士道龍聖の信じられないオーバーヘッドキックが決まり、スコアはイングランド 0 - 1 フランス。堅守からのカウンターを狙っていたイングランドにとって、あまりにも早く、そして予想外の形での失点だった。ピッチ上の選手たちは呆然とし、特にクリアミスが失点に繋がってしまったDFラインには重苦しい空気が流れる。下を向く選手もいた。
その沈黙を破ったのは、MFの位置にいたコングだった。彼は近くにいた玲王や、肩を落とすDFの選手たちの肩を力強く叩いた。
「…ダイジョウブ。マモレテル」
彼の片言の日本語は、しかし妙な説得力を持っていた。
「ジコだ。俺たちの守り、間違ってない。ツギ、絶対、取り返す」
コングの真っ直ぐな目と言葉に、他の選手たちもハッと顔を上げる。そうだ、まだ試合は始まったばかり。失点は不運だったが、チームとしてやるべきことは変わらない。彼らの目に、再び闘志の光が宿った。
イングランドボールで試合再開。失点を取り返すべく、すぐさま反撃に転じる。ボールは中盤を経由し、左サイドのスペースへ走り込んだ千切豹馬へと渡った。
ボールを受けた瞬間、千切は爆発的な加速を見せる。対峙するフランスのサイドバックは、そのトップスピードについていくことができず、あっさりと置き去りにされる。赤い閃光が、フランス陣内のサイドを深く、鋭く切り裂いていく。
ゴールライン際まで持ち込んだ千切は、グラウンダーでマイナスのクロスを中央へ送る。そこへ走り込んできたのは、凪誠士郎だった。
凪は迫りくるフランスDFを冷静に見極め、トラップと同時に体を反転させ、DFを一人、いとも簡単にかわす。そして、ゴール隅を狙い、間髪入れずに右足でシュートを放った!同点ゴールへ向けて、鋭い弾道がゴールネットを襲う!
決まったか――!?
しかし、そのシュートコースには、黒いオーラにも似た気配を漂わせる男が立ちはだかっていた。糸師 凛だ。彼は攻撃から素早く守備に戻り、凪のシュートタイミングとコースを完璧に読み切っていた。体を投げ出すようにスライディングし、見事にシュートをブロック!ボールはゴールラインを割り、コーナーキックとなった。
「ちぇっ…」凪が珍しく、小さく舌打ちをするのが聞こえた。千切も悔しそうな表情で天を仰ぐ。イングランドは失点直後に同点のビッグチャンスを作り出したが、今度は凛の執念のディフェンスに阻まれてしまった。
凛の好守によって同点ゴールは阻まれたものの、イングランドはコーナーキックを獲得した。失点直後の流れを考えれば、ここで追いつきたいところだ。キッカーは、正確なキックを持つ千切。彼がコーナーフラッグへ向かうと、フランスのペナルティエリア内にはイングランドの選手たちが続々と集結し始めた。
その様子を、フランスベンチのマスター、ロキはモニター映像で冷静に観察していた。そして、独り言のように、やれやれといった口調で呟いた。
「これは…面倒ですね」
彼の視線の先、ペナルティエリア内には、コング、アギ、そして凪という、いずれも長身で空中戦に強みを持つ選手たちが、威圧感を放ちながらポジションを取っていた。まるで巨大な塔(タワー)が3本もそびえ立っているかのようだ。
「あのフィジカルモンスター(コング)に、経験豊富なセンターフォワード(アギ)、それに予測不能な天才(凪)まで…高さ対策は指示しましたが、厄介なことに変わりはありません」
ペナルティエリア内では、ロキの懸念通り、激しいポジション争いが繰り広げられていた。フランス守備陣は、特にコングとアギの高さを強く警戒している。糸師 凛が、執念深くコングのマークについていた。試合開始前から続く因縁が、ここでも火花を散らす。
千切が助走に入る。狙いは明確だった。ファーサイド、長身選手たちが密集するエリア、その中でも最も高さとパワーを持つコングへ。右足から蹴り出されたボールは、高く、鋭い回転をかけられながら、コングの頭上めがけて吸い込まれるように飛んでいく。
落下点へ向かって、コングと凛が同時に跳躍する!凛も必死に体を寄せ、コングを抑え込もうとするが、コングの圧倒的なフィジカルはそれを許さない。まるで大きな岩が小さな石を弾き飛ばすかのように、コングは凛を空中で制圧し、最高の打点でボールにコンタクトした!
頭でボールの芯を捉え、ゴールネットへ向けて力強く叩きつける!強烈なヘディングシュート!
フランスのゴールキーパーも必死に反応し、横っ飛びで手を伸ばす。ボールはGKの手をわずかにかすめた!
カンッ!!
しかし、無情にもボールはゴール右側のポストを直撃!硬い金属音を立てて、勢いよくペナルティエリア内へと跳ね返った!
「ああーっ!」
イングランドのベンチ・動画を見ている人たちから、大きな大きなため息が漏れる。これ以上ない、絶好の同点機だった。
ゴール前にこぼれたボール。混戦になるかと思われたが、その落下地点に誰よりも早く反応したのは、守備に戻っていた七星だった。彼は混乱するゴール前の状況を冷静に見極め安全策を選択。ボールを大きくサイドラインの外へと蹴り出し、プレーを切った。
イングランドはコーナーキックから得点を奪うことができなかった。コングは悔しそうに、弾かれたポストを軽く叩く。フランスは、運にも助けられる形で最大のピンチを凌いだ。
試合はイングランドのスローインで再開される。依然としてフランスが1点をリードしているが、イングランドもセットプレーという確かな武器を持っていることを示した。
試合は中盤に差し掛かり、当初のイングランドの狙い通り、フランスがボールを保持して攻め立て、イングランドが自陣でブロックを固めてカウンターやセットプレーからチャンスを窺う、という基本的な構図が出来上がっていた。フランスは凛や士道、雪宮といった個の力で揺さぶりをかけるが、イングランドも玲王の的確な指示と、アギやDF陣の奮闘、そして中盤のフィルターとして存在感を増すコングの守備によって、決定的な崩しは許さない。時折、千切の快足を生かしたカウンターや、コーナーキックからコングやアギの高さを狙った攻撃でフランスゴールを脅かすが、こちらもゴールには至らず、スコアは0-1のまま、緊迫した状況が続いていた。
そんな試合展開の中で、ひときわ観客の目を引き、激しい火花を散らしていたのが、中盤での糸師 凛とコングのマッチアップだった。それは、ポジション的な噛み合わせ以上に、互いのプライドとエゴがぶつかり合う、まさに凶悪なまでの個人戦となっていた。
凛がボールを持てば、コングが猛然と襲いかかる。ただパワーで潰しにくるだけではない。ドイツ戦でクリスやノアのプレーを見て学んだ、相手の懐に潜り込むようなターンや、ファウルにならない絶妙な腕の使い方を駆使し、ボールを奪おうとする。その急成長ぶりには、凛も内心驚きを隠せない。
しかし、凛はブルーロックNo.1の呼び声高いエゴイストだ。コングのフィジカルと、付け焼き刃ながらも厄介な技術に対し、凛はそれらを上回る洗練されたテクニックと、コンマ数秒で最適解を導き出す状況判断能力で対応する。コングのプレッシャーを華麗なボールコントロールでいなし、時には鋭いフェイントでコングの逆を取り、味方へ正確なパスを通す。コングにフィジカルで勝てないと悟ってからは、無駄な接触を避け、技術と戦術眼で勝負するクレバーさも見せていた。
それでも、時折、凛の神業のようなテクニックや予測不能なプレーに、コングが一瞬対応しきれず、抜かれかける場面も訪れる。フランスのチャンスかと思われたその瞬間、必ずと言っていいほど、近くにいた玲王かアギが素早くカバーリングに入り、凛の突破を阻止した。個の力でこじ開けようとする凛と、組織力でそれを封じようとするイングランド。その構図が繰り返された。
だが、コングはただやられているだけではなかった。彼は、凛との激しいマッチアップを繰り返す中で、その一挙手一投足を、野生動物が獲物の動きを観察するかのように、食い入るように見つめ、学習しようとしていた。凛の独特なステップワーク、相手の重心を巧みにずらす体とボールの使い方、ボールを決して奪わせない細かなボールタッチ…。
(ステップ…体の使い方…相手の背後にボール…俺も…)
コングの脳は、驚異的なスピードで情報を吸収し、自身のプレーに取り込もうと試みていた。カイザーインパクトを模倣し、クリスのターンを真似たように、今度は凛の技術を盗もうとしているのだ。
互いに決定的な仕事は許さないものの、フィールド中央で繰り広げられる二人の激しいバトルは、確実に試合全体の流れにも影響を与え始めていた。
試合は中盤、フランスがボールを保持する時間は長いものの、イングランドの堅牢なリトリート戦術の前に決定機を作り出せず、攻めあぐねる展開が続いていた。時折イングランドが見せる鋭いカウンターやセットプレーは脅威だが、それもゴールには結びついていない。スコアは依然として 0-1 のまま。
フランスの中盤でゲームを組み立てるシャルル・シュヴァリエは、正直なところ、この膠着した状況に退屈し始めていた。両チームとも、ある意味で似たような守り方、攻め方を繰り返しているように彼には見えた。もっと刺激的な、予測不能な「ゲーム」がしたい。
(あーあ、つまんないな…)
シャルルは小さくため息をつき、観客席の方へ視線を送る。いっそ、マスターであるロキに交代を申し出て、ベンチからこの凡庸な展開を眺めていようか、などと考え始めていた。
その時だった。フランスのサイド攻撃が、またしてもイングランドのDFに阻まれた。クリアされたボールは高く舞い上がり、前線のスペースへと送られる。イングランドのロングカウンター開始の合図だ。
そのクリアボールの落下予測地点は、ちょうどシャルルの少し前方だった。
「おっと、これは僕が回収しようかな」
退屈していたこともあり、彼は少し軽い気持ちで、そのセカンドボールを拾いに行こうと足を踏み出した。
しかし、彼がボールに触れることはなかった。
ドドドドドドッ!!
まるで地響きのような、重く、しかし恐ろしく速い足音が背後から迫ってきた。シャルルが驚いて振り返るよりも早く、黒い巨大な影が彼の横を猛スピードで駆け抜けていったのだ。コング! ボランチの位置から、カウンターの起点となるべく、クリアボールの落下地点を完璧に予測して走り込んできたのだった!
シャルルが反応する間もなく、コングは落下点に到達し、確実にボールをコントロール下に置く。シャルルの存在など、まるで意に介していないかのように。
そして、ボールを奪ったコングは、一瞬たりともスピードを緩めない。顔を上げ、前方の広大なスペースを確認すると、大きなストライドを活かしたパワフルなドリブルを開始した。まるで暴走する重戦車。その圧倒的な推進力とスピードに、テクニックタイプのシャルルはなすすべなく、あっという間に置き去りにされた。
1秒ほど呆然としたシャルルの後ろ姿を尻目に、コングはボールを運び、フランス陣内へと猛然と突き進んでいく。
コングがボールを奪い、イングランドのカウンターが始まった。大きなストライドでフランス陣内を突き進むその姿は、まさに暴走する重戦車。後方から、先ほど置き去りにされたシャルルが必死に追いかけるが、純粋なスピードではコングに分があり、その差は広がる。
(速い…!あの巨体で信じられないスピードだ…!)
シャルルは息を切らしながらも、思考を巡らせていた。
(繊細なボールテクニックはない。前方から時光がプレスに行っている。プレッシャーを受ければパスか、キープにもたつくはずだ。そこを狙えば…!)
シャルルの予測通り、前方からはフランスのMF、時光 青志がコングのドリブルコースを塞ぐように立ちはだかっていた。時光はコングの圧倒的なフィジカルにやや怯えを見せながらも、チームのために、勇気を振り絞ってプレスをかけようと距離を詰める。
「だ、だめですぅ…!」
パスか、それとも強引なキープか。シャルルだけでなく、多くの選手がコングの次のプレーを予測しようとした瞬間――コングは、そのどちらでもない、規格外の選択をした。
時光が有効なプレッシャーをかけられる間合いに入る直前、コングは長めに、ボールを前方の時光の斜め後ろのスペースへと蹴り出したのだ!
ミスか、誰もが一瞬そう思った。しかし、それはミスではなかった。
ボールを前方に蹴り出すと同時に、コングはその巨体をさらに加速させた。そしてターンしてボールを追いかけようとする時光と、転がるボールの間に、文字通り「強引に」体をねじ込ませたのである!
「グォォォッ!!」
獣のような咆哮が響く。時光は、突如として現れた巨大な肉の壁に、なすすべなく弾き飛ばされるようにして体勢を崩した。まともにぶつかれば怪我をしかねないほどの、圧倒的なパワーと質量でフィジカルゴリ押しだった。
自身の体の大きさ、フィジカル、スピードを生かした超強引な突破。時光のプレスを完全に無力化し、コングは前方に蹴り出したボールに悠々と追いつき、再びコントロール下に置く。そして何事もなかったかのように、ドリブルを継続した。
「ワオ…」
後方からその光景を見ていたシャルルは、唖然として呟いた。テクニックがないからパスかキープしかない、という自分の予測は、根本から間違っていた。コングは、テクニックが不要なほどの圧倒的なフィジカルで、状況そのものをねじ伏せてしまったのだ。
シャルルの思考を超えた、規格外の突破。コングが牽引するイングランドのカウンターは、その勢いをさらに増して、フランスゴールへと迫っていく――!
コングのフィジカルゴリ押しによる突破は、フランスチームに衝撃を与えた。後方から見ていたシャルルは呆然とし、弾き飛ばされた時光もすぐには起き上がれない。イングランドのカウンターは、フランスにとって最悪の形で継続されていた。
「アホ共! ボールに行くな! 遅らせろ! 時間稼ぐんや!!」
その状況を見て、既に何度も攻守に行き来しており、今回も前線から全速力で守備に戻りながら、烏 旅人がピッチに響き渡る大声で叫んだ。彼の冷静な分析眼は、コングにまともにぶつかっても勝ち目がないこと、そして今は無理にボールを奪うよりも、他の味方が守備に戻るための時間を稼ぐこと(ディレイ)が重要だと判断していた。
その烏の声に呼応したのか、あるいは純粋な危機感からか、フランス随一のスピードスター、斬鉄が動いた。彼は他の選手とは一線を画すトップスピードでコングを猛追し、ついにその背後に追いついたのだ。
「速っ…!」イングランドベンチから声が漏れる。
追いついた斬鉄は、スピードに乗ったまま、コングの背後からボールを奪おうと足を伸ばす。あるいは、体をぶつけてバランスを崩させ、ドリブルを止めさせようと試みた。スピードで追いつけば、何とかなるはずだ、と。
しかし、今のコングは、もはや単なるフィジカルだけの怪物ではなかった。
背後から迫る斬鉄の気配を、コングはその鋭敏な感覚で捉えていた。そして、先ほどまで激しいマッチアップを繰り広げていた糸師 凛のプレーを思い出す。ボールを奪われまいとする際の、あの巧みな体の使い方、ボールの隠し方…。
(こう…だったか…!)
コングは咄嗟に、見て学んだ動きを実践に移す。ドリブルのコースをわずかに変え、ボールを自分の体の前、相手から最も遠い位置に置く。そして、ボールを奪おうと迫ってくる斬鉄と、ボールの間に、自身の巨大な体を滑り込ませたのだ。それは、相手にボールを触らせないための、効果的なボールシールド(盾)の動きだった。
ドン!
斬鉄は勢いよくコングの背中に体をぶつけた。しかし、結果は先ほどの時光と同じだった。まるで分厚いコンクリートの壁にぶつかったかのような衝撃。コングは微動だにせず、逆にぶつかった斬鉄の方がバランスを崩し、数歩よろめいてしまう。スピードという武器は、コングの絶対的なフィジカルの前では、ボールを奪うための決定打にはなり得なかった。
斬鉄の追撃を、学習した技術とフィジカルで完全に無効化し、コングはボールをキープしたまま、さらに前進を続ける。烏の的確な指示も、斬鉄の驚異的なスピードも、進化を続けるコングを止めることはできなかった。
斬鉄の追撃を、学習した体の使い方とフィジカルで振り切ったコング。彼の前には、フランスゴールへと続く道が、一瞬だけ開けて見えた。ペナルティエリアが目前に迫る。パスという選択肢も、走り込んでくるアギや凪の姿も視界の端には入っていた。しかし――。
(俺…決める!)
一瞬の迷いを振り払い、コングのエゴがゴールへの欲求を選択させた。そして、彼の脳裏には、ドイツ戦で見たあの『皇帝』のシュートフォームが鮮明に蘇っていた。カイザーインパクト。振り終わる速度は不可能だが、あの圧倒的な破壊力を、この足で再現する!
コングはボールをわずかに前に置き、軸足を強く踏み込む。腰を鋭く回転させ、全身の筋肉をしならせ、右足をコンパクトに、しかし爆発的なパワーを込めて振り抜いた!
ゴォンッ!!!
スタジアムに響き渡る、重く低いインパクト音。蹴り出されたボールは、低い弾道を保ったまま、まるで砲弾のようにゴールネットへ向かって突き進む。そのスピード、その威力はコングの持つ規格外のパワーが凝縮された、まさに必殺の一撃だった。
イングランドの同点ゴールか!?
しかし、その弾道上に、黒い影が身を投げ出すようにして飛び込んできた。糸師 凛だ!彼はコングのシュートを予測し、あるいは本能的に危険を察知し、信じられないスピードで守備に戻っていたのだ。そして、ゴールを割らせまいとする執念で、躊躇なく右足をシュートコースへと差し出した!
バチィィィィンッ!!!!
肉とボールが激しく衝突する、生々しく鈍い音が響き渡る。凛の差し出した右足が、コングの放った砲弾のようなシュートを、ゴールライン手前で、見事にブロックした!ボールは大きく弾かれ、ゴールラインを割ってコーナーキックとなる。フランス、絶体絶命のピンチをまたしても凌いだ!
「うぉぉぉっ! 凛のスーパーブロック!」
「コングのシュートも凄まじかったが…!」
スタジアムが沸き立つ。しかし、ヒーローとなったはずの凛は、すぐに立ち上がることができなかった。彼はピッチに倒れ込み、シュートを受け止めた右足を押さえて、苦痛に顔を歪めていた。
(……ッ!? 足が…痺れて…感覚が…!)
至近距離で受けたコングのシュートの衝撃は、凛の想像を遥かに超えていた。骨に響くような、強烈な痺れが右足全体を襲い、力が入らない。彼の強靭な肉体をもってしても、あの威力は完全に受け止めきれるものではなかったのだ。
イングランドはまたしても決定機をゴールに結びつけることはできなかった。コングは天を仰ぎ、悔しさを噛みしめる。しかし、ピッチ上の誰もが、コングのシュートの脅威と、それを身を挺して止めた凛の執念、そしてその代償を目の当たりにしていた。
コングの強烈なシュートを身を挺してブロックした代償は、糸師 凛の右足に確かなダメージを残していた。彼は立ち上がろうとするが、力が入らず、顔を苦痛に歪めている。その様子を冷静に見極めたフランスのマスター兼監督、ジュリアン・ロキは、即座に交代を決断した。
「凛を下げて。メディカルチェックを急がせて」
ロキはベンチスタッフに短く、しかし有無を言わさぬ口調で指示を出す。交代ボードが掲げられ、凛の番号が表示された。
「……は? ふざけんな!!」
交代ボードを見た凛は、信じられないという表情から一転、激しい怒りを露わにした。足の痺れを押して立ち上がると、ベンチに向かって叫ぶ。
「俺はまだやれる! 下げるな!!」
その剣幕は、チームメイトさえもたじろがせるほどだった。しかし、ロキは冷静さを失わない。
「Cool down(落ち着きなさい)、凛」
彼は凛を制止するように手を向ける。
「君の気持ちは分かる。だが、今は体のチェックが最優先だ。ドクターのOKが出れば、君の力は必ずまた必要になる。それまで待て」
凛は納得いかない、怒りに満ちた表情でロキを睨みつけるが、メディカルスタッフに促され、不満気にピッチを後にするしかなかった。エースの、そして守備でも奮闘していた凛の離脱は、フランスにとって大きな痛手となるだろう。
フランスが交代の準備を進める中、イングランドのコーナーキックが再開された。キッカーは変わらず千切。彼の視線は、ゴール前で待ち構えるコングへと注がれていた。凛がいなくなった今、高さでコングに対抗できる選手は限られる。絶好のチャンスだ。
千切の右足から放たれたボールは、再びファーサイド、コングの位置を狙って高く、速い軌道を描く。
凛に代わってコングのマークについたのは、烏だった。彼はコングの圧倒的なパワーと高さを警戒し、跳躍の瞬間に全力で体をぶつけ、少しでもバランスを崩させようと試みる。さらに、直前のコングのシュートの威力を見た他のフランスDFたちも、コングを強く意識し、数人が彼に引きつけられるようにポジションを取っていた。完全にコングへのマークが集中している。
しかしコングにとって、それは障害ではなかった。
「グオオオォォォ!!!」
獣のような雄叫びを上げ、コングは地面を強く蹴る。烏が必死に体をぶつけてくるが、まるで小さな虫を振り払うかのように意に介さない。他のDFたちのプレッシャーも、彼の圧倒的な跳躍力と空中でのボディバランスの前では意味をなさなかった。
ボールの最高到達点。そこは、コングだけが支配できる聖域だった。彼は空中で完璧にボールを捉えると、全身のバネを使って、ゴールネットへ向けて力強く頭を叩きつけた!
ヘディングシュートは、壁のように立ちはだかるフランスDFたちの頭上を越え、必死に手を伸ばすGKの手をも弾き飛ばし、ゴールネットを激しく揺らした!
ゴォォォォォォォォル!!!!
ついに、イングランドが同点に追いついた! スコアは 1 - 1 !
コングは着地すると同時に力強く拳を突き上げ、雄叫びを上げる。チームメイトたちが次々と駆け寄り、その巨体を叩いて祝福する。先ほどの決定機を逃した悔しさを、自らのゴールで晴らしてみせた。