永い旅路を歩む春   作:レガシィ

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一昨日はちょっと仕事で疲れて寝ちゃいました。南無三。


第ニ話 黎明を迎えに(中編)

 真夜中、先生は充分に防犯設備を作動させた上でアビドス校を出て、ある人物の元へ向かう。

 

『随分とお早いご到着で……先生』

 

 [貴方は……]

 

『私のことはどうか、"黒服"と。私もその名前が気に入っているもので』

 

 [単刀直入に聞きますが、ホシノを攫ったのは貴方?]

 

『……残念ながら、最初に勧誘した時も、この間勧誘した際も、断られてしまいました。彼女に抵抗されては、武力で私が敵うはずがありません』

 

 [まぁ、だと思った。"あの日の夜"、ホシノは嘘をついてるようには見えなかったから]

 

『……今回、貴方を呼んだのは少しばかりの注意……というより警告を、と思いまして』

 

 [それは何かな] 

 

『まず、我々はゲマトリアといいます。生徒達の神秘を探求する存在。とでも思って下さい』

 

 [……]

 

『そして、1人……我々が直接追放した稀有な人物が、再び活動を始めたようなのです』

 

『彼の名は、"タキシード"。知的好奇心を満たすためなら手段を問いません。私が言えたことではないかもしれませんが、彼は書類上の契約、一般論、公的圧力、全てを無視し、総てを利用します。そんな性根をしているものだから、我々の誰よりも力を持ち、実行力があり……非常に厄介極まりない方です』

 

 […………]

 

『彼にはくれぐれもご留意を。すでにこのキヴォトスで幾人もの生徒や問題、謎に手を出しています』

 

 [貴方は止める気は無いの?]

 

『御冗談を。私自身が手を汚さず研究データが手に入るのであればそれに越したことはありません。まぁ……本音を言うのなら、いくつかの彼の問題行動は止めるべきだと思ってはいます。しかし、我々も彼に消されるのは勘弁願いたいのです。ですから先生、こうして貴方に手を貸すのが私にできる精一杯です』

 

 ピッ

 

 黒服は先生に向かって警告を促した後、砂漠に佇むカイザーPMC基地の写真を先生に向かって器用に飛ばす。

 

『ホシノさんは私の誘いや契約を断った。退学届も偽物だった。その上、連邦生徒会長と同義の権力を持つシャーレの先生である貴方がホシノさんの救助を決意した。ならば、私に打てる手はありません』

 

 [ありがとう、黒服]

 

『礼など……私は貴方から見れば敵ですよ』

 

 [それでもだよ。力には力で。時に小賢しくも、批判及ばぬ契約で相手を屈服させる。それは大人のやり方だ。でも、言ってしまえば正しい社会の力でもある。貴方はそれに従順だった。だから、力の無い私でもこうして同じ土壌に立てた]

 

『……先生。一つお聞きしたい。貴方は……なぜ、小鳥遊ホシノに……生徒に拘るのですか?』

 

 黒服は立ち上がって先生へと疑問を問いかける。

 

『貴方は、権力、お金、地位、全てを変えうる力。一時的とは言えその全てがその手にあった。何故……何故あっさりと捨てたのです?』

 

「……ははっ……言っても多分、理解んないと思うよ」

 

『……クックック……左様ですか。それでは、ささやかながら、貴方の無事を祈っております』

 

 黒服は深く頭を下げて先生を見送る。扉の前で立ち止まり、先生は振り向いて黒服に呼びかける。

 

「黒服」

 

『?』

 

「終わったら、ラーメンでも食べようか。いい店を知ってる。近い内に新しく屋台でオープンするから、人目にもつきづらいよ」

 

『クックック……!酔狂な人ですね。えぇ、その時はぜひ』

 

 ひらひらと手を振りながら先生はその場を後にする。

 

 残された黒服は数多の疑問に思案を巡らせつつ、椅子に座ってくるくると回り、不敵な笑みを零していた。

 

 ーーー

 

 [というわけで。ホシノの場所はやっぱり砂漠に位置するカイザーPMCの基地だったよ]

 

 先生は黒服の協力だということは伏せつつ、ホシノのいる場所の情報をアビドスの皆に伝える。

 

「やっぱりあの時拘束するべきだったんじゃない?」

 

「でも、現状アビドスの生徒会はホシノ先輩だけですから……。やっぱり下手に理事に手を出した事実を作ってしまうより、まずは先輩の救助が先決かと思います」

 

「となると……明らかに戦力不足。現状の最高戦力はあのザマだし」

 

「俺泣いていい?」

 

 シロコが指さした先には、頭と利き腕が包帯でぐるぐる巻きにされ、ノノミが口へとゼリーを運ぶハクヤの姿。

 

「ほらハクヤ君、あーんです」

 

「流石に恥ずいんだけど……」

 

「ダメです。1人で突っ走ったあげくボロボロになって帰ってきたお馬鹿さんへの罰ですから」

 

「いやまぁごほう……いや、なんでもないです」

 

 [とにかく、私にいくつか考えがある。さっきヒフミと連絡が取れたんだ。さっそく、トリニティに行こう]

 

 ーーー

 

 トリニティ総合学園、中央広場噴水前

 

「あっ、皆さーん!お久しぶりですー!」

 

「あっ!ヒフ……ミ……?」

 

 元気に駆け寄ってくるヒフミ、同時に背後から高身長に鴉の仮面をつけた執事服の男が先生達の元へと近づく。

 

「えっと、そちらの方は……?」

 

 アヤネが疑問符をぶつけ、ヒフミが紹介しようとすると、執事服の彼は流麗な動作で腰を深く折って自己紹介を始める。 

 

「お初にお目にかかります。お嬢様方」

 

「お、お嬢様ぁ!?」

 

「私、トリニティのティーパーティー、現ホストがお一人、桐藤ナギサ様の側仕え。加えて、桐藤家の執事とナギサお嬢様の護衛も兼ねている者でございます。私のことはどうぞミヤビと、そうお呼び下さい」

 

「あら、お久しぶりですね〜、ミヤビ君」

 

「お元気そうで何よりでございます。十六夜ノノミ様」

 

「えっ、先輩知り合い!?」

 

「はい。結構前に何かのパーティで。確か、ナギサ様の専属執事と、護衛だったかと」 

 

「はい。4年程前に、恐縮ながら拝命いたしました。皆様はトリニティの敬虔なる生徒、阿慈谷ヒフミ様が大変お世話になったお方。であれば、私にできる最高のおもてなしをするのが筋でございます。どうぞ、こちらへ」

 

「お時間の調整、ありがとうございます、ミヤビ様!」

 

「ヒフミ様の笑顔の為ならば、お安い御用でございます。それでは皆様、どうぞこちらへ」

 

 ピンと正された姿勢に低音で心地良い声と完璧なエスコート。隠しているハクヤの怪我も気遣ってか、荷物なども積極的に持つ等の気遣いも忘れない。

 

 すれ違うトリニティの生徒達が頬を紅く染めながら淑女らしく挨拶を交わしていき、彼もそれに応える紳士振りをも見せる。

 

「それでは、私はナギサ様とお話してきます!皆さん、少し待っていて下さい!」

 

 通された部屋は綺羅びやかな装飾がされ、ふわりと漂う花の香りに気品あふれる空間。そこへミヤビが紅茶を淹れながら茶菓子の用意をする。

 

「無礼講でございますゆえ、足を伸ばしてお寛ぎください。部屋に関しましても、ここは学校内で活動する際に私に与えられた私室のようなもの。人目を気にすることもございません」

 

 [あ……ありがとう……]

 

「あ、美味しい」

 

「……ミヤビさん。ナギサさんは力を貸してくれると思いますか?」

 

「……あのお方は、誰よりもトリニティに尽力なさる慈愛深きお方。もし生徒の皆様に悪い影響があるようであれば、力をお貸しいただけるかと」

 

「……貴方は、私達に協力してくれる?」

 

「私はナギサお嬢様の執事です。お嬢様が望めば、たとえ海の底だろうと空の果てだろうと向かう覚悟」

 

 トポポッ……

 

 ミヤビは空いたティーカップへ紅茶を注ぎながら質問に答え、そして続けて回答する。

 

「……そう心配なさることもないかと。長くお嬢様の側仕えを務めておりますが、このような時にこそ、私がいますので」

 

「?えっと……ありがとうございます?」

 

 ーーー

 

 帰り道にクッキーと茶葉のお土産を持たせられて、一同は次の協力を求めるため、ゲヘナへ向かう。

 

「何よ、あの執事。意味深なこと言いながら結局保留じゃない……」

 

 [ハクヤ、どうかしたの?]

 

「いや……さっきの執事……」

 

「ん。多分だけど、強い」

 

「だよね?」

 

「多分?」

 

「何ていうか……得体のしれない感じ。強い……んだろうけど、それも確定的じゃなくて、分からない」

 

「……?曖昧な感想ですね……ですが、今はとにかく次の交渉に備えましょう。次は……ゲヘナ風紀委員ですね」

 

「それなら平気でしょ。アオいるし、委員長も話し分かる人っぽかったし」

 

 風紀委員室

 

「え……謹慎処分……?」

 

「はい。言っておきますが、これは私の判断ではありません。彼自身の申告です。今頃は大量の反省文とにらめっこしながら部屋で大人しくしてますよ」

 

「なんとかなんねぇの?うし……アコ行政官ドノ」

 

「なりませんね。貴方ほんとにそのうち覚えてなさい」

 

 コーヒーを一口啜り、眉間によった皺を解きながら彼女は言葉を続ける。

 

「それに私自身、彼を謹慎させるつもりはなかったんです。彼の実力は間違いなく風紀委員のNo.2。委員長の負担が増えるのは不本意ですし、彼が不在の影響もゲヘナには大きい」

 

「ここに来る前、ゲヘナの近況を調べてもあまり彼の噂は聞きませんでしたが……」

 

「情報統制してますから。対外的にはイオリが委員長の次席に収まっています。ただし、各問題グループの部長や実力者には彼の名前が広まっている状態です」

 

「……こういう時に備えて?」

 

「……ゲヘナ生徒の中でも一線を画す実力を持ち、ヒナ委員長以上にフリーに動ける人物。的確な指揮もこなせるため、風紀委員全体の実力の底上げにもなる。その扱い勝手の良さはよく分かるかと。そして、その彼がいない現状、風紀委員は……」

 

 バタンッ!!

 

「すいません、校内の不良生徒鎮圧で遅れました……!」

 

「ん。お疲れ様」

 

「あ……ありがとうございます……っ」

 

「ちょ、それ私の……」

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながらチナツが部屋に入ってくる。それをみたシロコはセリカに出されていた紅茶を持って差し出す。

 

 チナツは短いお礼の後に一気に飲み干し、一息つく。しかし、今度は風紀委員数名が別々の問題を持ってチナツの元へ救援を求め、それに応えるため走り去ってしまう。

 

「……」

 

「あの有り様……まぁ、いつもウチはあんな感じですが、気にしないでください。アオがいればチナツもこの話に参加できるくらいには余裕があったのですが……」

 

「あのクソ真面目、言わなきゃなんもされないものを……」

 

「そうなんですよねぇ……ただサボりたいって考えてるのなら突っぱねられたのですが、ああも素直に落ち込まれると私も何も言えません」

 

 困ったように頬に手を当てるアコ。前回の錯乱した様子とは打って変わって穏やかな対応の彼女の様子から、こちらが素に近いのかと一同は納得する。一方、ヒナに会うために先生はイオリに懇願していた。

 

 …………足を舐めながら。

 

「大人としてのプライドとかないのか!?」

 

 [緊急事態なんだ……!!]

 

「なんでそんな澄んだ瞳をしてるんだ!?ヒゥッ!?そんなとこまで……!?」

 

 イオリが先生のテクニックに悶えていると、背後から少しの重圧と透き通るような声が

 

「随分と、楽しそうね。先生もそんなに頭を下げて……」

 

「いぃ委員長!?こ、これは違っ……頭を下げてるんじゃなくて……」

 

「ヒナッ!!」

 

「……あ……あぁっ……」

 

 イオリの後ろ姿で見えなかった先生は、ヒナの声が聞こえた途端、脚を舐めながらヒナの方へと向き直る。

 

 その姿を見た純真な彼女は顔を真っ赤にしてその光景わや正しく理解したのだった。

 

 ーーー 

 

「……また保留……」

 

「あの後便利屋の事務所にも行きましたけど……ただの公園……」

 

「もう……どこにいるのよアイツ等!」

 

 そんなことを話しながら歩くアビドスの道中。

 

 一同はよく見知った名前の暖簾と、嗅ぎ慣れた香りの屋台を見かける。

 

 柴関。そう書かれた赤い暖簾のラーメン屋の屋台。

 

「柴大将!?」

 

「おや、セリカちゃん。それにアビドスの皆も」

 

「な、ど、どうしたんですかこの屋台?」

 

「それがね。なんでも、ウチの店のファンだっていうお客さんがいたらしくて、変な大金が寄付されたんだ。最初はヴァルキューレに渡そうとしたんだが……この子達から説得されてね」

 

「この子達……あぁー!?」

 

 再びセリカの大声が夕暮れの街に響き渡る。

 

 その視線の先には、先程までの血眼で探していた彼女達がいたのだ。

 

「あら、貴方達……」

 

 アビドス生徒と先生は、便利屋の皆へ簡潔に協力して欲しい旨を伝える。

 

「話しは分かったけど……それ、私達に何のメリットがあるの?」

 

「う、それは……」

 

「くふふ〜、まぁまぁ、カヨコちゃん。アルちゃんのこの目を見てみなよ。依頼の報酬なんて今食べたラーメン一杯で充分よ!なんて今にも言い出しそうな顔じゃ~ん」

 

「な、なるほど……どんな過去や諍いも、ラーメン一杯で水に流す一流のアウトロー……流石はアル様……!」

 

「まぁ……社長が受けるなら別に……」

 

「じゃあ……!」

 

「その話。ちょっと考えさせてもらってもいいかしら」

 

「!?」

 

「アルちゃん?」

 

 アルは真剣な表情でアビドス生達にとっては三度になる、保留の返答をする。

 

 とぼとぼと歩く彼女達の後ろ姿は不安で包まれていた。

 

「……保留……だったわね」

 

 [……大丈夫だよ。確証はないけど……きっと大丈夫]

 

「そうそう、大丈夫だよ絶対……必ず、取り戻そう」

 

 [そうだね。まず帰ってきたら……]

 

「叱ってあげるんです」

 

「へっ?」

 

「自分一人で突っ走って、私達に心配をかけたことをコラ!って叱ってあげるんです」

 

「はは、耳が痛い痛い」

 

「それで……そうしたら……皆で言うんです。お帰りなさい。って」

 

「ひゃぁあ〜!何それ恥ずかしい!青春っぽい!」

 

「確かに、ちょっと、気恥ずかしいかもですね……」

 

 ノノミのセリフで薄く笑うシロコと頬を赤らめて恥ずかしがる二人。しかし、最後方で静かに歩いていたハクヤが突然大笑い声をあげる。

 

「くっ……!ははは!いいじゃん!良いね!最高だ!」

 

「は、ハクヤ……?」

 

「青春!良いね、俺達が送ることのできる短い春だ。そして、俺達だけで過ごしてはいけない春だ。ホシノちゃん抜きの春なんて俺は要らないし考えられない」

 

「ですね……!明るく笑うには、やっぱりお日様の光が必要です!」

 

「ん。とっくき覚悟は決まってる」

 

「そうさ、だから!」

 

 手を広げてハクヤは笑いながら、バックラーを直上に放り投げる。彼のバックラーは真っ直ぐに回転しながら上がり、内包された特殊な爆薬が、まるで白い太陽のように爆ぜて夕暮れを眩く包み込む。

 

「迎えに行こう!俺達の太陽(ホシノちゃん)を!!」

 

 彼は夕暮れを掻き消す宣言と共に、眩い青春に誓った。

 

 黎明を、迎えに行くと。




いよいよアビドス編も佳境です!
UA数も四桁、お気に入り登録はまだまだで色もつかない今ですが、がんばって皆様を楽しませることが出来ればと思います!
応援よろしくお願いします!
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