コングの挑戦   作:マウスブン

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前半0分から20分まで

「ピーーーッ!」

 

試合開始を告げるホイッスルが、興奮と熱気に包まれたスタジアムに鳴り響いた。U-20日本代表対ブルーロック選抜。未来の日本サッカーを占う一戦が、今、キックオフされた。

 

序盤から、試合は激しい主導権争いを繰り広げる。ボールは目まぐるしくピッチを駆け巡り、両チームの選手たちが火花を散らす。観客席のボルテージは早くも最高潮だ。

 

その中で、青い監獄(ブルーロック)の異端児たちは、序盤から牙を剥く。中盤での激しいプレッシングからボールを奪うと、鋭いパスが前線へ繋がる。

 

「ブルーロック、速い展開だ!」

 

ボールは右サイドへ。受けたのは雪宮。サングラスの奥の瞳が冷静に戦況を見据え、しなやかなドリブルを開始する。まるでピッチの上を滑るような、独特のリズム。緩急自在のボールタッチで、U-20代表のディフェンスラインに迫る。

 

立ちはだかるのは、U-20代表の右サイドバック、コング。身長2メートルに迫る巨躯。その筋肉質な体躯は、まるでジャングルから現れたゴリラのようだ。

 

(コイツ…ハヤイ…ボール…トクシュ…)

 

コングは唸る。ジャングルで俊敏な獣を追いかけた経験が、目の前のドリブラーの危険性を告げていた。雪宮の動きは予測が難しい。重心移動、フェイント、ボールの置き所。全てが一級品だ。

 

雪宮が加速する。独特のステップでコングを翻弄し、縦への突破を試みる。右か、左か。一瞬の迷いが命取りになる。コングの巨体が左右に揺さぶられる。

 

(マズイ…!ヌカレル…!)

 

野生の勘が警鐘を鳴らす。常人なら完全に対応が遅れるタイミング。だが、コングは違った。驚異的な瞬発力で、地面を蹴る。長い脚が、鞭のようにしなり、ボールへと伸びる。

 

「ッ!?」

 

雪宮の足元から、ボールがわずかにこぼれる。コングのつま先が、ギリギリでボールに触れたのだ。ボールはタッチラインを割り、ブルーロックのスローインとなった。

 

「ナイスディフェンス、コング!」

U-20代表のキャプテン、オリヴァ・愛空から声が飛ぶ。

 

コングは低い姿勢からむくりと起き上がり、鋭い視線で雪宮を睨みつけた。

 

(アブナカッタ…トメ…タ…ヨカッタ…)

 

片言の思考が頭を巡る。安堵する暇もなく、コングは素早く守備位置へと戻る。その圧倒的な存在感を放つ背中を見ながら、スタジアムの解説者が彼の異色の経歴に触れた。

 

「今のディフェンスはコングならでは、ですね。彼は本当に面白い選手ですよ」

「と、言いますと?」

「コング選手は、とあるジャングルの奥地で、ゴリラと共に育ったというんですよ。驚きですよね。部族のようなコミュニティで狩猟採集の生活を送っていたそうですが、中学時代に支援者の協力で日本に来ました。そこでサッカーと出会い、その規格外のフィジカル…特にパワーとスタミナ、そして今のプレーで見せたような瞬発力で、すぐに頭角を現したんです。まさに未開の才能、フィジカルモンスターですよ。日本語はまだ勉強中とのことですが、プレーを見れば彼の意志は伝わってきます」

 

ピッチ上では、早くもスローインからのプレーが再開されようとしていた。コングは、ブルーロックの選手たち、特に先ほど対峙した雪宮から目を離さない。ジャングルで培われた生存本能と闘争心が、この緑の戦場で燃え上がっていた。

 

(ミンナ…ツヨイ…ケダモノ…ミタイ…デモ…オレ…マケナイ…!ゴール…マモル…!)

 

ジャングルの守護神、コング。彼の牙は、まだ研がれたばかりだ。この試合で、彼は己の存在価値を証明する。

 

 

 

ブルーロックボールのスローイン。雪宮は素早くリスタートを選択し、近くでフリーになっていた蜂楽廻へとボールを投げ入れる。

 

「りょーかいっ! カイブツさん、いくよー!」

 

蜂楽は独特のリズムでボールを受け取ると、まるで遊んでいるかのようにドリブルを開始する。予測不能なフェイントとステップワーク。U-20の中盤の選手が食らいつくが、軽々とかわされてしまう。

 

(ウネウネ…スル…ヤツ…ヤッカイ…!)

 

コングは蜂楽の動きを警戒する。雪宮の洗練されたテクニックとは違う、本能的で掴みどころのない動き。ジャングルに生息する、奇妙な動きをする虫や蛇を思い起こさせた。

 

蜂楽は中央へと切れ込みながらDFを引きつけ、相手の視線が自分に集まった瞬間、ノールックで左サイドのスペースへパスを供給した。完璧なタイミングで走り込んできたのは、ブルーロックのエース、糸師凛だ。

 

「凛!」

 

凛は寸分の狂いもないトラップでボールを足元に収めると、その鋭い視線は既にゴールを射抜いていた。対峙するのはU-20日本代表の主将にして、世代最高のDFと評されるオリヴァ・愛空。スタジアム中の視線が、この最高峰のマッチアップに注がれる。

 

愛空は冷静沈着。凛の選択肢、シュートコース、パスコースを的確に読み、最適なポジションを取る。凛は強引な突破は選ばない。愛空が一瞬見せた僅かな隙間を突き、ゴール前へ低く、速いクロスを送り込んだ!

 

「凪!」

 

ファーサイドへ走り込んでいたのは、天性のトラップ能力を持つ凪誠士郎。誰もが彼のトラップからのシュートを予測した。だが、凪は意表を突く。ボールに触れず、スルーを選択したのだ!

 

「なにっ!?」

 

完全に裏をかかれたU-20ディフェンス陣。ボールは凪の背後、ゴール前中央のスペースへ転がる。そして、そこに走り込んできたのは…!

 

(マタ…メガネ…!)

 

コングの野生の勘が再び警鐘を鳴らす。フリーでボールを受けようとしていたのは、またしても雪宮剣優!ペナルティエリア内で、決定的なチャンスを迎えていた。

 

雪宮はダイレクトで右足を振り抜く。無駄のない、洗練されたシュートフォーム。ボールはゴール左隅を捉え、突き刺さるかに見えた。

 

「サセルカァァァ!!」

 

声にならない叫びと共に、巨大な影がシュートコースに飛び込んだ。コングだ!

凛がクロスを上げた瞬間、彼はゴール前の危険なスペースを察知し、中央へ絞っていた。そして、雪宮がシュートを放つ瞬間を完璧に読み切り、巨大な体を投げ出したのだ。

 

「ドゴォッ!!」

 

鈍く、重い音が響く。雪宮の強烈なシュートは、コングの分厚い胸板に真正面から叩きつけられた。凄まじい衝撃に、コングの巨体がわずかに後退する。

 

(イタイ…!デモ…トメタ…!)

 

ボールは勢いを失い、足元へこぼれる。コングは即座に体勢を立て直し、大きくクリア。ボールはセンターライン付近まで跳ね返された。U-20は最大のピンチを、コングの決死のブロックで脱した。

 

「コング!ナイスブロック!!」

「お前がいなけりゃ、やられてたぞ!」

ゴールキーパーや他のDF陣から、称賛と安堵の声が飛ぶ。

 

キャプテンの愛空も駆け寄り、力強くコングの肩を叩いた。

「助かった、コング。素晴らしい反応速度と読みだ」

「…ウン…! キケン…カンジタ…カラダ…ウゴイタ…」

コングはまだ息を切らしながら、片言の日本語で答える。プレー中の彼の集中力と状況判断能力は、言葉の壁を越えていた。

 

(なんてフィジカルだ…まるで岩壁に蹴り込んだみたいじゃないか…)

決定機を阻まれた雪宮は、信じられないものを見る目でコングを見つめる。完璧なシュートだったはずだ。しかし、規格外の肉体を持つ守護神が、それを許さなかった。

 

ブルーロックの猛攻は続く。糸師凛の支配力、蜂楽廻の創造性、凪誠士郎のトラップ、そして雪宮剣優の決定力。個々の「エゴ」が連鎖し、U-20ゴールを脅かす。

 

しかし、U-20代表の右サイドには、ジャングルが生んだフィジカルモンスター、コングが君臨している。彼の圧倒的な対人守備能力と、予測不能な危機察知能力は、ブルーロックの天才たちにとって、計算外の脅威となりつつあった。

 

試合はまだ序盤。両チームのエゴとプライドが激突する戦いは、さらに激しさを増していく。コングの存在が、この試合の流れを大きく左右する鍵となるかもしれない。

 

 

 

U-20日本代表のゴールキックから試合は再開。GKから愛空へ、そして右サイドのコングへとボールが渡る。前半5分、まだスコアは動かない。

 

前線でエースストライカーの閃堂秋人がパスを要求する。

「コング!こっちだ!」

 

コングは閃堂の要求に応じ、力いっぱいのロングパスを放つ。だが、そのボールは閃堂の予想を遥かに超える威力とスピードを持っていた。

 

「グォッ!」という音と共に放たれた砲弾のようなパス。閃堂は懸命にトラップを試みるが、ボールは足元で大きく弾かれ、コントロールできない。

 

「しまっ…!」

 

ボールは無情にもブルーロックの選手へ渡ってしまう。絶好のカウンターの起点を与えてしまった。

 

「おいコング! 強すぎるんだよ! 加減しろ!」

閃堂はミスを棚に上げ、パスの出し手であるコングに不満をぶつける。

 

(チッ…雑魚FWが…ボールを扱えねぇのか)

 

中盤の位置で一連の流れを見ていた糸師冴は、閃堂のミスと文句に内心で舌打ちした。だが、彼の思考はすぐに別の方向へ向かう。視線の先には、閃堂に文句を言われてキョトンとしている、規格外のサイドバック、コングがいた。

 

(コング…とか言ったか。面白い)

 

冴の脳裏に、先ほどのコングのプレーが蘇る。雪宮の決定的なシュートを、驚異的な反応速度とパワーでブロックしたシーン。そして今、閃堂が扱いきれなかったものの、狙い自体は正確だったロングパスの威力。

 

(あのデカさであの動き…ブロックの時の反応速度といい、今の一瞬のパススピードといい…単なるパワー馬鹿じゃねぇな。あのアジリティは興味深い)

 

冴は世界を知っている。U20とはいえスペインのトップレベルで戦う彼にとって、フィジカルの優れた選手など見慣れている。しかし、コングが持つのは、その巨躯に不釣り合いなほどの瞬発力と、それを爆発させる野生的なパワー。この組み合わせは稀有だ。

 

(これほどのパワーとアジリティを両立させる『生き物』は、そうそういねぇ。磨けば…いや、使い方次第では世界を喰える『怪物』になるかもしれねぇな。もっとも、今のままじゃ味方ごと破壊しかねない暴走機関車だが)

 

冴は冷静にコングのポテンシャルと現状の課題を分析する。粗削りだが、計り知れない可能性を秘めたチームメイト。どう活かすか、あるいはどう「調教」するか。U-20の司令塔として、新たな思考が巡り始めていた。

 

そんな冴の思考とは裏腹に、ピッチ上ではブルーロックのカウンターが牙を剥く。ボールを奪った烏が素早く前を向き、弟である糸師凛へとパスを通す。

 

「凛!」

 

ブルーロックのエースがボールを受け、U-20ゴールへと迫る。冴は即座に思考を切り替え、冷静に守備態勢に入る。まずは、このカウンターを止めることが先決だ。だが、彼の頭の片隅には、あのジャングル育ちのサイドバックの存在が、確かな興味と共に刻み込まれていた。

 

 

 

時計の針は前半10分を指そうとしていた。ブルーロックのカウンターを凌いだU-20日本代表は、再びボールを保持し、敵陣への侵入を試みる。中盤でボールを回し、ブルーロックの厳しいプレッシャーをいなしながら、攻撃の糸口を探る。

 

右サイドから中央を経由し、ボールは右サイドバックのコングへと渡った。彼は少し周囲を警戒する。先ほどの閃堂へのパスミスが頭をよぎったのかもしれない。力任せのパスは、味方をも危険に晒す。

 

(ツギ…ハ…ヤサシク…)

 

コングは近くでフリーになっていた糸師冴の姿を捉えた。U-20の司令塔であり、世界を知る男。彼になら、確実にボールを届けられるだろう。コングは意識して力を抜き、丁寧なインサイドパスを冴の足元へ送った。それは、これまでの彼のプレーからは想像できないほど、コントロールされた「優しい」パスだった。

 

ボールは正確に冴の足元へ。冴は余裕を持ってトラップし、顔を上げる。だが、パスの出し手であるコングへ向けられた彼の表情は、満足とは程遠いものだった。冴は小さく、しかし明確に首を横に振った。まるで「違う、そうじゃない」とでも言うように。

 

次の瞬間、冴はトラップしたボールを、利き足とは逆の足で、ダイレクトにコングへと叩き返した!

 

「ッ!?」

 

コングは意表を突かれる。返ってきたパスは、先ほど彼が出した優しいボールとは全く異質だった。鋭く、速く、そして重い。まるで冴の意志が込められたかのような、強烈なパス。コングは咄嗟に反応し、なんとかそのボールを足元に収めた。ゴリラのような体幹と反射神経がなければ、弾き飛ばしていただろう。

 

ボールを収めたコングが見たのは、パスを返した直後、前方のスペースへ猛然とダッシュを開始する冴の姿だった。その動きは、言葉よりも雄弁にコングへメッセージを伝えていた。

 

『俺を誰だと思っている? あの程度のボールで満足するな。お前の持つ最大の武器(パワー)を使え。俺なら、それを受け止め、繋いでやる』

 

コングは目を見開いたまま、走り去る冴の背中を見つめる。驚きと戸惑い。そして、ほんの少しの理解。このチームの心臓部は、自分の野生の力を恐れるどころか、むしろそれを求めている。

 

(コイツ…オレノ…チカラ…ホシイ…?)

 

冴はコングの規格外のパワーを、単なるリスクではなく、チームの新たな武器に変えようとしていた。そのためには、コング自身がその力を制御しつつも、最大限に発揮する必要がある。そして、その受け手として、自分が基準となることを示そうとしていたのだ。

 

U-20の司令塔による、無言の要求。ジャングルの守護神は、その真意をまだ完全には掴みきれていない。だが、彼の内に秘められた野生の力が、新たな刺激を受けて疼き始めているのを感じていた。

 

 

 

冴からの強烈なダイレクトパスを、コングは驚異的なバランスで足元に収める。目の前では、パスを出した張本人である冴が、中盤のスペースへと走り込んでいく。その動きは、ブルーロックの守備陣の注意を一瞬引きつけた。

 

しかし、すぐにブルーロックの選手がコングにプレッシャーをかけてくる。蜂楽廻が、そのトリッキーな動きでボール奪取を狙ってきた。

 

(マタ…キタ…! デモ…!)

 

プレッシャーを感じながらも、コングの脳裏には先ほどの冴のプレーが焼き付いていた。あの力強いパスの感触。そして、前へ走り出す背中が語っていた要求。

 

(ヤル…! アンナ…ツヨイ…パス…!)

 

コングは決意する。閃堂へのパスとは違う。ただ力任せに蹴るのではない。あの司令塔が求める、スピードと、そして意志を乗せたボールを。

 

蜂楽が足を出してくる寸前、コングは体を捻り、右足を振り抜いた!狙うは、冴が走り込んだ先のスペース。ボールに込めるのは、自身の持つ最大限のパワーと、そして冴への信頼。

 

「グォンッ!!」

 

再び、ピッチに轟音が響く。しかし、今度のボールは、閃堂へのパスのような暴走した軌道ではない。低く、鋭く、まるでレーザービームのように、フィールドを一直線に貫いていく。ボールには強烈な回転がかかっており、その威力と共に、計算された精度が感じられた。

 

「!!」

 

中盤でフリーランニングをしていた冴は、背後から迫るボールの気配を完璧に察知していた。彼はトップスピードの中でも、まるでボールが足に吸い付くかのように、完璧なトラップでボールをコントロール下に置いた。先ほどコングが出した「優しい」パスとは比べ物にならない速度と威力。だが、冴にとっては、これこそが「使える」ボールだった。

 

ボールを受けた冴は、瞬時に前を向き、ブルーロックのディフェンスラインと対峙する。彼の登場で、U-20の攻撃が一気に加速する。

 

(フン…やればできんじゃねぇか、デカブツ)

 

冴はチラリと後方のコングを一瞥し、小さく、誰にも気づかれない程度に頷いた。それは、コングのパスを認めたという、彼なりのサインだった。

 

ブルーロックのDF陣、特に中央で待ち構える糸師凛が、兄である冴のプレーを警戒し、鋭い視線を向ける。U-20のチャンスメイク。冴を中心に、閃堂や他の選手たちが動き出し、ブルーロックゴールへと迫っていく。

 

パスを出したコングは、少し息をついた。まだ心臓がドキドキしている。だが、冴が自分のパスを受け止め、チャンスに変えようとしているのを見て、胸の中に確かな手応えと、わずかな自信が芽生え始めていた。

 

(トドイタ…!ツカマッタ…!スゴイ…ヤツ…!)

 

このチームの司令塔は、自分の力を理解し、それを求めている。その事実が、コングの中に眠っていた闘争本能をさらに掻き立てた。ジャングルの守護神は、糸師冴という最高の使い手を得て、その真価を発揮し始めるかもしれない。試合はまだ序盤だが、U-20の中に、新たな化学反応が生まれようとしていた。

 

 

 

コングからの強烈なパスを完璧にコントロールした糸師冴。彼は即座に顔を上げ、ブルーロックの陣形を鋭い視線でスキャンする。中盤で烏旅人が素早くプレスに来るが、冴は慌てない。繊細なボールタッチでプレッシャーをいなし、わずかな隙間を縫って前進する。

 

「冴!」

 

前線では閃堂がDFラインの裏を狙って動き出し、他のU-20選手も連動してパスコースを作り出す。冴の前には複数の選択肢が広がっていた。ドリブルでの突破、サイドへの展開、そしてゴールへの最短ルートであるスルーパス。

 

(凛…そこか…)

 

冴の意識は、最終ライン前で冷静に待ち構える弟、糸師凛へと向かう。弟との対決。その能力の高さを誰よりも知っているからこそ、安易な選択はしない。

 

冴は一瞬の逡巡の後、閃堂の動き出しに合わせたスルーパスを選択した。凛とセンターバックの間、針の穴を通すような精密なパス。ボールは美しい軌道を描き、ブルーロックの最終ラインを切り裂いていく。

 

「もらった!」

 

閃堂がDFを振り切り、完璧なタイミングでパスに追いつく。ペナルティエリア内に侵入し、ゴールキーパーと一対一に近い状況。絶好の得点機だ!閃堂は利き足を振り抜き、ゴールネットを揺らすべく強烈なシュートを放つ!

 

しかし、ブルーロックも黙ってはいない。閃堂がシュートを打つ瞬間、猛然とスライディングしてきたのは、センターバックの蟻生十兵衛だった。彼の長い脚が伸び、間一髪でボールに触れる!

 

「くっ!」

 

ボールは蟻生の足に当たり、わずかにコースが変わる。それでもゴールへ向かうが、勢いを失ったボールは、ブルーロックのゴールキーパー、我牙丸吟が冷静にキャッチした。

 

「ちぃっ!」

閃堂は悔しげに天を仰ぐ。決定的なチャンスだっただけに、決めきれなかった無念さが滲む。

 

ピッチ後方、コングはその一連の攻防を固唾を飲んで見守っていた。自分が繋いだパスが、冴の手によって決定機へと昇華していく様。そして、それを阻止したブルーロックのDFの執念。

 

(スゴイ…レベル…タカイ…)

 

彼はオーバーラップはせず、自陣のサイドに留まっていた。冴が前線に上がったことで生まれたスペースをケアし、カウンターに備える。攻撃への参加だけでなく、守備のバランスを取ることも、サイドバックの重要な役割だと監督に教わっていた。

 

シュートは阻まれたものの、コングのパスを起点とした流れるような攻撃は、スタジアムのU-20サポーターを沸かせた。ジャングルの守護神の規格外のパワーと、糸師冴のワールドクラスの技術。この二人の連携が、U-20に新たな攻撃の形をもたらす可能性を強く感じさせるプレーだった。試合の流れは、少しずつU-20に傾き始めているのかもしれない。だが、青い監獄の異端児たちも、決して引き下がるつもりはない。両者の激しい攻防は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

前半15分。U-20の決定機を防いだブルーロックは、GK我牙丸吟からの素早いリスタートで反撃に転じる。ボールは中盤を経由し、右サイド、蜂楽廻の足元へと繋がった。

 

「さーて、お返しといこっか!」

 

蜂楽は楽しそうにボールをこねながら、対峙するコングを見据える。その背後から、するすると潔世一がサポートに上がってきた。

 

「蜂楽、行くぞ!」

「オーケー、潔!」

 

潔の目が、ピッチ全体を俯瞰するように動く。味方と相手の位置、スペース、そしてゴールの可能性が最も高い未来。彼の「超越視界(メタ・ビジョン)」の片鱗が、最適なプレー選択肢を導き出す。狙うは、コングがいる強固な右サイド。しかし、今回は個ではなく、連携で崩す。

 

蜂楽がトリッキーなドリブルでコングを引きつける。コングはその巨体で対応しようとするが、蜂楽の予測不能な動きに翻弄される。右へ、左へ。重心を揺さぶられた瞬間、蜂楽は潔へと短いパス。

 

(ココ…!)

 

潔はダイレクトでリターンパス。同時に、彼はコングの背後のスペースへと走り込む。ワンツーだ。コングは咄嗟に潔の動きに反応しようとするが、蜂楽が再びボールを受け、さらに内側へと切れ込むフェイントを見せる。

 

(ドッチ…!? マヨウ…!)

 

コングの思考が一瞬停止する。蜂楽のドリブルか、潔の裏への動きか。どちらに対応すべきか迷った刹那、二人の完璧な連携によって、U-20の右サイドは完全に崩壊した。

 

蜂楽はコングの注意が逸れた隙を見逃さず、走り込んだ潔の足元へ、DFの股を抜く絶妙なスルーパスを通した。サイドを深くえぐった潔は、ゴール前を確認する。

 

中央ややファーサイド寄り、ペナルティエリアのわずかに外側。そこに、フリーで待ち構えている選手がいた。

 

(凛…!)

 

潔は迷わずグラウンダーのクロスをマイナス方向へ送る。ボールは走り込んでくる糸師凛の足元へ、完璧なタイミングで届けられた。

 

凛は冷静だった。迫りくるU-20愛空の動きを視野に入れながら、ボールを右足で優しくコントロールする。そして、シュートモーションへ。愛空がブロックに飛び込んでくる、その直前。

 

凛の右足から放たれたボールは、美しい弧を描いた。内側に巻かれたボールは、GKの手が届かない、ゴール右上隅の完璧なコースへと吸い込まれていく。まるで芸術品のようなカーブシュート。

 

「ゴォォォォォル!!!」

 

スタジアムが揺れる。先に均衡を破ったのは、青い監獄!糸師凛の鮮やかな一撃で、スコアは0-1となった。

 

ゴールを決めた凛は、クールな表情を崩さない。だが、駆け寄ってきた潔や蜂楽と軽く拳を合わせる。完璧な連携から生まれたゴールだった。

 

一方、U-20側は呆然と立ち尽くす。特に自分のサイドを起点攻略されたコングは、悔しそうに唇を噛み締めていた。

 

(ヤラレタ…! ハヤイ…! レンケイ…ワカラナイ…!)

 

彼の持つ規格外のフィジカルも、ブルーロックの誇る連携と個々のエゴの前には、通じない場面がある。ジャングルの守護神は、サッカーという競技の奥深さと、新たな壁に直面していた。先制を許したU-20。試合はまだ序盤だが、早くも追いかける展開となった。

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