまった。

 

「先生!指揮をお願いします!」

 

 [うん、取り敢えず鎮圧しようか。少し疲れればあとは向こうの彼が何とかしてくれそうだ]

 

「あ"ーっもう!!イオリ!」

 

「なに!?」

 

「俺がホシノさんとハクヤを相手する!!便利屋は部下たちに迫撃砲と爆発物を駆使させて固めるな!アビドスはお前一人なら充分相手できる!」

 

「分かった!」

 

 イオリに指示を出してアオはホシノとハクヤを引きつける。アオの装備は、左腕に取り着けた対物リストライフルとある程度の威力を犠牲に軽量化されたLMG。基本的に狙撃手に回るアオだが、近接も決して不得手ではなく、ハクヤとホシノを相手に器用に立ち回る。

 

 ガインッ!!

 

「おい、ガチじゃん。ストレス溜まってんの?」

 

「あの大馬鹿のせいで、ね!」

 

 ズダダダダダダッ!!!

 

「おっと、最近の若者は元気だねぇ~」

 

 対物ライフルの重い弾をバックラーで弾き、そのまま振り下ろされた拳をハクヤは受け止める。

 

 同時に後ろへ回っていたホシノへ、ノールックでLMGによる銃撃で牽制し、隙を潰していく。

 

「あの人凄い……!まるで次の動きが分かってるみたい」

 

「余所見するな!」

 

「っ!」

 

「アオの予測能力は凄いぞ、気付くといつも掌の上なんだからな!」

 

「イオリはわかり易すぎるだけだぞぉ!!」

 

「う、うるさい!!」

 

 イオリが褒め語ったのに対して横から口を出すアオ。イオリも便利屋を分断、ホシノ除くアビドス生を相手取り優位に立ち回る。

 

 [そろそろ私の出番か……ノノミ!弾幕を張ってシロコとアルのサポートをしつつイオリの動きを牽制!カヨコ、ムツキ、セリカ、ハルカは二人一組で迫撃部隊をお願い!]

 

「了解です〜★」

 

「「了解!」」

 

「諦めろって、しんどいだろ……。つーか見てるこっちがしんどい」

 

「それが出来たら苦労しないんだって!」

 

 コロンッ……

 

「やんちゃだなぁ〜」

 

 バカァァンッッ!!!

 

 アオは足元に迫撃砲の砲弾を数発転がして起爆する。しかし、自分ごと吹き飛ばすことが分かったホシノは盾を砲弾を覆うように足元に設置し、隣のビルの屋上まで三人一斉に吹き飛ばす。

 

 徹夜継続中の体調に三半規管を刺激する爆破でアオは口を押さえてうずくまる。

 

「ちょっ、タンマ……う……おぇっ……気持ち悪い……」

 

「ありゃ?刺激強かった?」

 

「まぁ……元々お前狙撃手だもんな。しかも徹夜明けなんだろ?」

 

「うぅ……俺には荷が重いよぉ……助けてぇ……」

 

「何言って……うぉっ!?」

 

「おっとぉ!?」

 

 ドゥララララララララ!!!!

 

 連なった紫色の弾丸はまるでビームライフルのように突然降り注ぐ。

 

 その先にいたのは、全ゲヘナ生の抑止力、風紀委員長、空崎ヒナ。

 

 ハクヤはホシノが立てた盾の後ろに滑り込み、押される勢いを共に抑える。

 

「アオ、ご苦労さま。ところで、なんで戦っているのかしら。貴方が相手するのだから、何か理由があるのでしょうけど……」

 

 ぐったりとしたアオの首根を掴んで持ち上げ、二人と戦ってた理由をヒナは問う。

 

「話をすごく端折ると……大体アコがやらかしました……」

 

「……はぁ……またなのね」

 

「うへぇ~……風紀委員長ちゃん?」

 

「貴方は……小鳥遊ホシノ?1年の時と随分雰囲気が変わったわね」

 

 ーーー

 

「うぅっ……先生がいるだけでこんなにも……」

 

【何をやっているのです!イオリ、アオ!このままでは委員長が……】

 

「私が、何?」

 

【い、委員長!?】

 

 疲弊しきったアオと共に現れたヒナ。その姿をみた便利屋はすぐに近くの瓦礫に身を隠し、アビドス生達もその貫禄に静寂を余儀なくされる。

 

【い、ぃい委員長!これは……!】

 

「アコ、黙って。話はアオから聞いた。帰ったら反省文ね」

 

【う、あ、はい……】

 

「アビドスの生徒の皆、代わって私が謝罪するわ。申し訳なかった」

 

「あ……謝罪は一応そこの方が……」

 

「土下座……してたわよね……」

 

「今回の件、ウチの行政官にはきちんとした厳罰を下すわ。アオ、チナツ、イオリ、帰るわよ」

 

「「はいっ」」

 

「分かりました」

 

「それと、先生」

 

 [?]

 

「気をつけて、カイザーコーポレーションはアビドス砂漠で何かを企んでいるわ」

 

 [そうか……ありがとうヒナ。君達も、何かあったら私を頼ってね]

 

「……変わった人ね。その時がくれば。頼らせてもらうわ」

 

 帰り際に告げられたヒナの言葉。先生はその言葉を深く心に留めると共に、風紀委員会を見送った。

 

「……終わったわね」 

 

「柴大将、大丈夫?」 

 

「あ、あぁ。怪我はないよ」

 

「あぁ、アオがさっき弁償してくれるって言ってたし。身体が無事ならすぐに店も立て直せるって」

 

「あぁ、それなんだが……良いんだ。実は、カイザーコーポレーションに立ち退きを命じられててな」

 

「は?なんで?」

 

「ここらの土地の所有権が向こうの物になっちまってたようでな。なぁに、大丈夫さ。ハクヤ君の言う通り、身体が無事ならやり直せる。どこかでまた店を出すさ」

 

 無理に笑顔を作る大将に、これ以上の言葉は無粋だと先生達は教室へ戻る。

 

 その際、大将の話に引っかかりを覚えたアヤネとセリカは土地の状況を調べると、アビドス自治区の大半がカイザーコーポレーションの所有になっていることを知る。

 

「昔の生徒会が……借金を返すために、土地を売り続けたんだ。皮肉な話だね。自分達のアビドスを守るために、アビドスの土地を他の人に明け渡しちゃうなんて」

 

 [さっき、ヒナが言ってたんだ。カイザーがアビドス砂漠で何か企んでいるって]

 

「なんで早く言わんの?」

 

 [ごめん。貴重な情報だから慎重に吟味しようと思って……痛たたたっ] 

 

 背中をグリグリと指でつつくハクヤに謝りながら言い訳する先生。しかし、その情報で方針が決まり、アビドス砂漠へと向かう。

 

 先生とアヤネは後方支援で教室に残り、残りの5人で向かう。

 

 ザッザッザッ……

 

「今は枯れたオアシス……まるで湖の規模ですね」

 

「……!見えました。皆さん、奥に謎の施設があります!」

 

 アヤネの言葉に皆が同じ場所へ視線を向ける。そこには、謎の巨大な施設があり、疑問と共に警戒態勢に入りながら施設へ近づく。

 

「何よあれ……!いつのまにあんなもの建ってたの!?」

 

「っと……皆、俺とホシノちゃんから離れないで」

 

 ハクヤは武器を構えて皆の前に立つ。中から武装した兵士達がぞろぞろと現れ、その姿に覚えのあるハクヤから施設の持ち主の正体が判明する。

 

「その武装……お前等、カイザーだな?」

 

「これはこれは。アビドスの生徒達ではないか」

 

 恰幅の良いロボットの男。スーツに赤いストール。鼻につく悪役声で生徒達の前に現れる。

 

「誰?返答次第ではいまここで……」

 

「私が誰かだと?君達は自分達が借金をしている相手も分からないのかね?」

 

「それって……!」

 

「カイザー理事……。俺達に金を貸してる相手だ」

 

 ハクヤは理事を睨みつけながら彼の言葉を補足する。

 

「君のことはよく知っているよ、鷲ハクヤ君。大事な下請けの会社を、君一人にいくつも潰されたものだ。何人の社員が被害を受けたか」

 

「少し隙が出来ればさっさと切っちまうようなトカゲ野郎が大口叩いてんじゃねぇよ」

 

「青二才が……まぁいい。それで?部外者の君達が、私達の土地に何のようだね?」

 

「そっちこそ、どういうつもりですか!この土地にこんなものを建てて……!一体何があるんです!?」

 

「ふむ、良かろう。教えてあげようじゃないか。私達の狙いは、この砂漠に眠るお宝だよ」

 

「……は?何?砂漠で海賊ごっこ?砂漠賊?」

 

「そんなものあるわけないじゃない!」

 

「デタラメ言わないで。さっさと目的を……」

 

「やれやれ、分かっていないようだ」

 

 食ってかかるアビドス一行に、理事はタブレットを操作して脅しかける。表示されたのは、利子の大幅なつり上げ。

 

【そんな……!皆さん!借金の利子が突然、300%吊り上げられました!】

 

「待てよカイザー理事!それは話がちげぇだろうが!!」

 

「なにも違わないとも。君達の何百年という時間をかけた借金返済に縛られる悪夢をいっそ壊してやろうという大人の優しさだよ」

 

「ふざっけーー」

 

「ハクヤ止まって」

 

「……ホシノちゃん?」

 

「話しててもらちが明かないよ。ここは一旦帰ろう?」

 

 理事の煽りで今にも引き金を引こうとするハクヤを宥め、ホシノは教室へ戻ろうと提案する。渋々ながらそれに従う後輩達だが、カイザー理事はホシノへ追い打ちをかける。

 

「おや……君も覚えてるぞ?小鳥遊ホシノ。あの無知で実に夢見がちなバカな生徒会長のことは、残念だったなぁ?」

 

「っ!!」

 

 ジャキッ!!

 

「っ……っ!」

 

 ホシノは手を出させるための煽りだと理解し、歯を食いしばって、向けてしまったショットガンの引き金を引かぬように耐える。

 

「……戻ろう、皆」

 

「はい……」

 

 ーーー

 

「お疲れ様でした……皆さん、怪我はないようで何よりです」

 

 [おかえり、皆]

 

「ん……」

 

「……どうしようかねぇ……」

 

 一同は砂漠から教室へ戻るまで、先ほどの出来事を無かったことには出来ずに引きずり、暗い雰囲気のままアヤネと先生の出迎えを受ける。

 

 拭えない不安を表にしているところ、ホシノはいつものように柔らかく皆に笑いかける。

 

「取り敢えずさ、今日は遠征で疲れただろうし帰ろう?おじさんもう歳だからさ〜、疲れちゃった」

 

「……そうだね、ホシノちゃんの言う通り、帰ろうか。明日の会議で、借金返済のアイデアを一人一つ提出ってことで」

 

「わ、分かりました……」

 

 ハクヤは気を利かせてそれらしい理由をつけて皆と帰ろうとする。先生ならと、彼はホシノのことを託した。それを察した先生も、目で合図を送って了解する。

 

「先生、あんなことがあった後だし、俺は皆のこと送ってくね。じゃ、お疲れ様」

 

 [うん、了解。皆、お疲れ様。気を付けて帰ってね]

 

 ーーー

 

 ホシノと先生は屋上へと歩き、暮れかかった夕日の下でぽつりぽつりと話し始める。

 

「……先生。ハクヤの気遣いを無駄にしたくはないからさ……」

 

 [ホシノ……聞かせてくれるかな。何か、悩んでいるんだろう?]

 

「……実はさ、"ある人"から……私が傭兵になる代わりに……借金の大部分を肩代わりするっていう契約を持ちかけられたんだよね」

 

 [……ホシノは、それにのるつもりなのかい?]

 

 驚く先生だが、その表情を見せまいと感情を押し殺して問いかける。それに対し、ホシノは首を振って答える。

 

「……ううん、しないつもり。でも、おじさん達がハクヤの持ってた資金源に頼ってたのは事実なんだ。多分、アヤネちゃんとセリカちゃんが入ってきたのも原因の一つで、ハクヤは自分の体を壊すことと引き換えにお金を得ていた。確かに合法なんだろうけど、それは許せなくてこの間怒っちゃったけど」

 

 [………………]

 

「だから……正直、よく分かんないんだ。おじさんがどうするべきなのか、可愛い後輩達と、借金だらけの青春を過すのが良いのか、私一人いなくなって後輩達だけでーー」

 

 [前者に決まってる]

 

「!」

 

 [たとえ泥臭くても、借金にまみれても苦難が続く茨の道のような青春でも。私は、君達皆で"アビドス"だと思っているよ]

 

「……そっか。やっぱり、先生が来てくれて良かったよ〜」

 

「……ごめんね、ホシノ。もっと良い形で力になりたかったんだけど」

 

「何言ってるのさ〜、充分すぎるよ。おじさんもそうだし、皆きっとそう思ってる……これからも、よろしくね」

 

 ふにゃりと顔を崩して笑ったホシノの表情に先生は一抹の不安と、後悔を胸にしながら薄く笑った。

 

 [さ、良い子は帰る時間だよ。送っていこうか?]

 

「先生一人にしたら迷子になっちゃうでしょ。おじさんは強いから一人で帰れるよ」

 

 [う……ハクヤと同じこと言ってる]

 

「あははっ!それじゃあ、またね、先生!」

 

 ーーー

 

 翌日、残されたのはくしゃくしゃになったホシノの退部届と、大破した机の木片。いつもはアヤネが一番早く登校するが、目の前の状況からハクヤとホシノが先に登校していたと先生は悟る。

 

「これ、ホシノ先輩の手紙……」

 

 そこに書かれていたのは自分がカイザーの傭兵になることで借金を減らせるという旨。しかし、一同は見た瞬間に気付く。

 

「これ、ホシノ先輩の字じゃない……!」

 

「ホシノ先輩は私たちに対して例え手紙でもですます口調になりません!」

 

「一人称がおじさんじゃなくて"私"になってるうえ、私達にこんな他人行儀な書き方をするわけありません!」

 

 [うん。ホシノになにかあったんだ。そして、これを見てハクヤは異変に気付いた……。アビドス砂漠に行こう、もしかしたら……]

 

 ビーッビーッ!!   

 

 [アヤネ!何の音!?]

 

 [これは……!アビドス地区に多数の敵影!さらに、それらと交戦するハクヤ先輩の信号です!]

 

 [カイザーの仕業!?急がないと……!!] 

 

 一同はアヤネの誘導に従ってアビドスの商業区へと到着する。そこには突然のカイザーの暴挙と避難に戸惑う住民達と、死屍累々に倒れるカイザーの私兵。

 

「酷い……!」

 

「こんな暴挙が許されていいの!?」

 

 [ッ!皆、とにかく住民の避難を優先しよう!]

 

 街の惨状を確認し、一同は住民達の避難誘導を始める。

 

 アヤネと先生が住民達のシグナルを確認して誘導し続けていると、聞き覚えのある嫌味な声が彼女達へ語りかける。

 

「これはこれは……アビドス高校の生徒達じゃないか」

 

「お前はっ、カイザー理事!!」

 

「ちょっと!!まだアビドス地区は私達の学校の管轄のはずでしょ!こんなの許されると思ってるわけ!?」

 

「"まだ"?ハッハッハ!!なにを言っている?アビドス高校の副生徒会長、小鳥遊ホシノは既に退学届を提出したと聞いたが?」

 

「あれは先輩の字じゃない。そんな嘘に騙されない!」

 

「……どういうことだ?そうなのか?」

 

 シロコの言葉にカイザー理事は疑問符を浮かべながら近くの私兵に問いかける。しかし、誰も事情を理解していないのか理事達は軽く混乱している。

 

「どういうこと……?あいつらの仕業じゃないの?」

 

「なんだか様子がおかしいですね……」

 

 チュドォォンッッ!!!

 

「ひっ!逃げろ!殺されるぞ!!」

 

「こちらB班壊滅!続いてC、D、兵器武装班も壊滅!!!増援求む!!オーバ……ァァアアアア!!!」

 

 突然の轟音と逃げ惑う兵士達の叫び声。いくつものカイザー謹製の兵器が破壊されたのか、アビドス生達の視線の先には黒煙が絶え間なく続いていた。

 

「返せよ……!!……大切な人を……!!!」

 

 そしてその煙の中から1人、肉体の損傷を顧みなかったのか、ボロボロになりながらかつてない怒りを顕にしたハクヤが何人もの兵士を一蹴して現れる。

 

「ハクヤ君!?ひどい怪我……!!」

 

「駄目よ!止まってハクヤ先輩!!」

 

 ノノミとセリカの制止する声が全く聞こえていないのか、ハクヤは理事に向かう歩みを止めない。

 

「ふん……何を手こずっている!さっさと制圧しろ!」

 

「ハッ!!総員撃ち方用意!!」

 

「ッ!駄目ッ!やめてください!!」

 

「撃てぇぇ!!」

 

 ズダダダダダダダダッッッッ!!!!

 

 何十人もの兵士達がハクヤ一人に向かって全力の発砲。すでに満身創痍のハクヤにその物量は受けきれず、掃射によって作り出された砂煙の中では、銃を手放してふらふらと前に歩く彼の姿があった。

 

「まだ立っている!!総員!再び撃ち方用意!!」

 

「ハクヤ君!!」

 

 とどめを刺そうと構える兵達の前にノノミは銃を捨てて駆けつけ、両腕を大きく広げて止める。

 

「やめて下さい!!ハクヤ君はもう……!もう戦えません!!お願いします!これ以上私達にーー」

 

 乾いたコンクリートの地面を涙が濡らしていく。

 

 ノノミが必死に説得するが、彼女の肩を掴んでハクヤは一歩前に出る。その手には、落としたはずのショットガンが握られていた。

 

「ノノ……ミちゃん……。下がってて……俺がやる……から……!」

 

「っ!」

 

 パチンッ!

 

 まだ戦おうとする彼に、ノノミが一発、平手打ちを食らわせる。唖然とするハクヤに向かって、彼女は嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。

 

「もうやめて下さい……一人で走り出すのは。自分を大切にして下さい!ホシノ先輩が大切なのは勿論です!でも……!ハクヤ君だって……アビドスの一員なんです!!!貴方一人が背負う責任じゃないんです!!」

 

 ガシャンっ……

 

 ノノミの言葉に再び銃を落として膝をつくハクヤ。

 

 しかし、闘志は消えていないのか、立ち上がろうとする足に力を込め始める。

 

「でも、約束……したんだ……。ホシノ先輩に……護るって……!」

 

「その約束、アビドス皆の約束にしては駄目ですか……?」

 

「え……?」

 

「私達6人でアビドス高校、対策委員会なんです。ハクヤ君1人にも、ホシノ先輩1人にも背負わせはしません」

 

「でも……これは俺の……」

 

「水臭い。皆思いは同じ、誰一人欠けてほしくない。ハクヤ、皆で戦おう」

 

「頼りないかもしれませんが……私たちだってアビドスの生徒です!ハクヤ先輩!」

 

「大体先輩はいつも一人で無茶し過ぎなのよ!こっちはいつだってやる気全開なんだから!」

 

「……はは……セリカちゃんに言われてもね」

 

「なっ!?私だってやる時は……!」

 

「うそうそ、ごめんね……だったら……ゔっ……」

 

「だったら……?」

 

「だよろ"ゔがな"ぁ……」

 

 ボロボロと涙を零して顔を上げるハクヤ。先程までの表情とは180度に一転して情けない表情を皆にみせる。

 

 ハクヤの情けない姿に間の抜けた顔を皆が見せる中、先生はハクヤに目線を合わせて手を差し出す。

 

「ハクヤ。いい友達を持ったね」

 

「ぜんぜぃぃっ」

 

 [うん、さっきよりいい顔だ。私はそっちの方が好きだよ。さ、手当てしようか]

 

 ガァンッ!

 

 円満に終わらせようと微笑む中、理事は怒りで地面を踏みつけて注目を集め、私兵達が銃を向けている。

 

「情けない姿を見せる仲間と慰めあって茶を濁すだけの茶番劇は終わりか?」

 

「全く、情緒がない奴!」

 

「ハクヤは動かないで、先生とアヤネに手当てしてもらって」

 

「じゃあ早速だけど、頼ろうかな。ちょっと寝るね」

 

「えぇ、お任せ下さい!」

 

「でも……さすがにこの人数、まずくない……?」

 

 ハクヤが壊滅状態にまで追い込んだ私兵達はどんどん補充され、ヘリや兵器が姿を現す。

 

「ふはははは!!見たか、これが私の兵力!青二才の小僧など!私の前にはひれ伏すのが定めなのだぁ!」

 

「くっ……!」

 

 [だったら、こっちもそれなりの覚悟がある]

 

 パチンッ!ダァンッ!!

 

「!?」

 

 先生はシッテムの箱を構え、右手を上げて指を鳴らす。

 

 瞬間、上方向からの強烈な二人の狙撃でヘリが数機墜落する。

 

 直後、聞き覚えのある声がアビドス生達の耳へ届く。

 

「待たせたわね!」

 

「あれは……便利屋!と……なんで風紀委員の彼がここに……?」

 

 ビルから飛び降りて登場する4人と、不服そうに普通に階段を下りて登場するラフなパーカー姿のアオの5人。

 

「ちょっと!そこは皆で飛び降りるところでしょ!」

 

「ガンガン叫ばないでよ"社長"さん……なんで久々の半休にこんなドブラックゾーンに連れてこられてんだよ……」

 

「そんなに可愛い顔しないで〜、弟君。お姉ちゃんのお手伝いしたいでしょ?」

 

「悪いね、休みだったのに。今度ご飯奢るから」

 

「……はいはい。所詮俺は弟ですよ」

 

「と言うわけで、手伝いに来たわ!」

 

「なんでですか……?」

 

 溜息を突きながらカヨコの謝意に応えるアオ。なぜここにという疑問をもう一度投げかけるアヤネの眼鏡をムツキが取ってかける。

 

「そんなに難しいことは無いよ、メガネっ娘ちゃん?ただの、アルちゃんの気まぐれ」

 

「そう。やたらと情に流されやすくて、後先考えずに友人を助けがちってだけの、社長のきまぐれ」

 

 二人の回答に横で肯定するように首を縦に振るハルカと背を向けて威厳を保とうとするアルが捕捉する。

 

「……我が道の如く魔境を往く。私達の目指すアウトローの先駆けの貴方達がピンチだった。それだけの理由。たったそれだけよ、私達が手を貸す理由なんて」

 

「アルさん……」

 

 [ありがとう、5人とも]

 

「あ、俺はオマケです。考えなくていいです。ただのそこそこ強い一般人です、なんならその辺の死体とでも思ってください」

 

「便利屋……!!依頼を失敗しておめおめ逃げ帰ってきた負け犬共が!!まとめてここで引導を渡してくれる!!」

 

「バカね。失敗したんじゃないわ。三流企業のしょっぱい依頼なんて、彼女達の学校の価値と比べたら無いと判断したまでよ」

 

「ぐぅぅっ!もう辛抱ならん!撃て!撃てぇ!!」

 

 [皆二人一組で散会!住民の避難は今ので全部完了した!建物内、路地にて撹乱!アオとアルは後方から、シロコとカヨコは兵器をお願い!]

 

 カイザー理事の掛け声と共に私兵達が発砲を開始する。しかし、本気になった先生の同時指揮とアビドス、便利屋の二チームが圧倒する。

 

 [ハクヤ、ちょっとチクッとするからね]

 

「な、なんですかその注射……?」

 

 [私は元々医者関係者だからね。生徒の皆の治療が出来るようにいつも持ち歩いてるんだ。役に立てそうで良かった]

 

 先生は緑の液体が入った謎の注射を眠っているハクヤの静脈へと打ち込み、淀みない手つきで身体に包帯や薬液などで治療を施していく。

 

「うゎぁ!!こいつら強い……!」

 

「駄目です理事!私達では……!」

 

「うるさい!こうなったら……私直々に……!」

 

 カイザー理事が兵士の1人の抗議に憤慨して殴り飛ばし、巨大な搭乗兵器に乗り込んで怒りを矛にして一同に向ける。

 

「大きい……!あんなのどうしたら……!」

 

 [皆聞いて、理事の姿は直接は装甲に護られていない。皆で引き付けて、彼本人に決定打を与えよう]

 

 先生の指示に総員が了解し、動き出す。

 

 [構造そのものは単純、主砲と数台の重機関銃。装甲は堅牢。アオ、カヨコ、君達の特技が輝くよ]

 

「「いいよ、了解」」

 

 [皆!一瞬目と耳を塞いで!]

 

 アオとカヨコは2人、タイミングを合わせてアオは骨格だけの片翼と真っ黒の翼を広げてLMGを、カヨコはサプレッサーを外してHGの銃口を別々の方向から向ける。

 

 EXスキル

 

 パニックブリンガー&マッドネスギヴァー

 

「ぅぐっっ……!!っ!?」

 

 [今だよ皆!]

 

「爆弾、全部使っちゃうね〜!」

 

「セリカちゃん、いきますよ!」

 

 バガァンッ!ドドドンッ!

 

 二人の似通った神秘の一撃。直撃した理事は一瞬硬直し、堅牢な武装の外殻の操作が外れる。その隙を見逃さないムツキとアルとハルカ、ノノミとセリカが両腕の重機関銃と肩のミサイルポッドを連携して破壊する。

 

「シロコ!今よ!!」

 

「了解!」

 

 アルの掛け声と同時に隠れていたシロコは飛び出す。

 

「な……めるなぁ!!カイザー社の最新兵器!主砲の威力をその身で味わぇぇ!!」

 

 しかし、体制を低くして構えた理事がシロコに主砲を向けて放とうとする。

 

「っ!」

 

「全く……まだまだ寝てらんないね……!」

 

 ギュィィンッッッ!!

 

「ハクヤ先輩!?」

 

 シロコに向かって放たれた主砲のビームが、瞬間的に高速で飛び出したハクヤのバックラーによるエルボーで上方向に挙動をずらされる。

 

「アオ!!」

 

「はいはいっと」

 

 バヂィンッ!!

 

「なんだと!?」

 

「ハクヤ、飛ばして!!」

 

「了解、口閉じてな、舌噛むよシロコちゃん!!」

 

 アオのライフルで主砲が逸らされ、二人の射線から外れる。ハクヤは左足を軸に回転してバックラーに飛び乗ったシロコをカイザー理事の元まで投げ飛ばす。

 

「ぐぅっ!バカなぁぁぁ!!」

 

「これで……終わり!!」

 

 ダダダダダッ!ドガァァンッッ!!

 

 0距離のシロコの銃撃に耐えきれず、カイザー理事は操縦桿から手を離し、元々放熱限界だった主砲も撃ちっぱなしだったため、シロコが飛び抜いた瞬間、大爆発を引き起こし、理事は吹き飛んで私兵達の手を借りて立ち上がる。

 

「カイザー理事、まだやる?」

 

「ぐぅっ……覚えていろよ……!アビドス!便利屋!!それと……シャーレの先生ぃぃ!!!」

 

 負け惜しみを言いながら足を引きずって退却していくカイザー達。戦闘が終わったことを確認した一同は息をついて銃を下ろす。

 

「覚えておけーだなんて、いかにも三流の悪役みたいなセリフ、ほんとにいう人いるんだね〜」

 

「……便利屋の皆、ありがとう」

 

「っ、べ、別に!これくらい当たり前のことよ。そっちには少し恩があるし……」

 

 アルはシロコの感謝に照れながらゴニョゴニョと言葉を濁し、ハクヤの方をちらりと見る。

 

「何はともあれ、ひとまずの峠は越えたわ。ね、ハクヤ先輩!」

 

 フラッ……バタンッ!

 

「えっ……!?」

 

 セリカは立ち尽くしていたハクヤに駆け寄って背中をバシンと叩きながら嬉しそうな笑う。しかし、そのままハクヤは直立して顔面から倒れる。

 

「ハクヤ君!?」

 

 [えっちょっ、ハクヤ!?]

 

「……おいハクヤ、起きろ」

 

「ちょっ、なにするんですか!?」

 

 狙撃ポイントから戻ってきたアオはゲシゲシと足で倒れるハクやを蹴り、無理矢理意識を取り戻させる。

 

「疲れた……」

 

「んなもん俺もだわ。むしろ今からもっと疲れるんだよ。はぁ……明日は1日反省文とにらめっこしながら謹慎だろうなぁ……」

 

 二人の男子生徒は溜息をつきながら疲れを見せ、先生達はそれを傍観する。しばらくするとアオはスマホの時計を確認して立ち上がり、急いで帰りはじめる。

 

「じゃあ、俺今から仕事だから。後のことは皆で頑張って。屁理屈で手を貸したけど、元々越権行為なんだからさ」

 

 [ありがとうね、アオ]

 

「まぁ……先生に借り作ったってことにでもしときますよ。それでは、これにて失礼」

 

「またね、アビドス。私達もここで失礼するわ」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 立ち去るアオを後に、便利屋もその場を立ち去る。

 

 アビドス生たちは教室へ戻り、決して無傷ではなかったため、先生とアヤネの手当てを受け、今日は休むように先生から伝えられる。

 

 [ハクヤの家知ってる?]

 

「いえ……わからないです」

 

「私の家に泊めましょうか?」

 

 [それ、多分昔にハクヤに断られてるでしょ]

 

「はい★やっぱり先生も同じ考えですね!」

 

 [そりゃね……まぁ、私も彼の看病をしたいし、今日のところは保健室に泊めるよ。出来るなら皆は1人にならないこと。抵抗がないなら互いにお泊りでもしたら良いんじゃないかな。精神的にも気持ちは多少楽になるだろうし]

 

 先生の言葉に一同は素直に従ってそれぞれの帰路につく。その後、先生は夜中にハクヤへ打った薬の経過を確認する。

 

「……よし、効いてる。後は……」

 

 [黒服との接触……か]

 

 そう呟いた先生の手に握られていたのは黒く、ひび割れたメッセージカードだった。




もし感想をいただけるのなら、文字数がどのくらいが丁度いいか教えて欲しいです…。
個人的には一万文字前後って丁度いいって思ってます。
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