コングの挑戦   作:マウスブン

16 / 20
イタリア戦1

熱気に満ちたスタジアムに、試合開始を告げる主審のホイッスルが高らかに鳴り響いた。ネオ・エゴイストリーグ第3戦、イタリア『ユーヴァース』対イングランド『マンシャイン・シティ』。両チームの選手たちが、それぞれの思いを胸に、ピッチへと散っていく。

 

イタリア側のセンターサークル付近には、フィールドの「王様」たる所以を見せつけるかのように、馬狼 照英が不遜な態度で立っている。その周囲には、愛空、蟻生、二子、閃堂、ロレンツォといった実力者たちが並び、マスター・スナッフィーの緻密な戦術を体現すべく、静かに闘志を燃やしていた。

 

対するイングランドは、前節のフランス戦での劇的な敗北の悔しさをバネに、この一戦に並々ならぬ決意で臨んでいた。スターティングメンバー、そしてフォーメーションは前節と同じ。ゴールマウスを守るGK、最終ラインを固めるDF陣、中盤の底には戦術眼を持つ玲王と規格外のフィジカルを持つコングがコンビを組み、前線には左に千切、中央に凪、右にアギという強力なトライアングルが構える。ベンチでは、マスターであるクリスが、まるでこれから始まるショーを鑑賞するかのように、優雅に腕を組んでいた。

 

キックオフはイタリアボール。ボールが動き出した瞬間、イングランドの選手たちの動きは明確だった。クリスが試合前に指示した通り、彼らはすぐさま自陣へと後退を開始する。前線のアギ、凪、千切も、相手DFに深追いはしない。中盤の玲王やコングと連動し、フィールドの中央付近から自陣にかけて、コンパクトで堅固な守備ブロックを形成していく。

 

プランA、リトリート戦術。まずは相手の出方を探り、自陣に引き込んでカウンターを狙う。フランス戦でも一定の効果を見せたこの戦術で、イングランドは試合の立ち上がりを慎重に進める構えだ。

 

ボールを持ったイタリアは、イングランドの引いた守備に対し、最終ラインや中盤でゆっくりとボールを回し始める。しかし、フィールドには早くも一人の男の怒声が響いていた。

 

「おい! グズグズしてんじゃねぇ! 俺によこせ!!」

 

もちろん、声の主は馬狼だ。彼は早くも最前線でボールを要求し、イングランドDFにプレッシャーをかけようとしている。

 

イングランドの選手たちは、馬狼の声にも動じない。冷静にポジションを保ち、イタリアのパスコースを限定し、相手が焦れて前がかりになる瞬間、あるいは不用意なパスを出す瞬間を、まるで獲物を待つ狩人のように、静かに、しかし鋭く窺っていた。

 

戦術のイタリアか、フィジカルとカウンターのイングランドか。「エースイーター」ロレンツォと「怪物」コングの初対決の行方は。様々な思惑が交錯する中、注目のイングランドの第3戦が、静かに、しかし熱く幕を開けた。

 

 

 

試合はイタリアボールで始まり、イングランドはクリスの指示通り、自陣に引いてリトリート戦術を開始した。ボランチの位置に入ったコングは、中盤のスペースを埋め、相手のパスコースを限定しようと周囲に鋭い視線を送る。

 

すると、まるで最初からそこが定位置だったかのように、イタリアのDF、ドン・ロレンツォがコングのすぐそばにポジションを取った。その動きはあまりにも自然で、しかし明確な意図を持っていた。世界最高と謳われるDFによる、コングへの徹底的なマンマークの始まりだった。

 

ロレンツォは、その飄々とした、どこか人を食ったような態度で、コングに話しかけてきた。

 

「Ehi, bestione. Allora sei tu quello, il famoso Ragazzo della Giungla... Kong, eh?

(よぉ、デカいの。お前が噂のジャングルボーイ、コングちゃんか?)」

彼はニヤニヤと笑いながら、コングの巨体を見上げる。

「Allora, per oggi l'allenatore personale sarei io, capito? Pensi alla palla? Peccato, ma oggi non se ne parla.

(今日は俺っちが、お前の専属トレーナーってわけだ。ボール? 残念だけど、今日は触らせてやれねぇなあ)」

 

その言葉は、軽い挑発を含んでいた。コングは怪訝な表情でロレンツォを一瞥したが、相手にするだけ無駄だと判断したのか、すぐにピッチ上のボールの動きへと意識を戻した。

 

しかし、ロレンツォのマークは執拗かつ巧妙だった。コングがボールを受けようと動き出せば、ロレンツォは常に半歩先を読み、パスコースを消す。コングがスペースへ走り込もうとすれば、巧みに体を寄せて進路を妨害する。

 

イングランドがボールを奪い、カウンターを発動しようとした場面。コングがプラン通り前線へ駆け上がろうとスプリントを開始すると、ロレンツォもまるで影のように、寸分の遅れもなくぴったりと追走してくる。逆に、イタリアの攻撃でコングが自陣深くまで守備に戻ると、そこにも必ずロレンツォの姿があった。攻撃でも、守備でも、コングがどこへ動こうとも、ロレンツォは常に彼の半径数メートル以内に存在し続けた。

 

その結果、試合開始から数分が経過しても、コングはほとんどボールに触れることができていなかった。味方からのパスはことごとくロレンツォに警戒され、ルーズボールに反応しようとしても、常にロレンツォに先んじられるか、体を入れられてしまう。

 

対照的に、ロレンツォはコングを完璧にマークしながらも、まるで余裕があるかのように何度かはプレーに関与していた。近くにボールが来れば、いとも簡単にカットして近くの二子や愛空へ繋ぎ、時には最終ラインから的確なロングフィードを送る場面さえあった。他のイタリア選手が抜かれそうになれば、さりげなくカバーリングに入り、ピンチの芽を摘む。

 

(なんだ、こいつ…! うっとうしい…!)

 

ボールに触れない焦り、常にまとわりつかれる不快感、そしてロレンツォの挑発的な態度。コングの中に、じわじわとフラストレーションが溜まっていくのが分かった。彼の持ち味であるフィジカルも、この世界最高レベルのDFの前では、まだ効果的に発揮する機会すら与えられていない。

 

コングはロレンツォを睨みつけるが、ロレンツォは「どうした? ボール触りてぇか?」とでも言いたげな、人を食った笑みを返すだけだった。試合序盤、イングランドの怪物コングは、イタリアの老獪なDFによって、完全にその牙を封じ込められようとしていた。

 

 

 

イタリアベンチで戦況を見つめるマスター、マルク・スナッフィーは、タブレットに表示されるデータとピッチ上の光景を照らし合わせ、静かに頷いていた。

 

(フム…プラン通り、だな)

 

彼の練り上げた戦術は、序盤、完璧に近い形で機能していた。最大の懸念材料であったイングランドの怪物・コングは、世界最高DFのドン・ロレンツォがマンツーマンで徹底的に封じ込めている。そして、ボールを失った後の素早い切り替えと組織的なプレスによって、イングランド得意のカウンターアタックを完全に封殺している。

 

ピッチ上では、スナッフィーの言葉を裏付けるように、イタリア『ユーヴァース』の選手たちが躍動していた。最終ラインでは愛空が巧みなラインコントロールでスペースを消し、中盤では二子が優れた戦術眼で危険なパスコースを塞ぎながら、攻撃の起点となるパスを供給する。前線では馬狼が常にゴールへの脅威を与え続け、蟻生がその長い手足と独特の動きでイングランドFWを防ぐ。そして何より、ボールを失った瞬間の、フィールド全体が連動するような素早いプレスバックは、イングランドに反撃の隙を与えなかった。

 

イングランドも、自陣ゴール前では粘り強い守備を見せ、何度かボールを奪うことには成功する。さあ、ここからプランAのカウンターだ!――しかし、彼らが前を向き、パスを出そうとした瞬間には、既にイタリアの選手たちが複数で襲いかかってきていた。

 

パスコースはない。ドリブルで持ち上がろうとしても、すぐに囲まれてボールを失う。前線で待つアギや凪には、全くと言っていいほど効果的なボールが供給されない。千切のスピードを活かせる広大なスペースも、イタリアのコンパクトな陣形の前には存在しなかった。

 

フランス戦であれば、このような膠着状態を、コングがその規格外のフィジカルで強引にこじ開けたり、玲王が意表を突くパスやゲームメイクで流れを変えたりする場面が見られたかもしれない。

 

だが今のコングは、ロレンツォという世界最高の壁に完全に封じ込められ、ボールに触ることすらままならない状態だった。常に影のように付きまとわれ、パスコースを消され、フィジカルコンタクトでも巧みにいなされる。彼の持つ「野性」は、ロレンツォの「技術」と「経験」の前に、その牙を完全に抜かれてしまっていた。

 

司令塔である玲王もまた、苦しんでいた。イタリアの組織的なプレスと中盤の支配によって、彼がボールを持つ時間、スペースが極端に制限されている。得意のパスワークを展開しようにも、常に複数の敵に囲まれ、効果的なパスを出すことができない。イングランドの中盤のキーマン二人が、イタリアの緻密な戦術によって完全に封じ込められていたのだ。

 

イングランドはボールを奪っても、すぐに奪い返される。自陣での苦しい守備の時間が続く。クリスが用意したプランA(リトリート&カウンター)は、スナッフィーの練り上げた戦術と、それを高いレベルで実行するイタリアの選手たちの前に、完全に機能不全に陥っているかのようだった。イングランドベンチで腕を組むクリスの眉間にも、わずかに険しい皺が刻まれ始めていた。

 

 

 

ベンチで腕を組み、冷静に戦況を見つめていたクリス・プリンスの表情にも、わずかな険しさが浮かんでいた。

 

(やはり、こうなったか…)

 

彼は内心で呟いた。イタリアのマスター、スナッフィーがコング対策を講じてくることは予測していた。そして、その刺客が世界最高DFのロレンツォであることも、可能性の一つとして考えていた。その徹底ぶりは、さすがスナッフィーといったところか。

 

(だが、選手たちはよく戦っている)

 

クリスはピッチ上の選手たちに視線を送る。特にDF陣は、イタリアの「王様」である馬狼に対し、複数人で連携し、必死に自由を与えないように奮闘していた。そのおかげで、馬狼にボールが渡る回数は制限され、決定的なシュートチャンスはまだ作られていない。また、ロレンツォがコングに付きっきりになっている分、イタリアの攻撃の組み立ても、前節で見せたような流麗さや精度がやや欠けている。

 

(しかし…)クリスの分析は続く。

(このまま耐え凌げるほど、イタリアは甘くない。時間の問題だ。どこかで必ずこじ開けられるだろう。そして、ロレンツォにコングが封じられている限り、我々のプランAは機能しない)

 

彼の目が鋭く光る。

 

(潮時、というわけだね)

 

クリスはフッと息をつくと、まるで用意していた台本を読むかのように、自信を取り戻した表情で立ち上がった。

 

「まぁ、こうなることも想定して、ちゃんと準備はしてあるんだよ、こういう時のためにな」

 

そして、彼はピッチに向かって、あるいはキャプテンマークを巻くアギに向かって、明確で力強い声で指示を飛ばした!

 

「OK, Diamonds! プラン通り、ポジションチェンジだ! フォーメーションを変えるぞ! Move! Move! Move! Execute!(実行しろ!)」

 

その声に、ピッチ上のイングランドの選手たちが一斉に反応する。驚きの表情を見せる者、すぐに意図を理解して頷く者。彼らはクリスの指示に従い、フィールド上で目まぐるしくポジションを変え始めた。

 

ボランチのコングも、玲王も、前線のアギ、凪、千切も、そしてDFラインの選手たちも、新たな配置へと動き出す。イタリアの選手たちは、イングランドの突然のフォーメーション変更に戸惑いの表情を見せる。

 

 

 

クリスの「ポジションチェンジ!」の号令一下、イングランドの選手たちはピッチ上で素早く動き、新たな陣形を形成した。そのフォーメーションは【4-5-1】。中盤に5枚の選手を配置し、中央の守備を厚くする。そして、これまでボランチを務めていたコングは右サイドのMFへ、快足の千切は左サイドMFへ。トップ下にはフィジカルの強いアギが構え、凪はやや流動的ながらアギをサポートする位置に入る。最前線に張るのではなく、中盤での守備と、そこからのカウンターの威力を高める狙いが見て取れた。

 

そのイングランドの布陣変更を、イタリアの中盤で冷静に観察していたのは二子 一揮だった。彼の持つ優れた戦術眼は、イングランドの意図を瞬時に読み解こうとしていた。

 

(4-5-1…中盤を厚くして守備を固めつつ、コングをサイドに開かせた…? ロレンツォのマークを外す狙いか、それとも…)

 

その時、イタリアの攻撃がイングランドDFに阻まれ、ボールが奪われる。イングランドDFは無理に繋ごうとせず、すぐさま後方のGKへバックパスを選択した。イタリアの前線の選手たちがプレスをかけようとするが、GKはプレッシャーを受ける前に、顔を上げ、前線へ向けて高く長いロングボールを蹴り出した。

 

二子の思考が確信に変わる。

(やはり! 前線のプレスをロングボールで回避し、中盤を省略。狙いは、前線での空中戦!だけどこれじゃあ僕は…)

 

GKからのロングボールの最初の落下地点には、イングランドのターゲットマン、アギが走り込んでいた。対するイタリアは、長身で守備に貢献する蟻生が競り合いに行く。二人の長身選手が激しく体をぶつけ合い、ボールはどちらのものにもならず、再び高く舞い上がった。

 

再び二子の予測通り、セカンドボールの落下地点には凪が走り込んでいた。しかし、そこにはイタリア守備の要、愛空が完璧なポジショニングで待ち構え、凪に自由なプレーをさせない。二人が競り合うが、経験と読みで勝る愛空がヘディングでボールに触り、ボールは三度、高く空中へと弾かれた。

 

そして、三度目の落下地点。落下地点も誰が触るかも二子は予測ができていた。予測通りに、右サイドから猛然と走り込んできたのはコングだった! 彼を執拗にマークするロレンツォも、ぴったりと背後について同時に跳躍する! 再び、怪物と世界最高のDFによる空中での激しい肉弾戦!

 

バチッ!! 激しい接触音と共に、二人の体がぶつかり合う。競り合いの結果、ボールはコントロールを失い、タッチラインの外へと転がっていった。審判はイタリアボールのスローインを指示する。

 

イングランドは得点機を作り出すには至らなかった。しかし、GKからのロングボールと、前線での空中戦の連続によって、それまで完全に機能していたイタリアの組織的な前線プレスを初めて回避し、「ボールを前線へ運び、そこで勝負する」という形を作り出すことには成功したのだ。

 

結果はスローインだったが、これは膠着状態を打ち破るための、イングランドにとって確かな一歩、新たな攻撃の糸口が見えた瞬間だった。ピッチ上の選手たちも、そしてベンチのクリスも、手応えを感じているようだった。

 

 

 

 

イタリアボールのスローインで試合が再開されようとする中、ピッチには先ほど繰り広げられた壮絶な空中戦の余韻がまだ色濃く残っていた。アギと蟻生、凪と愛空、そしてコングとロレンツォ。三度にわたり、いずれも身長190cmを超える巨漢たちが、空中で激しく体をぶつけ合ったのだ。それは、単なるヘディングの競り合いというより、意地とフィジカルが激突する肉弾戦そのものだった。

 

イタリアベンチでその光景を見ていたマスター、スナッフィーは、表情を変えずにいたが、その内心は穏やかではなかった。

 

(チッ…面倒な問題を押し付けやがって…クリスの奴め。才能と言う不条理からののラッキーパンチ狙いじゃねーか。)

 

彼の冷静な頭脳は、イングランドのポジションチェンジと、その直後のプレーの意図を正確に分析していた。

 

(なるほどな…こちらの組織的な前線プレスに対し、イングランドは単純なロングボールでそれを回避。中盤を省略し、ターゲットマンへの空中戦に持ち込むつもりか。確かに、この形ならこちらのプレスは機能しない…)

 

スナッフィーはイングランドの選手たちの顔ぶれを思い浮かべる。

 

(しかも、前線にはターゲットとなれるアギ、高さのある凪、そしてあの規格外のフィジカルを持つ怪物コング…空中戦に滅法強い駒が3枚も揃っている。さらに、そのセカンドボールを拾えば、俊足の千切がDFラインの裏の広大なスペースへ一気に飛び出す準備をしている…単純に見えて、実に厄介な戦術変更だ)

 

彼は自軍のDFラインに視線を送る。

 

(うちのDF陣は強力だ。愛空の統率力、ロレンツォの対人能力は世界レベル。組織としても十分に機能している。だが…)

 

スナッフィーは最悪の可能性を排除しない。

 

(あのレベルの空中戦が試合中、何度も繰り返されれば、競り負ける場面も必ず出てくるだろう。あるいは、セカンドボールの処理で、不運なバウンドや連携ミスといったイレギュラーが発生する可能性もゼロではない…サッカーとはそういうものだ)

 

そして、もしその綻びが生まれた場合…

 

(DFラインの背後には、広大なスペースが広がっている。そこを千切のスピードや、コングの推進力で一気に突かれたら…一発で決定的なチャンスを作られかねん。)

 

スナッフィーは、イングランドの新たな攻撃パターンが持つ潜在的な破壊力を正確に評価し、警戒を強めていた。彼は無言でタブレットを取り出すと、指で素早く何かを操作し始めた。この「面倒な問題」に対し、早くも新たな対策を練り始めた。

 

スコアはまだ0-0。試合は依然として有利だが、イングランドが見せた新たな戦術の萌芽は、イタリアにとって決して無視できない脅威となりつつあった。ベンチワークを含めた、両チームの駆け引きは、さらに激しさを増していく。

 

 

 

先ほどのイングランドのロングボール戦術。結果こそイタリアのスローインとなったが、そのプロセスはイタリアのマスター、スナッフィーに危機感を抱かせるには十分だった。彼はタブレットを素早く操作し、分析を終えると、すぐさまベンチから具体的な指示を飛ばし始めた。その声は冷静だが、有無を言わせぬ響きを持っていた。

 

「Aiku! Aryū! Sistemate la linea difensiva! Più precisione sul punto di caduta e preparatevi ai duelli aerei un decimo di secondo prima!

(愛空・蟻生! DFラインのポジショニングを修正しろ!落下点予測の精度を上げ、空中戦への準備をコンマ1秒早く!)」

「Lorenzo! Non far saltare quel mostro! Leggi il tempo del suo salto, mettigli il corpo addosso e fermalo! Oppure sfasagli il tempo senza fare fallo!

(ロレンツォ! あの怪物(コング)を跳ばせるな!ジャンプのタイミングを読み、体を寄せて潰せ!あるいはファウルにならない程度にタイミングをずらすんだ!)」

「Niko! Modifica la zona di copertura sulle seconde palle! Più ampia e più profonda!

(二子! セカンドボールの予測エリアを修正!より広く、深くカバーしろ!)」

そして、スナッフィーは中盤の選手の一人に指示を出す。

「Ehi tu! Scendi di una posizione e vai a supportare Niko! Aggiungiamo un mediano e rinforziamo il filtro a centrocampo! Le seconde palle non si concedono, mai! Capito?

(お前はポジションを一つ下げ、二子のサポートに入れ!ボランチを一枚増やし、中盤のフィルターを厚くする! セカンドボールは絶対に拾わせるな! いいな!)」

 

矢継ぎ早に、しかし極めて的確な指示。空中戦そのものへの対策強化と、その後のセカンドボール回収の徹底。スナッフィーはイングランドの新たな攻撃パターンに対し、即座に戦術的な修正を施したのだ。イタリアの選手たちは、マスターの指示に寸分の迷いなく頷き、すぐさまピッチ上でポジションや意識を修正し始める。彼らの動きには、スナッフィーの戦術への絶対的な信頼が見て取れた。

 

そのイタリア側の動きの変化を、イングランドベンチのクリス・プリンスは冷静に観察していた。

 

(やはり、すぐに対策してきたか、スナッフィー。空中戦対策とセカンドボールケアの強化…実に合理的(ロジカル)で、妥当な判断だね)

 

しかし、クリスの表情に焦りの色は見られない。むしろ、その口元には面白そうだと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。

 

(だが、こちらも手は打った。ポジションチェンジによって君たちのプレーエリアは変わり、相手のマークも分散させたはずだ。戦術的に戦える最低限の土台は、この僕が整えてあげた)

 

彼はピッチ上で新たな配置についた選手たちを見渡し、心の中で、あるいは静かに、しかし熱い期待を込めて語りかける。

 

「ここから先は…君たち自身のエゴで、そのダイヤモンドの輝きで、道を切り開くんだ。戦術はあくまでキャンバスだ。そこにどんな絵を描くかは、君たち次第だよ」

 

彼はふっと息をつく。

 

「頼むよ、僕のダイヤモンドたち。最高に美しい、勝利という名の『作品』を、この僕に見せておくれ」

 

クリスの仕事は、戦術という名のレールを敷くこと。その上をどう走り、どんな景色を見るかは、ピッチ上の選手たちのエゴと才能に委ねられている。

 

スナッフィーによる緻密な戦術修正と、クリスによる選手へのエゴの解放。両マスターの対照的なアプローチが、再びピッチ上で火花を散らす。イタリアのスローインで、試合は新たな駆け引きのフェーズへと突入しようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。